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2022年9月25日日曜日

Brucellosis(ブルセラ症)

 ブルセラ症: Brucellosis

(Lancet Infect Dis. 2014 Jun;14(6):520-6.)

・Brucellosis(ブルセラ症)は人畜感染症で最も多い感染症.

・全国で毎年500000例の報告がある. 
流行地域は地中海沿岸, 西ヨーロッパ, 中東, 南, 中央アメリカ,
 そしてアジアである.

・BrucellosisはBrucella sppによる感染症. GNRで細胞内感染菌

・B. melitensisは羊, ヤギ. B. abortusは牛. B. suisは豚より感染する.


 これらに接触する職業で感染リスクは高い. 

 
また, 接触せずとも, 
低温殺菌がされていない乳製品より人へ感染する.

・B. abortus(牛から感染)ではB. melitensis(羊, ヤギ)よりも進行が緩徐

(モダンメディア 2021;67(9):359-367)(モダンメディア 2009;55(3):76-85)


ブルセラ症は動物に感染する場合, 流産や不妊の原因となるが


人間に感染した場合はさまざまな症状を引き起こす.

 急性の関節炎や筋肉痛, 不明熱, 肝障害など.

 また細胞内感染菌であり, 再発もあり得る.

(International Journal of Infectious Diseases 14 (2010) e469–e478 )


国内では4類感染症であり, 全例届出が必要.

(モダンメディア 2021;67(9):359-367)(モダンメディア 2009;55(3):76-85)

・1999-2019年に45例が届出されており,
 2014年に年間10例の届出が最多.

・感染経路が判明した43例中, 14例は家畜ブルセラ症(B. Melitensis, B. Abortus)であり, 

 29例はB. canis感染症であった.

・家畜ブルセラ症はほぼ全例が輸入症例.

 
B. canisはイヌに感染しており, 国内のイヌの3%がB canis感染歴を有するため, 国内発症のブルセラ症はほぼB. canisとなる.

・イヌに関連する職業, ブリーダーなどでは陽性率が高く,
 無症候性感染者も多いと予測される.
繁殖施設における集団発生例もある.


Brucellosisは3つのパターンに分類: Acute, undulant, chronic.

(Lancet Infect Dis. 2014 Jun;14(6):520-6.)

・Acute Brucellosisでは原因不明の発熱, 悪寒, 発汗, 関節痛で発症.

・Undulant form(波状熱)では感染から2ヶ月後に発症し,
 波状の発熱を呈する.

・Chronic fromでは周期的な背部痛, 関節痛, 発汗を認める全身症状と,
 局所的な症状, 所見を認める.
 (化膿性脊椎炎, 肝炎, 精巣上体炎, 心内膜炎等)
 

 心内膜炎は1-2%と稀だが, 死因の主な原因となる.
  

 慢性期は感染から数年経過して発症する.
 (細胞内感染菌で増殖が遅いため)


Brucellosis 1028例の解析

(International Journal of Infectious Diseases 14 (2010) e469–e478)

・男性47.6%, 女性52.4%, 
平均年齢は33.7±16.34歳. 3-81歳まで分布する.

・年齢分布


・急性例 61.6%, 亜急性例 21.6%, 慢性例 13.6%, 再発例 3.2%

・急性, 亜急性例では季節は春, 秋に多い傾向がある.


症状, 所見頻度


血液所見の頻度


・侵襲臓器の頻度


144例の解析;

(International Journal of Infectious Diseases (2007) 11, 52—57)

・関節炎は脊椎炎が最も多い.
次いで股関節, 仙腸関節, 膝関節と
下肢帯メインとなる.


Osteoarticular Brucellosis; Brucellosisによる骨関節症状

(World J Orthop 2019 February 18; 10(2): 54-62)

・Brucellosisで最も多い症状/障害の部位は骨関節であり, 10-85%

・関節では仙腸関節が~80%, 脊椎が~54%と軸関節が多い部位.


 脊椎炎や脊椎椎間板炎となることが多く,
 他に末梢関節炎, 骨髄炎, 椎間板炎, 滑膜炎, 腱鞘滑膜炎も認められるが, 比較的少ない.

・脊椎病変は局所, びまん性双方ある.
 硬膜下膿瘍は稀な合併症だが, 神経予後に大きく関わるため重要

・流行地域に住んでいる患者で化膿性関節炎を考慮した場合,
 必ずBrucellosisを念頭に置く必要がある.

Spinal brucellosis: 2-54%で認められ, 最も多い骨関節病変

・腰痛や坐骨神経痛を認める頻度が高く, しばしば腰椎症と誤診され, 手術治療がなされる症例もあるため,
 流行地域で, リスクがある職業に就いている人が腰痛や坐骨神経痛を認めた場合, Brucellosisを考慮し, 血清学的検査やMRI評価を行うべきという意見もある.

・腰椎病変が最も多く, 椎体炎や脊椎椎間板炎 ± 椎間板炎となる

脊椎炎は>40歳の男性で多く, 腰椎 60%, 仙骨 19%, 頚椎 12%で多い

・局所感染とびまん性感染があり, 局所型では椎体前面に限局するが, びまん型では椎体全体に及ぶ.


・硬膜外膿瘍, 傍脊椎膿瘍, 腸腰筋膿瘍などへの進展リスクがある

脊椎椎間板炎は脊椎と椎間板の双方で炎症を生じる.

・血行性の撒布により生じ, Brucellosisのなかで最も重症の病態の1つ


 腰椎 60-69%, 胸椎 19%, 頚椎 6-12%の頻度

・連続性, 非連続性の多巣性の病変となり, 病変部位の評価には骨シンチグラフィーが有用

椎間板炎は椎間板のみの炎症

・椎間板ヘルニアや坐骨神経痛が認められるため,
 流行地域でのこれら疾患の鑑別としてBrucellaは重要となる.

仙腸関節炎はBrucellosisの骨関節病変で最も多いものの1つ

・局所合併症の患者の80%で認められ, 特に成人例で多い

・化膿性や反応性関節炎, 慢性関節炎のような病態となる.

・腰痛を呈する患者が多いが, 24%は無症候性.


四肢関節炎は14-26%とやや頻度は低下.

・肩関節, 手関節, 肘, 指節間関節, 胸鎖関節など.
直接菌が浸潤する敗血症タイプと, 反応性関節炎のタイプがある

・脊椎関節炎となる症例もあり


中国におけるブルセラ症2041例の解析

(PLoS One. 2018 Nov 26;13(11):e0205500.)

・急性例(発症<8wk)は74%(1520)
 関節痛は60%, 関節圧痛 8%, 関節腫脹 2%


 亜急性(2-12ヶ月)は22%(446)
 関節痛は70%, 関節圧痛 10%, 関節腫脹 3%


 慢性(>12ヶ月)は4%(74)
 関節痛は79%, 関節圧痛 16%, 関節腫脹 7%

・関節病変は末梢関節が半数以上と多い.


Brucella endarteritis(ブルセラ心内膜炎)

(Lancet Infect Dis 2014; 14: 520–526)

・Brucellosisによる心血管障害は主に心内膜炎だが,
 動脈炎や皮膚血管炎, 静脈血栓症も来す.

・細菌が直接血管内皮細胞へ感染し, 炎症を惹起させる.


 末梢や脳血管の動脈瘤を形成する.

・34例のBrucella endarteritisの報告があり, その解析では
平均年齢は42.9歳, 男性80%

 
B. melitensisによるものが62.5%, B. abortus 16.7%, B. suis 16.7%, 
B. canis 4.0%であった.


・血清学検査で陽性が92%

 PCRで陽性が80%. 

 血液培養は68%で陽性
組織培養は71%で陽性

・血管炎の症状, 所見頻度




Brucellosisの検査

・Brucellosisの検査は血清検査が重要.

 急性感染症では, IgMが出現し, その後IgGやIgAが出現.

・IgMとIgGの総量を評価するのが標準凝集試験(SAT)であるライト試験

 
IgGを測定するのが2-ME試験.


 流行地ではSAT ≥1:160, 2-ME ≥ 1:80が診断に有用

・ELISAは感度や特異度が劣る. 
PCRは可能であれば有用な検査となる

2022年9月21日水曜日

難治性PMRに対するトシリツマブ

GCAに対するTCZのStudyは既にあり, 一定の効果が期待できることはわかっている.

PMRではどうか? 

 実際、何してもPSLが減量できないPMRは少数であるが個人的にも経験があり, TCZは効果はあるという実感はある.


(JAMA. 2022;328(11):1053-1062. doi:10.1001/jama.2022.15459)

PMRと診断され, PSL≥10mg/dの使用でもCRP PMR-AS >10となるような難治性症例101例を対象としたDB-RCT.

・GCAを示唆する症状や, HL, 不安定な心筋疾患,
他の炎症性リウマチ疾患や膠原病, CPPD, OAなどは除外. 活動性の感染症も除外.

・TCZ 8mg/kg/4wk投与群 vs Placebo群に割り付け, 24wk継続.

・アウトカムは疾患活動性(CRP PMR-AS)とPSL減量効果を比較した

 
(PSLは≤5mg/d達成, または10mgの減量を達成)


母集団

・罹患期間はそれぞれ21ヶ月(10-48), 16ヶ月(8-35)

・PSL使用量は10-15mgで, CRPは1mg/dL前後

 MTXは2-4割で使用. 使用歴がある症例が2割程度. 未使用例が2-3割.

 CRP PMR-AS*は20前後の症例.

*CRP (mg/dl)+VAS p (0–10)+VAS ph (0–10)+(MST (min)×0.1)+EUL (3–0)

 MSTは朝の強張りの時間, EULは上肢の挙上の程度.


アウトカム



・疾患活動性は有意にTCZ群で低下し,


 PSL投与量も有意に低下(3.8mg vs 6.1mg)
 

 PSL終了ができた症例が49.0% vs 19.6%
 

 PSL ≤5達成が75.5% vs 51.1%


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難治性のPMRに対して, TCZは活動性を抑制し, PSLの減量/中止を進めることが可能.

ただし, Placebo群でも半分でPSL ≤5mgを達成できている点が気になる.

 1年近く/以上も治療してPSL 10mg切れずに困っている症例が, その後半年で5mg以下か...

 粘ればなんとかなる症例もあるという解釈は可能なのだろうか?






2022年9月20日火曜日

急性腹症の鑑別の1つ: 内臓性播種性帯状疱疹

 症例: 4日前からの急性経過の強い心窩部痛を主訴に受診した高齢者.

 身体所見や血液検査では軽度のCRP上昇と軽度の肝酵素上昇程度であり,

 腹部CTを評価すると腹腔動脈やSMA周囲の脂肪織に混濁があり, 腸管膜脂肪織炎の様相.

 膵臓周囲にも認めたが, 明らかな腸炎や膵炎の所見は認められなかった.





こんな病態, たしか帯状疱疹であったよな、、、ということで思い出してみよう.




内臓性播種性VZV感染症

・内臓に生じるVZV感染症.


 原因不明の腹痛で発症し, 一般検査でも特異的な所見は乏しく, 迷宮入りしがちな病態. 

 症例報告はほぼ日本から.

・造影CTにて胃や大腸の壁肥厚や膵周囲脂肪織の混濁を認める

 いわゆる腸管膜脂肪織炎のような所見が得られる.


複数の症例をまとめたSystematic reviewのような文献はないため,

いくつかの症例報告を紹介


免疫正常患者における報告

(Clinical Journal of Gastroenterology (2022) 15:568–574 )

78歳日本人女性. 既往なし

・7日前からの下腹部痛を主訴に来院

 
臍下部から右下腹部にかけての疼痛で, 圧痛は反跳痛は認めず
皮疹も認められなかった.

・腹部造影CTでは胃体部〜噴門部, 横行結腸〜下行結腸の壁肥厚
 

 膵臓周囲の脂肪織濃度上昇


・入院3日目に頭部, 胸部, 腹部, 背部に水疱を認め, VZVを診断


・内視鏡では胃体部に複数のびらんを認めた

・アシクロビルの投与にて改善.


61歳 日本人女性. 卵巣癌術後, 糖尿病患者

(BMC Infect Dis. 2022 Mar 3;22(1):215.)

・4日前より出現, 増悪した腹痛を主訴に救急外来を受診.
 嘔吐なし.

・受診時に顔面, 腹部, 大腿部に水疱を伴う皮疹を認めた.


 腹痛は心窩部に圧痛あり. 筋性防御なし.

・血液検査はCRP 2.1mg/dL程度の上昇以外に有意な所見なし.

・腹部CTでは腹腔動脈周囲の脂肪織混濁が認められた.


・VZV IgM, IgG, DNA陽性であり, 内臓性播種性VZVと診断.


 アシクロビルが使用された.


以下は免疫抑制患者(主にSLE患者)における症例報告

48歳日本人女性, SLE患者の急性腹痛の症例

(Mod Rheumatol Case Rep. 2022 Jul 4;rxac054. doi: 10.1093/mrcr/rxac054.)

・MTX 12mg/wk, CyA 150mg/日, PSL 5mgで治療中に

 
6日前からの急性発症の症状出現で救急搬送.

・血液検査では軽度の肝酵素上昇(AST 46, ALT 38)

・腹部CT, 上部内視鏡検査では明らかな原因は認められず.

・入院4日目(発症10日目)に顔面や腹部に小水疱が出現し,
 

 水疱液のVZV抗原検査で陽性となり診断された.


 初期に評価された血清VZV IgMは陰性. IgGは陽性.

・抗ウイルス薬で治療され, 改善.


46歳日本人女性, 
 Lupus腎炎+RA症例における内臓性播種性VZV

(BMC Res Notes. 2018 Mar 5;11(1):165. )

・2ヶ月前にLupus腎炎(その前9年間はRAでMTX, ABT)と診断され, TAC, PSLで治療. 

 その2ヶ月後に腹痛を発症.

・当初SLE増悪と考えられ, 腸管虚血が疑われ, 免疫抑制治療を増強するも効果は認めず.

 入院後水疱が出現し, VZV-DNAが陽性となった.

 最終的に死亡.

・この症例も初期にはVZV IgM, DNAは陰性であり, その後DNAが陽性化.

・水疱は遅れて出現している.


49歳白人女性 SLE+APS.

(BMC Infect Dis. 2020 Jul 23;20(1):538.)

・2ヶ月前にDVTにて入院. その際 間質性肺炎, 溶血性貧血, Lupus腎炎, 関節炎, APS陽性であり上記診断.


 MMF 1.5g/d, PSL 50mg/dで治療が開始された.

・今回, 急性発症の腹痛で救急受診. 悪心嘔吐なし.


 下肢の点状出血斑を認め, 
リンパ球 500/µL, PLT 5.8万/µL, 肝障害, LDHの著明な上昇, INR 5.9

・CAPSと診断され, mPSLパルスなどを行ったが増悪し, MOFが進行


 挿管時に咽頭に偽膜, 白色滲出液があり, 感染性咽頭炎の所見であった

・最終的に死亡され, 死後の検査にて
血液中VZV PCRが強陽性が判明.


 そして免疫の賦活化は伴っていなかった; IgG, IgMの上昇無し

・CMV, EBV, HHV-6も陽性であったが, HSV-1,2は陰性.


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不思議?と症例報告の多くが日本からであった.

免疫正常から免疫抑制患者まで報告がある.

SLEで免疫抑制療法を行なっている患者ではIgMが陰性となるため, 血清検査のみで診断は難しい. PCRを繰り返す必要がある.

 またSLEや免疫抑制患者における急性の腹痛の鑑別として稀だが重要と言える.

 特にSLEの腹痛は... 虚血だったり, 血管炎だったり, 血栓だったりとほんと鑑別が...


 あとやっぱりワクチンは大事

2022年9月15日木曜日

足関節炎の鑑別

関節炎診療において, しばしば足関節炎には注意している.

サルコイドーシスやヘモクロマトーシス, 感染に伴う関節炎, 反応性関節炎や脊椎関節炎といった一風変わった疾患が足関節を有意に発症するから.

というわけで調べてみよう


足関節の構造と注意点

・足関節は膝や股関節とは性質が異なる. 
 

 歩行時の足関節の可動域は比較的小さく, 最大30度程度. 階段を降りる時には56度程度まで増加
する.

 軟骨は膝軟骨と比較してプロテオグリカンと硫酸化グリコサミノグリカンの含有量が多く, 緻密で硬い.

また, 足関節はHindfootと足関節に分けて考える.

 Hindfoot: 足関節は脛腓骨と距骨で
構成される足関節と, 距骨と踵骨で構成されるHindfootに
 別れる.


 足関節炎, 足関節痛を考える場合,
 どちらに原因があるかを意識することは重要

 足関節炎は足関節の受動的な屈曲, 進展で疼痛が出現し,
 Hindfootの炎症では内反, 外反で疼痛が誘発される.

 またMRIやUSも有用である.

 Hindfootの疼痛は周囲の組織や皮膚疾患で
生じうる. 軟部組織の腫脹から,
関節腫脹に類似した所見にもなる.


変形性関節症

(Rheumatology 2021;60:23–33)

・膝と異なり, 足関節のOAの有病率は低く, 多くは外傷から生じる(70-78%)

 
股関節や膝関節では一次性が65%, 82%, 外傷性が8%, 12.5%

・運動時の負荷は膝や股関節よりも足関節にかかる方が強いにもかかわらず, OAのリスクは少ない.
 荷重の大半が距骨ドームにかかる, 負担面積が大きい, 可動域が狭い, 硬さや密度の差で弾力性が高いことなどが関連している. 

・関節炎から二次性に足関節OAを生じる場合,
 その原因疾患として挙げられるものは

 RA, ヘモクロマトーシス, 血友病, 無血管性壊死, 感染性関節炎後.

 特に遺伝性ヘモクロマトーシスでは多く, 32-61%で合併する

 血友病では繰り返す関節出血が原因となり, 足関節は膝関節と同様, 侵されやすい関節である.


足関節の炎症性関節炎: 単関節炎

発症16週未満の単関節炎患者347例を解析. 


(Arthritis Care & Research Vol. 72, No. 5, May 2020, pp 705–710)

・膝が49.3%と最多. 足関節は16.7%と2番目に多い部位.

・後にRAを診断されるのは手指関節, 手関節, 肩関節.


 足関節例ではほぼRAは無し. 非CIRDが多い.
 

 非CIRDには自然に改善, 痛風, OAが含まれる.


韓国における171例の単関節炎の解析
 

(International Journal of Rheumatic Diseases 2014; 17: 502–510)

・膝関節が24%, 手関節が22.8%, 足関節が18.7%と多い

・手関節はRAに関連: OR 10.2[2.7-39.0]


 足関節はPeripheral-SpAに関連: OR 3.0[1.1-8.2]
 大関節も関連あり: OR 12.1[1.5-97]


 大関節は他にBDに関連: OR 12.5[1.5-102]


足関節の炎症性関節炎: 少数/多関節炎

発症3カ月以内の1箇所以上の滑膜炎症例を対象としたCohort


(Clinical and Experimental Rheumatology 2014; 32: 533-538.)

・このうち初診時に足関節の滑膜炎を認めた例が103例

・足関節炎と最終診断
分類不能関節炎が多い.


 次に多いのはサルコイドーシス,
 血清陰性関節炎.

・両側性の足関節炎は急性サルコイド関節症の可能性を上げる(RR 10.2[1.1-90.9])

・足関節炎でRF, ACPA陰性例ではよりSpAに分類される(RR 6.2[1.6-23.9])


RAにおける足関節炎の頻度は,

(Rheumatology 2021;60:23–33)

・発症早期のRAにおける足関節炎は5-25%前後での報告が多い. 特に片側性が多く報告されている.

・晩期における足関節炎は37-65%であり, 長期経過したRAではそれなりに認められる

・しかしながら少数関節炎や単関節炎において,
 足関節炎を認める場合はRAよりもサルコイドーシスやSpAの可能性をあげる報告が多い.

・RAを考慮する場合は他の所見やACPA, RFを加味して考える必要がある.
Seronegativeでは他疾患を除外することが重要.


Ax-SpAにおける足関節炎

・足関節は最も多い罹患関節であり, 39.5%で認められる. 
次いで股関節, 膝関節が続く.

・足関節はHLA-B27陽性例(45.2% vs 18.8%),
 若年発症例で多い(63.6% vs 35.2%)


乾癬性関節炎における足関節炎

・足関節炎は10.3%であり, 追跡調査で26.4%に増加

 
他の報告では30-39%程度で認められる.


炎症性腸疾患に伴うSpA

・足関節炎は関節炎を合併するIBDにおいて,
 UC例の29-34%, CD例の42-54%で認められる.


感染性関節炎における足関節炎

・細菌感染症では膝関節が最多でおよそ半数.
 

 次いで股関節であり, 2割程度.
 足関節は1割前後で認められる.


・ウイルス感染症では, HBV, HCV, チクングニア, HIV感染症において,
 足関節炎を呈する報告がある.
 

 チクングニア感染では足関節が87%と多く, 手関節についで多い部位.
 初発症状として足関節炎は1-3割程度で報告される.
 

 HIV感染症による関節炎も足関節や膝関節で多い.


・結核性関節炎は足関節はほぼ報告されていない(1-4%)程度


結晶性関節炎

・痛風は第一MTPで多いが, どの関節でも生じる.
 足関節は多く, 慢性痛風患者では, 50%で認められる報告がある.
 第一MTP, 膝関節に次いで/同等に多い部位.

・偽痛風は膝と手関節で多く, 足関節はOA有病率の低さからか多くはない.


354例の痛風患者の解析では,

(Ann Rheum Dis. 1970 Sep;29(5):461-8.)

・1st MTP関節が76%と最も多く,
 次いで足関節が50%, 膝関節が32%, 指が25%.

 肘, 手関節が10%ずつ.

・恒久的な関節への障害が残存した症例は17%であった.


106例の痛風患者の罹患関節は,

(Br J Rheumatol. 1995 Sep;34(9):843-6.)

・1st MTP関節が58.5%, 足関節が60.4%, 膝関節が51.9%と多い


 他は中足根関節 29%, 手関節 25.4%, 肘関節 13.2%,
 肩関節 5.2%, 指 6.6%



以下は主にHindfootが主な障害部位となるもの


サルコイドーシス

・急性サルコイド関節炎は, 結節性紅斑, 両側肺門リンパ節腫大, 移動性多発関節炎の3徴を伴うLogfren症候群として発症することが多い.

足関節の関節炎はほぼ例外なく報告されているが, 実はこれはHindfootの深部皮下浮腫, または腱鞘炎による症状/所見であり, 足関節自体には異常がないことがわかっている.

・エコーやMRIによる評価では滑膜の肥厚を伴わない軽度の足関節液貯留を認める例があり, さらに血流の増加は5.6-7.5%程度のみ.

・慢性サルコイド関節炎はLogfren症候群よりも頻度は低く,
また足関節に多く発症すると言われている.

・実際慢性と急性が混在した報告が多いため, 関節炎かHindfootの炎症かは不明確であるが, いくつかの症例報告では足関節炎が示されている.


肥大性骨関節症

・HOAはバチ指, 長管骨の骨膜反応, 四肢の疼痛を3徴候とし, 時に大関節の非炎症性関節液貯留を伴う病態.

・Hindfootを含む複数のケース報告があり, ReAや他の炎症性関節炎に類似した足関節液貯留を伴う例もある.


後脛骨筋腱の機能障害

・Hindfootの腫脹や疼痛の一般的な原因であり, 40歳以上の女性に多い
腱に沿った内課の後方, 下方にびまん性の腫脹と圧痛を示す.

・慢性例ではHindfootのvalgus変形と扁平足を伴う.


アプローチ (Rheumatology 2021;60:23–33)

・足関節炎を診た場合, 

・発症早期例ならば滑膜炎なのか, Hindfootの障害なのかを判別し,

 滑膜炎ならばSpAや痛風, 感染など考慮.

 Hindfootならばサルコイドーシス, HPOAなど考慮する.

・晩期では滑膜炎有意か、OA有意かを判別し,

 滑膜炎ならばRAやSpA

 OAでは関節内出血, ヘモクロマトーシスなどによる二次性OAを鑑別する.

2022年9月7日水曜日

PPIの力価換算 (ショート)

(Clin Gastroenterol Hepatol. 2018 Jun;16(6):800-808.e7.)

PPIの力価

・PPIを投与し, 胃内のpHをモニタリングしたClinical trialsを評価し, 
各PPIの投与量とpH>4を維持する時間/24h(pH4time)を比較. 各薬剤の強さを評価した


その結果, オメプラゾールを1とした時の各薬剤の力価と, オメプラゾール換算量は以下

・同量使用するならば, ラベプラゾールが最も作用が強い.

 次いでエソメプラゾール(ネキシウム®)

 よく使用するランソプラゾールは国内で使用可能なPPIのなかで最も力価が低い.


また, 1日1回よりも2-3分割投与のほうがpH抑制時間効果は長くなる.



2022年9月4日日曜日

BPPVの残存めまい症状(Residual Dizziness)って知ってる?

Residual Dizziness: 残存めまい症状.

外来でBPPVの患者さんで, Epley法やGufoni法などで耳石置換を行い対応.

その1週間後, まだ良くなりません, と外来に再受診.

しかしながらその際は誘発試験をしても眼振は認められず, 

「あれ? 治ってんのになぁ、、」と思うことってそれなりにあります.


このような, 耳石置換を行い, 誘発試験にて眼振が認められなくなったのに, ふらつきやめまい感, QOLの低下などが認められる状態を残存めまい症状(Residual Dizziness: 以下RD)と呼びます.


RDのメタアナリシスでは(Eur Arch Otorhinolaryngol. 2022 Jul;279(7):3237-3256.)

・RDの頻度は43%[39-48]. 論文によっては6割強など半数以上で認められる報告も.

・RDの臨床的なリスク因子は, 

 年齢(MD 4.17[2.13-6.21])
 

 女性 OR 1.28[1.11-1.47]
 

 二次性BPPV OR 1.88[1.27-2.77]
 

 BPPV〜治療までの期間が長い(MD 3.45[1.87-5.02])
 

 DHIが高い(MD 10.88[5.96-15.80])
 

 不安症状 OR 9.58[6.32-14.52]
 

 骨粗鬆症 OR 4.40[2.17-8.96]
 

 冬の発症 OR 7.27[2.38-22.24]
 

 BPPV既往 OR 1.79[1.06-3.04] が挙げられる.

・つまり, 高齢者で, めまい〜治療までの期間が長く, ADLが障害され, 

 そして不安に思っており, 冬などで活動が低下している場合にRDの高リスク.

・持続期間は23.4±16.8日(範囲6-89日)とおよそ1ヶ月程度持続する(ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec. 2022;84(2):122-129.)


RDの対応は?

まず重要なのは, 日常生活の制限をせず, 積極的に動いてもらうこと.

・Shopping Exerciseと呼ばれる運動療法で11.5±4.6日(範囲6-32日)まで有意に短縮するとのRCTがある(ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec. 2022;84(2):122-129.)

・このSEとは, スーパーで買い物をするように, 商品棚で商品を探しながら, 歩いてゆく, という運動. 実際このStudyでは広いスーパーで, いくつかの商品の値段をチェックしてもらう、という形で指導していた.

 頭や目線の向きと, 歩行の向きが異なり, バランスを刺激する.

・他もリハビリ, めまい体操などはこのRDに有用に働き, 結果BPPVの症状の緩和をしていることが多い.


ベタヒスチン(メリスロン®)がRDの予防に有用.

・これ意味あんの? 選手権で上位に上がる薬剤メリスロン®. 

 この薬剤がRD症状の緩和に効果的であるとする報告がある.


100例のPC-BPPV患者を, 
Epley法+ベタヒスチン群 vs Epley法のみ割り付け, 比較したRCT

(Braz J Otorhinolaryngol. 2022 May-Jun;88(3):421-426.)

・1週間後の症状(VAS), DHIを比較した.

・アウトカム; 

 ベタヒスチン使用の有無で, 眼振の消失には有意差を認めない.

 しかしながら, ベタヒスチンにより有意にVASは低下を認める. DHIも低下. 

・
自覚症状の緩和効果が期待できる.


PC-BPPVでEpley法を行なった117例を対象とし,
ベタヒスチン vs Dimenhydrinate vs プラセボ群に割り付け比較したDB-RCT.

(Ann Otol Rhinol Laryngol. 2020 May;129(5):434-440.)

・投薬は1週間行なった.

・RDを認めた症例は88例.

・アウトカム; 

 ベタヒスチンの使用はRD(-)に関連 OR 3.18[1.18-8.59]

 DimenhydrinateはOR 1.01[098-1.03]
(ジメンヒドリナート: 酔い止め. H1阻害薬)と有意差なし.


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ということで, BPPVの後にRDが長く持続する症例が半数程度ある.

RDのために再度外来受診をしたり, 活動が低下してしまう人もいる.

対応としては, しっかり動くこと, 生活活動の制限をせずに動くことがリハビリとなる.

メリスロンはRDの予防に効果的な可能性があり, 起こりそうな患者さん(経過が長い人や不安が強い人, いままでもRDの病歴ある人, また動いてくれなさそうな人)には試す価値はある.