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2022年9月20日火曜日

急性腹症の鑑別の1つ: 内臓性播種性帯状疱疹

 症例: 4日前からの急性経過の強い心窩部痛を主訴に受診した高齢者.

 身体所見や血液検査では軽度のCRP上昇と軽度の肝酵素上昇程度であり,

 腹部CTを評価すると腹腔動脈やSMA周囲の脂肪織に混濁があり, 腸管膜脂肪織炎の様相.

 膵臓周囲にも認めたが, 明らかな腸炎や膵炎の所見は認められなかった.





こんな病態, たしか帯状疱疹であったよな、、、ということで思い出してみよう.




内臓性播種性VZV感染症

・内臓に生じるVZV感染症.


 原因不明の腹痛で発症し, 一般検査でも特異的な所見は乏しく, 迷宮入りしがちな病態. 

 症例報告はほぼ日本から.

・造影CTにて胃や大腸の壁肥厚や膵周囲脂肪織の混濁を認める

 いわゆる腸管膜脂肪織炎のような所見が得られる.


複数の症例をまとめたSystematic reviewのような文献はないため,

いくつかの症例報告を紹介


免疫正常患者における報告

(Clinical Journal of Gastroenterology (2022) 15:568–574 )

78歳日本人女性. 既往なし

・7日前からの下腹部痛を主訴に来院

 
臍下部から右下腹部にかけての疼痛で, 圧痛は反跳痛は認めず
皮疹も認められなかった.

・腹部造影CTでは胃体部〜噴門部, 横行結腸〜下行結腸の壁肥厚
 

 膵臓周囲の脂肪織濃度上昇


・入院3日目に頭部, 胸部, 腹部, 背部に水疱を認め, VZVを診断


・内視鏡では胃体部に複数のびらんを認めた

・アシクロビルの投与にて改善.


61歳 日本人女性. 卵巣癌術後, 糖尿病患者

(BMC Infect Dis. 2022 Mar 3;22(1):215.)

・4日前より出現, 増悪した腹痛を主訴に救急外来を受診.
 嘔吐なし.

・受診時に顔面, 腹部, 大腿部に水疱を伴う皮疹を認めた.


 腹痛は心窩部に圧痛あり. 筋性防御なし.

・血液検査はCRP 2.1mg/dL程度の上昇以外に有意な所見なし.

・腹部CTでは腹腔動脈周囲の脂肪織混濁が認められた.


・VZV IgM, IgG, DNA陽性であり, 内臓性播種性VZVと診断.


 アシクロビルが使用された.


以下は免疫抑制患者(主にSLE患者)における症例報告

48歳日本人女性, SLE患者の急性腹痛の症例

(Mod Rheumatol Case Rep. 2022 Jul 4;rxac054. doi: 10.1093/mrcr/rxac054.)

・MTX 12mg/wk, CyA 150mg/日, PSL 5mgで治療中に

 
6日前からの急性発症の症状出現で救急搬送.

・血液検査では軽度の肝酵素上昇(AST 46, ALT 38)

・腹部CT, 上部内視鏡検査では明らかな原因は認められず.

・入院4日目(発症10日目)に顔面や腹部に小水疱が出現し,
 

 水疱液のVZV抗原検査で陽性となり診断された.


 初期に評価された血清VZV IgMは陰性. IgGは陽性.

・抗ウイルス薬で治療され, 改善.


46歳日本人女性, 
 Lupus腎炎+RA症例における内臓性播種性VZV

(BMC Res Notes. 2018 Mar 5;11(1):165. )

・2ヶ月前にLupus腎炎(その前9年間はRAでMTX, ABT)と診断され, TAC, PSLで治療. 

 その2ヶ月後に腹痛を発症.

・当初SLE増悪と考えられ, 腸管虚血が疑われ, 免疫抑制治療を増強するも効果は認めず.

 入院後水疱が出現し, VZV-DNAが陽性となった.

 最終的に死亡.

・この症例も初期にはVZV IgM, DNAは陰性であり, その後DNAが陽性化.

・水疱は遅れて出現している.


49歳白人女性 SLE+APS.

(BMC Infect Dis. 2020 Jul 23;20(1):538.)

・2ヶ月前にDVTにて入院. その際 間質性肺炎, 溶血性貧血, Lupus腎炎, 関節炎, APS陽性であり上記診断.


 MMF 1.5g/d, PSL 50mg/dで治療が開始された.

・今回, 急性発症の腹痛で救急受診. 悪心嘔吐なし.


 下肢の点状出血斑を認め, 
リンパ球 500/µL, PLT 5.8万/µL, 肝障害, LDHの著明な上昇, INR 5.9

・CAPSと診断され, mPSLパルスなどを行ったが増悪し, MOFが進行


 挿管時に咽頭に偽膜, 白色滲出液があり, 感染性咽頭炎の所見であった

・最終的に死亡され, 死後の検査にて
血液中VZV PCRが強陽性が判明.


 そして免疫の賦活化は伴っていなかった; IgG, IgMの上昇無し

・CMV, EBV, HHV-6も陽性であったが, HSV-1,2は陰性.


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不思議?と症例報告の多くが日本からであった.

免疫正常から免疫抑制患者まで報告がある.

SLEで免疫抑制療法を行なっている患者ではIgMが陰性となるため, 血清検査のみで診断は難しい. PCRを繰り返す必要がある.

 またSLEや免疫抑制患者における急性の腹痛の鑑別として稀だが重要と言える.

 特にSLEの腹痛は... 虚血だったり, 血管炎だったり, 血栓だったりとほんと鑑別が...


 あとやっぱりワクチンは大事