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2021年11月9日火曜日

SLE患者の骨髄所見って? 自己免疫性骨髄線維症とは

これはかなり以前に診療した症例:

20台の女性. 3年前にSLEを診断され, PSL, CyAにて治療されていた.

PSL減量とともに再燃し, その際汎血球減少が認められた.

炎症反応増加, 亜急性経過の血球減少, 皮疹の増悪, 軽度の脾腫などがあり, Macrophage activation syndrome, 血球貪食症候群の可能性も考慮し, 骨髄穿刺を行うとDry tap.

そのまま骨髄生検を行ったところ, Reticulin線維の増生が高度に認められ, ”骨髄線維症”という診断であった.


自己免疫性骨髄線症と判断し, ステロイドの増量, 再度寛解導入を試み, その後血球は改善.

数カ月後施行した骨髄穿刺ではDry tapは改善しており, 線維症所見も改善が認められた.


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SLE患者の骨髄所見ってどのような所見が多いのだろうか?


SLEと血球減少

・SLEでは溶血性貧血やITP, 自己免疫性好中球減少, リンパ球減少など血球減少を伴うことは多く経験する.

SLEと白血球減少では,  未治療のSLEではリンパ球減少が主体.
 好中球減少では自己免疫性好中球減少症の関連が知られている

 治療中のSLEのWBC減少では薬剤性, SLE再燃, Viral infection, 
敗血症, 血球貪食症候群, MAS, Evans syndromeを考慮する.

 SLE + 血球減少(+)患者115名の解析では,

 
Leukopenia(<4000/µL) 57.4%

 
Neutropenia(<1800/µL) 20.0%

 
Lymphopenia(<1500/µL) 81.7%  (Hematology 2007;12:257-61) との報告もある

SLEに伴う貧血はACDが最多で約40%


 溶血性貧血はSLE患者の5-10%で合併する

 他には出血, 鉄欠乏性貧血, TTP, 
赤芽球癆など様々な原因がある

 SLE+Anemia患者の
原因頻度

Group

SLE+anemia *1

SLE + Anemia + α *2

Design

Prospective cohort


N

132(38.3%)

115

母集団

345




貧血は89.6%

ACD

49(37.1%)

46.1%

鉄欠乏性

47(35.6%)

16.5%

AHA

19(14.4%)

27.8%

その他

17(12.9%)


 βサラセミア

3


 Cyclophosphamide

2


 慢性腎不全

8


 TTP

1


 PRCA(赤芽球癆)

1


 悪性貧血

1

3.48%

*1 Ann Rheum Dis 2000;59:217-22


*2 Hematology 2007;12:257-61


SLEと血小板減少症

 自己免疫性血小板減少性紫斑病, 抗リン脂質抗体症候群, 
TTP, 再生不良性貧血, 血球貪食症候群, DIC, 出血, 薬剤性と様々ある

 自己免疫性血小板減少はSLEの20-40%で合併するが, 
重度の血小板減少は<5% (Rheumatology 2003;42:230-4)

 SLE + 血球減少(+)患者115名の解析では,
 

 PLT<150k/µL 40.0%


 PLT<100k/µL 26.1%

 
PLT<50k/µL 8.0%  (Hematology 2007;12:257-61)

SLEと汎血球減少症

 SLE+ (Evans syndrome, DIC, 出血+血小板消費)

 Vit B12欠乏, 悪性貧血

 血球貪食症候群, MAS, 骨髄線維症 で汎血球減少を生じる.


SLE患者の骨髄所見はどのような所見があるのだろうか?


SLE患者で血球減少(+)があるCaseの骨髄所見

(Clin Rheumatol 1998;17:219-22)

・Hb<10g/dL and/or WBC<4000/mcL and/or PLT<150kのSLE患者21名で骨髄生検


骨髄生検前2mo間の間はどの症例も免疫抑制療法は行っていない.
また, 11名(52.4%)は今まで一度も免疫抑制療法を行っていない患者.

・骨髄所見

・Reticulinの増加は16/21(76.2%)で認められた

 Mildが12例, Moderateが3例, Severeが1例.

・Dry tapは4例で認められ, その全例がreticulin増生が認められた.

 後に骨髄線維症と診断されたのは1例のみであり,
 その症例では軽度の脾腫とPancytopeniaを認めた.

・Teardrop cell, Leukoerythroid reactionは認めず, 
骨髄所見ではAtypical megakaryocyteの集積が認められた.

・Necrosisは4例(19%) その全例でReticulin増生を認める.


原因が明らかではない血球減少を伴うSLE症例 40例の骨髄所見を評価. Controlとして不応性貧血を認めるMDS患者10例の骨髄所見と比較した.

(Am. J. Hematol. 81:590–597, 2006.)

・血球減少の定義はHb≤12g/dL, Neu ≤1500/µL, PLT ≤10マン/µL.

・原因が明らかではない: 鉄欠乏, 葉酸, Vit B12欠乏, 薬剤正, 自己免疫性, 微小血管内溶血が否定的と判断された症例を対象.

骨髄所見: 正形成〜過形成骨髄が42.5%, 低形成が半数以上.
 

 ALIP(abnormal localization of immature precursors)は67.5%
 

 骨髄壊死が90%(軽度57.5%, 中等度22.5%, 高度10%)

 赤芽球や巨核球の異形性も多い

・Retibulinは全体的に増加し,
 

 軽度増加が47.5%(Bauermeister 2+)


 著明に増加が30%(3+)

 
微妙に増加が20%(1+)


フランスのCohort “lupus marrows”の解析

(QJM. 2017 Nov 1;110(11):701-711. doi: 10.1093/qjmed/hcx102.)

・SLEを診断され(SLICC基準), さらに骨髄の異常が認められた患者群で, 且つ他の原因による骨髄異常が否定された患者群を評価

・30例が登録された. 
年齢中央値は36歳[範囲18-71歳]

 
SLEと同時に診断された例が12例. SLE診断後に診断された例が18例

骨髄所見は,


 骨髄線維症が57%(17), 赤芽球癆が27%(8), MDSが10%(3),
 

 再生不良性貧血が1例, 無顆粒球症が1例ずつ.

・脾腫は6例で認められ, 骨髄線維症症例では5/17で脾腫(+)であった


タイのSrinagarind Univ. Hosp.における前向きCohort

(Clinical and Experimental Rheumatology 2012; 30: 825-829.)

・2009-2011年に診療した16-60歳のSLE患者で, 
以下の2つ以上を満たす血球減少を認めた患者を対象.
 (a)Hb<10g/dL, (b)WBC<4000/µL, (c)PLT<10マン/µL

・除外項目: 妊婦, ウイルス性肝炎, HIV感染, 肝硬変, 脾腫, 血液疾患の既往がある患者.

・上記を満たす患者で骨髄穿刺, 生検を施行

・41例で骨髄検査を施行. このうち20例で異常所見を認めた


 10例が低形成骨髄, 7例が形質細胞浸潤
, 6例が血球貪食, 2例が赤芽球異形成
, 2例が再生不良性貧血, 1例が骨髄繊維症

 Reticulin線維の増加は5例で認められた.


・血球減少の程度と骨髄異常所見の頻度:

 血球減少が高度なほど骨髄に異常所見を認める例が多い


血球減少を伴うSLEでは, 

骨髄異形性や骨髄線維症に類似した所見,

低形成骨髄, 再生不良性貧血といった骨髄不全を呈する所見

形質細胞浸潤を伴う所見

赤芽球癆

骨髄壊死所見が認められることが多い.


SLE患者における骨髄線維症が認められる例があり,
 AIMFと呼ばれる.

・AIMF: Autoimmune Myelofibrosis. 主にSLEやpSS, まれに強皮症で合併することがある.

 特発性のPrimary AIMFもある. (SpringerPlus 2014, 3:349)

骨髄異形性は免疫抑制療法により改善する例も多い(Inter Med 47: 737-742, 2008 )


AIMF: Autoimmune Myelofibrosisとは

(Am J Clin Pathol 2001;116:211-6)

・SLE, SLE-like disease, 稀にSjogren, Progressive SScに
合併する2次性のMyelofibrosis

・Primary Myelofibrosisでは治療は骨髄移植やJAK阻害薬であるが, AIMFではステロイド治療, 免疫抑制療法が治療となり得る.

・女性に多く, 報告されたCaseの大半が<40歳で発症している.

・自己免疫性疾患を示唆する自己抗体, 低補体を認め, 
直接Coomgs testが陽性となることが多い.


1966-2000年に報告された25例のLiterature review
(Am J Clin Pathol 2001;116:211-6)

骨髄所見

頻度

ステロイド投与前後の骨髄所見

頻度

Hypocellularity

10/21

骨髄線維所見は不変

7/15

Hypercellularity

8/21

上記のうち5/7は血球数は改善を認めた

Normocellularity

3/21

骨髄線維所見は改善

8/15

Megakaryocytic hyperplasia

13/18

線維組織量減少

4

Megakaryocyte cluster

4/4

完全寛解

2

Fibrosis

全例

完全寛解+血球数も改善

2


AIMFとCIMFの違い:

(Am J Hematol 2003;72:8-12)

・CIMF: Chronic Idiopathic Myelofibrosis. 一般的な骨髄線維症

・CIMFではMassive splenomegalyを認める場合が多く, しばしば診断根拠ともなるが,
 AIMFでは触知できるほどの脾腫は少ない.

 CIMFの62.5%で, 肋骨弓下6cmに達する脾腫を認める.

・AIMFでは, 脾臓での造血が行われていないことが多いため,
 脾腫が軽度であり, 末梢血所見も目立たないと説明されている.

・AIMFでは骨髄内に浸潤したリンパ球によるCytokinesが骨髄の線維化に関与していると考えられており,
 AIMF, CIMF双方とも, リンパ球の骨髄内浸潤は認め得る.

・AIMFではT cell, B cell双方の浸潤が認められるが,
 B cellはpolyclonalであるため, その点でLymphomaとの鑑別が可能.

特徴

CIMF

AIMF

脾腫

中等度〜著明

触知できる脾腫は稀

末梢血所見



Teardrop poikilocytosis

特徴的な所見

認めるが少数のみ

Leukoerythroblastosis

特徴的な所見

少ない

骨髄所見



集合した異型Megakaryocyte

90%で増加

Rare

Eosinophilia

Common

Rare

Basophilia

Common

Rare

Osteosclerosis

54%で認める

Rare

Lymphocyte集合

Common

Common


SLEとAIMF

(Leukemia and Lymphoma 2000;39:661-5, 
Clinical rheumatology 1989;8:402-7, 
Medicine 1994;73:145-52)

・SLEに合併するAIMFが最も報告例が多い.

 SLEの診断を満たさないまでも, SLEに類似した疾患に合併することもある.

・SLEと同時に診断される例もあれば, SLE診断後1-9yrでAIMFを発症することもある

・直接Coombs testは40-50%で陽性となる.

・低補体血症は80-90%で認める

・他のAIMF, Primary AIMFと同様, 脾腫は軽度であることがほとんど.

・骨髄所見も他のAIMFと同様の所見. 低形成〜過形成まで様々.


 SLEに伴うAIMFでは, Hypercellularであることが多い.

・ステロイドへの反応性が良好であり, 
改善速度は緩徐ながら, ほぼ全例が改善を認める.

・血液検査では肝酵素上昇は通常認めない.
また, 発熱はあってもMild Fever程度であることが多い.