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2021年10月5日火曜日

単一臓器の血管炎. 消化管限局血管炎

難治性, 重症の虚血性腸炎の症例で粘膜生検を行うと, フィブリノイド壊死を伴う白血球破砕性血管炎の所見が得られた.

他に全身性の血管炎を示唆する多臓器障害は認められず, ANCAも陰性.

虚血性腸炎は改善傾向も得られず, 経過していたためGCを開始すると症状, 所見は改善傾向が得られた.


という経過の症例.

あくまでも暫定診断になるものの, 単一臓器の血管炎(Single organ vasculitis)による大腸炎(虚血性腸炎)の可能性を考慮.


・虚血性腸炎は ”高齢女性”, ”便秘”, ”血便” というキーワードで連想することが多い.

・動脈硬化や心拍出量低下がある状態で, さらに腸管局所の血流の低下や酸素需要の亢進が生じると虚血性腸炎となり, 粘膜が脱落し血便や浮腫を呈する.

他の原因としては, 以下のような要素がリスクとなる

・全身性血管炎(PANやIgA血管炎, SLE, RAなど)

・
アミロイドーシス, 

・感染症: 特に免疫抑制状態の患者. CMV, 腸管出血性大腸菌, 真菌など


・医原性: 術後, 血管内デバイス, 


・薬剤: NSAIDなど


また, 参考までに腸管の栄養血管は以下. 栄養血管に一致した形で生じることも多い

(Acad Pathol. 2019 Nov 21;6:2374289519888709.)


消化管を障害する血管炎とその特徴は以下の通り

・PAN, IgA血管炎は比較的連想が容易.

・他にAAV, SLE, RAといったものが原因として挙げられる. 載っていないがベーチェット病も

(Acad Pathol. 2019 Nov 21;6:2374289519888709.)


全身性血管炎の場合, その部位のみならず, 多臓器に症状を認めること重要であるが,

中には単一臓器のみに血管炎を生じるものがある.

これをSingle organ vasculitis (solitary organ vasculitis): SOVと呼ぶ


Single-organ vasculitis: 単一臓器に限局する血管炎で
 “Isolated PAN-like“ vasculitisであり,
 単一臓器の動脈, 静脈, サイズに関わらず血管炎を認め,
 他の臓器には認められない病態.

・再発を繰り返す場合もあれば, 一相性で改善する例もある. (J Clin Pathol 2017;70:470–475.)

・主にPAN-likeな血管炎として考えることが多いが,
 中には皮疹のないIgA血管炎のような報告もある(BMJ Case Rep 2020;13:e235042.)


SOVは単一臓器のみに血管炎を認め
少なくとも6ヶ月間は他の部位に血管炎を伴わないことで定義される

・中枢神経や皮膚のように,
領域が広がっている場合と,

・婦人科系, 精巣, 消化器, 乳房のように
単一の部位に限局している場合がある(限局型SOV)

 大動脈や大動脈周囲炎の中にもSOVがある.

・限局型のSOVでは, 他の理由により手術や生検が行われた際に偶発的に発見されることが多く, 切除のみで改善することも多い.

・6ヶ月以上の経過観察で, 全身性に拡大することもあり, 注意.

(Curr Opin Rheumatol 2012, 24:38 – 45)


SOVのうち, GI tractに認められる症例をLVGIと呼ぶ (Localized vasculitis of the GI tract)

・外科治療症例におけるSOVの頻度は

 虫垂炎の1%にSOVが認められる報告があり, 比較的頻度が高い(Curr Opin Rheumatol 2012, 24:38 – 45)

 胆嚢切除術では12000例の切除症例のうち, 5例のみと少ない.(J Clin Gastroenterol. 1989 Oct;11(5):537-40. doi: 10.1097/00004836-198910000-00009.)


Mayo clinicにおいて, 1996-2007年に診断した
GI tractを含む血管炎症例608例をReview.

・組織所見や血管造影にて血管炎と判断された症例を抽出した.

・このうち, LVGIは18例.

・多い病変は胃十二指腸潰瘍や粘膜出血
 

 胆嚢炎, 結腸直腸潰瘍や粘膜出血
 

 脾臓, 肝臓, 腸管の梗塞もある

・他に虫垂炎や膵炎, 腹膜炎, 穿孔, 腸閉塞など

血管造影検査


18例のまとめ

・病理像は虚血性腸炎, 壊死性血管炎を伴う症例が多い.

・治療は免疫抑制から経過観察など.