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2021年8月31日火曜日

AAアミロイドーシス

高齢男性, 繰り返す消化管出血の精査において, 上部消化管に隆起性, 多発性の病変が認められた. その組織よりAAアミロイドが検出され, AAアミロイドーシスと診断された.

しかしながら, その背景にRAや自己免疫性疾患, 自己炎症性疾患, 感染症, 悪性腫瘍といったものが認められなかった.

CRPは通常<1.0mg/dLだが, 血清アミロイドA値は20-30mg/Lに持続的に上昇していた.


これは ”特発性” AA amyroidosisなのか?

この場合治療はどうすべきだろうか?


AAアミロイドーシス

・発展途上国ではAL Amyloidosisよりも多く認めるTypeで,
慢性炎症性疾患, 長期の感染症, AIDSなどに伴う.
 全国的にはSystemic amyloidosisの45%を占める.

・急性炎症反応物質である血清アミロイドA蛋白(SAA)が, 
切断, ミスフォールディング, 凝集の過程を経て,
 異常なβシート構造に変化したものがAAアミロイド線維

・アミロイド線維はグリコアミノグリカンや血清アミロイドPなど他の部位と結合し, 組織や臓器に沈着. 構造や機能を破壊する.

・SAAは通常3mg/L程度の濃度で血中に存在するが,
急性炎症期では2000mg/L以上に上昇する.

・持続性のSAAの過剰生産がAA amyloidosisに関連するが,
 慢性炎症がある患者の一部でのみ発症することを考慮すると
他の因子の関連も強いと考えられる.

(N Engl J Med 2007;356:2361-71.)


SAAには遺伝子多型があり, 
産生蛋白にはSAA1, SAA2, SAA4に大別される

・IL-1, IL-6, TNF-αなど炎症性サイトカインにより,  肝細胞にて合成される.

・AA amyloidosisではSAA1に由来するものが90%以上.

・SAA1遺伝子は4つのexonから構成されるが, 主な蛋白部分での一塩基多型(SNP)はexon3に存在する.

・exon3の多型はSAA1α(1.1), β(1.2), γ(1.3)があり, 
日本人ではSAA1γ(1.3)が危険因子とされる.
[SAA1α(Val52/Ala57), SAA1β(Ala52/Val57), SAA1γ(Ala52/Ala57)]

・一方でドイツからの報告では, SAA1αがAA amyloidosisに関連しており,
 人種差がある(Amyloid. 2015 Mar;22(1):1-7.)


ドイツからの報告:(Amyloid. 2015 Mar;22(1):1-7.)

・AA amyloidosis 71例中, FMFが34%, リウマチ性疾患が42%,
明らかな原因を認めない特発性が16%(11).

特発性では高齢者が多く, 全例で2x SAA1αを認めた.


 慢性リウマチ性疾患+AA amyloidosisでもSAA1αは高頻度.

・FMFや慢性炎症患者群において, 
Amyloidosis合併 vs 非合併を比較すると,


 SSA1αは有意なリスク因子となる


AA amyloidosisはどのような臨床的な特徴があるか?

症例Reviewをみてみる;


UKにおける374例のSystemic AA amyloidosisの解析

(N Engl J Med 2007;356:2361-71.)

・背景疾患の頻度; 慢性炎症性関節炎が60%
, 慢性感染症が15%, 周期性発熱疾患が9%
 

 他にCD, Castleman病など

・原因不明も6%である


患者群の基礎データ


・SAA濃度は28[0.7-1610]mg/L


 CRPは2.0[0.07-20.6]mg/dL


SAA値は予後や臓器障害の進行に関連する

・Whole-body amyloid burdenが低下する群では
SAA値の中央値は7mg/L

 横ばいの群では17mg/dL, 増悪する群では54mg/L

・SAA <10mg/Lとなった群の60%でアミロイド沈着は低下し,
生命予後も良好となる.

・腎機能が改善/横ばい/増悪で分類しても,
 SAA値は臓器障害の進行に関連する.

・SAA値は死亡リスク因子にもなるため,
 AA amyloidosisの診療ではSAA値を下げることが重要

死亡や臓器障害に関連する因子


日本国内のAA amyloidosis 199例を調査

(Intern Med 57: 3351-3355, 2018)

・2012年〜2014年の調査.

・背景疾患はRAが6割と多く, 11%が性質不明の炎症性疾患

臨床症状


・蛋白尿がおよそ半数で認められる. 腎障害は76.4%と高頻度.
・消化管症状が4割, 消化管出血も4.5%で認められる.
・他には心不全, 不整脈, 甲状腺機能低下症が臓器障害としてあり.

血液データ, 検査データ
・CRPは1台〜4台程度. SAA値は60[31-213]µg/mL (= mg/L)と幅あり. 


特発性のAA amyroidosisはどの程度あるか?

・Mount Sinaiにおける1997-2012年に診療したAA amyloidosis43例中,
 
RAが21%, CDが16%と多いが, 原因が不明なIdiopathicが21%認めた.

・他のCase reportsをみると,
特発性は0-29%で含まれる.

(MOUNT SINAI JOURNAL OF MEDICINE 79:749–756, 2012)


AA amyloidosisの治療

治療は大きく背景疾患の治療, アミロイドーシス自体への治療, 対症療法に分けられる
(Clinical Epidemiology 2014:6 369–377)

・背景疾患の治療: 悪性腫瘍, 感染症, 自己免疫疾患
・アミロイドーシス自体への対応: Tocilizumab, 
 ジメチルスルホキシド(DMSO, 内服薬剤としては国内に無し),
 エプロジセート(開発中止)
, ヘパリン, スタチン
・対症療法:
 起立性低血圧への対応
, 吸収不良への対応など

アミロイドーシス自体への治療は以下の要素がある
(MODERN RHEUMATOLOGY
2019, VOL. 29, NO. 2, 268–274)
・SAA産生を阻害するため: 
IL-6, TNF-α, IL-1の阻害や
JAK阻害薬,
免疫抑制療法, ステロイドを考慮
・沈着を障害するため: Eprodisate
・沈着したAmyloidを溶解させるため: 
Dimethyl sulfoxide
・ただし後者2つは国内では使用困難な状況.


このSAA産生を阻害するためのIL-6阻害, TNF-α阻害, IL-1阻害のうち,
もっとも効果が良好と考えられているのがIL-6の阻害.

・AA amyloidosis 43例におけるサイトカインを評価した報告では,
 IL-1の上昇は40%, IL-6の上昇が88%, TNF-αの上昇が41%で認められ,
 最も上昇する例が多かったのがIL-6であった.
 (MOUNT SINAI JOURNAL OF MEDICINE 79:749–756, 2012)

日本国内より, 42例のAA amyloidosis症例を後ろ向きに解析.
TCZ治療例22例と, TNF阻害薬治療例31例を比較した報告
(Mod Rheumatol, 2014; 24(1): 137–143)
・アウトカムは治療継続率, SAA値の変動, 腎機能
・背景疾患はRAが39例, JIAが2例, AOSDが1例

アウトカム: 
・5年間の治療継続率は
TCZで90.4%, TNF阻害薬で34.3%
p=0.0154
・SAA値はTCZで219から5.0へ低下

 TNF阻害薬群では143→38.1
・eGFRはTCZでやや上昇するが
TNF阻害薬群では低下.

日本国内の2012-2014年のSurveyより
AA amyloidosis 199例の治療内容
(Intern Med 57: 3351-3355, 2018)
・TCZが66例と多く, 有効率も95.5%と高い

 TNF阻害薬は27例. 

ヨーロッパにおいて, 治療的TCZトライアルが
行われた20例(このうち14例がAA amyloidosisの診断)の解析
(Clin Exp Rheumatol 2015; 33 (Suppl. 94): S46-S53.)
・SAA値はTCZ投与後10日以内に70→4mg/Lまで低下し
以後23ヶ月低値を維持.
・Amyroid沈着は
AA amyroidosis全例で改善〜安定
・TCZは8mg/kg q4wkを主に使用

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・AAアミロイドーシスは主に慢性炎症や悪性腫瘍を背景として生じるアミロイドーシスで, 腎障害や腎不全, 消化管障害を伴う.
・背景疾患が認められない, 不明な”特発性”も一定数存在する. 頻度はCohortにより差はある(~29%)

・治療は背景疾患の治療や対症療法が基本ではあるが,
 特にアミロイド自体への対応として, IL-6阻害薬は有用な可能性が高い.
 TNFα阻害薬よりも良好にSAAを低下させ得るため, 使用可能な患者では考慮する.
・SAA値はそのまま予後に関連するため, <10mg/Lを目標に可能な限り低下させることが重要.

2021年8月23日月曜日

b/tsDMARDの使用と, COVID-19重症化, 死亡リスク

 (Ann Rheum Dis 2021;80:1137–1146. doi:10.1136/annrheumdis-2021-220418)

RA患者でCOVID-19罹患時にb/tsDMARDを使用していた患者群2896例を解析し, 重症度や死亡リスクへの関連を評価.

・COVID-19 Global Rheumatology Alliance physician registryの
2020年3月〜2021年4月までの症例を解析した

・COVID-19アウトカムは

 (1) 入院なし, (2) 入院/酸素投与なし, (3) 入院/酸素投与あり(MV含む), (4) 死亡で分類


アウトカム:

・ TNF阻害薬をRefとしたときの各アウトカムのOR
 

・AbataceptやIL-6阻害薬はTNFiと同等.
 

・RTXは重症化や死亡リスクがおよそ4倍


・JAKiも重症化, 死亡リスクの上昇に関連する.


2021年8月19日木曜日

関節リウマチに対するイマチニブの効果

前のブログで好塩基球増多, RA様症状で発症したCML, 

またはRA患者とCMLの併発症例について勉強した.

それについて, 

・血液腫瘍に合併する自己免疫性疾患は?

・CMLに合併する自己免疫性疾患は?

・CMLの治療はRAにも効くのか? という3点について.


① 血液腫瘍に合併する自己免疫性疾患は?

・血液腫瘍では自己免疫性疾患の合併は比較的多い. 有名なのはMDSに合併する関節炎や口腔/超粘膜病変, 好中球性皮膚症など. ITPやAIHAといった自己免疫性血球障害も多い.

・自己免疫性の障害は遺伝的要因(HLA, Ctokine polymorphismなど)と後天的な要因(感染や環境因子, 悪性クローン, 薬剤/治療など)により生じ, 血液腫瘍は免疫抑制や異常細胞により
自己免疫性疾患を合併するリスクは高いと考えられる

(Cancers 2021, 13, 1532)

リンパ増殖性疾患と自己免疫性血球障害


骨髄増殖性疾患と自己免疫性血球減少


リンパ増殖性疾患とAID(SLEやRAなど)の報告

骨髄増殖性疾患と自己免疫性疾患

・骨髄増殖性疾患と自己免疫性疾患の報告頻度はやはりMDSやCMMLが多い.

 他のMPNやCMLは症例報告程度のみ.


② CMLに合併する自己免疫性疾患は?

・①の通り, CMLに合併する自己免疫性疾患は症例報告程度である.

スウェーデンにおけるCohort studyで, 2002-2012年に新規にCMLが診断された984例を解析し,
自己免疫性疾患, 他悪性腫瘍の既往を評価した報告では, 

 自己免疫性疾患はOR 1.55[1.21-1.98]とCMLのリスクとなる報告がある. 

 報告数はRAが多いが, 特にサルコイドーシスの関連性が高い. (Leukemia (2016) 30, 1562–1567; doi:10.1038/leu.2016.59)

CMLに合併したリウマチ性疾患4例の報告とLiterature reviewでは, 

 4例はBD, RA, SpA, dcSSc症例であり,
 発症の期間は7ヶ月〜12年と幅広い.

 Literature reviewでは, RAが5例(うち1例はSS合併), SScが4例 (Rheumatol Int (2006) 26: 857–861)

 これも, 偶発的なのか, 関連があるのかは不明確であると結論づけている.


症例報告からは, 

・CMLに対してIFN療法, ヒドロキシウレア使用中に, 
BD(再発性口腔内アフタ, 陰部潰瘍, 針反応, 発熱, 関節痛, 毛嚢炎)を呈した62歳女性の症例報告

 コルヒチンの使用に反応したが, 3ヶ月後急性転化し, 敗血症で死亡

(American Journal of Hematology 66:57–58 (2001))

・36歳女性, 8年前にRAを診断. MTX+PSLで寛解し, 1年前に終了

 PLT低下, 貧血, 多関節痛, 肝脾腫, 下肢の壊疽性膿皮症を発症し入院.

 精査の結果CMLの急性転化と診断. 

 化学療法にて改善するが, 敗血症にて死亡した症例報告

(The Egyptian Rheumatologist (2013) 35, 1–4)


ということで, 報告はちらほらあるものの, 関連については不明確という状況.


③ CMLの治療はRAにも効くのか?

CMLと合併したRAではTKI(イマチニブ)が関節症状にも有用という報告はちらほらある


・55歳の女性. 長期間のRA罹患があり, MTXとHCQにて治療されていた.

 検査にて重度のPLT上昇, 好塩基球上昇があり, CMLを診断.

 
Imatinibにて治療が開始された.

 6ヶ月後, DMARD無しでRAも寛解を達成. 

 (J Rheum Dis. 2011 Jun;18(2):118-121. Abstruct)


・74歳男性. 左中指のMTP腫脹, 両側膝関節腫脹, RF陽性にてRAを診断.
 NSAIDと金製剤にて治療.

 3年間のフォロー中にWBC 14-16000まで上昇するも原因不明と判断

 5年後ILD発症し, 金製剤は中止. PSL 10mg/dまで増量

 両側 膝関節, 手関節の腫脹と白血球上昇が持続するため紹介

 
WBC 25000-30000台, 好塩基球7%, 好酸球5%でありCMLを精査


 肝脾腫は認めず.
 膝・手関節以外は左肘関節の軽度拘縮, MCP, PIPの軽度腫脹, 
XPにて両側橈骨頭のErosion, MTP関節のErosionを認めた.

 WBC 26000(Eo 3.5%, Ba 9%), PLT 54.6万, Hb 13.0g/dL, 
ESR 54mm/h, CRP 3.2mg/dL, ACPA 陰性

 BCR-ABL遺伝子変異陽性であり, CMLと診断.

 Imatinib 300mg/dが開始され, 
1.5ヶ月後に肝障害を生じ200mgに減量.

 WBCは1ヶ月後には9900, その後7200まで低下.
PLTも24.7万まで低下.

 Imatinib開始後〜 患者の疼痛, 膝・手関節腫脹は改善傾向を示し
歩けるレベルまで低下. 
CRPも0.3mg/dLまで低下


 200mg/dに減量後はCRPは再度軽度の上昇を示したが,
その後300に再増量後は低下を認めた.

 (Clin Rheumatol (2003) 22: 329–332)


・53歳女性. 11年前にRAを診断

 MTX, Leflunomideで治療するも不応であり, 
IFX→ADAを使用し治療するも不十分の状態であった

 ADA開始後3年でWBC 5万台に上昇し, BCR-ABL陽性でCMLを診断

 Imatinib 400mg/dで治療し, WBCは低下.

 Imatinib開始後から関節症状も改善し, 6ヶ月後にはRA寛解.
 その後21ヶ月の間, ImatinibのみでRAの寛解を維持
(DAS28 0.51, CRP, ESR正常)

 (Joint Bone Spine 77 (2010) 366–375)


・54歳女性. RAに対してHCQ, 金製剤や, MTXで治療され,
一定の効果が認められていた.

 罹患してからおよそ20年後にCMLを発症.


 Imatinib 400mg/dにより治療され, その際MTXは中止
(相互作用による血中濃度の上昇を危惧)

 3ヶ月後には血液学的寛解が得られ, その後も持続.

 同時にRA症状も寛解を認めた. 
MTX中止前よりも関節症状は改善.

 (J Clin Rheumatol. 2009 Aug;15(5):267.)


CMLが改善したから, 関節症状が改善したのか, イマチニブ自体がRAに効くのだろうか?

イマチニブ自体のRAに対する効果は?

CMLと関係なく, RAに対してImatinibは有用であるとする報告は散見される.

・ImatinibはいくつかのTyrosine kinaseを阻害するTKI.


 主にBCR-ABL, ABL, PDGFR, ARG, KITの阻害作用が判明している.

・ところが, それら遺伝子の異常がない症例に対しても, 一部で抗腫瘍効果を呈することがわかっている.


 そのような症例を調べるとGDM1のCSF1R(Colony-stimulating factor 1 receptor)のエクソン12に変異があり, Imatinibにより脱リン酸化されることが判明した. (Leukemia (2009) 23, 358–364)

・CSF1RはType III receptor tyrosine kinaseであり, Monocyte/Macrophageの増生, 分化, 維持, 導入に関わる.


 腫瘍のみではなく, RAの組織や細胞にも高発現しており, 炎症反応の促進やRAの滑膜細胞の増殖を促進する作用が認められる.

 
Imatinibは滑膜の炎症を濃度依存性に抑制することが動物実験で判明. (Clin Exp Immunol. 2019 Feb;195(2):237-250.)


ラットのCollagen-induced arthritisに対するImatinibの効果

・PBS: リン酸緩衝生理食塩水

・関節炎スコアや足の太さは
Imatinib投与群で有意に抑制される

(J. Clin. Invest. 116:2633–2642 (2006). doi:10.1172/JCI28546.)


第二世代TKIであるDasatinibでも同様に
ラットモデルでの関節炎抑制効果が認められる.

(Front Immunol. 2019 Jan 10;9:3133. doi: 10.3389/fimmu.2018.03133.)


同じく第二世代TKIのNilotinibも関節炎を抑制しうる

サイトカインの抑制作用を評価

・ImatinibはTNFα, IL-6, IFNγ, IL-17の抑制作用を呈する


 >> 炎症性サイトカインと, T細胞誘導性サイトカイン.

・NilotinibはIFNγとIL-17のみ抑制.
IL-17抑制作用はNilotinibの方が強い


 >> T細胞誘導性サイトカイン

(Mod Rheumatol (2011) 21:267–275)


ヒトに対する報告を見てみる

MTX 10mg以上PSL, さらに他のDMARDを使用しても,
活動性が高い*RA患者3例を対象とし, Imatinibを導入してフォローした前向きStudy.

(Ann Med 2003; 35: 362-367)

・*腫脹関節≥6で, 以下の2項目以上を満たす
 

 1) 圧痛関節≥6, 
 2) CRP≥1.5mg/dL, ESR≥28mm/時
 3) 45分以上持続する強い朝の強張り

・PSLは≤10mg/dを使用.


 Imatinibと相互作用があると考えられる薬剤は4wk前に中止.
 具体的にはMTXとシクロホスファミド.


 1名シクロスポリン150mgを使用中の患者は50mgに減量し, 血中濃度をみつつ125mgまで増量

・3例ともInfliximabの治療歴があるが, 2名は副作用で中断, 1名は無効.

・Imatinibは200/dより開始し, 3-4wkに300/d, その後400mgとして合計12wk


アウトカム


・疼痛や活動性VAS, 
炎症反応, RFは
Imatinib開始後に低下

・腫脹関節は全例で減少
. 疼痛関節は2例で減少

・ACR50達成が1例
, ACR20達成が1例, 
ACR20未達成が1例

この3例のうち, 長期間Imatinibを継続した1例の長期フォロー

・20ヶ月後のXPでは, 骨病変の進行は認めず,

・14ヶ月後の滑膜生検では線維化と軽度の炎症所見を認めた. RAで認められるMast cellはほぼ認められず, TNF-α発現も少量のみであった

(J Clin Rheumatol 2008;14: 294–296)


RAに対するMasitinibを評価したPhase 2a study

(Arthritis Research & Therapy 2009, 11:R95 (doi:10.1186/ar2740))

・Masitinib: c-KIT阻害作用を有するTKI.
 GISTの治療として用いられるが, 国内は未承認
 

 他にPDGFRα/β, Lyn, Lck, FGFR3, FAKの阻害作用もあり
 

 CSF1Rに対する阻害作用も認められる

・DMARDsでコントロール不十分なRA患者43例を対象とし,

 
Masitinib 3mg or 6mg/kg/dを12週間使用し, フォロー.


 ACR20/50/70達成率を評価した.

・患者はMTX, TNF-α阻害薬をはじめとしたDMARDに不応, 効果不十分のRA患者で, 腫脹関節≥8, 疼痛関節≥10 且つ以下の1項目以上を伴う:
 

 ESR ≥28mm/h, CRP ≥1.5mg/dL, 45分以上持続する朝の強張り.

・除外項目は骨髄障害(Neu<2500, PLT<10万), 活動性感染症, 入院が必要な感染症の既往, 2wk以内の抗菌薬使用


アウトカム

・12週間におけるACR20は55.6%で達成.


 ACR50は33.3%, ACR70は11.1%

・抗TNFα阻害薬に不応であった患者でも57%でもほぼ同等の効果

・DAS28<2.6達成できた症例は少ない.


長期的なアウトカム(~84wk)

・長期的にはACR90や寛解を達成する患者は増加


RAではなく, SpAに対しても有用である報告がある

SpA患者に対するImatinib

6例のSpA(AS 3, Juvenile AS 1, PsA 2)を対象
全例で末梢関節罹患あり
4例で脊椎の疼痛, 3例で仙腸関節炎の画像所見陽性

(Rheumatology 2006;45:1575–1576)

・NSAID, PSL, MTXとSASPで治療し, 効果不十分.

 
BASDAI ≥4, 末梢関節炎(腫脹/疼痛関節≥4)を満たす.

・この6例に対してImatinibを追加.
200mg/dより開始し, 4wk後に400mgに増量.


 3ヶ月継続し, 疾患活動性をフォロー

アウトカム: 

・3ヶ月後の関節症状, 疼痛, 腱付着部炎,
夜間の疼痛, 疾患活動性VAS, 炎症反応すべて改善あり.

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CMLとRAが合併しやすいかどうかはまだよくわからないものの, 双方とも比較的多い専門疾患であり, CMLの増悪とともに関節症状の増悪を伴う症例報告もあることから, 頭の片隅に置いておこう.

CMLに使用される第一世代TKI(イマチニブ), 第二世代TKI(ダサチニブ, ニロチマブ)はRAを始めとした自己免疫性炎症性関節炎にも有用な可能性があり, 両者を合併した症例ではTKIを使用しつつ, 元々のDMARDを減量, 中止にもってゆくことが可能かもしれない.


2021年8月17日火曜日

好塩基球の増多を見た時のアセスメント

 症例: 特に既往のない中年女性

 2ヶ月前より手指の関節痛を自覚し, RAを疑われ紹介.

 軽度の手関節腫脹, 疼痛と一部PIP関節の腫脹、同部位のエコーでの滑膜肥厚を認め, RAでも矛盾しない所見であった.

 血液検査では, ACPAは弱陽性.

 それ以外にWBC 13000程度の上昇, Neu 80%, 好塩基球 7%(絶対数910)と好塩基球の上昇が目立った.

 その1ヶ月後のフォローでも同様に好塩基球 1040程度と上昇が持続していたため, ある疾患を疑った. 

 ある疾患 → 関節炎症状 or 合併か. それはちょっと判別が難しいが・・・

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好塩基球増多: Basophilia

・好塩基球は免疫に関連(初期の悪性腫瘍を破壊する作用)や創傷の修復,


 またヒスタミンといったメディエーターを放出し, アレルギー反応に関わる.

・末梢血白血球のうち, 0.5%程度と少なく, 多くても1000/µL以下, 1%を超えない程度.

・好塩基球の分化にはいくつかのCytokineが関連している.

 
最も関連性が高いのはIL-3であり, 分化や成熟, 活性化に関連.


 他はGM-CSF, IL-5, TFG-β, TSLPの関連がわかっている


好塩基球の増多は, 日常で出会う機会が少ない血液検査異常.


臨床医の経験も少なく, どの疾患が好塩基球の増多に関連するかも不明確である.

・一部の慢性経過の血液腫瘍ではBasophiliaを伴うことはよく知られている;

 
 CMLやPV, HTなどMPNが多い. 

・特に, >1000/µLが8wk以上持続するような慢性の高度上昇例ではCMLを強く疑う

(Int J Lab Hematol. 2020;42:237–245.)


好塩基増多を来す疾患

・CMLなど血液腫瘍との関連は比較的知られているものの,
 他の良性疾患との関連は不明確.

・症例報告のReviewより, 
Basophiliaの報告がある疾患を調査

(Int J Lab Hematol. 2020;42:237–245.)

・多いのは検査エラーや検査関連


・良性疾患ではアトピー, IDA, DKA

・関連不明がTB, 肝硬変など

悪性腫瘍関連では,

 CML, 骨髄線維症, AML, 慢性/急性好塩基球性白血病

 相対的に増加する疾患では,
PV, ET, PMFなどMPN. MDS, CML, リンパ腫.


Mayo clinicにおいて, 2014-2018年にBCR-ABLを評価した
白血球増多と好塩基球増多症例をReview

(Am J Hematol. 2020;95:E216–E254.)

・すでにCMLの診断がされている症例は除外.


 白血球増多は≥9700/µL, 好塩基球増多は≥90/µLで定義

・患者は382例. 白血球数 16100[範囲9700-746500], 好塩基球は200[範囲90-54500]

・骨髄悪性腫瘍は191例で, 最も多いものはCMLで104例. 
 

 他にET, PV, PMFが多くを占める.

・反応性が191例. 腫瘍に随伴するものが20例(ALL, CLL, 固形腫瘍など),
 

 他に喫煙, ステロイド, 感染症, 自己免疫など
 

 特発性が121例と, 原因不明が多くを占める.


・骨髄系腫瘍症例は, それ以外の症例と比較して有意に好塩基球数が高い; 
4100 vs 140/µL, p<0.01

・好塩基球数≥480/µLであった症例では全例骨髄系腫瘍であった.

 
≥400/µLは感度67.5%[60.4-74.1], 特異度99.0%[96.3-99.9]


好塩基球増多の診療フローチャート

(Int J Lab Hematol. 2020;42:237–245.)

・まずスメアやフローサイトで
検査関連の偽性Basophiliaを除外.

・次に反応性(アレルギー関連), 腫瘍性の可能性を評価.


 慢性的に増加, Basophil単独上昇,
>1000/µLとなる場合や, 腫瘍を疑う兆候があればCMLを評価(BCR-ABL)


 そして他のMPNを評価(JAK2や骨髄所見)

(Leukemia. 2017 April 01; 31(4): 788–797.)



反応性の上昇

(Leukemia. 2017 April 01; 31(4): 788–797.)

・アレルギー性疾患では軽度の好塩基球の上昇が認められることがある.

・通常 1000/µLを超えるような高度上昇は認めないが,
 一部の患者において, T細胞関連サイトカイン(IL-3など)が増加する場合,
 高度上昇が認められる. 


 この場合は好酸球増多を伴うことが多い

・反応性ではアレルギー反応が改善すれば血球も一過性で改善する


CMLとBasophilia

・BasophiliaはCMLで最も多い末梢血異常所見.

・CMLの初期にBasophiliaが単独で, 長期間認められた報告もある.


 症例報告では, 27ヶ月にわたってBasophilia単独で経過した80歳男性の報告がある(Intern Med 50: 501-502, 2011)

・慢性期では, Basophilia以外にPLT上昇, 白血球上昇, 好酸球増多など他の異常を伴うことも多いが, 貧血は稀.

・Basophiliaの程度は様々であるが, >1000/µLとなる場合は強くCMLを疑う

・また, CMLにおいて末梢血Basophilが多いほど,  病勢が強い/予後不良となることが指摘されており, >20%はCMLのaccelerated phaseの定義の一つとなっている


Basophilic leukemia

(Leukemia. 2017 April 01; 31(4): 788–797.)

・Basophilic leukemiaは非常に稀な病態であり,
 通常BCR-ABL1+ CMLなどのMPNを背景として発症する.

・末梢血好塩基球が≥40%に上昇し, 
且つ好塩基球の形態が未熟, クローン性に増殖されていることが診断に必要.


 また, 骨髄系の腫瘍を背景とする場合は続発性好塩基性白血病とされる.

 例えば, ALLに罹患しており, 末梢血好塩基球が50%でも,
 好塩基球がクローン性ではないならばALL-baso(好塩基球増多を伴うALL)となる

 CMLのリンパ芽球期で, 好塩基球が50%となった場合は続発性好塩基性白血病を伴うリンパ芽球期CMLとされる.


また, Basophilic leukemiaは急性/慢性, 原発性/続発性に分類.

・芽球≥20%が急性, <20%が慢性

・背景に骨髄系腫瘍が
あれば続発性, 
なければ原発性


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というわけで, ある疾患 = CMLかなぁ、と。

生物学的製剤使用中患者における簡便な感染症リスク評価: DANBIO risk score

 RA患者における重大な感染症リスクを評価する方法としてはRABBIT scoreが有名

関節リウマチ患者における重大な感染症のリスク: RABBIT score

ただ, 計算にはホームページを介して行うなど, やや煩雑ではある.

そこで, デンマークのCohortを用いて, 生物学的製剤を使用中の患者における, 重大な感染症リスクを評価するRisk scoreが発表された.

(Rheumatology 2021;60:3834–3844)

DANBIO risk score

デンマークのNation wide registry(DANBIO)より, 
炎症性関節疾患でbDMARDを使用している患者群の
重大な感染症合併リスクを評価, リスクスコアを作成

・DANBIOにおいて, RA, axSpA, PsAでBio未使用の患者で,
 新たにBioを開始した患者群を評価
(TNF阻害薬, IL-1, IL-6, IL-17阻害薬, RTX)

・上記患者群を年齢, 性別, 地域を合わせた非RA, axSpA, PsA群と比較し, 感染症リスク因子を評価した


12ヶ月間の重大な感染症リスクは
RA患者でおよそ4倍. AxSpAやPsAでは3倍前後

・また, 高齢ほどリスクは上昇する
(Control群でも高齢者はリスクとなる)


生物学的製剤を使用中の患者における重大な感染症リスク因子

・5年以内の入院が必要な感染症既往, 


 肺疾患, 糖尿病, IBD, MI, 

 
1年以内のGC使用, 
年齢がリスクとなる

・年齢とリスク因子数による
感染症合併率.


・AUCはDANBIOとRABBIT scoreでほぼ同等: AUC 0.67, 0.68


Model 3がDANBIO risk score


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感染症のリスク因子となる項目は,
RABBIT scoreのValidationにおいても, 
・罹患期間, 
・重大な感染症の既往, 
・PSL ≥10mg/dの使用

・糖尿病, 
・慢性肺疾患
 とDANBIOの項目とほぼ類似しており, これらの項目はBioにおいては要注意と言える.

2021年8月16日月曜日

心内膜炎に対するPET/CTの有用性を前向きに評価したStudy

(Clinical Infectious Diseases® 2021;73(3):393–403)

TEPvENDO: フランスの8箇所の施設において,
 2015-2016年に診療したIEを強く疑う患者群を対象とした前向きStudy.

・各施設には循環器内科, 心臓外科, 感染症科, 細菌学を含むIEチームを有する.

・IEを疑われ, 導入された後7日以内にPET/CTを撮影.

 IEはPV(人工弁), NV(自己弁)を問わない

・IEの判断は3回行われ,


 ① PET/CT評価前: modified Duke基準


 ② PET/CT評価後: m-ESC2015 IE基準(弁膜の取り込みがあればMajor Duke基準を満たし, 塞栓や動脈瘤があればMinor Duke基準を満たしたと判断する. )


 ③ 6ヶ月後に最終的にIEであったかどうかを判定: Final classification

・PET/CTのIE診断, 治療方針決定への寄与を評価した.


診断の推移: PV患者70例, NV患者70例

診断タイミング

Definite

Possible

Excluded

① PET/CT前

PV 34例
NV 46例

PV 33例
NV 23例

PV 3例
NV 1例

② PET/CT後

PV 46例
NV 49例

PV 22例
NV 19例

PV 2例
NV 2例

③ 最終(6M後)

PV 47例
NV 48例

PV 17例
NV 9例

PV 6例
NV 13例

・PET/CTは導入から2[1-3.25]日後に施行された.


 抗菌薬投与開始後からは7[4-10]日後


PET前の評価


PET後の評価



弁周囲, 弁膜への集積はPV患者で47例(67.2%), NV患者で17(24.3%)

・エコー所見との関連:


エコーで疣贅

PETで弁周囲集積

PV

28例

18例(64.2%)

NV

43例

13例(30.2%)

・エコーが判断に寄与しなかったPV 29例, NV 24例では, 

 
PETがIE診断に寄与したのが22/29, 4/24であった.


心臓外の集積所見は69例(49.3%)で認められた.
中枢病変は12例(脳膿瘍, 脳虚血など)

・経門脈からの感染がPET/CTで判明したのが33例であり,

 
PET/CT評価前にわかっていない症例がPV 8, NVで4例であった


PET/CTのIE診断に対する影響

・PET/CTは43例(30.7%[23-39])の患者に, 少なくとも1つ以上のDuke基準を追加した.


 Majorが23例(PV 20, NV 3), Minorが21例(PV 7, NV 14)

・この追加により21例(15%)でDuke-Li分類の変更が行われた
(PV患者で17[24.3%], NV患者で4[5.7%])
 

 Up grade: 18例(PV 15, NV 3)
 Down grade: 3例(PV 2, NV 1)

・6ヶ月後の最終診断との比較では,
 

 Up gradeの16/18が適切(PV 13/15, NV 3/3)
 

 Down gradeの1/3が適切(PV)と判断.


治療方針に対する影響

・37/140(26.4%[19.1-35.5])でPET/CT後に治療が変更


 PVで15例, NVで22例

・抗菌薬の変更が22例(投与期間, 種類)


 外科治療の変更が7例(中止〜進行)

・歯槽周囲の取り込みや心臓外の取り込みが変更に起因


・PET/CTでBenefitを受けたのは40%[32-48]であり,


 初期のエコーが診断に寄与せず,


 臨床的にIEの可能性が高いと判断された患者ほど
Benefitを受けやすい結果

・PVかNVかは関係なし


ワクチンによる血栓性血小板減少症(VITT)の対応

VITT: vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia

COVID-19のワクチンである, ChAdOx1 nCoV-19(AstraZeneca製, Vaxzveria®)投与後に血栓傾向を伴う血小板減少症を発症する例が報告され, VITTやVIPITと呼ばれている(vaccine-induced prothrombotic immune thrombocytopenia)

・頻度は1/25万程度とされ, 若年(20-29歳)では1.1/10万とやや上昇

・German Society of Thrombosis and Hematostasis(GTH)の知見では, 220万のAstraZenecaワクチンを接種し, 31例で脳静脈洞や脳静脈の血栓症, 四肢動脈血栓症, DVTなどが報告されている

・血栓症はワクチン接種後6-16日で生じ, 


 同時期に血小板減少を伴う例が19例, 死亡例が9例.


 女性が29例, 20-63歳, 男性が2例, 36, 57歳

(Sci Prog. Apr-Jun 2021;104(2):368504211025927. doi: 10.1177/00368504211025927.)


VITT症例報告のReview

(Int J Lab Hematol 2021 Jun 17. doi: 10.1111/ijlh.13629.)

・報告例は主にAZとJJワクチン.

・女性が男性の3倍.

・年齢は18-77歳

・ワクチン接種後〜発症までは3-25日

・死亡率は39.2%

・血小板は5000〜12.7万,
 D-dimer値は1.1-142mg/L
, Fibrinogen 0.3-5.7g/L

HIT(ヘパリン誘発性血小板減少症)で認められるPF4抗体は高率で陽性となるが,

 陽性となるのは
ELISAでの検査のみで, LIAやCLIA, STiCでは陰性となる.
 

 HITで産生される抗体と, 異なっている可能性がある

LIA: ラインブロット法, CLIA: 化学発光免疫測定法

・国内で可能なHIT抗体の評価は
CLIAとラテックス凝集法であり,
ELISAは基本困難
(検査キットの購入が必要)


VITT診断基準 案

(Sci Prog. Apr-Jun 2021;104(2):368504211025927. doi: 10.1177/00368504211025927.)


診療アルゴリズム

(Rev Med Virol. 2021 Jul 1;e2273. doi: 10.1002/rmv.2273.)

注意点

・DVTはSubclinicalに進行している症例がある
 

 >> ワクチン接種後30日を超えて, 発見される症例もあり

・PF4抗体はELISAで評価する

・~5%は初診時PLTが正常範囲で, その後数日で急速に進行する


UKにおけるVITT症例を前向きに評価した報告
Definite 170, Probable 50例を解析

(N Engl J Med. 2021 Aug 11. doi: 10.1056/NEJMoa2109908.)

・診断基準


母集団データ


・頻度は
≥50歳で1/10万
<50歳で1/5万

・年齢は48歳[38-56]

・全患者が初回ワクチン接種後.

・接種〜発症までは14[10-16]日

・血小板は4.7万[2.8-7.6]

・PTやAPTTは正常範囲が多い

血栓症の部位: 最も多いのは脳静脈
複数箇所あり


・170/220が生存, 49例が死亡, 1例が不明

・IVIGは72%で投与された. 初日に1g/kg. 

・死亡リスク因子は,

 脳静脈洞血栓症 OR 2.7[1.4-5.2]

 基礎値からのPLT減少. 50%毎にOR 1.7[1.3-2.3]

 D-dimer 10000FEU上昇毎にOR 1.2[1.0-1.3]

 Fibrinogen減少. 50%毎にOR 1.7[1.1-2.5]



VITTの治療

・VITTではHIT同様, 抗凝固療法に加えて, IVIGを使用する.

・症例報告レベルではあるが, IVIGにより速やかなPLTの改善, 
D-dimerの低下, Fibrinogenの上昇が得られる
 >> 過凝固状態の改善が推測される

・血小板が速やかに上昇することで, 抗凝固療法も行いやすくなる利点も考えられる.

・IVIG前後にPF4抗体を評価した報告では,
抗体量は前後で変化なく, 中和しているわけではない.

・VITTに対するIVIGの投与量は, 1g/kgを2日間を進めているものが多い.

(10.1056/NEJMoa2107051)


ExpertによるVITTの治療指針では,

・治療の第一選択はIVIG: 1g/kgを2日間(合計2g/kg)

・ステロイドの効果は不明

・抗凝固療法: ヘパリン以外を用いる. DOAC, fondaparinux, danaparoid, アルガトロバン

・血漿交換: 難治性の重症例で考慮してもよい
 著明な血栓症, PLT<3万がある場合, PF4抗体価が高いことが予測され, IVIGでは不十分な可能性がある.
 血漿交換は毎日, 最大5日間行うことを考慮

・脳静脈洞血栓症を合併した患者は予後不良であり,
 

 IVIGよりも血漿交換を考慮.
 

 High-doseステロイドを考慮
 

 神経ICUがある施設での管理を考慮
 

 より抗凝固療法の強度を高めるために血小板輸血を考慮
 

 外科手術が必要な場合, PLT >10万, Fibrinogen >1.5g/Lを維持

・血小板輸血による不利益については不明.


 PLT<5万で処置が不要な二次性脳出血を起こした場合のリスク/ベネフィットは不明.

・ヘパリン投与によりVITTが増悪するかどうかは不明であり, 判明するまでは避けた方が無難

・Fibrinogenは>1.5g/Lを維持するように管理. Cryoprecipitateの投与で調節する

・明らかな血栓症がない血小板減少で, D-dimerが著明に上昇している場合, VITTに応じた血栓予防は考慮すべき

・IVIGでも血漿交換でも難治性の場合はRTXも考慮

(Guidance from the Expert Haematology Panel (EHP) on
Covid-19 Vaccine-induced Immune Thrombocytopenia and Thrombosis (VITT) 28, May, 2021 Update)

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VITTは緊急を要する病態であり, 今の時期に血小板減少やDVT, 血栓症を呈した患者では必ずワクチン歴を評価し, VITTを念頭に診療する必要がある.

疑えばIVIGを急ぐ.

HIT自体にもIVIGは即効性が期待できる報告があり, VITTでもIVIGを中心とした治療となる

(CHEST 2017; 152(3):478-485)


問題は, PF4抗体がELISA法でのみ陽性となる点.

国内のコマーシャルベースではCLIAとラテックス凝集法のみであり, ELISAはできない.

臨床的に疑えば動くしかない.

今だけ迅速に結果がえられるELISA、できないだろうか?