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2021年1月28日木曜日

新型コロナウイルス, PCR陰性化までの期間と培養陰性化までの期間は?

 NEJMのCorrespondenceより. 短いですが有用な情報と思い紹介します

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2027040?query=featured_home

ソウルにおいて, COVID-19感染症で入院した患者21例を対象としRT-PCR検査と培養検査をフォロー.

・検査は24h空けて2回のPCR検査が陰性化するまで継続した.


その結果, 

症状出現日を発症日としたとき,

 培養陰性化までの期間は7日間[5-10]

 PCR陰性化までの期間は34日間[24-]

培養陰性化が最も長かった症例は発症から12日目

 また, 解熱後3日目まで増殖可能なウイルスが検出された症例もあった



非医療者, 非理系の人向けにいうと

一般的に, PCRは死んでいる菌やウイルスからも検出されます.
一方で培養は生きている菌やウイルスのみしか陽性となりません(培養されません).
PCR陽性が持続 = ずっと感染している, 治っていない とはなりませんので注意ください.

2021年1月19日火曜日

神経因性食思不振症による肝障害

神経因性食思不振症(AN)で低栄養が強い患者.

低血糖で搬送されたが, AST, ALT共に4桁台の肝障害を合併

(AST 3000台, ALT 1500, LDH 900)

薬剤や感染症, 胆道系疾患などの可能性は低そうであるが, ANを原因としていいのだろうか?


Anorexia nervosaでは, 低栄養性の肝炎が生じる.

Malnutrition-induced hepatitis(MIH)と呼ばれる

(Dig Dis Sci. 2017 Nov;62(11):2977-2981.)

・凝固障害や脳症を呈するほどの急性肝不全となる例は少ない.

また, ANでは, 栄養補充に伴い, 脂肪肝が生じ, それによる肝酵素上昇も認めるが, それは分けられる. 頻度はMIHの方が多い.

・AN患者の50%で肝酵素上昇が認められる. BMIが低下するほどリスクも上昇.

・AST, ALTは通常 3桁程度の中等度上昇が多い.

脂肪肝のように, ASTに比べて, ALTが比較的有意に上昇する

MIH合併のANでは, 糖新生の低下も加わり, 低血糖リスクが上昇


飢餓状態ではAutophagyが生じ, その結果肝細胞障害や細胞死が生じる. これがMIHの機序と推測されている

ANによる重症肝障害(平均肝酵素>1900 IU/L)における肝生検の結果は

・肝細胞のアポトーシスやネクローシスの所見は少なく1/3の患者で多くのautophagosome(自己貪食空胞)の所見が認められた

・栄養補充を行うと速やかに肝障害は改善を認める


AN 181例において, 肝障害の頻度を評価した報告

(Int J Eat Disord 2016; 49:151–158)

・BMI12.8±1.8

肝障害の頻度

・半数以上で肝酵素上昇が認められる.

・ALT上昇が目立つパターンが多く, 多くは2桁~3桁前半.

・INRの亢進は26%

・重度の上昇群ではよりBMIは低く, 栄養状態も悪い

入院中も, Refeedingによる低P血症や低血糖を呈するリスクが高いため, 注意が必要.


症例のように4桁となる例も報告はされている;

4桁上昇を認めた症例のReview (European Journal of Gastroenterology & Hepatology 2014, 26:473–477)

・AST, ALT1000を超える症例報告も少ないがある.

組織の低循環状態が合併していると考えられており速やかに補液と栄養補充により改善を認める例が多い.(Shock liver, 低酸素性肝炎のような病態)

・酵素上昇もALT有意ではなく, ASTが有意に上昇するパターンとなる


1例の詳細なデータ


・Shock liver, 低酸素性肝炎と違うのはLDHの上昇がASTやALTを超えない点.
 どちらかというとウイルス性肝炎や薬剤性に近いパターン.


COVID-19の後遺症を評価したコホート

 今は感染拡大を抑制すること, 患者の急性期治療が重要ですが,

これからは後遺症の問題もでてくる時期でしょう.

(Lancet 2021; 397: 220–32)

中国武漢におけるCohort study.

・COVIT-19で入院管理となり, 退院した患者を半年間フォロー

 倦怠感や脱力感, 身体機能, 呼吸機能, 画像所見など評価した報告.

・精神疾患や認知症で聴取が困難な患者, 再入院, 骨関節疾患で自由に行動ができない患者, 入退院前後に寝たきりになっている患者(脳梗塞やPEなどで), 死亡患者, コンタクトがとれない患者は除外.

母集団のデータ

・酸素投与不要 25%, 酸素投与必要 68%, 人工呼吸器必要 7%

背景にCOPDがあるのは2%のみ

・また, 9割が非喫煙者

>> つまり, 特に呼吸器疾患はない患者群で, 退院時にADL自立していた群のフォローという感じ

フォローアップ期間は186


アウトカム


・半年後に倦怠感や脱力は6割で認められ睡眠障害が26%, 嗅覚障害が11%, 関節痛, 食欲低下, 味覚障害が10%弱で認められる.

・呼吸器管理が必要な症例ほど, 倦怠感, 脱力は多いが, 酸素投与が不要な症例でもそれらは6割で認められる.

・6分間歩行距離も予測から9割弱に低下.


呼吸機能検査とCT検査


・軽症でも重症でも, FEV1の低下, TLCの低下が認められる.

特に重症ではTLCFRC, RV, DLCOの低下リスクが高い.

・CT所見もGGOは高頻度で残存. 線維化所見も残存する

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背景に呼吸器疾患や喫煙がない患者群で, 退院時にADLが自立していても, 

高頻度に倦怠感や筋力低下は持続し, 一部では肺の線維化, GGO, 呼吸機能障害が残存する.

酸素投与が必要ない患者でも症状は認められる

今後数年はそのような患者が内科外来を受診することが増加するのだろうか.

2021年1月14日木曜日

COVID-19肺炎に対するTCZの報告

 2021年1月のJAMA Intern Medより, COVID-19肺炎に対するトリシツマブ(TCZ)を評価した3つの報告が発表されたので, 簡単にまとめです.

+ NEJMからの報告も追加です(2020/1/14)

RCT-TCZ-COVID-19: イタリアにおけるOpen-label RCT

(JAMA Intern Med. 2021;181(1):24-31. doi:10.1001/jamainternmed.2020.6615)

・PCRで診断された成人例のCOVID-19, 肺炎像を認めP/F 200-300, 且つ発熱(≥38)CPR上昇(≥10mg/dL)を伴う症例を対象

TCZ投与群 vs 通常の治療群に割り付け, 14日以内の挿管管理, 死亡, 呼吸状態の増悪(P/F <150, RR>30), 多臓器障害リスクを比較.

 気管挿管はP/F <150, RR>30, Respiratory distress, MOFで考慮

TCZは初回8mg/kg, Max 800mgを投与し, 12h後に再投与.

・Control群では通常の治療を行う. IL-1阻害薬やTNF阻害薬, JAK阻害薬の使用は禁止.

ステロイドは入院前に使用している場合は使用可. 入院後増悪した場合, ステロイドやTCZの使用は両群で許容.


アウトカム

・臨床的増悪, ICU入室, 死亡リスクは両者で有意差なし


CORIMUNO-TOCI-1: フランスにおけるopen-label RCT.

(JAMA Intern Med. 2021;181(1):32-40. doi:10.1001/jamainternmed.2020.6820 )

・COVID-19による中等度以上の肺炎症例を対象.

 診断はPCRまたは典型的な胸部CT画像で診断

 中等度以上の肺炎はO2投与量>3L/分且つWHO-CPS ≥5, NIVMV未使用患者を導入

TCZ(8mg/kgDay 1に投与. 必要に応じて400mgDay 3に追加vs 通常の治療群に割り付け, 比較.

 必要に応じてとは, 酸素投与量が半分以下にならない場合に考慮されるが, 最終敵には主治医の判断が優先される.

 通常の治療群はステロイド含む.

アウトカムはDay 4における死亡, NIVMVの使用

 Day 14におけるNIVの必要率を評価


アウトカム


・Day 14における死亡リスク, MV導入にリスクはTCZで低下する傾向があるが, 有意差はない


STOP-COVID: 米国におけるICU管理となったCOVID-19患者4485例のデータを解析.

(JAMA Intern Med. 2021;181(1):41-51. doi:10.1001/jamainternmed.2020.6252 )

・ICU入室から2日以内にTCZを使用した群と不使用群で分類し早期のTCZ投与と予後の関連を評価した.

・3924例を評価し, このうち433(11.0%)ICU入室早期にTCZを使用

TCZ使用群のほうがより若年, ICU入室時の低酸素が多くMV使用やP/F<200が多い.

両群をInverse probability weightingBaselineと重症度を合わせアウトカムを比較した.


アウトカム

推定30日死亡率はTCZ群で27.5%[21.2-33.8]

 Control群で37.1%[35.5-38.7]

 RD 9.6%[3.1-16.0] と有意で早期TCZは死亡率低下に関連


NEJMからの報告

COVID-19肺炎で入院した, 人工呼吸器使用のない患者群を対象としたRCT.

(N Engl J Med 2021;384:20-30.)

・患者は成人症例で, PCRまたは典型的な画像所見にて診断

・室内気でSpO2 <94%を満たす群で人工呼吸器やBIPAP, 陽圧換気をされている群は除外

 また, 24h以内に致命的となりそうな増悪がある患者や活動性TB, 活動性の細菌, 真菌, 他のウイルス感染症が疑われる場合も除外(コントロールされたHIVは除く)

・TCZ 8mg/kg投与群 vs 通常の治療群に割り付け, 比較

 TCZは初回投与後 8-24hあけて再投与可(2回まで)

母集団

アウトカム

・人工呼吸器使用+死亡の複合エンドポイントは有意にTCZ群で低下する結果.

死亡リスク単独では有意差なし

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P/F 200-300を対象としたRCTでは予後改善効果はなく

O2投与されている患者を対象としたRCTでは予後改善する可能性があるという結果.

 → これはNEJMからの報告も同じ

Cohortを用いたICU管理となった患者群の比較では死亡率はかなり低下する(NNTが10近い)


TCZはARDSにいかないまでの酸素投与が必要な患者で使用すると, その後の増悪リスクが防げる可能性がある.

ステロイドと同じ感じか

2021年1月13日水曜日

ベーチェット病の診断に大腿静脈壁厚の評価は有用

 BD患者では下肢静脈(CFV)壁肥厚が認められる報告がある.

これを受けて, BD 152, AS 27, 全身性血管炎 23(高安病23, GPA 5), 静脈不全 29, APS 43, 非炎症性機序のDVT 25, Control51例において, 総大腿静脈壁厚をエコーにて評価した.

(Rheumatology (Oxford). 2021 Jan 5;60(1):288-296.)

・エコーは疾患をBlindされた放射線科医により評価.

 8-12MHzLinear transducerを用いて評価

 前壁は反響アーチファクトで表面が不整となる可能性があるため後壁の厚を評価した. 評価部位は伏在静脈分岐部から2cm尾側で評価

 2回評価し, 平均値で比較した.

・BD症例では58.6%(89)で主要臓器障害あり: 血管が82, 眼が30, 神経が12, 消化管が5.

患者群のデータ

CFV厚の分布

・BDでは有意にCFV厚が厚い

CFV厚のCutoffと感度, 特異度

・Cutoff ≥0.5mmとするとBDの鑑別に有用.

・BD以外ではAPSは比較的CFV厚が肥厚する例が多く注意.

BDにおけるCFV厚の分布

BD患者でCFV<0.5mmなのは1割程度.

 ≥1.00mmとなるのも1割程度であるが, 特異性は高い.

2021年1月12日火曜日

市中肺炎における誤嚥, 誤嚥リスクの有無と起因菌

 (Chest. 2021 Jan;159(1):58-72.)

CAPで入院管理となった成人患者を対象としたCohortであるGLIMPの二次解析.

・ACAP(Aspiration CAP)症例 193

 CAP/AspRF+ (CAPで誤嚥リスク因子あり) 1709

 CAP/AspRF- (CAPで誤嚥リスク因子なし) 704 に分類し起因菌を比較.

・ACAPは主治医の判断で, 誤嚥があったと見なした際症例で定義

・重症CAPは入院後24h以内のICU管理, 人工呼吸器管理, カテコラミン使用で定義

AspRFは以下の要素で評価:

 神経疾患: 脳卒中, 認知症, 精神疾患

 慢性の介入: 経管栄養, 気管切開, 在宅酸素, PPI使用

 背景疾患/状態: 肝硬変, るいそう, 施設入所, 寝たきり, 集団生活

 患者因子: 高齢者, 男性

多くの患者が2つ以上のリスク因子を有する.


重症度, ACAP, AspRF別の起因菌の頻度

・重症のACAPのみ, Gram陰性菌の割合が高く, Gram陽性菌は少ない

ACAPでは嫌気性菌も認めるが, ほぼ重症例に限る.

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誤嚥性肺炎では, 嫌気性菌の頻度はそんなに高くはなく, 必ずしも嫌気カバーは必須ではないということ.

重症例ではカバーしておいたほうがよいかもしれない.

2021年1月11日月曜日

COPD急性増悪の背景に肺血栓塞栓症

 COPD急性増悪の背景には肺血栓塞栓症が隠れている可能性がある

参考; 原因がよくわからないCOPDの急性増悪は肺血栓塞栓症かも

そこに, あたらしく実臨床に即したCohortが発表された.

(JAMA. 2021;325(1):59-68. doi:10.1001/jama.2020.23567)

フランスの7施設における前向きCohort.

・2014-2017年にCOPD急性増悪で入院加療となった成人患者においてPE合併を評価した報告.

・除外項目: 造影禁忌, CCr <30mL/min/1.73m2, 妊婦, 48h以内の入院歴, VTE以外の目的のために抗凝固療法を行なっている患者, 気胸, 重度のCOPD増悪で画像検査が困難な患者.

・PE合併は, Genevaスコア, D-dimerでスクリーニング.

 rGeneva≥11ならば造影CTと下肢静脈圧迫エコーへ

 rGeneva<11ならばD-dimerを評価し, <500ng/mLならば除外.

  ≥500ng/mLでは造影CTと下肢静脈エコーを施行

・全患者は3ヶ月間フォローされ, 症状出現時はVTEの再評価が行われた


対象患者は740

COPD急性増悪患者の5.9%に肺血栓塞栓症を認めた.

・DVTを含めると7.3%

救急受診時の医師の判断としてPEの可能性が高いと判断された群では10%, 疑わないと判断された症例でも3.2%PEあり.

・他の診断が考えやすいと判断された症例でも3.9%PEであった.

Genevaスコア、D-dimerで陰性であった212例も, 3ヶ月のフォローにおいて2例のPEが診断(1%)


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・COPD急性増悪の背景にはPEが隠れているかもしれない.

・臨床医の印象として否定的と考えても, 3%. 疑いが強い例では10%で背景にPEがある.

 他の診断が強く疑われていても, 頭の片隅には置いておき, その目で評価することが大事.

 入院後の管理中も注意ですね