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2020年1月27日月曜日

中年女性: 繰り返す嘔吐

中年の女性. 寝ているところ急に悪心嘔吐が出現.
頻回に嘔吐し, 来院時には胃液をえづくように吐き出している.
疲弊が強く, ぐったり.

バイタル異常なし.
血液検査も特に異常はない.

1年前に同様のエピソードで救急搬送されており, その際 腹部CT, 上部内視鏡など様々検査されるも異常は認めなかった, という病歴がある.

若干落ち着いた状況である疾患を疑い, 詳しく話を聞くと, 以下の情報が得られた.

・年数回 心窩部のむかつき, 嘔吐がある. 大体数時間で改善する.
・症状は5-6年前から出現している.
・1年前はひどく, 入院した. 3日後にはスッキリして帰った. その後の検査では問題なし.
 今回も同様.
・普段は症状なし. 元気. 食事摂取もできている. 体重変化もない
・症状は大体寝ているときに生じる.
・頭痛を伴うことも多い.
・依然片頭痛と診断されたことがある.

今回のエピソードは入院3日目には改善し, 同日帰宅となった.

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成人発症の周期性嘔吐症


Episodicに腹部症状(腹痛や嘔吐)を繰り返す患者では,  急性間欠性ポルフィリン症や家族性地中海熱などが思い浮かぶかもしれないが,
検査でも異常を認めず, 特発性の病態としてAbdominal migraine(AM), Cyclic Vomiting Syndrome(CVS)を押さえておきたい.

周期性嘔吐症: Cyclic Vomiting Syndrome
(Current Gastroenterology Reports (2018) 20:46)(Curr Neurol Neurosci Rep (2017) 17:21)
・繰り返す強い嘔気嘔吐で, 発作間欠期には無症状また検査にて他の疾患が除外される場合に考慮する.
小児で多い疾患と考えられてきたが, 成人発症も認められる
 成人におけるCVSの頻度はUSA2%, UK1%, カナダで0.7%
平均発症年齢は小児で5(女性が86%), 成人で37(女性57%). 
・CVSの原因は不明. 遺伝的要因(ミトコンドリアDNA変異やCannnabinoid受容体, μ-opioid受容体遺伝子の異常など.), 自律神経障害などが推測されているが, CVSと片頭痛にも多くの共通点が指摘されている.
 > CVS患者の27-85%に片頭痛の家族歴がある
  周期性の症状, 片頭痛に対する薬剤が効果的
  悪心嘔吐, 光過敏, 聴覚過敏を伴う
 睡眠やストレスがトリガーとなる点など
 >> CVSと片頭痛は同様の病態生理が関係している可能性が示唆されている

臨床経過, 症状
・発作は悪心, 蒼白から始まり, その後繰り返す嘔吐が出現する.
 嘔吐は強く, 絶え間ない
発作の75%が深夜~早朝にかけて生じる.
(Exp Brain Res. 2014 Aug;232(8):2541-7.)
病期は4つに分類される
 prodromal phase: 悪心, 発汗, イライラ, 腹痛, 倦怠感, 不眠, 発熱などが生じる. 数分~数時間持続
 Emetic phase: 繰り返す嘔吐, 紅潮, 発汗, 下痢, ふらつき, 微熱, 低体温
 Recovery phase: 改善する時期. 早く, 患者はすぐに改善. 食事も可能に
 Inter-episodic, asymptomatic phase: 発作間欠期. 無症状
・腹痛は小児例で67-80%, 成人例で58-71%で伴う
 発作頻度は1-36ヶ月に1(平均8.2±7.6/), 
 持続時間は2-3日間(範囲2-45日間)

(Gastroenterol Nurs. 2015 Nov-Dec;38(6):469-76.)

CVSのトリガー
・トリガーは76%で認められる
・陰性感情だけではなく, 結婚式や誕生日, 休暇などのイベントも誘発されることがある.
女性では月経が最も多いトリガー
・他は夜更かしや感染症, 食事内容(グルタミン酸Na[旨味], 食品着色料, 変動するカフェイン摂取量), 長期間の空腹が誘引となりえる

CVSの嘔吐
・CVSの嘔吐は矢継ぎ早に繰り返し, 強制的な嘔吐となる.
 胆汁や血液を嘔吐することもある
 1時間あたり6回程度ピークを迎える
・嘔吐は胃内容物が空でも生じ, 非常に辛い症状となる.
 唯一解放されるのが睡眠時
・症状がつらいため, 患者は疲弊し, コミュニケーションや移動が困難となることも多い.
・Recovery phaseは基本的に早く, すぐに改善し, 食事摂取が可能に
 ただし成人例では数日かかる例もある

CVSの診断基準: Rome IV基準, NASPGHANがある
(Current Gastroenterology Reports (2018) 20:46)

AMCVS診断における重要な鑑別疾患
(Curr Neurol Neurosci Rep (2017) 17:21)
・繰り返す腹痛
 消化管疾患(膵炎, 小腸閉塞, 偽閉塞)
 腎疾患(腎後性腎不全, UTI)
 神経疾患(頭蓋内圧亢進, 血腫, familial dysautonomia, 静脈洞血栓)
 内分泌(糖尿病, 副腎不全)
 代謝性(methylmalonic acidemia, 急性間欠性ポルフィリア, ornithine transcarbamylase欠乏)

繰り返す嘔吐
 消化管疾患(消化性潰瘍, celiac, 胆嚢炎, GERD, 腸閉塞, IBD)
 交感神経てんかん(Panayiotopoulos syndrome, Gastaut-type epilepsy)
 Cannabinoid-hyperemesis syndrome(カンナビス中毒)
 先天性代謝疾患(fatty acid oxidation defects, urea cycle disorders, organic acidopathies)
 ミトコンドリア疾患
 頭蓋内病変

CVSの対応フローチャート
(Medicine 2019;98:51(e18365).)

薬剤一覧

発作中断目的の薬剤

予防薬剤
(Current Gastroenterology Reports (2018) 20:46)

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繰り返す発作的な嘔吐ではCyclic vomitting syndromeを考慮.
小児で多いと言われていたが, 近年成人例の報告も増加. おそらく見落とされていた可能性が高い.
患者は発作時は疲弊し, 病歴聴取もままならず, 数日で改善する経過のため, 精神的要因とされていることも多そうな印象がある.

同様の腹部症状でAbdominal migraineがあるが, これは腹痛が前面に立つ.
両者の診断基準を参考までに載せる
(Curr Neurol Neurosci Rep (2017) 17:21)

Abdominal migraineについてはまた別に書きます.