どうしても抜去困難な場合は, 限定された症例においてのみ抗菌薬ロック療法が試される
抗菌薬ロック療法 = Antibiotics Lock Therapy : ALTと呼ばれる
(Lancet Infect Dis 2016; 16: e241–50)
ALTを考慮する患者は以下:
・ALTはカテーテル抜去が困難で, 状態が安定し, さらに毒性が低い細菌で考慮する(CNSなど)
また, 状態が安定しており, 他部位に感染巣がなければ腸球菌やCorynebacterium, Gram negativeでも考慮.
・敗血症性塞栓や局所の感染兆候合併(IEや血栓性静脈炎, 敗血症性塞栓, 化膿性脊椎炎)がある患者では避けるべき
・黄色ブドウ球菌におけるALTの成功率は低く, 避けた方が無難.
・ALTは抗菌薬の全身投与と合わせて行う.
(Enferm Infecc Microbiol Clin. 2018;36(2):112–119)
ALTの方法
・無菌調剤した薬液を, カテーテル内に満たすだけ投与し, そのままロックする.
・薬液は1日に12h以上ロックした状態で, 24-72時間毎に繰り返す.
繰り返す際はカテーテル内の薬液を除去したのちに新しい薬液を注入
・ALTは10-14日間継続する
薬剤と想定する起因菌, それに対する浸透性, 浸透速度
(Infection and Drug Resistance 2014:7 343–363)
・細菌はカテーテル内腔にBiofilmを形成しており, そこに作用する必要がある.
そのため, 薬剤の浸透率や浸透速度を踏まえてALTを行う必要がある.
・MRCNSではVCMが使用されることが多いが, 浸透速度は遅いため, 長時間のロックを検討した方が良い. また浸透率や速度を考慮するとDaptomycinは良い選択肢となり得る.
使用される薬剤の濃度
(Infection and Drug Resistance 2014:7 343–363)
・報告より, ALTに使用される薬液は以下の通り:
ペニシリンG: 50000U/mL
アンピシリン: 2-10mg/mL
ピペラシリン: 10-100mg/mL
ピペラシリン/タゾバクタム: 10mg/mL
セファゾリン: 5-10mg/mL
セフタジジム: 0.5-10mg/mL, 一部では83-333mg/mLの報告もあり
セフトリアキソン: 83.3-166.6mg/mL
シプロフロキサシン: 0.1-10mg/mL
レボフロキサシン: 0.05-5mg/mL
アミカシン: 0.02-40mg/mL
ゲンタマイシン: 0.1-5mg/mL
バンコマイシン: 0.025-10mg/mL
テイコプラニン: 0.02-10mg/mL
リネゾリド: 0.2-2mg/mL
ダプトマイシン: 1-25mg/mL
・さらにヘパリンを混ぜてロックとすることも多い
ALTの効果を評価したRCTはほぼ無い〜小規模RCTがわずかのみ.
1997-2003年にカテーテル関連感染症でALTを施行された患者群を後ろ向きに解析, また, 2003-2006年の症例を前向きにフォローした.
(Journal of Antimicrobial Chemotherapy (2006) 57, 1172–1180)
・ポケット感染や挿入部感染症, 心内膜炎や骨髄炎, 血栓性静脈炎合併例, カンジダ血症, 血行動態不安定の患者は除外.
・また前向きフォローではS aureusによる感染症を除外した
・ALT+抗菌薬全身投与で治療した症例で, カテーテル抜去症例も除外
アウトカム:
・原因菌はCNSが70%
・抗菌薬の全身投与期間は12日間[8-14]
ALTも12日間[8-14]
・治療成功例は94/115(81.7%)
治療失敗例
・S aureus 21例中, 9例で治療失敗している.
CNSによるCRBSIでDPTのALT, 全身投与にて治療された21例の後ろ向き解析
(J Chemother. 2017 Aug;29(4):232-237.)
・DPT ALTの中央期間は3日間, 全身投与は3日間
・他RFP, FQなどを用い, 合計14日間の治療期間であった.
・この治療により, カテーテルを30日以上温存, 且つ感染症が治癒した症例が74%と良好.
・DPT ALTでは短くても良いかもしれない.
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CV感染やポート感染において, どうしても抜去,入れかえが困難な状況では,
ポケット感染や刺入部感染, IE, 遠隔播種を否定した上で抗菌薬ロック療法を検討してもよいかもしれない.
ブドウ球菌では失敗率が高いため注意すべき
抗菌薬は浸透率や速度考慮し, 12時間/日 以上はロックを継続する.
薬液の濃度は様々. 決まっていない.
全身抗菌薬投与は当然必要.