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2019年6月28日金曜日

慢性経過の脱力、手指の震え

70歳代男性, 肺炎で入院中だが, 朝の回診で手指の振戦と顔面の振戦に気づいた.

振戦は上肢の静止時振戦で, やや粗大.
顔面は下顎〜舌の振戦が強く, また舌の筋線維束性攣縮, 舌萎縮を認めた.

他には手のSplit hand(短母指外転筋(APB)と第1背側骨間筋(FDI)が強く痩せているのに,小指外転筋(ADM)が保たれている状態)、上腕、前腕、大腿、下腿の筋萎縮が目立ち, 病歴を確認すると3年前より階段の上り下りが困難となったということ判明.

深部腱反射は両下肢で消失.

ということから, ALSかと思われたが,
他の腱反射亢進や痙性歩行, 病的反射などの上位ニューロン症状は認められず.

さらに, 女性化乳房を認め, 背景に軽度の糖尿病も認められた.

さて, この疾患は?
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SBMA: 球脊髄性筋萎縮症. 別名Kennedy-Alter-Sun
・Androgen受容体遺伝子のCAG-repeatが誘因となる成人発症の運動ニューロン疾患
・男性のみ発症する
・アンドロゲン不全症(女性化乳房)や耐糖能障害, 脂質異常症を合併する下位運動ニューロン障害を生じる.
顔面, , 四肢近位部有意の筋萎縮, 筋力低下, 筋線維束性攣縮, 腱反射低下, 手指の振戦など認められ, 上位運動ニューロン障害は伴わない.

日本人のSBMA 223例の報告
(Brain (2006), 129, 1446–1455)
・筋症状は下肢から生じる例が多い
 上肢からも3割程度で認める
・血液検査ではCPK上昇HbA1cの上昇, T-Chol上昇

症状の出現するタイミング
・最も早期から出現するのは手指の振戦.
 その後脱力症状や構音障害, 嚥下障害など出現する経過となる.


CAG repeatsの数により, 発症年齢・経過も異なる.
Repeatが少ない場合は高齢発症となりやすい.


CPKAST, ALTは高齢になるに従い低下, 正常化.
若年では高値となりやすい.

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さて, この症例を経験して, 運動ニューロン疾患について大雑把に調べてみた.

運動ニューロン疾患は,皮質脊髄路,前角細胞,延髄運動核が単独, 複合的に進行性に障害される病態.
・下位運動ニューロンは脊髄前角〜運動神経
・上位運動ニューロンは皮質脊髄路〜脊髄
(Continuum (Minneap Minn) 2014;20(5):1185–1207)


(Continuum (Minneap Minn) 2014;20(5):1185–1207)

運動ニューロン疾患のスペクトラム
・先天性/後天性, 上位ニューロン/下位ニューロン/混合性 で分類される.
・最も多いタイプがALSであり, 上位・下位ニューロン双方が障害される. ALSは孤発性, 家族性双方ある.
・この症例であるSBMA(spinobulbar muscular atrophy)は先天性, 下位ニューロンの障害が主.
(Continuum (Minneap Minn) 2017;23(5):1332–1359.)

運動ニューロン疾患の鑑別
(Rev Neurol (Paris). 2017 May;173(5):320-325.)
筋萎縮や腱反射低下, 筋維束性攣縮, こむら返りなどが認められ感覚障害が乏しい患者で考慮する.
・まずは経過から鑑別する:
 急性(<4wk): GBSやAMAN, 感染症に起因するもの
 亜急性(4-8wk): Porphyria, 傍腫瘍性
・慢性, 進行性の経過では, 上位・下位ニューロンの評価, 他疾患の除外を行い, ALSやその類縁疾患を診断


(Continuum (Minneap Minn) 2017;23(5):1332–1359. )
身体所見は運動機能, 筋萎縮の有無, Twitching, こむら返りMyokymia, 腱反射の低下/消失の評価が重要
・振戦がある場合, 先天性疾患(SMA, SBMA)を疑うきっかけになる.
病歴では感染症, 放射線治療, 悪性腫瘍, 薬剤家族歴の確認も重要.
(Rev Neurol (Paris). 2017 May;173(5):320-325.)
・除外疾患として重要なものは代謝・栄養障害, 腫瘍性疾患, 免疫関連など

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一般総合内科医としてはALSを拾い上げることが重要と考えますが, それから先のALS以外の運動ニューロン疾患評価や鑑別も奥が深い.
今回の症例は大変勉強になりました.

2019年6月26日水曜日

JAMA Rational Clinical Examination: 心原性失神

JAMA Rational Clinical Examinationより,
Did This Patient Have Cardiac Syncope?

失神患者における心原性失神の可能性を評価したMeta
・11 trials, N=4317
(JAMA. 2019;321(24):2448-2457. doi:10.1001/jama.2019.8001 )

心原性失神を示唆する患者背景, 症状

・患者背景では, Afや心不全既往,>35歳での発症が有意なリスク.
運動中の失神や臥位時の失神もリスク因子となる.
 疼痛やストレス下, 立位時の失神は心原性のリスクを下げる.
症状では呼吸苦や胸痛に注意
 失神中や後のチアノーゼも心原性を示唆する情報となる.

臨床スコアではVasovagal score, EGSYS scoreが取り上げられている
(European Heart Journal (2006) 27, 344350 )
・EGSYS scoreをとりあえず押さえておけばよいかも

バイオマーカーによる心原性失神の評価
・トロポニン高値やBNP高値は心原性失神を疑うべき

失神 vs  痙攣の鑑別
これはその筋?では有名な(J Am Coll Cardiol 2002;40:142–8)の論文からほぼ引用されている形


第三世代DESのPCIででDAPTの期間はさらに短く(1ヶ月, 3ヶ月)

6/26のJAMAより, PCI後のDAPTの期間を評価した(非劣性)RCTが2つ発表

現在のPCI後のDAPT期間は12ヶ月間が主流.
これまでにも3ヶ月間など短縮の報告はいくつかあった(OPTIMIZE trialなど)
今回は3ヶ月間の比較と, 日本国内から1ヶ月間の比較が発表.

SMART-CHOICE trial
韓国から3ヶ月間のDAPT vs 12ヶ月間の比較
韓国の33病院において, DESPCIを施行した患者群を対象とした非劣性open-label RCT.
(JAMA. 2019;321(24):2428-2437. doi:10.1001/jama.2019.8146 )
・患者は20歳以上, 50%以上の冠動脈狭窄を認めステント留置部位の冠動脈直径が2.25-4.25mmPCIを施行した患者群
・使用ステントは主にコバルトクロム合金型everolimus溶出ステント, プラチナクロム合金everolimus溶出ステント, Sirolimus溶出ステント(生分解性ポリマー)のいずれかを使用.
除外: ASA, P2Y12阻害薬禁忌症例, Everolimus, Sirolimus禁忌症例, 血行動態不安定, 心原性Shock, 活動性の出血, 12ヶ月以内のDES留置, 挙児希望の女性, 予測余命2年未満

ASA + P2Y12阻害薬のDAPT3ヶ月間, その後P2Y12阻害薬単独群と
DAPT 12ヶ月継続群に割り付け, 心血管アウトカムを比較.

母集団

12ヶ月アウトカム
・心血管イベントは両者で有意差なし
BARC type 2-5の出血リスクは有意に3ヶ月DAPTで低い結果
・Sub解析では使用ステント別の評価でもアウトカムは影響しない.

STOPDAPT-2 trial
日本国内から, 1ヶ月間のDAPTを評価した非劣性RCT
日本国内の90病院でPCIを施行した患者群を対象とした非劣性open-label RCT.
(JAMA. 2019;321(24):2414-2427. doi:10.1001/jama.2019.8145 )
・患者はCoCr-EESPCIを施行された患者群
 (コバルトクロム合金型everolimus溶出ステント: ステント内血栓形成リスクが低いとされるステント)
除外: 抗凝固薬やASA, P2Y12阻害薬以外の抗血小板薬を必要とする患者, 頭蓋内出血歴, Clopidogrel不耐が分かっている患者

ASA + clopidogrel DAPT 1ヶ月(30-59日間)継続後, Clopidogrel単剤とする群と
12ヶ月(335-394日間)DAPTを継続, その後ASA単剤する群に割り付け, 心血管アウトカムを評価.

母集団

アウトカム
・心血管イベント+出血イベントの総合評価では有意に1ヶ月DAPT群で低い結果.
 心血管イベントのみでは両者で有意差なし.
 出血リスクは有意に1ヶ月DAPT群で低い.

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数年前にDAPTは12ヶ月でよい、という短期間のDAPTのエビデンスが揃い, 12ヶ月のDAPTが主流となった.
そして, これからはコバルトクロム合金型everolimus溶出ステントプラチナクロム合金everolimus溶出ステント, Sirolimus溶出ステント(生分解性ポリマー)といった第三世代のDESが主流となり(すでに主流ですが), DAPT期間もさらに短縮される可能性がある.
その分出血リスクも低下する.

医学の進歩はすごいなぁ

2019年6月25日火曜日

IgA腎症に対するヒドロキシクロロキン

 2019 Jul;74(1):15-22. 

IgA腎症RAAS阻害薬使用下で, eGFR>30mL/min/1.73m2, 蛋白尿0.75-3.5g/dを満たす患者群60例を対象としたPhase 2 trial
・患者は18-75歳で, 組織により診断されたIgAN
 RAAS阻害薬を最大量, 3ヶ月間以上使用した状態でeGFR>30mL/min/1.73m2, 蛋白尿0.75-3.5g/dを満たす群
・除外項目は全身性免疫抑制薬を1年以内に使用, ステロイド適応となる症例(半月体形成, IgA沈着を伴う微小変化群), 妊婦・妊娠予定, 授乳

HCQ vs Placeboに割り付け, 6ヶ月間継続.
・蛋白尿の変化をフォローした.
・HCQ200mg bid(eGFR>60mL/min/1.73m2), 100mg tid(eGFR 45-59), 100mg bid(eGFR 30-44)
 eGFR>25%低下, <30となった症例では100mg/dずつ減量
 >30%減量例では投薬を中止

母集団

アウトカム
・HCQ群では有意に蛋白尿は減少. ほぼ半減する

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Phase 2 trialで, 今後大規模で評価されるでしょうが, 
HCQがIgANの治療の1つとなる可能性がありそうです.

ステロイド以外の選択肢が増えるのは喜ばしい

2019年6月22日土曜日

痙攣と高アンモニア血症

高アンモニア血症は主に肝硬変や門脈-静脈シャントで生じることが多く,
他に多い原因はバルプロ酸や化学療法(5-FU)
さらに稀なものとしては尿素サイクル異常が原因として挙げられる.

ICU患者で肝不全(-) 且つ高アンモニア血症を呈した患者の解析
・Mayo clinicにおいて, 2004-2015年に診療した, ICU患者のうち高アンモニア血症を認めたのは3908このうち肝不全(-)例は167(4.5%)であった.
・肝硬変(-)群におけるアンモニア値は68µg/dL[58-87]
関連因子は代謝性疾患, 栄養/消化管薬剤, 腎不全, 痙攣, 臓器移植後活動性の血液腫瘍が挙げられる.
(Crit Care Med 2018; 46:e897–e903)

痙攣発作でもアンモニアは上昇する
これは筋における代謝が影響していると考えられている
(American Journal of Emergency Medicine 31 (2013) 1486–1489)

肝硬変(-)の痙攣患者121例を前向きに評価した報告@台湾
(Epilepsia, 52(11):2043–2049, 2011)
・痙攣患者でER受診時に高アンモニア血症を認めたのは67.77%
特に全般性強直間代性発作やてんかん重積でアンモニア上昇する頻度が高くアンモニアも高値となる.

上昇例と非常症例の比較
・全般性強直間代性発作では有意に上昇する.
アルコール関連でも上昇しやすい

痙攣による高アンモニア血症は数時間で正常化する一過性の経過となることがポイント
・500分後のフォローではほぼ全例で正常化

例えば, 原因不明な意識障害患者において, 一過性の高アンモニア血症を認めた場合, それは痙攣後かもしれない.

ERにおける一過性の高アンモニア血症は痙攣による意識障害を示唆する
(Eur Neurol 2010;64:46–50)
・成人でERに搬送された痙攣患者と他の意識障害患者において, 一過性高アンモニア血症を評価.
比較対象の意識障害症例の原因肝性脳症が11例含まれる

両群の比較
・高アンモニア血症の頻度は61.3% vs 19.6%であるが一過性なのは54.8% vs 0%と強く痙攣発作を示唆する情報となる
・痙攣群で高アンモニア血症を認めた19例全例で, 1-2h後の評価にてアンモニアは低下を認めた.

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まとめると,
・痙攣発作, 特に全般性強直間代性発作やてんかん重積では高率で高アンモニア血症を合併する
・この場合, アンモニアは数時間で低下, 正常化する.
・この一過性の高アンモニア血症を評価することで, 意識障害患者における痙攣の可能性を検討可能かもしれない.