小児におけるボタン電池誤飲では, 食道に停滞することで食道穿孔・気管食道瘻・大動脈食道瘻, 声帯麻痺, 食道狭窄, 脊椎椎間板炎, 縦隔炎, 気胸などのリスクとなる.
・ボタン電池除去後もリスクは持続し, 数日後に生じる.
・ボタン電池のマイナス極部が組織や体液に触れることで水酸化物が産生され, アルカリによる組織障害を生じる
・迅速なボタン電池除去に加えて,
Prehospitalにおける蜂蜜の摂取→ボタン電池をコーティング
病院において内視鏡前のスクラルファートの摂取 → コーティング
内視鏡時の酢酸による洗浄 → アルカリの中和が行われる.
これらの処置は経験的に有用であるとされている.
誤飲〜食道穿孔までの期間はどの程度か?
ボタン電池誤飲 290例の後向き解析
(American Journal of Emergency Medicine 37 (2019) 805–809)
・大半が4歳以下. 食道穿孔例は189例
・ボタン電池はリチウム電池が多い.
誤飲~穿孔までの期間(内視鏡や画像での穿孔)
・<24hが3例(11-17h, 12h, 18h), 24-47hが11例(7.4%)
・内視鏡にてボタン電池を除去した症例の解析では,
除去~穿孔までは,
3日以内が49.5%
48日以内が98.1% 数日経過して発症する例も多い.
誤飲後の蜂蜜やスクラルファートは有用か?
ボタン電池誤飲に対して蜂蜜やスクラルファートを使用する場合の推奨:
蜂蜜を使用する場合(The National Capital Poison Center’s Battery Infection Triage and Treatment Guideline)
・リチウム電池であり, 患者が12ヶ月以上(蜂蜜摂取が可能な年齢)
さらに12h以内の誤飲で
患者が嚥下可能, 且つ蜂蜜が身近にある
・摂取量は10mL(スプーン2杯)を10分毎に最大6回摂取
・すぐにERに連れてゆき, 電池の除去が必要であり, それと並行して待ち時間に行うべき処置と考える.
スクラルファートの使用
・スクラルファート内用液(1g/10mL)を10分毎に10mL内服, 3回まで
・XPでボタン電池が食道内にあることを確認~内視鏡準備までの期間に行う
・誤飲後12h以上経過した症例では使用しない(穿孔リスクがあるため)
効果はどうなのか?
(Laryngoscope. 2019 Jan;129(1):49-57.)
In Vitroの報告:
豚の食道を使用し, 3Vのリチウムボタン電池を接触.
蜂蜜, ジュース, スクラルファートなどで洗浄し, 洗浄前後の組織pHを測定(In vitro).
・洗浄は摂食後10分より開始し, 10-15分毎に10mLを使用し, 120分継続.
120分後にはボタン電池も除去.
・蜂蜜やスクラルファートはpHを下げるのに有用
ジュースは一部効果的だが十分ではない.
酸性の飲み物も中和効果は期待できない
NS, 唾液, メープルシロップはほぼ無意味に近い
In Vivoの報告: 10-11kgの豚を使用し, 鎮静化でボタン電池を食道に接触.
NS, スクラフファート, 蜂蜜を用いて洗浄.
・洗浄は接触後5分より10分毎に施行し, 合計60分間で終了.
豚はその後7日間通常の食物を摂取させ, その後食道を切除し観察.
ボタン電池接触~解除の電池Voltageの変化, pH, 表在潰瘍のサイズ.
・蜂蜜やスクラルファートでは変化は少なく済む. 潰瘍サイズも小さい
7日後, 切除時の食道病変の比較
・組織傷害の程度も明らかに蜂蜜やスクラルファートで軽度.
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ボタン電池は大きいと食道で引っかかり, 潰瘍や穿孔をきたし, しばしば重篤化する
穿孔は数日経過して生じる事が多いが, 早くて12hで生じ得る.
12h以内ならば迅速に蜂蜜を内服させてERへ. 病院ならばスクラルファート液を使用し, 内視鏡的除去術を試みることが重要.
早期の蜂蜜やスクラルファートは組織障害リスクを軽減し得る.