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2019年4月30日火曜日

ボタン電池誤飲による食道傷害

小児におけるボタン電池誤飲では食道に停滞することで食道穿孔・気管食道瘻・大動脈食道瘻, 声帯麻痺, 食道狭窄, 脊椎椎間板炎, 縦隔炎, 気胸などのリスクとなる.
・ボタン電池除去後もリスクは持続し, 数日後に生じる.
ボタン電池のマイナス極部が組織や体液に触れることで水酸化物が産生され, アルカリによる組織障害を生じる
・迅速なボタン電池除去に加えて
 Prehospitalにおける蜂蜜の摂取ボタン電池をコーティング
 病院において内視鏡前のスクラルファートの摂取コーティング
 内視鏡時の酢酸による洗浄アルカリの中和が行われる.
 これらの処置は経験的に有用であるとされている.

誤飲〜食道穿孔までの期間はどの程度か?

ボタン電池誤飲 290例の後向き解析
(American Journal of Emergency Medicine 37 (2019) 805–809)
・大半が4歳以下. 食道穿孔例は189
・ボタン電池はリチウム電池が多い.

誤飲~穿孔までの期間(内視鏡や画像での穿孔)
・<24h3(11-17h, 12h, 18h), 24-47h11(7.4%)

・内視鏡にてボタン電池を除去した症例の解析では,
 除去~穿孔までは,
  3日以内が49.5%
  48日以内が98.1% 数日経過して発症する例も多い.


誤飲後の蜂蜜やスクラルファートは有用か?

ボタン電池誤飲に対して蜂蜜やスクラルファートを使用する場合の推奨:

蜂蜜を使用する場合(The National Capital Poison Center’s Battery Infection Triage and Treatment Guideline)
・リチウム電池であり患者が12ヶ月以上(蜂蜜摂取が可能な年齢)
 さらに12h以内の誤飲で
 患者が嚥下可能, 且つ蜂蜜が身近にある
・摂取量は10mL(スプーン2)10分毎に最大6回摂取
・すぐにERに連れてゆき, 電池の除去が必要でありそれと並行して待ち時間に行うべき処置と考える.

スクラルファートの使用
・スクラルファート内用液(1g/10mL)10分毎に10mL内服, 3回まで
XPでボタン電池が食道内にあることを確認~内視鏡準備までの期間に行う
・誤飲後12h以上経過した症例では使用しない(穿孔リスクがあるため)

効果はどうなのか?
(Laryngoscope. 2019 Jan;129(1):49-57.)
In Vitroの報告:
豚の食道を使用し, 3Vのリチウムボタン電池を接触.
蜂蜜, ジュース, スクラルファートなどで洗浄し洗浄前後の組織pHを測定(In vitro).
・洗浄は摂食後10分より開始し, 10-15分毎に10mLを使用し, 120分継続.
 120分後にはボタン電池も除去
蜂蜜やスクラルファートはpHを下げるのに有用
 ジュースは一部効果的だが十分ではない.
 酸性の飲み物も中和効果は期待できない
 NS, 唾液, メープルシロップはほぼ無意味に近い

In Vivoの報告: 10-11kgの豚を使用し鎮静化でボタン電池を食道に接触.
NS, スクラフファート, 蜂蜜を用いて洗浄.
・洗浄は接触後5分より10分毎に施行し, 合計60分間で終了.
 豚はその後7日間通常の食物を摂取させ, その後食道を切除し観察.

ボタン電池接触~解除の電池Voltageの変化, pH, 表在潰瘍のサイズ.
・蜂蜜やスクラルファートでは変化は少なく済む. 潰瘍サイズも小さい

7日後, 切除時の食道病変の比較

・組織傷害の程度も明らかに蜂蜜やスクラルファートで軽度.

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ボタン電池は大きいと食道で引っかかり, 潰瘍や穿孔をきたし, しばしば重篤化する
穿孔は数日経過して生じる事が多いが, 早くて12hで生じ得る.
12h以内ならば迅速に蜂蜜を内服させてERへ. 病院ならばスクラルファート液を使用し, 内視鏡的除去術を試みることが重要.

早期の蜂蜜やスクラルファートは組織障害リスクを軽減し得る.

2019年4月26日金曜日

シェーグレン症候群と味覚・嗅覚障害

症例: 70歳台女性. 食欲不振

外来に食欲不振を主訴に受診した高齢女性.

食べられない理由を探ると, どうも味がしないので食欲がないとのこと.
匂いは一応感じるが, 甘い, 辛い, 苦いなどの味覚が弱くなっている.

他皮膚や粘膜症状, 関節症状は認めない.
パンを食べるときに喉に張り付く. 食餌中はよく水分をとる.

また, 数年前の検査から血小板 8万程度と慢性的に低いこともあり,
シェーグレン症候群→唾液分泌低下→味覚障害で説明できるのでは? とアセスメント.

結果的に抗SS-A抗体が陽性であったが,
唾液分泌試験を行うとガム試験で15mL/10分と分泌は十分の様子.

あれ? ということでなにかヒントがないか論文を漁ってみた.

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シェーグレン症候群と味覚・嗅覚障害

・唾液は食物の味物質を溶解させることで, 味覚を感じるのに重要な要素
・他にもデンプンや脂質の消化作用口腔内衛生状態を保つ役割, 口腔内感染症の予防, 口を円滑に動かすことで発語機能にも関わる.
・唾液の分泌量は0.5-1.5L/
 このうち90%は耳下腺, 顎下腺, 舌下線から分泌され残り10%は口腔粘膜に広がる小唾液腺から分泌される

シェーグレン症候群では唾液分泌の低下により味覚障害や嗅覚障害を呈することが多く, それがQOLの低下, 低栄養にもつながるため, 注意が必要である.
(Journal of Oral Rehabilitation 2007 34; 711–723)

28例のpSS患者と年齢, 性別を合わせた37例を前向きに評価
嗅覚障害と味覚障害を比較した.
(Rheumatology 2009;48:1512–1514)
・嗅覚はUniversity of Pennsylvania Smell Threshold Testを使用
 20個の容器を使用(2つは無臭, 18はフェネチルアルコール[香料]を含む(-10(log10 1/10000000000)~ -2(log10 1/100)の濃度)
 -4.5を下回る場合, 嗅覚障害と診断する
・味覚は甘味, 酸味, 辛味, 苦味を含ませたテープ(4, 16), 無味のテープ2枚を用いて評価.
 味を当てられれば1点と判断し, <9点で味覚障害と判断する

味覚, 嗅覚の比較
味覚, 嗅覚ともにSS群ではControl群よりも低くなる.
 嗅覚は0.97[0.35-1.54]低く, 味覚は3.51[1.80-5.22]低い.
嗅覚障害はSS患者の43%で認める(Control 19%)
 加齢に伴い低下する傾向あり
・味覚障害はSS患者の71%(Control 35%)
 加齢には関係せず, 嗅覚障害に関係する
・味覚は甘味は保たれやすい
 味覚(2.64±1.06), 酸味(1.79±1.32), 
 辛味(1.86±1.21), 苦味(1.39±1.42)
 これは甘味は唾液分泌に関係なく感じやすいためと説明されている

pSS 31例とControl33例において, 味覚・嗅覚障害, 口腔内灼熱感, 唾液分泌能を評価した報告
(Eur J Oral Sci. 2017 Aug;125(4):265-271.)
・唾液分泌能は刺激, 非刺激で評価.
嗅覚は自覚症状(VAS)12本の臭いペンを使用し評価.
 ペンは鼻先2cmのところで3-4秒嗅がせて, 4つの選択肢のうちから答えを選択
 0-5点が嗅覚消失, 6-9点が嗅覚低下, 10-12点は正常と判断
・味覚は自覚症状(VAS)と甘味, 酸味, 辛味, 苦味の4つについて32回味覚を評価し, 0-12点で味覚消失, 13-18点で味覚低下, 19-32点で正常と判断

唾液分泌能はpSSで非刺激 0.08±0.07ml/, 刺激 0.62±0.39ml/分と低下

嗅覚, 味覚スコアもpSSで有意に低い
嗅覚・味覚消失, 低下はpSSで有意に多い結果

唾液分泌能と味覚・嗅覚障害は相関性はあるが軽度のみ
・嗅覚と唾液分泌能: γsws 0.15, γuws -0.03
・味覚と唾液分泌能: γsws 0.04, γuws -0.20

pSS 58, non-Sjogren syndrome sicca 22, 年齢を合わせたControl57例において唾液分泌量, 味覚・嗅覚, 口腔内灼熱感, 口臭, 歯牙状態を比較.
(Nutrients. 2019 Jan 24;11(2). pii: E264. doi: 10.3390/nu11020264.)
・唾液分泌能はSXI-D sumスコア, 分泌試験にて評価
 SXI-D sumスコアは5-15点で評価し, 15点が重度の口腔内乾燥
 分泌は刺激, 非刺激で行い, 非刺激0.1mL/, 刺激0.7mL/分で正常
・嗅覚は自覚症状をVAS0-10で評価(多いほど嗅覚は正常)
 また, 12-stick identification testにて嗅覚を評価し0-5点は嗅覚消失, 6-9点は嗅覚低下, 10-12点は正常と判断
・味覚は自覚症状をVAS0-10で評価(多いほど味覚は正常)
 また, 甘味, 酸味, 辛味, 苦味の4つについて32回味覚を評価し0-12点で味覚消失, 13-18点で味覚低下, 19-32点で正常と判断

味覚障害
・味覚障害(自覚・他覚)Controlに比べて有意にpSSで多い
 non-SSControl群では有意差なし

嗅覚障害
・他覚評価ではpSSControl群よりも有意に嗅覚障害が多い.
 自覚症状ではどの群も有意差なし

唾液分泌能

非刺激
刺激
pSS
0.1[0.0-0.1]mL/範囲 0.0-0.4
0.7[0.4-1.0], 範囲0.0-1.5
non-SS
0.1[0.0-0.2], 範囲0.0-0.6
0.9[0.6-1.3], 範囲0.3-1.8
Control
0.3[0.2-0.4], 範囲0.0-0.8
1.6[1.1-2.4], 範囲 0.5-3.5


唾液分泌試験結果と味覚障害, 嗅覚障害の関係
・唾液分泌量と味覚障害や嗅覚障害, 口腔内灼熱感には負の相関性がある
・味覚スコアとは正の相関性がある
・相関係数からは軽度~中等度の相関がある印象

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pSSでは味覚障害や嗅覚障害の頻度は高い.
唾液分泌の低下に相関性はあるものの, 軽度〜中等度の相関性であり, 唾液分泌以外の要素も関わっている可能性がある

ちなみに異常味覚も多く,
最後の文献によると, Dysgeusiaの頻度は6割で認められる

異常味覚では, 金属様の味を訴える例が多い
他には腐ったような味, 苦味の訴えがある.

味覚異常のタイミングは常に持続する以外に間欠的な経過や, 期間により異なるものも多い.
食事への関連は様々