外傷性脾損傷や脾摘後では血小板増多や血栓症(主に門脈血栓症)リスクが上昇する.
脾摘後の血小板増多
脾摘を施行された297例中, 術後血小板増多(>45万)は66.3%, >100万となるのは23.2%で認められる.
・術後の血小板最大値の中央値は60.7万[37.6-95.8万]/µL
・血栓症を併発したのは7.7%(23例)で, 門脈・腸間膜血栓症(16), 肺血栓塞栓症, DVTが主.
(World J Surg. 2018 Mar;42(3):675-681.)
脾外傷症例156例の解析では, 外傷後血小板増多を認めたのは41.0%.
・特に脾臓摘出術が行われた患者で顕著となる.
・また, PLTがピークとなるのは外傷後2-3wkくらい.
・脾全摘症例では76.1%で血小板増多, 保存的加療では26.4%で認める.
・血小板増多は術後・外傷後のVTEリスクを上昇させる可能性がある
血小板増多ありでは15.6%, 増多なしでは3.3%
・ASAの使用による予防効果も認められない.
(Injury, Int. J. Care Injured 48 (2017) 142–147)
脾摘や脾臓損傷患者では半数以上で術後血小板増多が認められる.
100万を超えるような症例も珍しくはない.
上昇のタイミングは術後2-3wkでピークとなる
脾摘後の血栓症(門脈血栓症)リスク
主に血液疾患において, 待機的腹腔鏡下脾摘を予定されている成人症例を前向きにフォロー
・背景疾患は ITP 52%, リンパ腫27%, AIHA 7%, 鎌状赤血球症 3%
・抗凝固療法が必要な患者は除外
術後門脈血栓症は25%で合併.
・術前の脾臓のサイズが大きいほど, 術後の門脈血栓症リスクが高い
(Surg Endosc. 2016 May;30(5):2119-26.)
肝硬変に関連して脾摘を行った130例の解析では
・37.7%(49)が術後門脈血栓症を合併.
・抗凝固療法による予防投与を行った患者では22/73(30.1%), 行っていない患者群では27/57(47.4%)
・門脈血栓症のリスク因子は, 血小板増多, d-dimer高値, 門脈径, 脾臓サイズ
抗凝固療法の使用はリスク軽減因子となる.
(Int J Surg. 2017 Aug;44:147-151. doi: 10.1016/j.ijsu.2017.05.072.)
肝硬変(悪性腫瘍を除く)で脾摘を行った420例の解析では, 術後門脈血栓症は16.9%(71/420)で発症
・門脈血栓症の特徴:
無症候性が約半数と多い.
・門脈血栓症のリスク因子は,
術後7日目のPLT増加が≥20万: OR 2.81[1.49-5.30]
PT ≥15秒:OR 1.85[1.04-3.30]
門脈径 ≥13mm: OR 5.70[2.69-12.10]
(Hepatobiliary Pancreat Dis Int. 2013 Oct;12(5):512-9.)
脾摘後の血栓症では主に門脈血栓症が多く, その合併率は17-50%と高い.
合併リスク因子は血小板増多や脾腫大, D-dimer, 門脈径の拡大など,
抗凝固療法による予防はリスク軽減効果が期待できる.
脾摘後の血栓症予防
肝硬変患者で脾摘を行なった患者における, 術後の抗凝固療法と門脈血栓症予防効果を評価したMeta(~2015年9月).
・17 trials, N=1497. RCTはなく, CohortとCase-controlのみ.
・術後門脈血栓症のリスクは抗凝固療法群で有意に低下する:
全体: OR 0.31[0.23-0.40]
Cohort(7): OR 0.21[0.12-0.36]
Case-control(10): OR 0.35[0.26-0.49]
・Funnel protでは出版バイアスが認められる
(Am Surg. 2016 Dec 1;82(12):1169-1177.)
2017年発表のMeta.
・11 trials, このうちRCTは4, 患者は全例LCを背景とした脾摘.
予防として抗凝固療法 vs 予防なし
予防レジメの比較 新規レジメ vs 従来のレジメ を比較
抗凝固療法 vs Control群の比較では有意に門脈血栓リスクは低下
ただし, 出版バイアスはある
治療レジメの比較
・新規治療: LMWHにASA併用やワーファリン, Prostaglandin E1, antithrombin IIIなど
・従来治療: ASA + 低分子デキストラン, irregularな抗凝固療法
(J Laparoendosc Adv Surg Tech A. 2017 Mar;27(3):247-252.)
脾摘後の血栓症予防により門脈血栓症リスクは有意に低下するが, RCTはまだない〜乏しく, 出版バイアスもあり, 明確な結論はだせない.
行うならば抗血小板薬よりも抗凝固薬を用いるほうがよいのかもしれない.
抗血小板薬を用いる場合は, なるべく早期より開始すべきとの報告もある.
肝硬変, 門脈圧亢進を背景とし, 脾機能亢進, 食道静脈瘤が認められる脾摘症例を後ろ向きに抽出.
・肝細胞癌や担癌患者は除外
出血性ショックや腹部外傷, 重度の背景疾患がある患者は除外
・術後1日おきにPLTを評価し,
PLT≥20万でアスピリンを開始した群(A)と
PLT≥30万でアスピリンを開始した群(B)で門脈血栓症リスクを比較
・術後PLTが急速に上昇し続ける場合はさらにジピリダモール50mg/dを追加
抗血小板薬は出血性合併症がなければ1年間継続するレジメとなっている.
患者群データ, 血栓症
・門脈血栓症は21/139(15.1%)で認められ, Group Aでは3/64(4.7%), Group Bでは18/75(24%)とより早期の抗血小板薬の使用でリスクが低下する可能性がある.
リスク因子
・PLTが高値なほどリスクは高く, 抗血小板薬はリスク軽減効果が期待できる.
(ANZ J Surg. 2018 Oct;88(10):E725-E729.)
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超まとめると,
・脾摘後は血小板上昇し, 約4-6割で45万を超えて, 100万超えることも稀ではない.
・脾摘後は門脈血栓症リスクも上昇. 2-5割程度と合併率も高い.
リスク因子は背景疾患や脾腫, 血小板増多となる.
・上記予防には抗凝固療法の併用が有用な可能性があるが, RCTは乏しく, 明確な推奨は難しい. 出血リスクが少なければ使っても良いかもしれない.
抗血小板薬も有用であるが, 使うならば早期から. 血小板増多がなくても, 術後血小板が増加し, >20万となるようならば導入するのも手. ただし肝硬変症例での報告なので注意.
・外傷による脾摘, 脾損傷例で, 血小板増多がなければ血栓症合併率は3.3%程度.
この場合は血小板増多を伴う例で予防を検討すれば良いのかも.