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2018年12月14日金曜日

非重症の喀血症例にはトランサミン吸入!

注) トランサミン吸入は薬剤本来の使用方法とは異なります.

(CHEST 2018; 154(6):1379-1384 )
喀血で受診した47例を対象としたDB-RCT
・大量喀血(>200ml/24h), 血行動態不安定, 呼吸不全症例は除外.
 また, 妊婦, 腎障害(Cr>3mg/dL, 透析), 肝不全, 凝固障害症例も除外

上記患者群をTA 500mg吸入群 vs NS吸入群に割り付け, 比較.
吸入は13, ネブライザーを用いて施行
 各薬剤 500mg/5ml, NS 5mlを使用

アウトカムは5日以内の喀血の改善と1日の喀血量の変化を比較.

母集団と喀血の原因

アウトカム

・TA吸入群で有意に5日以内の止血率は改善.
喀血量もDay 2には低下を認める.

処置が必要となる例も低下し入院期間も短縮される

・再発率は30日以内には有意差はないが1年間でみると有意に低下.

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本来の使用方法とは異なるものの, 非重症の喀血症例にはトランサミン吸入は有用かもしれない.
様々な中小病院で救急をやっていたときも, 喀血は一定数来院します. 大体は経過観察で治ることも多いですが、処置の必要性も下がるのならば選択肢の一つとして押さえておくのはありかと思いました.

2018年12月12日水曜日

悪性腫瘍で化学療法を行う患者への静脈血栓症予防

担癌患者における静脈血栓症予防については, 明確な推奨はないのが現状.
海外ではLMWHが使用され, 血栓症リスクは低下する効果が示されているものの, 出血リスクも上昇してしまう.

(Apixaban to Prevent Venous Thromboembolism in Patients with Cancer. N Engl J Med)
AVERT: 化学療法を開始する予定の担癌患者でVTE 中~高リスク(Khorana score≥2)574例を対象としたDB-RCT.
・Apixaban 2.5mg bid vs Placebo群に割り付け, 180日間フォロー
 血栓症イベント, 出血イベントを評価した
・患者は新規発症, 再燃・再発した悪性腫瘍で, 新規化学療法レジメを開始する予定の成人患者.
 さらにKhorana score≥2*を満たす.
肝疾患で凝固障害を認める群, 皮膚の基底細胞癌, 扁平上皮癌のみの患者, 急性白血病・骨髄増殖性腫瘍, 幹細胞移植予定, 余命6ヶ月以内, eGFR≤30mL/min, PLT<5万は除外

・薬剤は化学療法開始後24時間以内に開始し, 180日間継続.
 アウトカムは210日間もしくは死亡までフォロー

*Khorana VTEスコア(悪性腫瘍で化学療法を行う患者における, VTEリスクの評価)
項目

点数
悪性腫瘍
胃癌, 膵臓癌
2
肺癌, リンパ腫, 婦人科腫瘍, 膀胱癌, 精巣腫瘍
1
血小板35万/µL
1
Hb<10g/dLもしくはエリスロポエチンの使用
1
白血球>11000/µL
1
BMI35
1
化学療法開始前に評価する.
 低リスク群(0): 2.5ヶ月でのVTEリスク0.3%
 中リスク群(1-2): 2%
 高リスク群(3以上): 6.7% (Blood. 2008 May 15;111(10):4902-7.)

母集団

アウトカム

・Apixabanは有意に血栓症リスクを軽減させる.
 4.2% vs 10.2%, HR 0.41[0.26-0.65], NNT 17
一方で出血リスクは増加
 3.5% vs 1.8%, HR 2.00[1.01-3.95], NNH 59
・死亡リスクは有意差はないものの, Apixabanで上昇傾向がある

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悪性腫瘍で化学療法を行う患者では, Khorana VTEスコアを評価し,
中〜高リスク群ではDOACによる予防も考慮してもよいかもしれない.

しかしながらアジア人では欧米と比較してVTEリスク自体はやや低い印象もあり,
どの患者群で予防を行うかは吟味は必要と思う.

2018年12月5日水曜日

抗凝固療法使用患者におけるPPI併用の意義

(JAMA. 2018;320(21):2221-2230. )

US Medicare beneficiaryのデータを用いた後ろ向き解析
2011-2015年にApixaban, Dabigatran, Rivaroxaban, Warfarinを使用開始した30歳以上の患者で, PPI併用の有無と上部消化管出血リスクの関連を比較.
・新規に抗凝固薬を開始した症例は1643123, 1713183.
 このうち74.9%が心房細動による適応.
・アウトカムは上部消化管出血による入院.


アウトカム
抗凝固薬別の上部消化管入院頻度
・薬剤別の評価では, Rivaroxabanでリスクが高い.

PPI併用の有無と上部消化管出血入院頻度
PPI併用群の方がリスクは低いがその差はあっても50/10000pt-y程度.(200例に1例減少)

上部消化管出血リスク別のPPI併用, 非併用群の比較
・上部消化管出血リスクはこのコホートにおける上部消化管出血入院に関連する因子をポアゾン回帰分析を用いて評価したもの.
 0-19点で評価し, 0点は低リスク(5%), 19点は高リスク(5%)

・上部消化管リスクが上昇するほど, PPI併用による上部消化管予防効果は良好となる.
 PPIにより有意に上部消化管出血リスクが低下するのは, 2点以上(=下位10%を除く全例)となるが, その予防効果は微々たるもの
 NNTが100程度となるのは18-19点(リスク上位10%).

リスクスコア別, 薬剤別のPPIによる上部消化管出血予防効果

参考: リスク評価に影響している因子
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抗凝固薬使用中の患者ではPPIが併用されていることが多いが, 
PPI併用による上部消化管リスク軽減効果は患者のリスクに応じて大きく異なる.

リスク評価の研究が進むとより適応がはっきりしてくるかもしれない.
PPIを削ろうと考えるときは参考にしたい。

2018年11月28日水曜日

ウイルス感染症後の弛緩性麻痺: 急性弛緩性脊髄炎

上気道症状を伴う感冒に罹患後, 数日経過して左>右上肢の弛緩性麻痺, 両側顔面麻痺, 排尿障害が出現した成人症例.
深部腱反射は両側上下肢で減弱〜消失しており, 経過から急性弛緩性脊髄炎を疑った.

エンテロウイルスB68感染で有名?となった急性弛緩性脊髄炎(Acute Flaccid Myelitis: AFM). どのような疾患なのか調べてみた.

急性弛緩性脊髄炎: Acute Flaccid Myelitis(AFM)
(Curr Treat Options Neurol (2017) 19:48 )
・AFMは急性発症のポリオ様の脊髄障害で弛緩性麻痺とMRIにて脊髄灰白質に長軸方向の病変が認められる.
小児例のアウトブレイクがしばしば報告されている.
 2014年のCalifornia, Colorado. 2016年に米国でもあり.
 米国での報告数は2014年に120, 2015年は22, 2016年は145と年により差が大きい
 日本でも2015年にアウトブレイクあり.

・AFM発症前に発熱や呼吸器症状を伴う事が多くウイルス感染症, 特にEnterovirus D68の関連性が高いとされている.
 他にWest Nile Virus, Coxsackievirus, Adenovirus, Poliovirus, Enterovirus 71の関連も報告されている
・弛緩性麻痺以外に頭痛や頸部痛, 脳神経障害(顔面神経麻痺, 複視, 嚥下障害)や麻痺肢の疼痛, 神経因性膀胱も伴う
GBSADEM, Transverse Myelitisとの鑑別が重要

AFMの診断定義

MRIではNMO様の長軸方向の灰白質病変が認められる
特に頸髄・胸髄病変が多い


2014年のUSでのアウトブレイクにおける, AFM 120例の解析
(Clin Infect Dis. 2016 September 15; 63(6): 737–745.)
・年齢中央値7.1[4.8-12.1], 男児が59%
前駆症状は呼吸器症状が81%, 発熱が64%

症状・所見
罹患肢

脳神経障害

その他

上肢のみ
34%
脳神経障害全体
28%
意識障害
11%
下肢のみ
23%
顔面神経麻痺
14%
てんかん
4%
上下肢, ただし四肢ではない
18%
嚥下障害
12%
ICU管理
52%
四肢
25%
複視
9%
人工呼吸器管理
20%


構音障害
7%




顔面の痺れ
1%



MRI所見
脊髄病変

脳病変

頸髄病変
87%
大脳病変
11%
胸髄病変
80%
小脳病変
11%
円錐-馬尾病変
47%
脳幹病変
35%
腹部神経造影
34%
橋病変
78%


延髄病変
75%


中脳病変
28%

アウトカム
機能予後

筋力

完全介助
14%
改善せず
20%
一部介助
68%
一部改善
73%
自立
18%
完全に改善
5%


増悪
2%
2015年の日本国内のEnterovirus D68アウトブレイク時におけるAFM 59例の解析
(Clinical Infectious Diseases® 2018;66(5):653–64 )
・小児は55, 成人は4
AFMの発症頻度とEnterovirus D68症例の増加は相関あり

59例の解析

髄液, 血清学検査

・細胞増多は85%と高頻度
 発症早期での検体では95%さらに高頻度となるが, 時間が経過すると感度は下がる
蛋白上昇は46%程度

発症〜の時間経過とCSF細胞増多

AFMの対応
・対症療法, 病状の進行による嚥下障害や呼吸不全の評価は重要
・薬物治療については確立されていないが, IVIGや血漿交換が試される.

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まとめると, 
・AFMは小児多い疾患. 成人例は数える程度ではあるが, ありえる.
・上気道感染症, 消化管感染症後数日経過して急性に出現する弛緩性麻痺, 腱反射の減弱を特徴とし,
・麻痺は上肢, 下肢どちらからも生じ, 左右非対称性が多く, 進行すると呼吸不全や嚥下障害も呈する.
・四肢麻痺以外には顔面麻痺や嚥下障害, 複視もありえる.
・検査では頸髄, 胸髄に長軸方向の灰白質病変が認められ, CSFでは単核球優位の細胞増多を認める. ただし時間の経過とともに細胞増多の感度は低下する.
・鑑別で重要なのはGBSやNMO
・治療は確立されていないが, IVIGなど.