上気道症状を伴う感冒に罹患後, 数日経過して左>右上肢の弛緩性麻痺, 両側顔面麻痺, 排尿障害が出現した成人症例.
深部腱反射は両側上下肢で減弱〜消失しており, 経過から急性弛緩性脊髄炎を疑った.
エンテロウイルスB68感染で有名?となった急性弛緩性脊髄炎(Acute Flaccid Myelitis: AFM). どのような疾患なのか調べてみた.
急性弛緩性脊髄炎: Acute Flaccid Myelitis(AFM)
(Curr Treat Options Neurol (2017) 19:48 )
・AFMは急性発症のポリオ様の脊髄障害で, 弛緩性麻痺とMRIにて脊髄灰白質に長軸方向の病変が認められる.
・小児例のアウトブレイクがしばしば報告されている.
2014年のCalifornia, Colorado. 2016年に米国でもあり.
米国での報告数は2014年に120例, 2015年は22例, 2016年は145例と年により差が大きい
日本でも2015年にアウトブレイクあり.
・AFM発症前に発熱や呼吸器症状を伴う事が多く, ウイルス感染症, 特にEnterovirus D68の関連性が高いとされている.
他にWest Nile Virus, Coxsackievirus, Adenovirus, Poliovirus, Enterovirus 71の関連も報告されている
・弛緩性麻痺以外に頭痛や頸部痛, 脳神経障害(顔面神経麻痺, 複視, 嚥下障害)や麻痺肢の疼痛, 神経因性膀胱も伴う
・GBSやADEM, Transverse Myelitisとの鑑別が重要
AFMの診断定義
MRIではNMO様の長軸方向の灰白質病変が認められる
特に頸髄・胸髄病変が多い
2014年のUSでのアウトブレイクにおける, AFM 120例の解析
(Clin Infect Dis. 2016 September 15; 63(6): 737–745.)
・年齢中央値7.1歳[4.8-12.1], 男児が59%
・前駆症状は呼吸器症状が81%, 発熱が64%
症状・所見
罹患肢
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脳神経障害
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その他
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上肢のみ
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34%
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脳神経障害全体
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28%
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意識障害
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11%
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下肢のみ
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23%
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顔面神経麻痺
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14%
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てんかん
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4%
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上下肢, ただし四肢ではない
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18%
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嚥下障害
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12%
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ICU管理
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52%
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四肢
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25%
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複視
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9%
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人工呼吸器管理
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20%
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構音障害
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7%
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顔面の痺れ
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1%
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MRI所見
脊髄病変
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脳病変
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頸髄病変
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87%
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大脳病変
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11%
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胸髄病変
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80%
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小脳病変
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11%
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円錐-馬尾病変
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47%
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脳幹病変
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35%
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腹部神経造影
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34%
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橋病変
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78%
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延髄病変
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75%
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中脳病変
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28%
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アウトカム
機能予後
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筋力
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完全介助
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14%
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改善せず
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20%
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一部介助
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68%
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一部改善
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73%
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自立
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18%
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完全に改善
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5%
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増悪
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2%
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2015年の日本国内のEnterovirus D68アウトブレイク時におけるAFM 59例の解析
(Clinical Infectious Diseases® 2018;66(5):653–64 )
・小児は55例, 成人は4例
・AFMの発症頻度とEnterovirus D68症例の増加は相関あり
59例の解析
髄液, 血清学検査
・細胞増多は85%と高頻度
発症早期での検体では95%とさらに高頻度となるが, 時間が経過すると感度は下がる
・蛋白上昇は46%程度
発症〜の時間経過とCSF細胞増多
AFMの対応
・対症療法, 病状の進行による嚥下障害や呼吸不全の評価は重要
・薬物治療については確立されていないが, IVIGや血漿交換が試される.
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まとめると,
・AFMは小児多い疾患. 成人例は数える程度ではあるが, ありえる.
・上気道感染症, 消化管感染症後数日経過して急性に出現する弛緩性麻痺, 腱反射の減弱を特徴とし,
・麻痺は上肢, 下肢どちらからも生じ, 左右非対称性が多く, 進行すると呼吸不全や嚥下障害も呈する.
・四肢麻痺以外には顔面麻痺や嚥下障害, 複視もありえる.
・検査では頸髄, 胸髄に長軸方向の灰白質病変が認められ, CSFでは単核球優位の細胞増多を認める. ただし時間の経過とともに細胞増多の感度は低下する.
・鑑別で重要なのはGBSやNMO
・治療は確立されていないが, IVIGなど.