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2018年11月28日水曜日

ウイルス感染症後の弛緩性麻痺: 急性弛緩性脊髄炎

上気道症状を伴う感冒に罹患後, 数日経過して左>右上肢の弛緩性麻痺, 両側顔面麻痺, 排尿障害が出現した成人症例.
深部腱反射は両側上下肢で減弱〜消失しており, 経過から急性弛緩性脊髄炎を疑った.

エンテロウイルスB68感染で有名?となった急性弛緩性脊髄炎(Acute Flaccid Myelitis: AFM). どのような疾患なのか調べてみた.

急性弛緩性脊髄炎: Acute Flaccid Myelitis(AFM)
(Curr Treat Options Neurol (2017) 19:48 )
・AFMは急性発症のポリオ様の脊髄障害で弛緩性麻痺とMRIにて脊髄灰白質に長軸方向の病変が認められる.
小児例のアウトブレイクがしばしば報告されている.
 2014年のCalifornia, Colorado. 2016年に米国でもあり.
 米国での報告数は2014年に120, 2015年は22, 2016年は145と年により差が大きい
 日本でも2015年にアウトブレイクあり.

・AFM発症前に発熱や呼吸器症状を伴う事が多くウイルス感染症, 特にEnterovirus D68の関連性が高いとされている.
 他にWest Nile Virus, Coxsackievirus, Adenovirus, Poliovirus, Enterovirus 71の関連も報告されている
・弛緩性麻痺以外に頭痛や頸部痛, 脳神経障害(顔面神経麻痺, 複視, 嚥下障害)や麻痺肢の疼痛, 神経因性膀胱も伴う
GBSADEM, Transverse Myelitisとの鑑別が重要

AFMの診断定義

MRIではNMO様の長軸方向の灰白質病変が認められる
特に頸髄・胸髄病変が多い


2014年のUSでのアウトブレイクにおける, AFM 120例の解析
(Clin Infect Dis. 2016 September 15; 63(6): 737–745.)
・年齢中央値7.1[4.8-12.1], 男児が59%
前駆症状は呼吸器症状が81%, 発熱が64%

症状・所見
罹患肢

脳神経障害

その他

上肢のみ
34%
脳神経障害全体
28%
意識障害
11%
下肢のみ
23%
顔面神経麻痺
14%
てんかん
4%
上下肢, ただし四肢ではない
18%
嚥下障害
12%
ICU管理
52%
四肢
25%
複視
9%
人工呼吸器管理
20%


構音障害
7%




顔面の痺れ
1%



MRI所見
脊髄病変

脳病変

頸髄病変
87%
大脳病変
11%
胸髄病変
80%
小脳病変
11%
円錐-馬尾病変
47%
脳幹病変
35%
腹部神経造影
34%
橋病変
78%


延髄病変
75%


中脳病変
28%

アウトカム
機能予後

筋力

完全介助
14%
改善せず
20%
一部介助
68%
一部改善
73%
自立
18%
完全に改善
5%


増悪
2%
2015年の日本国内のEnterovirus D68アウトブレイク時におけるAFM 59例の解析
(Clinical Infectious Diseases® 2018;66(5):653–64 )
・小児は55, 成人は4
AFMの発症頻度とEnterovirus D68症例の増加は相関あり

59例の解析

髄液, 血清学検査

・細胞増多は85%と高頻度
 発症早期での検体では95%さらに高頻度となるが, 時間が経過すると感度は下がる
蛋白上昇は46%程度

発症〜の時間経過とCSF細胞増多

AFMの対応
・対症療法, 病状の進行による嚥下障害や呼吸不全の評価は重要
・薬物治療については確立されていないが, IVIGや血漿交換が試される.

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まとめると, 
・AFMは小児多い疾患. 成人例は数える程度ではあるが, ありえる.
・上気道感染症, 消化管感染症後数日経過して急性に出現する弛緩性麻痺, 腱反射の減弱を特徴とし,
・麻痺は上肢, 下肢どちらからも生じ, 左右非対称性が多く, 進行すると呼吸不全や嚥下障害も呈する.
・四肢麻痺以外には顔面麻痺や嚥下障害, 複視もありえる.
・検査では頸髄, 胸髄に長軸方向の灰白質病変が認められ, CSFでは単核球優位の細胞増多を認める. ただし時間の経過とともに細胞増多の感度は低下する.
・鑑別で重要なのはGBSやNMO
・治療は確立されていないが, IVIGなど.


2018年11月26日月曜日

高TG血症に対するイコサペント酸エチル

Cardiovascular Risk Reduction with Icosapent Ethyl for Hypertriglyceridemia. N Engl J Med
REDUCE-IT: 心血管疾患や糖尿病+心血管疾患リスク因子があり, 且つスタチンを使用し, LDL-C41-100mg/dLである患者で, さらにTG 135-499mg/dLを満たす群8179例を対象としたDB-RCT.
・患者は45歳以上で心血管疾患既往がある群
  50歳以上で糖尿病+1つ以上の心血管疾患リスクがある群 ,
  スタチンを使用しLDL-C 41-100mg/dL且つTG 135-499mg/dLを満たす
・重症心不全, 重症肝疾患, HbA1c >10.0%, 冠動脈カテーテルや手術を予定している患者, 膵炎の既往(急性・慢性), 魚介類へのアレルギー歴がある患者は除外.

上記患者群を
Icosapent ethyl 2g bid vs Placeboに割り付け, 心血管イベントリスクと比較.
・70.7%が二次予防としての投与群.
フォロー期間は4.9

母集団

アウトカム:

A: 心血管死亡, MI, Stroke, 冠動脈再灌流療法, UAPのリスクは有意に介入群で低下する
 4.9年のフォローにおいてARD 4.8%[3.1-6.5], NNT 21[15-33]

アウトカム別の評価でも, ほぼ全ての項目で有意差を認める.

サブ解析
・特に二次予防において有用と言える

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心血管疾患既往があり, さらにスタチン投与下でもTGが高値の場合はイコサペント酸エチルを考慮する.
もしくはリスクが高い患者では一次予防も考慮するか.

2018年11月22日木曜日

症例: 70歳台男性, 難治性肺炎, CO2貯留

病院受診歴なし, 喫煙は20-30 pack-yの70歳台男性.

3週間前より咳嗽を自覚. 持続するために近医受診し, XPで肺浸潤影を指摘.
内服抗菌薬を開始. その後も改善乏しく, 1週間前より入院加療となりABPC/SBTが開始された.

その後も肺炎の改善が得られず, 意識障害が進行. PaCO2 110mmHgと高値であり, 転院となった.

来院時GCS E1V1M4, RR 26, SpO2 79%(8L), BP 120/50, HR 128bpm
呼吸は浅く, 両側のAir入りは不良. Wheeze聴取せず両肺で湿性ラ音を聴取.
胸部XPでは両側びまん性の斑状影+

胸部CTでは以下のような所見:

やたら気管支壁の肥厚と小葉中心性陰影が目立つ印象.
また中枢気管にも違和感を感じ, 縦隔条件でじっくり見直すと,

中枢気管の全周性の壁肥厚が顕著.

抗菌薬に反応しない増悪する病態.
全周性の中枢気管〜末梢気管まで壁肥厚が強い, 気管気管支炎

さてこの病態は?























この時点である疾患を疑い, 気管内吸引を行いグラム染色へ.
すると以下のような所見を認めた.













診断
 アルペルギルス性気管気管支炎
 (おそらく)偽膜性アルペルギルス性気管気管支炎(Pseudomembranous Aspergillus tracheobronchitis)


アルペルギルスによる気管気管支炎
(The Scientific World JOURNAL (2011) 11, 2310– 2329)


侵襲性肺アスペルギルス症の一部に侵襲性気管気管支炎が含まれ, この中には潰瘍形成や偽膜形成のパターンがある.

アスペルギルス気管支炎 148+8例のLiterature review
(Medicine 2012;91: 261-273)
・背景疾患は悪性腫瘍, 血液腫瘍幹細胞移植, 臓器移植, 自己免疫性疾患COPD, 慢性肺疾患など.
免疫抑制療法中の患者も多い.

臨床症候と画像所見
・症状は呼吸器症状, Wheeze, Stridor, 血痰など.
・画像では気管気管支壁肥厚や肺浸潤影が認められるが, 約半数が正常
([Am J Med Sci 2013;346(5):366–370.] )

気管支鏡所見
・偽膜形成や閉塞病変, 潰瘍性病変が認められる.
・原因菌はA fumigatusが多い.
([Am J Med Sci 2013;346(5):366–370.] )

(Clin Microbiol Infect 2010; 16: 689–695)の論文では, 気管支鏡所見から, 侵襲性アスペルギルス性気管気管支炎を4タイプに分類
・Type I: 粘膜の炎症, 粘膜発赤, 表在性の潰瘍があり, 偽膜を形成しているパターン
・Type II: 炎症や潰瘍が深部達し, 基質層や気管軟骨の障害, 気管構造の破壊を認める
・Type III: 著明な偽膜形成やポリープ, 壊死性物質により, 気管内腔の50%以上を閉塞している病態
・Type IV: 上記の混合型(2タイプ以上)