複数弁の心内膜炎を疑ったが, 複数弁の心内膜炎ってあまり経験がない.
いろいろ調べてみよう.
複数弁の心内膜炎 = Multivalvular Endocarditisについて
複数の弁(主に2箇所)で生じるIEをMultivalvular Endocarditisと呼び, 心内膜炎の15%で認められる.
・Left-sided(M弁とA弁)ではA弁の心内膜炎がM弁に波及するパターンがほとんど.
他にはRight-sided, Left-sidedの合併するケースもある.
・単一弁の心内膜炎よりも重度で, 心不全合併率も高いとされる
また手術治療を必要とするケースが多く, 手技も複雑となる
(Curr Infect Dis Rep (2010) 12:237–243)
フランスのNancy大学病院において, 10年間で治療したIE症例300例(Duke基準で診断)のうち, 42例(14%)がMultivalvular
また, 他の511例のIE症例の解析では, 88例(17%)がMultivalvularであった.
(Curr Infect Dis Rep (2010) 12:237–243)
単一弁と複数弁のIE症例の比較
・年齢や性別には差はない.
・部位はM弁+A弁が7-8割を占める
・背景心疾患も大きな差はない.
診療症状, エコー所見
・心不全合併率や心外症状は複数弁IEで若干多め
・エコー所見も若干複数弁IEで疣贅は目立ち, 逆流も多い
Multivalvularでレンサ球菌, 特にD群レンサ球菌が多い
・Staphylococciや口腔内レンサ球菌は少ない
・D群レンサ球菌: Enterococcus faecalis, faeciium, durans, Streptococcus bovis
S. bovisとEnterococcusによるIEを比較
1988-2014年に診断されたS. bovisによるIE 109例とEnterococcusによるIE 36例を評価, 比較した報告.
・S. bovis菌血症の48.8%でIEを合併. 特にS. gallolyticus
Enterococcus菌血症では3.4%でIEを合併
・MultivalvularはS. bovis IEの28.4%で認められる.
Enterococcusでは5.6%のみ
・症状の期間は30-50日以上
・大腸腫瘍はS. bovisの64.2%, Enterococcusの25%で認められる
ということでMultivalvularはD群レンサ球菌でも, さらにS. bovisで特に多いと言える
S. bovisによるIEといえば, 大腸癌に起因する原因菌として有名
ここでS. bovisと悪性腫瘍について調べてみる
45例のS bovis 菌血症例の解析
(Arch Surg. 2004;139:760-765)
・内12例(27%)で心内膜炎を合併.
・腫瘍は26/45(58%).
大腸腺腫性ポリープ14例, 浸潤性大腸癌3例, 十二指腸腺癌1例, 膵癌3例, 胆嚢癌1例, 肺癌1例, 卵巣癌1例, CML 1例, CLL 1例.
・消化管外の悪性腫瘍も多く認められる.
・現在までの症例報告をまとめると, S bovis菌血症患者における大腸腫瘍の合併率は6-71%.
>> 原則全例で下部内視鏡評価が推奨される.
また, 下部内視鏡陰性でも, 他部位の悪性腫瘍合併の可能性も残る.
S. bovis菌血症, IE患者の症例レポート, シリーズのMetaでは,
(Clinical Infectious Diseases 2011;53(9):870–878)
・S. bovis菌血症患者のうち, 大腸腺腫, 腫瘍を認める割合は39%[IQR24%]
S. bovis菌血症 + 大腸精査施行群で限定すると, 60%[IQR22%]と高率.
大腸癌合併率は18%[IQR13%], 腺腫合併率は43%[IQR22%].
また, S. bovisには3種類あり, S. gallolyticusはより大腸病変, IEとの関連が強い.
・S. bovisには3種類のbiotypeがある; I, II/1, II/2.
・S. bovis type I(S. gallolyticus)はtype IIよりも大腸病変との関連性が高い
・type IIと比較して, 大腸癌, 腺腫のリスク OR 7.26[3.94-13.36]
感染性心内膜炎合併リスク OR 16.61[8.85-31.16].
S bovis菌血症 or IEで, CF試行した98名と, 無症候性で大腸癌家族歴(+) or 症状, リスク(+)のControl群を比較.
(Clinical Infectious Diseases 2012;55(4):491–96)
・S bovisはS gallolyticus (type I)のみ.
・S bovis感染症98名中, 大腸病変を認めたのは69例.(Adenoma 57例(進行性39例), 進行癌 12例)
ということで, S. bovisと大腸腫瘍には関連はありそうである.
まとめると
・複数弁のIEではD群レンサ球菌が多い.
特にS. bovisは原因菌として多いので覚えておきたい. S. gallolyticusが関連している
・さらにS. bovisは大腸腫瘍や悪性腫瘍との関連がある.
ということで冒頭の症例は結構典型的なS. bovisによるIEなのかもしれない.
稀な病態の典型例といえようか