(Blood. 2016;128(21):2504-2509)
赤芽球癆は正球性, 正色素性貧血を呈し, 網赤血球の低下と骨髄所見における赤芽球の消失, 著明な減少を特徴とする病態
・先天性ではDiamond-Blackfan症候群で認められる.
・後天性では全身性疾患に合併する二次性と特発性がある.
特発性赤芽球癆では自己免疫が関連することが多い.
二次性では膠原病(SLE), リンパ増殖性疾患, 感染症(特にParvovirus B19), 胸腺腫, 他の固型腫瘍, 薬剤が主な原因.
PRCAの原因
(Rational management approach to pure red cell aplasia Haematologica)
Parvovirus B19関連PRCA
・Parvovirus B19はヒトの赤血球前駆細胞に感染し, 溶血性疾患(鎌状赤血球症など)においてAplastic crisisを生じる.
また, 免疫不全患者では慢性経過のPRCAをきたす
Epo誘発性抗体関連PRCA
・Epoを投与することで, まれながらエリスロポエチンに対する自己抗体が誘発されることがあり, その結果PRCAを生じる
胸腺腫関連PRCA
・二次性PRCAで最も多い原因.
胸腺腫に伴うもの以外に, 胸腺腫切除後に生じることもある
・胸腺腫自体ではPRCAの合併頻度は5%未満
・PRCAでは7-10%で胸腺腫を認める
リンパ増殖性疾患関連PRCA
・PRCAの合併が多く報告されているのはCLL, LGL(large granular lymphocyte leukemia). 他にはHodgkin, non-Hodgkin lymphoma, Waldenstrom macroglobulinemiaで報告あり
(The Scientific World Journal Volume 2012, Article ID 475313 )
薬剤, 毒素性PRCA
・50種類以上の薬剤がPRCAに関連.
妊娠関連PRCA
・妊娠でもPRCAは生じる. 多くは分娩後に改善する
ABO不適合造血幹細胞移植後
・ABO不適合造血幹細胞移植で7.5%でPRCAを生じる.
・A型のドナーからO型のレシピエントへの移植で報告例が多い
・輸血で数カ月の経過で自然に改善することが多いが, 30-40%は慢性経過となる
PRCAの経過, 診断
症状や所見に得意的なものはない.
PRCAでは緩徐に貧血が進行するため, 代償が効いており, 貧血症状は出にくい.
・二次性では原疾患に関連する症状が認められることはある
血液検査では正球性, 正色素性貧血となる.
・また, 網赤血球は通常<1%, <10000/µLとなる
網赤血球の低下が無い場合は他の疾患を考慮すべき
・WBCやPLTは正常~軽度低下程度となる
PRCAの骨髄所見
・PRCAの診断には骨髄穿刺, 生検が必要.
・骨髄所見では, 骨髄球, 巨核球系は正常で, 赤芽球系の著明な低下(骨髄細胞中の<1%)が認められる
・前赤芽球や好塩基赤芽球が少数認められるが5%を超えない
・大型で細胞質に空洞を伴う前赤芽球はParvovirus B19感染で認められるが, 特異的所見ではない
・リンパ球, 形質細胞は軽度増加し, 炎症や自己免疫系の亢進が示唆される.
・環状鉄芽球は認めず, 認めればMDSを考える
骨髄検査では同時にMDSやリンパ増殖性疾患, 形質細胞性疾患, 骨髄線維症などの評価, 除外も行う.
他の検査として,
・PRCAでは原則全例でParvoviru B19の評価を
・検査は末梢血のPCRが推奨(国内では困難なのでIgM)
画像評価にてリンパ増殖性疾患や胸腺腫の評価も行うべき.
PRCAの治療
・Diamond-Blackfan症候群ではステロイドが使用される.
不応性の場合は造血幹細胞移植が考慮される.
・Myelodysplastic Primary PRCAではMDSに順じて治療
・薬剤が疑われ, 他の原因がない場合は薬剤の中止で対応する
・他, 明らかな原疾患がある場合は原疾患治療が優先(リンパ増殖性疾患, SLEなど)
特発性自己免疫性PRCAの治療
原発性自己免疫性PRCAや, LGL leukemiaに伴うPRCA, 固形腫瘍に伴うPRCA, 治療に不応性の二次性PRCAでは免疫抑制療法を行う
・治療の目標は輸血なしでフォロー可能なHbを維持すること.
・免疫抑制療法で2/3が反応する.
・まず行われるのはステロイド. ITPと同様にPSL 1mg/kg程度で開始
約40%で反応し, 改善すれば徐々に減量する.
再増悪する場合, 反応が乏しい場合は他薬剤を併用
他の免疫抑制療法
・最も効果が見込めるのはシクロスポリンA
・第一選択もしくはPSLに次いで第二選択となる.
投与量は6mg/kg/dで開始し, トラフ値150-250ng/mLで維持
・タクロリムスも使用されるが, それ自体がPRCAの原因にもなり得る
他にはアザチオプリン, シクロホスファミド, リツキシマブなど
薬剤別の反応率
(Rational management approach to pure red cell aplasia Haematologica)
治療フローチャート
(Rational management approach to pure red cell aplasia Haematologica)
他の二次性PRCAに対する治療
Parvovirus B19感染によるPRCAの治療
・PRCAの全例でParvovirus B19は評価すべきで, 陽性ならばIVIGが有効な可能性がある.
・ITPに準じて, 0.4g/kg/dを5日間使用する
・93%がIVIGに反応するが, 1/3が再燃. 再燃までの期間は4.3ヶ月
胸腺腫関連PRCAの治療
・胸腺腫に伴うPRCAの場合は基本的に切除を考慮するが, それで改善が見込めるのは1/3程度で再燃も多い.
・胸腺腫切除後にPRCAを発症することもある.
・免疫抑制療法の併用を行うべきで, そもそも切除すべきかどうか, まだまだ議論があるところ.
Epo誘発性自己免疫関連PRCAの治療
・シクロスポリンA ± PSLが1st Choice.
・改善後に再度Epoを投与可能かどうかは試されているものの, 再誘発リスクも高く, 基本的には避けるべき.
妊娠関連PRCAの治療
・そもそも希なため, 明確な治療指針はない.
・大半の患者は分娩後に改善するため, 輸血でつなぐことが多い.
もしくはPSLを使用する
・シクロスポリンや他の免疫抑制療法は奇形や胎児死亡リスクとなるため避ける
後天性慢性PRCAに対する免疫療法の長期予後
日本国内からの報告.
(British Journal of Haematology, 2015, 169, 879–886 )
・特発性PRCA 72例, 胸腺腫関連PRCA 41例, LGL leukemia関連PRCA 14例の長期予後を評価
・発症年齢は18-89歳. 中央値62歳.
男女比は51:76
観察期間の中央値は87.6ヶ月[0.5-274.3]
生存期間は
・特発性PRCAで平均212.6ヶ月[183.3-242.0] (予測値)
・胸腺腫関連PRCAで中央値142.1ヶ月
・LGL leukemia関連で中央値147.8ヶ月
62例の後天性PRCA(特発性52%)のフォロー
(Rational management approach to pure red cell aplasia Haematologica)
治療選択とその反応性
・最も多い初期治療はシクロスポリンA + PSLで, Overall RRは76%,
初期治療CRRは40%, 全体CRRは49%であった.
またRRはnon-LGL群で有意に良好(84% vs 55%)
初期治療でシクロスポリンを使用しなかった理由は主に腎不全
・ついで多い治療がシクロホスファミド
Overall RRは47%, 初期治療CRR 15%, 全体CRRは27%
CsAには劣る結果
・LGL関連PRCAではシクロスポリンへの反応性はやや落ちる