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2017年9月28日木曜日

ARDSでは肺リクルートメント, 高PEEPは害かも

Effect of Lung Recruitment and Titrated Positive End-Expiratory Pressure (PEEP) vs Low PEEP on Mortality in Patients With Acute Respiratory Distress Syndrome A Randomized Clinical Trial. JAMAより

中等症~重症ARDS患者1010例を対象とし, Lung Recruitment + High-PEEP vs Low-PEEP群に割付け, 比較.
患者は発症72時間以内の中等症~重症ARDSで人工呼吸器管理が行われてる患者群を対象.
・<18, ここ2時間で昇圧剤使用量が増加している群, MAP<65mmHg, CO2血症が禁忌な病態(頭蓋内圧亢進や冠動脈症候群), 気胸, 皮下気腫, 縦隔気腫, 緩和ケア対象患者は除外
・割付前に患者はARDSNetLow-tidal vol strategyに則り, FiO2 1.0, PEEP 10cmH2O3時間管理. その際血液ガスを評価し, P/F<200を確認.

対象患者を以下の2群に割付け
・Low-PEEP: ARDSNetの推奨通りのFiO2に対応したPEEP設定を使用.

・Lung recruitment + High PEEP: 神経筋ブロックを行い, 血行動態を維持しつつLung recruitementを行う. RecruitmentPCモードで, PS 15cmH2Oに設定. PEEPを最初の1分間は25cmH2O, その後35cmH2O1, 45cmH2O2分維持.
 その後PEEP23cmH2Oに減らし, VCモードに変更.
 静肺コンプライアンスを評価しつつ, 3cmH2O/4分でPEEPを減量し(最低11cmH2Oまで), 最も良好なコンプライアンスを評価. その値+2cmH2Oで維持
 P/F比が改善してくれば, 24時間この設定を継続した後に2cmH2O/8hの速度でPEEPを減量.
 N=556の時点でRecruitementの方法を変更(25, 30, 35cmH2O1分間維持)
 さらにPEEPの調節も3cmH2O/3分で減量するように変更された

他の呼吸器設定は両者で統一. VCモードを使用.

母集団

アウトカム
・Low-PEEP群では有意に死亡リスクは低下
High-PEEP群では呼吸器管理期間が短縮
 しかしながら気胸やBarotraumaは増加

High-PEEPでは7日以内の死亡NNH 15.6
 Barotrauma NNH 71.4
 また, 血行動態不安定となるリスクも上昇

サブ解析

2017年9月27日水曜日

マイコプラズマによる皮疹

Mycoplasma pneumoniaeは非定型肺炎をきたす原因菌の1つ.
・直径330nmの小さい細菌.
 細胞壁を持たず, この世で最も小さいFree-living organism.
・潜伏期間は2-3wk
・~50%は城気道症状のみで肺炎を伴わない.
 肺炎を認めるのは感染例の3-10%のみ.
・呼吸器感染では, 気管支壁との親和性が高く, CTでは気管支壁肥厚をよく認める.
 また, 気管支壁周囲の粒状影, GGO, 小葉中心性陰影を認める.
 咳嗽などの症状が強い理由.

マイコプラズマ肺炎では肺外症状を25%で認める.
・肺外症状は肺炎に先行, 併発, 肺炎後の発症など様々なタイミングで出現する.
・肺炎を伴わない場合もあり, 免疫反応が関連している
・肺外症状では神経, 心臓, 皮膚, 筋骨格系, 血液, 消化管で多い
 皮膚症状では丘疹, 水疱, 多形滲出性紅斑, SJS
 神経では脳炎, 髄膜炎, 視神経炎, 脳神経麻痺, GBS
 筋骨格系では関節痛, 関節炎, 筋痛. 急性感染症の14%で認める
 心臓では心外膜炎, 心筋炎があるが, 多くはない. 1-8.5%程度
 血液では溶血性貧血, TTP, 再生不良性貧血
 他には急性死優待腎炎, IgA腎症,
 中耳炎, 外耳道炎, 鼓膜炎, 難聴など様々
(Clin Microbiol Rev. 2004 Oct;17(4):697-728,)

マイコプラズマの直接浸潤による症状, 障害

マイコプラズマ感染による免疫反応による症状, 障害
(Clin Microbiol Infect 2008; 14: 105–115)

マイコプラズマによる皮膚, 粘膜障害
・Mycoplasma感染症の25%で皮膚症状が認められる.
 皮膚症状は様々であり, SJS, 多形滲出性紅斑, TENもある.
 皮膚症状を伴わず, 粘膜病変のみのSJSもあり得る(Fuch症候群)
(Clin Microbiol Infect 2008; 14: 105–115 )
・Mayo clinicにおいて, 8年間で診断したSJS27例のうち6(22%)Mycoplasmaであった
(Mayo Clin Proc. 2010;85(2):131-138 )

MycoplasmaによるSJS, EM(多形滲出性紅斑)をLiterature reviewにて評価
(J Am Acad Dermatol 2015;72:239-45. )
・95文献より202例を解析
・年齢は11.9±8.8歳.
前駆症状は悪寒や咳嗽, 発熱で前駆症状~皮疹までは1週間[平均8±5]
皮疹や粘膜所見

日本国内のMycoplasmaによるSJSの解析
(Allergology International. 2011;60:525-532 )
・1981-2009年に論文で報告された日本人のMycoplasmaによるSJS症例38例と, 2000-2009年に報告された日本人の薬剤性SJS 78例を比較
・年齢分布: MycoplasmaによるSJSは圧倒的に若年で多い.

粘膜病変の比較
・Mycoplasmaでは眼病変の頻度が高い.

臓器障害の頻度
・薬剤性では肝障害が多く, Mycoplasmaでは当然呼吸器障害が多い

発熱や呼吸器症状~皮膚/粘膜障害出現までの期間
・<20歳では数日2週間程度遅れるが≥20歳ではほぼ同時に出現している

2017年9月25日月曜日

CRPS 再掲

CRPS: Complex regional pain syndrome

外傷後に生じる神経性疼痛を呈する病態の総称.
・Causalgia, Sudeck atrophy, Reflex sympathetic dystrophy, Algodystrophy, Post-traumatic dystrophy, Shoulder-hand syndromeといった病態を含む.
手術治療後に多く, 末梢の疼痛, 浮腫, 発汗低下, 血管調節障害運動障害を呈し, しばしば社会復帰を障害させる.
疼痛が主だが, 筋萎縮や感覚障害もあり
 疼痛は末梢, 局所的であることが多く, 間欠的で誘因無く出現する.
また, 明確な診断Criteria, 特異的な検査所見, 治療も無く臨床的に問題となり易い.
(Indian J Plast Surg. 2011 May-Aug; 44(2): 298–307.)

CRPSの頻度は<2%と稀.
報告によっては5.5-26.2/100000との報告もある.
・40歳台の女性例が76%を占める.
部位は上肢が下肢の2倍を占め, 骨折がトリガーとして最多(46%)
 10-26%は明らかなトリガーが認められない.
喫煙や飲酒, 糖尿病との関連性は無し.
外傷後の発症頻度は母集団が不明瞭であり分かっていない.
 Dupuytren拘縮に対する筋膜切除術の4.5-40%,
 手根管症候群の術後 2-5%
 橈骨遠位骨折の22-39%で合併する報告あり.
(Indian J Plast Surg. 2011 May-Aug; 44(2): 298–307.)

外科処置や骨折におけるCPRSの合併頻度
(Burns & Trauma (2017) 5:2 )


CRPSの症状: 3つのステージ
CRPSでは急性期(0ー6ヶ月程度), 慢性期(6ヶ月以降)に分類.
さらに細かくAcute, Dystrophic, Atrophic stageで分類される.

Stage I (Acute stage 0-3m); 疼痛と感覚障害で特徴づけられる.
・Hyperalgesia, allodynia. 血管調節障害浮腫や発汗障害・発汗異常を来す.
皮膚温も高めで紅潮, 発赤が認められる.
一部に最初から皮膚温が低い ”Primary cold CRPS1”もある

Stage II (Dystrophic stage 3-9m); より疼痛, 感覚障害が増強し血管調節障害が持続性となり, 筋萎縮も出現する
・浮腫は消失し, 皮膚は薄く, 皮膚温は低下

Stage III (Atrophic stage: 9-18m); 疼痛, 感覚障害は減弱するが血管調節障害は持続し, 筋萎縮が著明となる.

症状, 所見の一例
(BMJ 2014;348:g3683)


CRPSの機序
大半の患者で外傷や虚血, 神経圧迫のトリガーがあるがなぜ一部の患者でCRPSを発症するかは不明瞭な部分が多い.
・多因子が影響している可能性が高く皮膚神経の障害, 末梢, 中枢の感受性の障害, 交感神経の機能障害カテコラミン循環の低下, 局所の炎症性サイトカインの上昇局所の抗炎症サイトカインの低下, 遺伝的問題, 神経的問題が挙げられる.
心筋梗塞や脳梗塞後に生じる例もある
(Neurology 2013;80:106–117)(Indian J Plast Surg. 2011 May-Aug; 44(2): 298–307.)
(PM R 9 (2017) 707-719)

CRPSの診断
・CRPSの診断は病歴と身体所見による臨床的診断が基本.
・IASPの診断criteria(1994)は感度99%だが, 特異度は41%
 (1) トリガーとなり得る損傷, 体動不能な原因がある
 (2) 誘発の程度に見合わない疼痛, 異痛症, 疼痛過敏がある.
 (3) 疼痛部位に浮腫, 皮膚の血流変化, 発汗異常がある
 (4) 他に考えられる病態が無い.
 診断には2,3,4が必須. 1はどちらでもよい.
 “Major nerve damage”が無い場合 CRPS I, ある場合 CRPS IIと呼称.
(Indian J Plast Surg. 2011 May-Aug; 44(2): 298–307.)

Budapest criteria(2003), 感度99%, 特異度68%
 以下の4項目から3項目以上において, 1つ以上の症状があり同様に2項目以上において1つ以上の所見が認められる.
  感覚
  血管運動
  発汗/浮腫
  運動/筋萎縮
 他の診断が除外される.
 神経損傷を伴うCRPSCRPS type II, 損傷を伴わないものをCRPS type Iと呼び更にIASPを満たすがBudapestを満たさないものをCRPS-NOSと呼ぶ
(Indian J Plast Surg. 2011 May-Aug; 44(2): 298–307.)

Budapest criteria

・症状が4/4, 所見が2/4を満たす場合は感度70%, 特異度94%
(Pain Medicine 2013; 14: 180–229)

CRPSの検査所見
単純XP; 初期では正常像でも, 時間の経過と伴に関節周囲や斑状の骨萎縮を伴うことがある.
・発症2wk後から認められ始めることがある.

3相骨シンチ; Tc99m bisphosphonateが最も高感度.
・Flow image(I), blood pool image(II), Skeletal phase(III)で評価しI, II相では斑な造影 (血管運動障害) III相では取り込み増強が認められる.
 1相は投与中, II相は投与後3-5分, III相は投与後2-5時間で評価する.
・III相にけるMCP, IP関節周囲のバンド形成状の集積はCRPSに特異的.
(BMC Neurology 2013, 13:28)

CRPS1に対する骨シンチの診断能を評価したmeta
・3相骨シンチの感度 54-93%, 特異度 72-93%.
 感度は診断RSをどれにするかで異なる
(PLoS ONE 12(3): e0173688)

他の検査:
・Thermography; 両側の同じ部位で皮膚温を測定し0.5度の差があれば陽性. 1.0度の差は著明な左右差ありと判断
・発汗テスト; Indicator-starch powderを罹患部位に塗り発汗によるPowderの変色を捉える.
 他の発汗試験も可で, CRPSの臨床所見との相関が認められる.
交感神経ブロック; 交感神経由来の疼痛と非由来の疼痛の鑑別はPhentolamine(α1, 2-R阻害薬)IVにて鑑別が可能.
 交感神経由来の疼痛(SMP)では投与後短期間疼痛が改善.
 また, ブロックも有用で, 上肢ならば星状神経節ブロック下肢ならば傍腰椎ブロックで疼痛, 症状が改善する.
(Indian J Plast Surg. 2011 May-Aug; 44(2): 298–307.)

CRPSの診断アプローチ
(Neurology® 2015;84:89–96)

CRPSの治療
治療の目標は疼痛コントロールと四肢機能の改善.
・どの治療が優れているか, 有用かを評価したStudyは少なくほぼEmpilicalな治療となる.
早期発見, 介入が予後に重要であり疑いの時点でペインクリニックへの紹介も1つの手段となるまた, 精神面の対応も必要.

Physical therapy; 1st lineとなる治療で, 効果も期待できる
・患肢の固定と牽引から始めマッサージ, 挙上, 緩徐なROM運動, 等張性運動を行ってゆく.
疼痛が改善してくればその分強度を増やすが疼痛が増強する様なPhysical therapyは行ってはダメ.
風呂や電気療法も効果が期待できる.

薬物治療; 疼痛を緩和する目的での投薬
・NSAID, COX-2阻害薬, Opioidが緩和に有用.
他にはGabapentin, Carbamazepine, Ca-modulating drugs(nifidipine, amlodipine, calcitonin, bisphosphonate)が効果が期待できる.
・ステロイドは急性のCRPS症例では効果が証明されている.
 急性例では炎症性サイトカインが多い病態でありサイトカインが少ない慢性例で効果があるかどうかは不明.
 また, 効果が期待できるCRPSと期待できないCRPSが存在する
 PSL 30mg/d 2-12wkの投与, もしくは30mgより開始し, 3wk程度で減量する方法.
・NSAIDについては効果が証明された報告はない
(Indian J Plast Surg. 2011 May-Aug; 44(2): 298–307.)(Pain Medicine 2013; 14: 180–229)(Burns & Trauma (2017) 5:2 )

Bisphosphonateによる治療
Bisphosphonate(alendronate, pamidronate, clodronate)Placeboと比較して有意に疼痛緩和効果が示された薬剤.
3日間のAlendronate IV, もしくはAlendronateの経口投与はCRPS患者の疼痛, 浮腫, ROMを有意に改善させたRCTあり. Meta-analysisでもBisphosphonateの効果は認められている.
(Can J Anesth/J Can Anesth (2010) 57:149–166)

CRPS1に対するBisphosphonateMeta-analysis
(Joint Bone Spine 84 (2017) 393–399 )
・Moderate~good quality4 RCTsを評価. N= 181
アウトカム
・短期的な疼痛VASは有意にBisphosphonate群で低下あり SMD -2.6[-1.8~-3.6]
 中期的な疼痛VASも有意に低下: SMD -2.5[-1.4~-3.6]
ただし, Bisphosphonateではより副作用リスクが上昇35.5% vs 16.4%, RR 2.1[1.3-3.5], NNH 4.6[2.4-168.0]
 深刻な副作用は両群で認められず

ブロック, 外科治療
Regional anaesthesia techniques; 運動療法, 薬物でも反応不良な例.
・2つの方法がある; 交感神経ブロックと交感神経, 体性神経ブロック.
 交感神経ブロックは, 診断的ブロックにて著明に改善した例で選択され交感, 体性神経ブロックは著明に改善しなかった例で選択される.
ブロック後は速やかに運動療法を開始.
 連日のブロック, もしくは隔日のブロック+鎮痛剤使用は大体3wk程度継続され, 運動療法が進めばブロックの効果が認められたと判断.
効果が無い場合は長期の鎮痛剤使用を考慮する必要がある.

手術治療; 外科的, 科学的交感神経切除術
・Controlled trialが無い点, 合併症が多い点からこの治療は推奨されない.

他の治療
・免疫調節療法: 神経の炎症がCPRSに関連していることからLenalidomineThalidomideといった抗炎症作用, 免疫調節作用がある薬剤が試されて, 疼痛の改善効果が得られている.
高気圧酸素療法: 疼痛の緩和,  ROM制限や浮腫の改善が期待
Botulinum毒素A: 疼痛の改善効果
・血漿交換: 自己免疫機序の炎症が関与している場合に効果的

治療のまとめ


CRPSの自然経過:
・102例のCohortでは, 5.8年の経過で, 30%が完全に改善. 16%が増悪, 54%が安定であった.
仕事も41%が復帰, 28%が復帰するも障害あり, 31%が復帰不可能.
(BMJ 2014;348:g3683)

予後因子
(J Rehabil Med 2013; 45: 225–231)