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2017年5月27日土曜日

腹部大動脈解離の誤診断

AAA破裂187例中, 初期に正しく診断できたのは99例のみ 
(CMAJ 1971;105:811-5)

誤診断の内訳
誤診断
(88)
(%)
心筋梗塞
17
19%
尿管結石
16
18%
未診断の腹痛
14
15%
憩室炎
9
10%
小腸閉塞
5
5.6%
消化管潰瘍穿孔
4
4.5%
腸管膜動脈塞栓
2
2.2%
その他
21
24%

疼痛の部位, 放散痛の頻度

腹部大動脈瘤破裂の誤診断を評価したメタ
(J ENDOVASC THER 2014;21:568–575 )
古い報告が大半. ここ30年近く報告はない.

誤診率は42%[29-55]

症状の頻度と誤診の内訳
・やはり多いのは腎疝痛とMI. 
 診断がつかなかった場合も多い.

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メタとはいえ20-30年前の報告であり, 現在のようにCTやUSへのアクセスが簡便な場合はさらに誤診率は低いであろう.
でも疑わないと診断はできないのは確かなので, やはり腎疝痛を疑った場合はエコーで腹部大動脈はちらっと見ておくことは重要.

2017年5月24日水曜日

術後, 出血後貧血には短期的な鉄IV投与を

似たような論文も過去に紹介しています

出血による貧血にはルーチンで鉄剤を


今回はJAMAよりFAIRY trialを紹介
FAIRY trial: 韓国における多施設RCT.
胃切術後 Day 5-7におけるHb7.0-10g/dLである454例を対象としFerric carboxymaltose 500mg 1回もしくは2回静脈投与(体重に応じて) vs Placebo(生理食塩水)投与群に割付け, 12wk後のHbを評価.
(JAMA. 2017;317(20):2097-2104. )
・Ferric carboxymaltoseは体重50kg以上では1000mg, 50kg未満では500mg
 血清フェリチン<15ng/mLHb<10g/dLを満たす患者では, 3wk目に再度500mgを投与(Placebo群では生理食塩水)

母集団

アウトカム

・12wkにおけるHb≥2g/dLの上昇もしくはHb≥11g/dL達成の頻度は有意に鉄剤使用群で多い結果.
上記双方ともNNT2-3程度と良好.

Sub解析
・フェリチン≥30ng/mLでもHb上昇効果は期待できる.

フェリチン値の経過

・鉄剤非投与群では12wkの経過でフェリチンが徐々に低下する経過.
一時的な出血後, フェリチンは結構減少するため初期に問題がなくても鉄を補充しておくことは重要かも
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・手術や一時的な出血後の貧血では鉄剤をIV投与でローディングしておくことは有用な可能性が高い.
・Hbが一気に低下すると, 最初は正常であったフェリチンは数カ月の経過で低下してゆく. それを前もって補うことで造血を安定させることができる.

・フェリチンをフォローしつつ考えても良いと思うが, あまり頻繁にフォローするつもりがないならば尚更よいのかも

2017年5月18日木曜日

抜管が不安になる喀痰の量は?

人工呼吸器離脱, 抜管の評価にはSBTを用いる.
SBTを成功させた後に速やかに抜管するが, それでも抜管失敗する例はある.
(失敗は抜管後48-72時間以内の再挿管で定義されることが多い)

失敗リスク因子は以下のようなものがある
(N Engl J Med 2012;367:2233-9.)

喀痰が多いというのは一つの抜管失敗リスクとなるが,
どの程度多いとダメなのか?

熱傷患者で挿管管理を行なっている125例の報告
(burns 39 (2013) 236–242 )
・SBTが成功した患者群で抜管を行い, 抜管失敗リスクを評価.
・17例で抜管失敗
・抜管失敗のリスク因子はCPF≤60L/min (cough peak flow)と気道分泌量
・気道分泌量は抜管前6時間での吸痰頻度で評価しており, 
 上記スコア4は1時間に1回以上の吸痰を必要とする場合に失敗リスクとなる.

ICUにて2日間以上の挿管管理を行い抜管を施行した122例の前向きcohort.
(Respir Care 2007;52(12):1710 –1717. © 2007 )
・全例でSBTが成功したのちに抜管.
抜管失敗(48h以内の再挿管で定義)13%(16)
抜管失敗に関連する因子は以下の3項目
 中等度~多量の気管内分泌物(軽度: 2-4h1, 中等度 1-2h1回の吸引, 多量 1hに数回)
 GCS≤10
 SBT時の高CO2血症 PaCO2 ≥44mmHg

ICUで挿管管理され, SBTが成功した100例の前向きCohort.
(CHEST 2001; 120:1262–1270)
・上記患者群で, 喀痰量, 咳嗽の強さ, White card test(WCT)など評価し抜管失敗リスクを評価した.
・WCTは気管チューブ開口部から1-2cm離して白いカードを置き患者に挿管されたまま咳嗽をしてもらう. 咳嗽は3-4回ほど行う.
 カードに喀痰が付着すれば陽性と判断する.
咳嗽の強さは主観的に0-5で評価:
 0: 咳嗽できない
 1: 空気の流れはあるが, 音はしない
 2: 軽度の咳嗽音
 3: 明らかな咳嗽音
 4: より強い咳嗽
 5: 複数の連続した強い咳嗽
・喀痰量は抜管前4-6h以内の看護師や呼吸療法士などの主観的評価
 なし, 軽度, 中等度, 多量で評価

アウトカム 抜管失敗(72h以内の再挿管)18.
・抜管失敗リスク因子:
 喀痰吸引の回数が2時間に1回以上, 中等度~多量な喀痰
 咳嗽の強さが弱い~咳嗽できない
 貧血(Hb≤10g/dL)
・WCT陰性もリスクとなる

喀痰量と咳嗽の強さの組み合わせはより抜管失敗リスク評価に有用

各指標と抜管失敗に対する感度, 特異度
・喀痰量が中等度~多量の場合もしくは2時間に>1回の吸痰を必要とする場合は強く抜管失敗を示唆する.
咳嗽の強さとWCT試験の相関性は高い.
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・上記の報告からは, SBTが成功しても喀痰量が多く, 咳嗽の力が弱い場合は再挿管となるリスクが高いと言える.
・リスクとなる喀痰量は中等度〜多量で, それは1-2時間に1回以上の喀痰吸引を必要とする程度の量と認識しておけば良さそうだ.
・咳嗽の強さはCPFなど定量的な方法もあるが, White card testや主観的評価も有用かもしれない.
・喀痰量と咳嗽の強さとの兼ね合いで抜管を検討することも大事なのであろう

2017年5月17日水曜日

変形性関節炎に対するステロイド関節注射はむしろ害かも

膝関節OAに対するステロイド注射は短期的な鎮痛作用が期待できるが, 長期的には微妙.
(JAMA 2016;316:2671-2)


有症状の膝関節OAでエコー上滑膜炎所見を認める140例を対象としたDB-RCT
(JAMA. 2017;317(19):1967-1975.)
・3ヶ月毎にトリアムシノロン(副腎ホルモン) 40mg 関節内投与群 vs 生理食塩水 関節内投与群に割付け, 2年間継続.
1回膝関節のMRIを評価し, 関節軟骨量と関節構造を評価
 また疼痛をフォローした

・患者は45歳以上でACROAクライテリアを満たし関節エコーにて滑膜炎所見, 関節液貯留を認める患者
・除外項目は罹患関節に影響を及ぼす他疾患(全身疾患, 敗血症, 骨壊死), 経口ステロイド, ドキシサイクリン, インドメタシン, グルコサミン, コンドロイチン使用, 使用歴. 関節内ヒアルロン酸, ステロイド投与歴, HIVなど

母集団

アウトカム: MRI所見
・関節軟骨の厚みはステロイド注射群で有意に菲薄化する結果.
軟骨へのダメージも多い.

アウトカム: 疼痛や関節機能, 症状の比較
・症状は両者で有意差なし.

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OAに対するステロイドの関節注射は短期的な疼痛の改善効果はあるのかもしれないが, 長期的には効果ない.
それどころか, 関節軟骨が薄くなる可能性も示唆された.

2017年5月11日木曜日

腹部のPseudohernia

中年の男性. 1ヶ月前からの右側腹部痛で受診.
腹部所見にて右側腹部が突出しているように見える.
(CT画像のスカウター, 冠状断を示す)


この所見はPseudoherniaと呼び, 腹壁筋を支配する運動神経の麻痺により生じる.
胸椎のRadiculopathy(多いのはTh10-12)や帯状疱疹後に認められる.

上記症例は胸椎領域の右椎間孔狭窄があり, Radiculopathyによるものと判断しました.

Radiculopathyに伴う症例報告やReviewは文献検索では引っかからず,
帯状疱疹後のPseudoherniaはいくつか文献があったので紹介.

NEJMの画像シリーズから
・帯状疱疹後4週間経過し皮疹が消退しかけたころに生じた腹壁の左右差.
・このように帯状疱疹の3-5%で運動麻痺を生じる
(N Engl J Med 2006;355:e1)

VZVによるPseudohernialiterature review
(PM R 2013;5:786-790)
・36例の症例報告の解析
・平均年齢は67.5, 男性例が28例と多い左右の偏りは無し.

出現のタイミング, 部位

・9割が皮疹後に麻痺が出現する
皮疹~麻痺までは1未満-3wk以上と様々
 中には麻痺のみで皮疹を認めないものもある.
部位はT10-12領域が多い

予後
完全に改善するのが64%
改善を認めないのは8%であった.
改善する場合, 1年以内に改善を認める.
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