ページ

2017年3月31日金曜日

IDSAの院内髄膜炎, 脳室炎ガイドライン2017

IDSAの院内髄膜炎, 脳室炎ガイドライン2017の概要
(Clinical Infectious Diseases® 2017;64(6):701–6)

院内感染の髄膜炎, 脳室炎の典型的な症状


CSFシャント, ドレナージ患者

・CSFシャントが入っている患者における,
・新規発症の頭痛, 悪心, 意識障害/変容
・皮下シャントチューブに一致した発赤や圧痛
CSFシャントが入っている患者における熱源不明の発熱
・脳室-腹腔シャントがある患者における腹膜炎や腹痛で他の明らかな感染原発巣が不明な場合
・脳室-胸腔シャントがある患者における胸膜炎で他の明らかな感染原発巣が不明な場合
CSFシャントがある患者の原発巣不明な菌血症
・脳室-心房シャントがある患者での糸球体腎炎
・脳室ドレナージ患者における意識状態の増悪, 出現
・脳室ドレナージ患者におけるCSF-WBCの増加, 新規発熱

脳外科手術, 頭部外傷患者

・新規の頭痛, 発熱, 髄膜刺激症状, 痙攣, 意識状態の増悪
・明らかな熱源不明の発熱

髄腔内注入ポンプがある患者

・新規発熱や創部からの浸出物を認める場合

院内髄膜炎, 脳室炎のCSF所見

細胞数, グルコース, タンパク
・CSF細胞数増加やグルコース, タンパクの異常は感染を必ずしも示唆するものではない
・同様に上記が正常でも感染を否定できない可能性もある
CSFのグラム染色陰性も感染を否定できない. 特に抗生剤投与下では.

CSF培養(ドレーン, シャント患者)
・培養検査は院内髄膜炎, 脳室炎診断に最も重要な検査
・初回培養が陰性の場合, Propionibacterium acnesなど生えるのが遅い菌を評価するため, 培養は10日以上継続する
・感染を疑う患者においてシャントやドレーンを抜去した場合, チューブを培養に提出する
・感染以外の理由で抜去した場合, 培養に提出する必要なし
・脳室-心房シャント患者での感染症疑いでは, 血液培養は必ず評価する
・脳室-腹腔, 胸腔シャント患者での感染症疑いでは, 血液培養も考慮する
・ドレーン留置中の患者における, CSF培養陽性で細胞数増加, 髄液糖低下, タンパク上昇, 髄膜炎や脳室炎を示唆する症状がある場合は, CSFドレーン感染と判断する.
・感染を疑い, 抗生剤を投与するならば, 投与前にCSF培養と血液培養は評価しておく必要がある: 抗生剤開始後の培養の感度は低下する.

CSF所見(脳外科手術, 頭部外傷後)
・CSF細胞数増多, CSF培養陽性, 髄膜炎や脳室炎を疑う症状があれば院内髄膜炎, 脳室炎と診断する.
・CSFグルコースの低下, タンパクの上昇も院内感染を示唆する
CSF所見が正常で, CSF培養で1回のみCNSなどコンタミとして多い菌が検出されても, 感染症とは見なさない.
・CSF所見が正常, 症状もない患者で, CSFから1回のみ複数菌が検出された場合, コンタミとみなす
CSF培養より黄色ブドウ球菌や, 嫌気性グラム陰性桿菌が検出された場合は感染症と考える.
・CSF培養より真菌が検出された場合, 感染症と考える.

院内髄膜炎, 脳室炎を示唆する特異的なCSF検査
・CSF中の乳酸値, CSFプロカルシトニンの上昇は感染を示唆する可能性
・血清プロカルシトニンの上昇は感染によるCSF異常なのか, 外傷や手術に伴うCSF異常なのかを鑑別するのに有用な可能性.
・CSFPCR検査は病原体の検出, 検出までの時間を改善させる可能性
CSF中のβ-D-グルカン, ガラクトマンナンは真菌による髄膜炎, 脳室炎の評価に有用と言える.

院内髄膜炎, 脳室炎における画像評価の意義
・院内髄膜炎や脳室炎を疑う患者では画像評価を行うべき
Ga造影MRI, MRI-DWIによる評価が推奨される
・脳室-腹腔シャント患者における感染疑いでは, 腹部CTやエコーにてシャント末端の隔壁形成や膿瘍形成も評価する

院内髄膜炎, 脳室炎に対するEmpiric治療
・VCM + 抗緑膿菌作用を有する抗生剤を併用する
・重症患者ではVCMトラフ値は15-20µg/mLを目標とする
βラクタムがアレルギーなどで使用できない場合アズトレオナムやシプロフロキサシンで代用する
・多剤耐性菌のコロナイズがある患者では, それに合わせてカバーを考慮

原因菌が判明した場合の治療
・MSSAが検出された場合, ナフシリンやオキサシリンが推奨 (: 両者は第一世代セフェムで髄液移行性が良好. 国内には無し. 国内の第一世代セフェムであるセファゾリンは髄液移行性がない.). βラクタムが使用できない場合はVCMや他の薬剤を使用する
MRSAが検出された場合, 第一選択はVCMとする. VCMMIC≥1µg/mLでは他の薬剤を考慮する.
・CNSが検出された場合, 感受性に応じて, MSSAMRSAに準じて治療
Staphがリファンピン感受性がある場合, 併用薬として用いることを考慮する.
・StaphVCMβラクタムが使用できない場合, リネゾリド, ダプトマイシン, ST合剤が推奨される.
・Propionibacterium acnesが検出された場合, PenGが推奨
・GNRが検出された場合, 感受性に応じて, 髄液移行性の良い薬剤を選択
GNRで第3世代セフェム感受性がある場合, セフトリアキソンやセフォタキシムを推奨
Pseudomonas属が検出された場合, セフェピム, セフタジジム, メロペネムが推奨. 代用として感受性に応じてアズトレオナムやFQを考慮
ESBL産生のGNRでは, メロペネムを使用する
Acinetobacter属が検出された場合, メロペネムが推奨. 
 カルバペネム耐性の場合, コリスチン, ポリミキシンB(双方とも静脈投与, 脳室投与で用いる)を使用する.
・耐性菌でもメロペネムを1回あたり3時間以上かけて投与することで, 効果が認められるかもしれない
・カンジダによる感染症ではLiposomal amphotericin B(よく5-flucytosineの併用が行われる)が推奨.
 臨床的に改善を認めれば感受性に応じてフルコナゾールへの変更も考慮する.
・AspergillusExserohilumによる感染症ではボリコナゾールを使用する

抗生剤の脳室投与の意義
・院内髄膜炎や脳室炎で抗生剤の全身投与で反応が乏しい場合, 脳室内投与を考慮するべき
・ドレーンから脳室内投与したあとは15-60分クランプする
・投与量や投与間隔は以下を元に考慮
  CSF中の抗生剤濃度がMIC値の10-20倍に維持
 脳室のサイズで調節
 ドレーンからの排液量を指標に調節

抗生剤の投与期間は
CNSP. acnes, CSF所見で細胞数が軽度上昇のみ, , タンパク正常, 症状も軽度ならば10日間程度.
 CSF所見異常が顕著で, 症状も強ければ10-14日間
S. sureusGNRでは, CSF所見や症状を問わず抗生剤は10-14日間継続. 一部の専門家は21日間を推奨.
・効果のある抗生剤を使用しているのにも関わらず, CSF培養フォローで持続的に陽性となった場合は, 最後に陽性となった培養から10-14日間継続する.

シャントやドレーン感染におけるチューブ抜去
・CSFシャント感染ではチューブを抜去し, 脳室ドレナージを併用する
・ドレーン感染でも感染したドレーンは抜去する事が推奨
・髄腔内注入ポンプも感染があれば抜去すべき
・深部脳刺激装置の感染でも, 感染したハードウェアは抜去する

患者のモニタリング, 治療反応性の評価
・臨床症状/所見を用いてフォローするのが基本
CSFドレナージを行なっている場合は, CSF培養のフォローを行い陰性化を確認する
・臨床症状/所見で改善を認めない場合, CSFを再評価し,
 細胞数やタンパク, 糖が改善しているか,
 培養が陰性化しているかを評価する.
・CSFシャント感染症でCSFドレナージを併用していない場合CSF所見や培養のフォローはルーチンでは行わず, 上記適応があれば行う.

CSFシャントで感染を起こし, 抜去した場合, 再留置はどうする
・CNSP. acnesによる感染で, CSF異常所見を認めず, 抜去後48時間でのCSF培養が陰性ならば再留置可能.
・CNSP. acnesによる感染で, CSF異常が残存しているが, 培養フォローでは陰性化した場合, 抗生剤治療開始後7日以降ならば再留置可.
 培養陽性が持続している場合, 培養陰性が7-10日間持続した後に再留置を行う.
・S. aureusGNRによる感染ではCSF培養陰性化 10日後以降に再留置
・シャント再留置前に感染が改善したかどうかを確認するための抗生剤off期間を儲けることは推奨しない.

CSFシャントを設ける患者における感染予防
・CSFシャント留置術 の周術期抗生剤投与は推奨される
・脳室ドレナージ術の周術期抗生剤投与は推奨される
・脳室ドレナージ中の抗生剤継続投与の意義は不明であり, 推奨されない
・抗生剤浸透CSFシャント, ドレーンの使用は推奨される
・脳室ドレナージにおける定期交換は推奨されない
CSFシャントやドレーン留置時のStandardized protocolは推奨される

脳外科手術や髄液漏における予防的抗生剤
・脳外科手術の周術期抗生剤投与は推奨される
・頭蓋底骨折による髄液漏では予防的抗生剤は推奨されない
・頭蓋底骨折による髄液漏で長期間(>7)のリークが持続している場合修復術が推奨される
・頭蓋底骨折による髄液漏では, 肺炎球菌ワクチンが推奨