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2016年12月30日金曜日

「熱が出てすぐはインフル検査をしない」は妥当か?

この時期になるとよく眼にするマネージメント:
 「まだ発熱して6時間なので、インフルエンザ迅速検査はせず、明日受診して、、、」
 「今は迅速検査陰性ですけど、また明日受診して、、、」

これは妥当なのか?

インフルエンザ感染症に対する迅速キットの感度/特異度は, Meta-analysisにて
 小児: 感度 66.6%[61.6-71.7%], 特異度 98.2%[97.5-99.0]
 成人: 感度 53.9%[47.9-59.8], 特異度 98.6%[98.0-98.9] という報告がる
(Ann Intern Med. 2012;156:500 –511.)

このMeta-analysisにおいて, 発症からの時間と感度, 特異度を記載しているStudyを抜き出したものが以下.
・論文には, 「発症12時間以内では, 感度は低くなる傾向がある」とだけされており、統計学的有意差については検討されていない.
 そもそも12時間とか、6時間とか細かく分けたStudyが少ない. また, ほとんどが小児例を対象としている.
・期間も発症〜の時間であり, 発熱ではない. そもそも「発熱がいつから出ました」とか明確にわかるわけがない.

それ以降に出たStudyを漁ってみる
インフルエンザ疑いの561名でBinaxNow Influenza A&B rapid antigen test(RAT)を施行
(American Journal of Emergency Medicine (2012) 30, 19551961)
・RSはRT-PCTで, 23.4%で陽性.
・迅速検査の感度は20-30%とやはり低い.
年齢別や症状の期間別の評価
・これは2日未満, 2-3日, >3日で分類されている. 感度はどれも低い.

0-59ヶ月でインフルエンザ様症状で受診した150例を対象
(Postepy Hig Med Dosw (online), 2012; 66: 752-757)
・RT-PCRをRSとした時の迅速検査の感度, 特異度を評価

Table3 は迅速検査における真の陽性(PCRが陽性で, 迅速検査が陽性)となるOR
・発症<48hは>48hよりも2倍の真の陽性率が望める.
・発症24h以内が最も陽性率が高い.
・48時間以降では陽性率が低下.
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他にも報告はあるとは思うが,
「発熱して間もないので検査は偽陰性が多い」というのは間違っている.
「いつ検査しても偽陰性は多い」のが正解

10000歩譲って, 「症状が出現して間もないので、検査しても偽陰性となるかもしれない. でも明日したところで変わらないだろうけどね」だと思う.

ただ, 年に1例くらいは, 昨日陰性であった検査が陽転することはある.
でも, これも検体がうまくとれていなかったとか, 色々な要素を排除する必要があると思う.

個人的な結論として,
1) いつ検査しても偽陰性が多いのだから, いつ検査しても良い.
 ただし, 感度が5-6割であることは念頭に置き, 除外できないのだから検査しても意味がないことも多い点に留意する.
2) 「明日また検査しに来てください」はダメ.
 そんなことを勧めるほど疑わしいならば臨床診断でインフルエンザと診断すべきである
 翌日検査して陰性ならば大丈夫、な訳がない. 何を目的に検査するの?

番外編として非典型例(例えば熱のみ, 倦怠感のみ)でインフルエンザを診断する意義はあるのか?
 これは人それぞれで意見があるようだ. 臨床の幅を広げるなど.
 個人的には, そのような症例は周囲への感染リスクは高くないと予測している.咳嗽や鼻汁, 嘔吐がある患者では感染リスクが高いため, 注意すべきであると思う.

 非典型例で, 咳嗽や鼻汁, 嘔吐, 下痢ないのならば, 一般の風邪や胃腸炎と同じような注意をしてもらい, そのような患者では積極的に検査は勧めていません.

2016年12月27日火曜日

非複雑性の大腸憩室炎ならば抗生剤の必要はないかもしれない

非複雑性の左側憩室炎患者623例のopen-labeled RCT
(British Journal of Surgery 2012; 99: 532–539)
・複雑性; 穿孔, 膿瘍形成(+)例.
抗生剤あり vs 抗生剤無しの群に割り付け, 両者で経過を比較.
 抗生剤は2nd, 3rd cephem + MTZもしくはカルバペネム, PIPC/TAZ,
 内服ではCPFX+MTZが選択. 7日間投与.

母集団

Outcome; 
・入院中の穿孔, 膿瘍形成合併率は両者有意差無し.
・フォロー中の手術適応例の増加も有意差は認めない.
・また, 腹痛や発熱, 圧痛の経過も両者で有意差無し.

・1年後の腹痛や排便習慣の変化, CF所見も両者で変わらない.

DIABOLO trial: CTで診断された左側の非複雑性軽症憩室炎 526例を対象とし, 抗生剤非投与群 vs 投与群に割付け比較したRCT.
(BJS 2017; 104: 52–61)
・非複雑性軽症はHinchey 1a,bで定義(結腸周囲の炎症〜膿瘍形成<5cm)
・繰り返す憩室炎や, 免疫不全, 重症例, 外科的処置必要例などは除外.
・抗生剤投与群ではAMPC/CLAを使用.

母集団

アウトカム:
・改善率は両者で有意差を認めない.
 6ヶ月際入院リスクや合併症リスクも有意差なし
 再発リスクも有意差がない結果であった.

・改善までの期間や腹痛の経過も両者で同等.

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・軽症の左側憩室炎では抗生剤Freeで経過をフォローする選択肢もアリか.
 後者DIABOLO studyでは<5cmの膿瘍(1b)も対象となっているが, 実際の母集団では90-94%が1a群(結腸周囲の炎症所見)であり, 膿瘍形成がある場合は注意が必要と考えられる.
・また, 前者のStudyでは憩室炎既往がある患者が36-45%あり, 後者のDIABOLOでは除外項目となっている憩室炎既往については気にしすぎる必要はないか.

まあ、膿瘍形成のない左側憩室炎では経過観察も手、という認識で覚えておく.

多発筋炎, 皮膚筋炎に合併する悪性腫瘍

膠原病では悪性腫瘍に合併するものもあり, 評価は重要.
参考: http://hospitalist-gim.blogspot.jp/2014/09/blog-post.html

特に皮膚筋炎(DM)や多発筋炎(PM)は悪性腫瘍に随伴する膠原病として有名である.

DMでは15-32%に悪性腫瘍を合併し, PMでは9-15%に合併.
・それぞれの悪性腫瘍RRは, PM 1.8[1.1-2.7], DM 2.4[1.6-3.6].
(NEJM 1992;326:363-7) (Lancet 2001;357:96-100)

発症からの期間と原発腫瘍の頻度(SIR) (Lancet 2001;357:96-100)

DM
0-1yr
2-5yr
>5yr
PM
0-1yr
2-5yr
>5yr
全体
13.5[10.4-17.6]
2.5[1.7-3.5]
1.4[1.0-2.0]
全体
2.6[1.6-4.0]
1.5[1.1-2.1]
0.9[0.6-1.3]
胃癌
27.5[12.4-61.3]
0[0-4.7]
1.9[0.3-13.3]
大腸癌
0[0-3.3]
1.8[0.8-4.1]
0.8[0.3-2.2]
大腸癌
8.6[3.2-22.8]
1.2[0.3-5.0]
2.3[1.03-5.1]
膵臓癌
7.5[1.9-30.1]
0[0-3.2]
0[0-2.2]
膵臓癌
7.1[1.0-50.4]
4.1[1.03-16.5]
4.1[1.3-12.6]
膀胱癌
2.7[0.4-18.8]
3.8[1.6-9.0]
0.5[0.1-3.7]
肺癌
28.3[15.2-52.5]
4.7[2.0-11.4]
2.2[0.8-5.9]
肺癌
2.3[0.6-9.3]
3.4[1.8-6.4]
1.4[0.7-3.2]
NHL
42.3[13.6-131]
0[0-12.3]
0[0-6.2]
NHL
12.6[3.2-50.3]
1.8[0.3-12.7]
2.2[0.6-8.8]
乳癌
9.9[4.1-23.8]
2.4[0.9-6.3]
1.3[0.5-3.4]
乳癌
1.3[0.2-8.9]
1.7[0.7-4.0]
1.3[0.6-2.8]
卵巣癌
72.0[37.5-138]
7.3[2.4-22.6]
1.5[0.2-10.6]




前立腺癌
9.6[3.1-29.7]
0[0-3.2]
1.4[0.4-5.6]





PM,DMにおける悪性腫瘍のリスク因子はどのようなものがあるか

DM104名, Amyopathic DM14名の診断時〜5年以内に認められた悪性腫瘍を評価.
(Medicine 2009;88: 91-97)
・1年以内に21±4%, 5年以内に28±5%で悪性腫瘍(+).
・悪性腫瘍は, 卵巣癌(7), 肺癌(5), 乳癌(5), 頭頸部(6), NHL(2), 膀胱癌(1), 前立腺癌(1), セミノーマ(1), 神経内分泌(1).

悪性腫瘍のリスクを上げる(下げる) 因子は以下の通り
Factor
HR
Factor
HR
年齢>52y
7.24[2.35-22.31]
皮膚壊死
3.84[1.00-14.85]
発症〜診断まで<4mo*
3.11[1.07-9.02]
C4低値(<16mg/L)
2.74[1.11-6.75]
爪周囲の紅斑
3.93[1.16-13.24]
リンパ球<1500/mm3
0.33[0.14-0.80]
* 皮膚, 筋症状の進行が速いことを意味する.

台湾の大学においてDM/PM 192例の悪性腫瘍を評価
(Clin Rheumatol (2016) 35:1977–1984)
・1999-2008年に診断されたPM 79例, DM 113例を対象とし, 2013年までに診断された悪性腫瘍を評価.

フォロー期間は平均5.8±4.8年. 中央値5.4[0-19.6]で33/192 (17.2%)で悪性腫瘍を診断.
・PMでは8.9%, DMでは23.0%と双方で高頻度であるがDMの方がリスクは高い.
・悪性腫瘍は鼻咽頭癌が10例(30.3%), 乳癌が6例(18.2%), 肺癌が3例(9.0%), 非ホジキンリンパ腫が3例(9.0%), 前立腺癌が2例(6.1%), 
 卵巣癌, 大腸癌, 胃癌, 子宮頸癌, 白血病, 尿管癌, 膀胱癌, 肝細胞癌, 甲状腺癌がそれぞれ1例

悪性腫瘍のリスク因子

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・DM, PMでは悪性腫瘍の合併頻度が高く, DMでは2割前後, PMでは1割前後で合併.
・合併する悪性腫瘍は消化管, 肺, 鼻咽喉, 血液, 泌尿生殖器, 乳癌など様々な腫瘍が原因となり得る. 
・DM, PM患者における悪性腫瘍のリスク因子は高齢発症(40-50歳台以上), 皮膚症状が挙げられる(皮膚症状があればDMとなるし). 

2016年12月22日木曜日

Refeeding Syndrome

(Head & Neck Oncology 2009, 1:4)(BMJ 2008;336:1495-8)

Refeeding syndromeは低栄養状態の患者に対して, 栄養を開始することで, 水分, 電解質の致命的な変化を来す症候群のこと
・低P血症が中心. Na, H2O, Glu, Prot, Fat, thiamine, 低K, 低Mgも.
・頻度は不明だが, Pを含まないTPOでは100%で低Pを生じる
 (Pを含んでも、18%で生じる)
・ICU患者では, 栄養を開始してすぐ(1.9d(1.1))に34%で低Pを認めた

Refeeding Syndromeの機序
・低栄養を続くと, 血中P, Mg, Kは低値となる.
・そこで再度栄養 ⇒ インスリン分泌 ⇒ P, Mg, Kの細胞内Shift ⇒ 低P, Mg, K血症が増悪.
・PはATP合成, RBCの酸素結合, 腎の酸塩基調節に関与
⇒ 低Pの増悪にて細胞機能が障害される
・Kの減少 ⇒ 不整脈, 心停止, 横紋筋融解など
 Mg減少 ⇒ 心機能低下, 神経筋障害
 VitB1低下 ⇒ Wernicke-Korsakoff’s syndrome, Beriberi
 水分は浸透圧により細胞内に移行し, 浮腫をきたす.

生じ得る症状
(Nutrition 30 (2014) 1448–1455)

Refeeding Syndromeのリスク因子
(BMJ 2008;336:1495-8)
Refeeding SyndromeのHigh Risk患者
Anorexia nervosa 慢性低栄養
慢性アルコール中毒  Marasmus, 長期のダイエット
悪性腫瘍  病的肥満, 持続的な体重減少
術後患者  >7d絶食の高ストレス下の患者
高齢者  吸収不良症候群
コントロール不良のDM 制酸剤(Mg, Al)の長期使用(Pと結合)

利尿薬の長期使用

NICE guidelineのHigh Risk Criteria
以下の1つ以上 以下の2つ以上
BMI <16 BMI <18.5
過去3-6moで意図せず>15%Wt loss 過去3-6moで意図せず>10%Wt loss
>10d栄養を殆ど摂っていない >5d栄養を殆ど摂っていない
栄養前に低P, Mg, Kがある アルコール中毒, 薬剤, インスリン
化学療法, 制酸剤, 利尿剤の使用

他のリスク因子
(Nutrition 30 (2014) 1448–1455)

アムステルダムの病院において, 2011年2月〜4月に内科に緊急入院となった178例中, 97例(54%)がNICE criteriaを満たした
(Neth J Med. 2016 Mar;74(3):116-21.)
・このうち14例でRefeeding syndromeを発症(リスク群の14%)
・低リン血症+臨床症状で診断.
・非リスク群の81例からは低リン血症が1例のみ

特にRefeeding syndromeのリスクとなる因子は,
 入院時の低BMI
 悪性腫瘍による入院
 悪性腫瘍の既往 であった

入院成人患者で栄養が開始された243例の前向きCohort.
(BMJ Open 2013;3:e002173.)
・このうち133例がNICE criteriaで高リスク群に分類.
・10日以上の栄養摂取不良, >15%の体重減少, 初期Mg低値は感度66.7%, 特異度>80%でRSを予測(体重減少は59.1%)
・初期Mg低値は独立したリスク因子であった

Refeeding Syndromeの予防
栄養開始前にP, Ca, K, MgをCheck, Risk FactorをCheck
・カリウム 2-4mEq/kg/d, リン 0.3-0.6mEq/kg/d, Mg 0.2mEq/kg/d IVもしくは0.4mEq/kg/d 経口
栄養開始前にThiamine, Vit B, 電解質補正をStart
・Thiamineは200-300mg/dで開始.
・他マルチビタミンやビタミンB合剤も1日3回投与で開始する
 上記補正は少なくとも10日間は継続
栄養は低Calより開始し, 4-7dで徐々にUPし目標値へ
・10kcal/kg/24hより開始する.
・BMI≤14の高度低栄養の場合, 心臓, 循環モニタリングしつつ, 5kcal/kg/24hより開始
栄養開始後2wkは電解質バランスをフォローする

NICEガイドラインにおけるRefeeding syndrome予防のフローチャート
(Head & Neck Oncology 2009, 1:4)

ICU患者でRefeeding syndrome(低P血症で定義)となった339例を対象とし通常の栄養管理 vs 栄養制限群に割り付け, 比較したRCT.
(Lancet Respir Med 2015; 3: 943–52 )
・患者は≥18歳のICU患者で, 栄養を開始して72h以内に血清P <0.65mmol/L(2.0mg/dL)となった患者群(基礎値より0.5mg/dL以上の低下も必要)
・他の低P血症の原因がある場合は除外(透析, 最近の副甲状腺切除, 高P血症の治療中など)

栄養制限プロトコール:
〜2日間
2日〜

20kcal/h
リンの補正必要なし
40kcal/h, 60kcal/hを経て2-3日で通常量へ

リン補正必要あり
20kcal/hで継続

途中で再度リン低下
20kcal/hへ
アウトカム: 各指標の変化

アウトカム: 
・60日、90日生存率は有意にカロリー制限群の方が良好な結果.
 入院期間は長くなる

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Refeeding Syndromeで重要なのは,
・リスクのある患者を抽出し,
・カロリーに先行して電解質、ビタミンをしっかりと補正すること,
・カロリーは緩徐に開始しつつ、電解質をフォロー
 途中で電解質が狂えばカロリーは増やさず/もしくは減量して電解質を逐一補正、を心がける.

このLancet Respir Med 2015; 3: 943–52のStudyは個人的にすごく印象深い報告でした.