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2016年12月13日火曜日

下垂体卒中

下垂体卒中(pituitary apoplexy)は下垂体の梗塞, 出血を呈する病態で, 下垂体腫瘍の2-12%で合併する.
・まれな疾患であり, 有病率は6.2/10万, 罹患率は0.17/10万人年
 特に非機能性腺腫で多く, 0.2-0.6/100pt-yの発症率
・無症候性のPAも多く, 下垂体腺腫の〜25%で出血や梗塞後の病変が認められるという報告もある.
下垂体卒中で初めて腺腫を診断されたのが25%.
・発症年齢中央値は48歳. 
・突如発症の頭痛や視力障害, 眼球運動障害を認める
(Endocrine Reviews 36: 622– 645, 2015)

発症前にトリガーエピソードを認めたのが27%.
・脳血管造影や手術治療(心臓外科, 整形外科など), 外傷, 頭部外傷, TRH, Chlorpromazine, GnRH投与, CRH投与など.

下垂体卒中の誘因
(Journal of Clinical Neuroscience 22 (2015) 939–944)

Literature reviewによる下垂体卒中の誘因 (Endocrine Reviews 36: 622– 645, 2015)
・血管造影では術直後〜6時間で生じている
・整形外科手術では術後48hまで報告あり.

心臓外科手術の報告例は多く, 術後数日経過して発症する例もあり

他の手術も少ないが報告がある
・頭部外傷では軽症例も原因となる
・また外傷直後〜数週間後の発症もあり

ホルモン負荷試験後の発症報告も多い
 これも直後〜数日まで. 比較的短期での発症が多い

GnRH agonistの使用は原因となる
・DA(dopamine agonist)の使用もリスク.

下垂体卒中の症状
(Endocrine Reviews 36: 622– 645, 2015)
・診断時の症状は, 頭痛が73%, 嘔吐が49%, 意識低下が2〜42%, 視野障害が49%, 視力障害が68%, 脳神経麻痺が48%, 下垂体機能低下が64%

頭痛が最も多く, 80%以上で認められる
・くも膜下腔への血液の漏出や, 髄膜伸展による頭痛であり, 突如発症のThunderclap headacheとなる.
・一部で緩徐進行型もあり.
・眼の奥の痛みが多いが, 両側性の頭痛やびまん性の頭痛のこともある

視覚, 視野障害, 眼球運動障害
約半数で認められ, 出血による下垂体腺腫の増大が原因となる
・眼球運動障害は52%であり, III, IV, VI神経の障害による

235例の下垂体卒中患者のReviewにおいて,眼球運動障害を認めたのは59例(25%)
(WORLD NEUROSURGERY 94: 447-452, OCTOBER 2016)
・眼球運動障害合併例では, より下垂体腺腫が大きく,  視力障害や意識障害,  汎下垂体機能低下の合併率が高い.
・59例のデータと脳神経障害のパターン

他の脳神経障害
・髄膜刺激症状としての羞明(40%), 悪心/嘔吐(57%)
 髄膜刺激症状(25%)
・発熱も一部(16%)で認められ, 目くらましとなる.
・CSF中リンパ球も増加するため, 髄膜炎と誤診されることもある

症状からのスコアリング

下垂体卒中による下垂体機能障害
・急性のホルモン分泌障害も合併し得る. 腺腫容積増大による圧排が原因.

ACTH分泌の低下は50-80%で認められる.
・下垂体卒中におけるACTH欠乏の頻度は高く,  致死的となるため, 疑えばすぐに検査を行い, Empiricに補充を行うべきである.

下垂体卒中の診断
(Endocrine Reviews 36: 622– 645, 2015)
下垂体卒中と類似した症状, 経過となる重大な疾患はくも膜下出血, 髄膜炎, 海綿静脈洞血栓症, 中脳梗塞.
・LPは髄膜炎と下垂体卒中の鑑別にさほど有用ではない
・下垂体卒中でも細胞数やタンパクは上昇する.
 培養は有用であるが, すぐに結果はでない.

下垂体卒中と鑑別が必要な疾患
(Journal of Clinical Neuroscience 22 (2015) 939–944)

診断の中心となるのは画像検査となる.
・頭部CTはSAHの除外に有用. また下垂体腫瘍の検出も可能.
・MRIは下垂体卒中の評価に最も有用な画像検査.
 感度は88-90% (Insights Imaging (2014) 5:753–762)

時間経過とCT, MRIの所見
(Endocrinol Metab Clin N Am 44 (2015) 199–209)

画像所見の例: (Insights Imaging (2014) 5:753–762)


下垂体卒中の治療
(Endocrine Reviews 36: 622– 645, 2015)
下垂体卒中の経過は様々であり, 一概には言えない.
・梗塞のみならば出血合併と比較して予後は良い傾向にある.
・軽症ならば頭痛や下垂体不全症状は数日〜数週で改善するが 重症例では意識障害や神経障害, 視力障害が進行する

下垂体卒中を診断したらステロイドは補充.
・ACTH分泌不全の合併頻度が高いのと, 致命的となるため, 診断すればEmpiricに補充する.
・hydrocortisone 50mg q6hもしくは持続投与(敗血症やクリーゼと同様)
・低血糖や低Na血症にも注意する.

外科手術
・蝶形骨洞アプローチで, Decompressionを行う.
・合併症としては髄液漏や下垂体機能低下, 尿崩症が挙げられる.
 下垂体卒中に対する外科的手術は, それ以外の下垂体手術よりも術後下垂体不全のリスクが高い.
 (PA患者 術前 45% → 術後 71%, OR 4.7[1.30-25.33])
 (非PA患者 術前 48% → 術後 55%, OR 1.5[0.68-3.41])
・これは晩期で出現する下垂体不全の影響や大半が緊急手術となるため, 術者の経験の問題などが原因として考えられる.

保存的加療
・ステロイドの大量投与を行い, 保存的に加療する方法もある
・視覚障害が高度な患者や意識障害がある場合は外科的に加療し, それ以外では保存的に加療することで, 7/12は保存的に加療できた.
・その6/7は視覚障害は改善し, 下垂体機能も外科的治療群と同等.

外科手術 vs 保存的加療を比較したMeta
(Journal of the Neurological Sciences 370 (2016) 258–262)
・外科手術の方が有意に視野障害, 眼球運動障害の改善は良好
 視野障害 OR 0.32[0.10-0.97]
 眼球運動障害 OR 0.17[0.03-0.79]
・下垂体機能予後については有意差なし: OR 0.74[0.37-1.48]
 視力障害についても有意差なし: OR 0.37[0.08-1.66]

意識障害や視野障害, 眼球運動障害が高度, 増悪する例では外科手術を行うべきと考えられる