血尿, 特に顕微鏡的血尿において, 糸球体性の出血と尿路からの出血の鑑別は重要.
その鑑別方法の1つに変形赤血球がある.
変形赤血球の代表例は有棘赤血球であり,
有棘赤血球 >=5%で Sn 52%[44-61], Sp 98%[94-99]
LR(+) 25[9.2-66], LR(-) 0.5[0.4-0.6]で糸球体性を示唆する(Kidney Int 1991;40:115-20)
それ以外にもドーナッツ型の赤血球も判別に有用.
ちなみに, 顕微鏡によるRBC評価は迅速に行う必要があるため注意
・5hrで5-9%, 24hrで11-28%, 72hrで29-35%低下する.
(Clin Chem Lab Med 2008;46:703-13)
どのような形態が糸球体性の出血を示唆するのか?
尿沈渣を位相差顕微鏡で観察し, 以下のようにRBC形態を分類.
糸球体性出血におけるRBC形態の有用性を評価.
(Rinsho Byori 2003;51:740-744)
Type I: 正常RBC, その他
Type II: 溶血, 膜一部欠損
Type III: ドーナッツ型(リング部スムーズ, コブ状)
Type IV: 有棘RBC(コブ, 線状突起)
Type V: ダルマ型, 他
糸球体性, 非糸球体性の血尿におけるRBC形態の出現頻度
・Type III(ドーナッツ型), Type IV(有棘赤血球)は有意に糸球体性出血で多い.
・ドーナッツ型は非糸球体性出血でも認められるが, 双方で形態を比較すると, 糸球体性の方がよりリング部が薄い.
腎疾患による血尿患者118例と, 尿路疾患による血尿患者42例において, 尿中赤血球を位相差顕微鏡と通常の顕微鏡で観察した報告では
(Nihon Jinzo Gakkai Shi. 2006;48(5):401-6.)
・有棘赤血球の存在は感度50.9%, 特異度 94.9%
Target構造は感度 88.4%, 特異度 89.1%
Finger ringは感度 88.4%, 特異度 89.1%で糸球体性出血を示唆.
・位相差顕微鏡を用いた場合は感度 88.1%, 特異度 81.0%
・光学顕微鏡で染色無しでは感度 74.6%, 特異度 90.6%,
・光学顕微鏡で染色ありでは感度 74.6%, 特異度 88.6%で糸球体出血を示唆
赤血球の形態を評価するには位相差顕微鏡を用いるのが最も詳細に評価が可能であるが, 可能な施設が限られるため, 一般的とは言い難い.
位相差顕微鏡による評価と, 光学顕微鏡による評価ではどのようにカットオフ, 感度, 特異度が異なるか?
光学顕微鏡による評価 vs 位相差顕微鏡による評価
糸球体障害患者 66例と尿路結石患者65例の尿検体をBlindで評価.
(Nephron Clin Pract 2014;128:88–94)
・評価は光学顕微鏡と位相差顕微鏡を用いて, 有棘赤血球とドーナッツ赤血球を評価した.
・上記患者群より73例をderivationとして各所見のカットオフを評価し, 58例でvalidationを施行した.
母集団
光学顕微鏡(a,c), 位相差顕微鏡(b,d)による有棘赤血球, ドーナツ赤血球の, 糸球体性出血に対するROC
・光学顕微鏡も位相差顕微鏡も同等のROC曲線を描く. 診断能はそこまで変わらない.
光学顕微鏡も位相差顕微鏡におけるカットオフと感度, 特異度
・位相差顕微鏡の方がより異常RBCを検出しやすいため, カットオフは高め.
・異常RBC(有棘, ドーナッツの合計)のカットオフは光学顕微鏡では20%程度, 位相差顕微鏡では40%程度と考えておく.
------------------------------
・糸球体性の出血の場合有棘赤血球が有名であるが, ドーナツ型赤血球も同様に鑑別に有用. むしろドーナツ型の方が感度が高い.
・赤血球形態の評価には位相差顕微鏡が良いが, 施設が限られる.
光学顕微鏡による診断能も同等に良好であるが, カットオフに注意する.
特に専門は絞っていない内科医のブログ *医学情報のブログです. 個別の相談には応じられません. 現在コメントの返事がうまくかけませんのでコメントを閉じています. コメントがあればFBページでお願いします
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2016年11月26日土曜日
脾摘後患者の敗血症
ドイツの173箇所のICUにおける前向きStudy.
(Clinical Infectious Diseases® 2016;62(7):871–8)
・市中感染の重症敗血症, 敗血症性ショック患者において, 脾摘既往の有無を評価し, 脾摘群 vs 非脾摘群で比較.
・脾摘後の市中重症敗血症, 敗血症性ショック患者 52例と非脾摘群52例を比較した.
1年間フォローできたのは脾摘群で44例, 非脾摘群で49例.
母集団の比較
・脾摘群ではよりBMIが低値.
・悪性腫瘍既往も多い.
・肺炎球菌ワクチンは脾摘群でも42%のみしかしていない.
原因菌の比較
・肺炎球菌感染症が脾摘群で有意に多い(42% vs 12%)
肺炎球菌感染のリスク因子
・脾摘は有意なリスク因子: RR 2.50[1.07-5.84]
感染症のフォーカス
・脾摘患者では菌血症リスクが有意に高い. 軟部組織感染は少ない.
・また電撃性紫斑病のリスクも高い
---------------------------
脾摘後の患者ではやはり肺炎球菌による敗血症性ショック, 重症敗血症リスクが増大する.
感染フォーカスは原発性菌血症が増加し, 軟部組織感染はむしろ少ない.
また, 電撃性紫斑病リスクが上昇する.
大体が分かっていることであろうが, こういう前向きなデータは重要.
(Clinical Infectious Diseases® 2016;62(7):871–8)
・市中感染の重症敗血症, 敗血症性ショック患者において, 脾摘既往の有無を評価し, 脾摘群 vs 非脾摘群で比較.
・脾摘後の市中重症敗血症, 敗血症性ショック患者 52例と非脾摘群52例を比較した.
1年間フォローできたのは脾摘群で44例, 非脾摘群で49例.
母集団の比較
・脾摘群ではよりBMIが低値.
・悪性腫瘍既往も多い.
・肺炎球菌ワクチンは脾摘群でも42%のみしかしていない.
原因菌の比較
・肺炎球菌感染症が脾摘群で有意に多い(42% vs 12%)
肺炎球菌感染のリスク因子
・脾摘は有意なリスク因子: RR 2.50[1.07-5.84]
感染症のフォーカス
・脾摘患者では菌血症リスクが有意に高い. 軟部組織感染は少ない.
・また電撃性紫斑病のリスクも高い
---------------------------
脾摘後の患者ではやはり肺炎球菌による敗血症性ショック, 重症敗血症リスクが増大する.
感染フォーカスは原発性菌血症が増加し, 軟部組織感染はむしろ少ない.
また, 電撃性紫斑病リスクが上昇する.
大体が分かっていることであろうが, こういう前向きなデータは重要.
2016年11月24日木曜日
Tolosa-Hunt症候群(THS)
Tolosa-Hunt症候群は, 眼窩周囲, 側頭部の疼痛を伴う眼球運動障害があり, 同側の眼球運動神経麻痺, 眼交感神経麻痺, 眼球や三叉神経領域の感覚障害を伴う特発性の病態で定義される.
・上記の症状の組み合わせで発症することが多く海綿静脈洞や上眼窩裂で障害されていると考えられる.
・非特異的な炎症, 肉芽腫形成によるもので, ステロイドに反応し, 寛解増悪を呈する病態をTHSと呼ぶ
・基本的に除外診断であり, 海綿静脈洞症候群を呈する疾患の除外が重要
(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2001;71:577–582)
THSの特徴
・THSはどの年代にも発症し得る.
・左右どちらでも出現し, 両側性のことも希ながらある.
・発症様式は急性経過であることが多い
・疼痛は未治療では8wk程度持続する.
・眼球運動麻痺は疼痛と同時期か, 疼痛出現後〜2wkで出現.
・眼窩周囲の刺されるような, 強い疼痛であることが多い
眼窩後部や前頭部, 側頭部痛となることもある.
・眼交感神経が障害され, Horner兆候が出現することもある.
・視神経障害の合併も報告されている.
・ステロイド投与により疼痛は72時間以内に改善する.
・眼球運動障害の改善には疼痛よりも時間がかかる.
(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2001;71:577–582)
THSの診断
THSは除外診断であり, 同様の症候を呈する病態の評価が大事
・特に画像検査は重要
同様の病態を呈する疾患
(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2001;71:577–582)
診断クライテリア(ICHD-II, ICHD-III)
(Neurol Sci (2015) 36:899–905)
診断基準の特異性は低いため注意が必要
ICHD-2クライテリアを満たす124例中, 39例はTHS以外による病変が原因であった.
・その疾患の内訳
(Cephalalgia, 2006, 26, 772–781)
25例のTHSと36例の他の有痛性眼筋麻痺(SPO)症例を比較
(Headache. 2015 Feb;55(2):252-64.)
・ICHD-3クライテリアのいける典型的症状, 画像所見の感度, 特異度は以下のとおり
・典型的でもTHSに対する特異性は不十分であり, 非典型的ならば当然まず他の疾患を考慮すべきである.
THSの画像所見
ICHD-2における画像クライテリア
典型的な画像所見
(Headache. 2015 Feb;55(2):252-64.)
THSの治療
・治療はステロイドであるが, 投与量は決まっていない.
・小児のTHS症例の報告では, ステロイドは低用量〜高用量まで様々.
疼痛は72h以内に改善するが,
麻痺症状の改善は72h以上かかる.(2wk〜1ヶ月以内が多い. 最長6ヶ月, 最短4日)
・中等用量以上の方が再発リスクは少ない可能性
(Pediatric Neurology 62 (2016) 18-26)
THSの症例Review
ICHD-IIのクライテリアを満たす62例のLiterature review.
(Cephalalgia, 2008, 28, 577–584)
・さらにTHS群(海綿静脈洞, 眼窩先端, 眼窩内の炎症のみ or 炎症なし)
THS plus群(上記以外に炎症波及あり)
OM群(orbital myositis: 外眼筋炎合併)に分類
・各群における特徴, 症状の経過
・疼痛は72h以内の改善が6-7割. OMでは改善までの期間が長い傾向.
所見は72h以上経過して改善することが多い
ICHD-IIIクライテリアを満たすTHS患者22例の解析
(Neurol Sci (2015) 36:899–905)
・男性9例, 女性13例, 年齢は24-79歳まで分布
・神経障害の分布と頻度
・画像所見の分布と頻度
ステロイドへの反応性
・疼痛は72h以内の改善が大半. 神経障害は72h以上かかって改善.
疼痛改善までは1.77±1.11日, 範囲1-5日
麻痺改善までは2.23±1.27日, 範囲1-6日
完全寛解までは15.74±11.91日, 範囲7-60日
・ステロイド投与量はデキサメサゾン 10-15mg/日を3日間, その後症状, 所見に合わせて減量する方法
・上記の症状の組み合わせで発症することが多く海綿静脈洞や上眼窩裂で障害されていると考えられる.
・非特異的な炎症, 肉芽腫形成によるもので, ステロイドに反応し, 寛解増悪を呈する病態をTHSと呼ぶ
・基本的に除外診断であり, 海綿静脈洞症候群を呈する疾患の除外が重要
(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2001;71:577–582)
THSの特徴
・THSはどの年代にも発症し得る.
・左右どちらでも出現し, 両側性のことも希ながらある.
・発症様式は急性経過であることが多い
・疼痛は未治療では8wk程度持続する.
・眼球運動麻痺は疼痛と同時期か, 疼痛出現後〜2wkで出現.
・眼窩周囲の刺されるような, 強い疼痛であることが多い
眼窩後部や前頭部, 側頭部痛となることもある.
・眼交感神経が障害され, Horner兆候が出現することもある.
・視神経障害の合併も報告されている.
・ステロイド投与により疼痛は72時間以内に改善する.
・眼球運動障害の改善には疼痛よりも時間がかかる.
(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2001;71:577–582)
THSの診断
THSは除外診断であり, 同様の症候を呈する病態の評価が大事
・特に画像検査は重要
同様の病態を呈する疾患
(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2001;71:577–582)
診断クライテリア(ICHD-II, ICHD-III)
(Neurol Sci (2015) 36:899–905)
診断基準の特異性は低いため注意が必要
ICHD-2クライテリアを満たす124例中, 39例はTHS以外による病変が原因であった.
・その疾患の内訳
(Cephalalgia, 2006, 26, 772–781)
25例のTHSと36例の他の有痛性眼筋麻痺(SPO)症例を比較
(Headache. 2015 Feb;55(2):252-64.)
・ICHD-3クライテリアのいける典型的症状, 画像所見の感度, 特異度は以下のとおり
・典型的でもTHSに対する特異性は不十分であり, 非典型的ならば当然まず他の疾患を考慮すべきである.
THSの画像所見
ICHD-2における画像クライテリア
典型的な画像所見
(Headache. 2015 Feb;55(2):252-64.)
THSの治療
・治療はステロイドであるが, 投与量は決まっていない.
・小児のTHS症例の報告では, ステロイドは低用量〜高用量まで様々.
疼痛は72h以内に改善するが,
麻痺症状の改善は72h以上かかる.(2wk〜1ヶ月以内が多い. 最長6ヶ月, 最短4日)
・中等用量以上の方が再発リスクは少ない可能性
(Pediatric Neurology 62 (2016) 18-26)
THSの症例Review
ICHD-IIのクライテリアを満たす62例のLiterature review.
(Cephalalgia, 2008, 28, 577–584)
・さらにTHS群(海綿静脈洞, 眼窩先端, 眼窩内の炎症のみ or 炎症なし)
THS plus群(上記以外に炎症波及あり)
OM群(orbital myositis: 外眼筋炎合併)に分類
・各群における特徴, 症状の経過
・疼痛は72h以内の改善が6-7割. OMでは改善までの期間が長い傾向.
所見は72h以上経過して改善することが多い
ICHD-IIIクライテリアを満たすTHS患者22例の解析
(Neurol Sci (2015) 36:899–905)
・男性9例, 女性13例, 年齢は24-79歳まで分布
・神経障害の分布と頻度
・画像所見の分布と頻度
ステロイドへの反応性
・疼痛は72h以内の改善が大半. 神経障害は72h以上かかって改善.
疼痛改善までは1.77±1.11日, 範囲1-5日
麻痺改善までは2.23±1.27日, 範囲1-6日
完全寛解までは15.74±11.91日, 範囲7-60日
・ステロイド投与量はデキサメサゾン 10-15mg/日を3日間, その後症状, 所見に合わせて減量する方法
海綿静脈洞症候群
海綿静脈洞はトルコ鞍の両側で, 上眼窩裂〜側頭骨錐体の内側に及ぶ一対の硬膜静脈洞.
視神経や下垂体, 副鼻腔と隣接している
内部には外転神経, 内頸動脈が通り, 外側壁には動眼神経(III), 滑車神経(IV), 眼神経(V1), 上顎神経(V2)が通る.
・III~VI (V3を除く)神経が通過する = 眼に関連する神経が通過.
海綿静脈洞症候群: CSS
海綿静脈洞に障害(炎症やMass, 外傷など)を生じ, 結果 III, IV, V1, V2, VIの神経障害を呈する
海綿静脈洞症候群 151例と, 他の報告から.
(10: Trans Ophthalmol Soc U K. 1953;73:117-152. 12: Mayo Clin Proc. 1970;45:617-623. Arch Neurol. 1996 Oct;53(10):967-71.)
・多いのは腫瘍性, 外傷性, 血管性.
また炎症や術後も原因となる.
・腫瘍性では, 鼻咽喉癌, 転移, リンパ腫, 下垂体腺腫, 髄膜腫など.
・感染症では, ムコール症, 細菌性髄膜炎, 蝶形骨洞炎
HIVに関連するリンパ腫.
海綿静脈洞症候群 126例の解析:
(III~VI神経のうち2つ以上の障害, もしくは神経障害+画像所見で定義)
(Medicine 2007;86:278–281)
・腫瘍性が63%を占める
・ついで動脈瘤, 動静脈瘻が20%, Tolosa-Hunt症候群が13%, 感染症も原因となる(肥厚性髄膜炎, 副鼻腔炎)
それぞれの原因別の特徴.
・視神経も障害されるのは腫瘍性, その他が多い.
・疼痛はどれも認められるがTHSで頻度が高い
・CTやMRIではTHSを除き異常所見が認められることがほとんど
-------------------
ということで, 海綿静脈洞の異常を疑った場合はまず考えるべきは悪性腫瘍.
Tolosa-Hunt症候群(THS)は有名ですが, 基本的に除外診断となる.
THSについては次のブログで書きます.
視神経や下垂体, 副鼻腔と隣接している
内部には外転神経, 内頸動脈が通り, 外側壁には動眼神経(III), 滑車神経(IV), 眼神経(V1), 上顎神経(V2)が通る.
・III~VI (V3を除く)神経が通過する = 眼に関連する神経が通過.
海綿静脈洞症候群: CSS
海綿静脈洞に障害(炎症やMass, 外傷など)を生じ, 結果 III, IV, V1, V2, VIの神経障害を呈する
海綿静脈洞症候群 151例と, 他の報告から.
(10: Trans Ophthalmol Soc U K. 1953;73:117-152. 12: Mayo Clin Proc. 1970;45:617-623. Arch Neurol. 1996 Oct;53(10):967-71.)
・多いのは腫瘍性, 外傷性, 血管性.
また炎症や術後も原因となる.
・腫瘍性では, 鼻咽喉癌, 転移, リンパ腫, 下垂体腺腫, 髄膜腫など.
・感染症では, ムコール症, 細菌性髄膜炎, 蝶形骨洞炎
HIVに関連するリンパ腫.
海綿静脈洞症候群 126例の解析:
(III~VI神経のうち2つ以上の障害, もしくは神経障害+画像所見で定義)
(Medicine 2007;86:278–281)
・腫瘍性が63%を占める
・ついで動脈瘤, 動静脈瘻が20%, Tolosa-Hunt症候群が13%, 感染症も原因となる(肥厚性髄膜炎, 副鼻腔炎)
それぞれの原因別の特徴.
・視神経も障害されるのは腫瘍性, その他が多い.
・疼痛はどれも認められるがTHSで頻度が高い
・CTやMRIではTHSを除き異常所見が認められることがほとんど
-------------------
ということで, 海綿静脈洞の異常を疑った場合はまず考えるべきは悪性腫瘍.
Tolosa-Hunt症候群(THS)は有名ですが, 基本的に除外診断となる.
THSについては次のブログで書きます.
2016年11月21日月曜日
PPIと肝性脳症
PPIは非常によく使用される薬剤の1つ. そして長期間使用される傾向がある.
胃酸分泌抑制作用も強いため, しばしば長期使用により不利益も認められる.
・胃酸濃度が下がることによる消化不良(ビタミンB12欠乏など)
・胃酸濃度が下がることによる腸内細菌過増殖 など.
この腸内細菌過増殖により, 肝硬変患者では肝性脳症リスクやSBPリスクが上昇することも指摘されている.
肝硬変の腹水に対するStavaptanの効果を評価した3つのtrialsにおいて, PPI使用と肝性脳症, SBPの関連性を評価した報告
(HEPATOLOGY 2016;64:1265-1272)
肝性脳症リスクとしては
・PPI使用HR 1.36[1.01-1.84]
・高齢者(10歳上昇毎) HR 1.20[1.02-1.40]
・食道静脈瘤出血 HR 9.97[4.25-23.4]
SBPのリスク因子(HR)
・PPI使用 1.72[1.10-2.69]
・MELD(1pt毎) 1.07[1.02-1.11]
・Na(5mEql/L上昇) 0.66[0.54-0.80]
・Alb(0.5g/dL上昇) 0.76[0.63-0.93]
・SBP既往 3.43[2.05-5.76]
PPIは双方のリスクとなる.
台湾のNational Health Insurance beneficiariesのデータベースで1998-2011年に肝硬変による肝性脳症を発症した1166例と肝性脳症(-)の進行肝硬変例を抽出し比較
(Proton Pump Inhibitors Increase Risk for Hepatic Encephalopathy in Patients With Cirrhosis in Population Study. Gastroenterology 2016)
・PPI使用は合計30日間以上使用した症例(cDDD>30)で定義.
PPIは有意に肝性脳症のリスクを上昇させる.
また, 長期間の投与ほどリスク上昇も高度となる.
肝硬変患者では, 門脈圧亢進症や食道静脈瘤出血, EVL後潰瘍などでPPIを入れたくなる気持ちはわかりますが, 長期とならないように注意する必要がありそうです.
ちなみに, これらの予防効果があるかというと...
2015年のMetaでは, (Ann Pharmacother. 2015 Feb;49(2):207-19.)
・PPIは待機的なEsophageal ligation後の潰瘍治癒, 再出血予防効果のみ認められており, 長期的な食道静脈瘤出血予防効果や, 門脈圧亢進性胃症に伴う消化管出血予防効果は証明されていない.
・また, 食道静脈瘤出血後の高用量PPI使用の意義も証明されていないのが現状である
Ligation後に10日程度PPIを使用することは理にかなうが, 他は正直微妙なところ.
胃酸分泌抑制作用も強いため, しばしば長期使用により不利益も認められる.
・胃酸濃度が下がることによる消化不良(ビタミンB12欠乏など)
・胃酸濃度が下がることによる腸内細菌過増殖 など.
この腸内細菌過増殖により, 肝硬変患者では肝性脳症リスクやSBPリスクが上昇することも指摘されている.
肝硬変の腹水に対するStavaptanの効果を評価した3つのtrialsにおいて, PPI使用と肝性脳症, SBPの関連性を評価した報告
(HEPATOLOGY 2016;64:1265-1272)
肝性脳症リスクとしては
・PPI使用HR 1.36[1.01-1.84]
・高齢者(10歳上昇毎) HR 1.20[1.02-1.40]
・食道静脈瘤出血 HR 9.97[4.25-23.4]
SBPのリスク因子(HR)
・PPI使用 1.72[1.10-2.69]
・MELD(1pt毎) 1.07[1.02-1.11]
・Na(5mEql/L上昇) 0.66[0.54-0.80]
・Alb(0.5g/dL上昇) 0.76[0.63-0.93]
・SBP既往 3.43[2.05-5.76]
PPIは双方のリスクとなる.
台湾のNational Health Insurance beneficiariesのデータベースで1998-2011年に肝硬変による肝性脳症を発症した1166例と肝性脳症(-)の進行肝硬変例を抽出し比較
(Proton Pump Inhibitors Increase Risk for Hepatic Encephalopathy in Patients With Cirrhosis in Population Study. Gastroenterology 2016)
・PPI使用は合計30日間以上使用した症例(cDDD>30)で定義.
PPIは有意に肝性脳症のリスクを上昇させる.
また, 長期間の投与ほどリスク上昇も高度となる.
肝硬変患者では, 門脈圧亢進症や食道静脈瘤出血, EVL後潰瘍などでPPIを入れたくなる気持ちはわかりますが, 長期とならないように注意する必要がありそうです.
ちなみに, これらの予防効果があるかというと...
2015年のMetaでは, (Ann Pharmacother. 2015 Feb;49(2):207-19.)
・PPIは待機的なEsophageal ligation後の潰瘍治癒, 再出血予防効果のみ認められており, 長期的な食道静脈瘤出血予防効果や, 門脈圧亢進性胃症に伴う消化管出血予防効果は証明されていない.
・また, 食道静脈瘤出血後の高用量PPI使用の意義も証明されていないのが現状である
Ligation後に10日程度PPIを使用することは理にかなうが, 他は正直微妙なところ.
2016年11月18日金曜日
DVT, PE患者の抗凝固期間
肺血栓塞栓症(PE)や深部静脈血栓症(DVT)では誘因があるかどうか(provoked, unprovoked), その誘因が一過性のものかどうかで再発リスクも異なり, 抗凝固療法の期間を決める.
自書でも触れているが,
・一過性の誘因のPE, DVTの場合再発リスクは3.3%[2.8-3.9]/年 (Arch Intern Med 2010;170:1710)
・持続性の誘因, たとえば悪性腫瘍によるものの場合, 再発リスクは28.6%/10年
・明らかな誘因が判明しない場合, 再発リスクは7.4%[6.5-8.2]/1年 (Arch Intern Med 2010;170:1710)
であり, 基本的に持続性の誘因がある場合や, 明らかな誘因が判明しない場合はなるべく長期間の抗凝固療法の方が好ましく, 出血リスクとの天秤で適応を決めることが推奨されている.
そんななか, ChestよりEINSTEIN-Extensionが発表されたため紹介
(CHEST 2016; 150(5):1059-1068)
EINSTEIN-Extension: 症候性のDVT, PE患者で, 抗凝固療法を6-12ヶ月使用した1197例を対象とし, Rivaroxaban vs Placebo群に割り付け比較したDB-RCT.
・CrCl <30, 他に抗凝固療法の適応がある患者, 肝障害, 心内膜炎, 急性出血, 出血リスクが高く抗凝固ができない患者, コントロール不良な高血圧(sBP>180, dBP>110), 妊婦, 授乳婦, 妊娠希望は除外
・PE, DVTはprovoked, unprovoked双方が含まれる.
母集団:
アウトカム:
・PE, DVT再発リスクは継続群で有意に低下. NNTは15.
一方で出血リスクは上昇するが, NNHは147程度
・基本的にPE, DVTでは継続した方が良い
サブ解析
・Unprovoked, provoked双方で再発リスクは低下する.
自書でも触れているが,
・一過性の誘因のPE, DVTの場合再発リスクは3.3%[2.8-3.9]/年 (Arch Intern Med 2010;170:1710)
・持続性の誘因, たとえば悪性腫瘍によるものの場合, 再発リスクは28.6%/10年
・明らかな誘因が判明しない場合, 再発リスクは7.4%[6.5-8.2]/1年 (Arch Intern Med 2010;170:1710)
であり, 基本的に持続性の誘因がある場合や, 明らかな誘因が判明しない場合はなるべく長期間の抗凝固療法の方が好ましく, 出血リスクとの天秤で適応を決めることが推奨されている.
そんななか, ChestよりEINSTEIN-Extensionが発表されたため紹介
(CHEST 2016; 150(5):1059-1068)
EINSTEIN-Extension: 症候性のDVT, PE患者で, 抗凝固療法を6-12ヶ月使用した1197例を対象とし, Rivaroxaban vs Placebo群に割り付け比較したDB-RCT.
・CrCl <30, 他に抗凝固療法の適応がある患者, 肝障害, 心内膜炎, 急性出血, 出血リスクが高く抗凝固ができない患者, コントロール不良な高血圧(sBP>180, dBP>110), 妊婦, 授乳婦, 妊娠希望は除外
・PE, DVTはprovoked, unprovoked双方が含まれる.
母集団:
アウトカム:
・PE, DVT再発リスクは継続群で有意に低下. NNTは15.
一方で出血リスクは上昇するが, NNHは147程度
・基本的にPE, DVTでは継続した方が良い
サブ解析
・Unprovoked, provoked双方で再発リスクは低下する.
・高齢ほど予防効果は高いが, 出血リスクも高い.
・心疾患がある場合はリバロキサバン継続の利点は乏しい.
・PE, DVTの既往の有無でも差はない
・心疾患がある場合はリバロキサバン継続の利点は乏しい.
・PE, DVTの既往の有無でも差はない
基本的にDVT, PEでは抗凝固は可能な限り長期間行う方が良いということ.
カテーテルなどの異物や一過性の体動困難で生じたDVT, PEについてはその限りではない(治療期間が6ヶ月以上という点からすでにそのような症例は除外されている可能性が高い)
2016年11月17日木曜日
抗凝固療法中の患者におけるPCI後の抗血小板薬は?
PCIにてステントを留置後には抗血小板薬の2剤治療(DAPT)を行う.
基礎疾患に心房細動(Af)がある場合, DAPTに抗凝固療法を加えた3剤両方となるが, 出血リスクが上昇するためしばしばやりにくいことも多い.
Aspirin, Clopidogrel, Warfarinの組み合わせと, 出血RiskをデンマークのObservational Cohortより解析 (Lancet 2009;374:1967-74)
・>30yrで初発AMIを来した40812名のCohort.
・476.5d(142.0)フォローし, 4.6%が出血により入院.
*1 Propensity score, *2 Adjusted HR
・併用するほど出血Riskは上昇する.
・特にClopidgrel + Warfarinの2剤を使用するとRisk増.
Af患者でPCI施行された426名のprospective cohort study
(J Am Coll Cardiol 2008;51:818-25)
・内96%が1つ以上, 80%が2以上のStroke risk(+)
・Aspirin + Clopidogrelが40.8%, Warfarin + Aspirin + Clopidogrelが50.0%, Warfarin + 1剤が5.6%, 抗血小板剤1剤のみが3.6%
・595d[0-2190]フォローし, 35%で副作用(+), Major bleedingが12.3%, MACE(Major adverse cardiac event)が32.3%.
Warfarinの有無によるOutcomeの差
・Warfarin(+)群のほうが死亡率, MACEが有意に低い
基礎疾患に心房細動(Af)がある場合, DAPTに抗凝固療法を加えた3剤両方となるが, 出血リスクが上昇するためしばしばやりにくいことも多い.
Aspirin, Clopidogrel, Warfarinの組み合わせと, 出血RiskをデンマークのObservational Cohortより解析 (Lancet 2009;374:1967-74)
・>30yrで初発AMIを来した40812名のCohort.
・476.5d(142.0)フォローし, 4.6%が出血により入院.
*1 Propensity score, *2 Adjusted HR
治療薬
|
出血;%/pt-yr
|
出血HR*1
|
出血HR*2
|
Aspirin単剤
|
2.6%
|
Reference
|
Reference
|
Clopidogrel単剤
|
4.6%
|
1.29[1.15-1.40]
|
1.33[1.11-1.59]
|
Warfarin単剤
|
4.3%
|
1.23[0.94-1.61]
|
1.23[0.94-1.61]
|
Aspirin + Clopidogrel
|
3.7%
|
1.42[1.24-1.63]
|
1.47[1.28-1.69]
|
Aspirin + Warfarin
|
5.1%
|
1.83[1.51-2.22]
|
1.84[1.51-2.23]
|
Clopidogrel + Warfarin
|
12.3%
|
3.41[2.35-4.95]
|
3.52[2.42-5.11]
|
三剤併用
|
12.0%
|
3.86[2.94-5.07]
|
4.05[3.08-5.33]
|
・特にClopidgrel + Warfarinの2剤を使用するとRisk増.
Af患者でPCI施行された426名のprospective cohort study
(J Am Coll Cardiol 2008;51:818-25)
・内96%が1つ以上, 80%が2以上のStroke risk(+)
・Aspirin + Clopidogrelが40.8%, Warfarin + Aspirin + Clopidogrelが50.0%, Warfarin + 1剤が5.6%, 抗血小板剤1剤のみが3.6%
・595d[0-2190]フォローし, 35%で副作用(+), Major bleedingが12.3%, MACE(Major adverse cardiac event)が32.3%.
Warfarinの有無によるOutcomeの差
Event |
Warfarin(+) |
Warfarin(-) |
P value |
Major bleeding |
14.9% |
9% |
0.19 |
Minor bleeding |
12.6% |
9% |
0.32 |
Embolism |
1.7% |
6.9% |
0.02 |
Death |
17.8% |
27.8% |
0.02 |
AMI |
6.5% |
10.4% |
0.14 |
Target vessel failure |
9.2% |
16.7% |
<0.01 |
MACE |
26.5% |
38.7% |
0.01 |
これらからは, やはりワーファリンを加えた方が心血管系イベント抑制効果は高い.
しかしながら出血リスクは当然上昇してしまうことが推測される.
ワーファリンや抗凝固療剤を加えつつ, 出血リスクを抑えるためにはどうしたら良いか?
WOEST trial; 既に抗凝固薬を使用している患者群において, PCIを施行した573名のOpen-label RCT.
(Lancet 2013; 381: 1107–15)
・Clopidogrel単独追加群 vs Clopidogrel + ASA併用群に割り付け, 1年以内の出血リスク, 冠血管イベントリスクを比較.
・ワーファリンはINR 2.0を目標に使用.
・平均年齢は70歳. PPIは其々34-39%で併用. CHADS2 score ≥2は78%.
母集団データ
アウトカム: 出血リスク
・出血リスクは有意にASA無しの群で低くなる.
中等度以上の出血や輸血量も低下.
アウトカム: 心血管イベント
・心血管イベントは両群で有意差無し.
・出血リスクが低下する分, 死亡リスクも低下.
抗凝固療法中の患者におけるDES留置後の抗血小板薬 3剤治療 vs 2剤治療のMeta
(Am J Cardiol 2015;115:1185-1193)
|
Major bleeding
|
死亡, MI, Stokeなど
|
Clopidogrel + OAC
|
3.50%
|
15.50%
|
ASA + Clopidogrel
|
2.50%
|
16.70%
|
3剤療法
|
5.50%
|
19-21%
|
|
Bleeding
|
死亡, MI, Stokeなど
|
ASA+Clopidogrel vs 3剤療法
|
OR 0.51[0.39-0.68]
|
OR 0.71[0.46-1.08]
|
Clopidogrel + OAC vs 3剤療法
|
OR 0.77[0.59-0.99]
|
OR 0.90[0.70-1.17]
|
|
|
|
すでに抗凝固中の患者ではステント留置後はDAPTではなく, 1剤のみ追加でも良い可能性が高い.
そちらの方が出血リスクは少なく, イベント抑制効果は同等となる
PIONEER AF-PCI: Af患者でPCIを施行, ステント留置を行なった2124例を対象としたRCT.
(Prevention of Bleeding in Patients with Atrial Fibrillation Undergoing PCI. NEJM 2016)
以下の1)~3)群に割り付け:
1) リバロキサバン(15mg/d*) + P2Y12阻害薬を12ヶ月継続群
*ClCr 30-50ml/minでは10mg/d.
2) 超低用量リバロキサバン(2.5mg bid) + DAPT**を1,6,12ヶ月継続群
** ASA 75-100mg/d + P2Y12阻害薬
1,6ヶ月継続群では, 残りの期間はリバロキサバン15mg/d + ASA 75-100mg/dを継続する
3) ワーファリン + DAPTを1,6,12ヶ月継続群
INRは2.0-3.0でコントロール
1,6ヶ月継続群では, 残りの期間はワーファリン + ASA 75-100mg/dを継続する
・患者は発作性, 持続性, 恒久性のnonvalvular AfでPCIを施行する予定がある患者群で, PCI施行の3ヶ月以上前より抗凝固を行なっている患者群
・除外項目は脳卒中の既往, 12ヶ月以内の上部消化管出血, ClCr <30mL/min, 原因不明の貧血(Hb<10g/dL), 出血リスクが高い患者群.
・PCI後 Sheathを抜去し, INR ≤2.5となった際に割り付けを行う.
投薬開始前に主治医により投与期間(1,6,12ヶ月), 使用P2Y12阻害薬(clopidogrel 75mg/d, prasugrel 10mg/d, ticagrelor 90mg/d)を選択(実際9割はClopidogrelを選択).
母集団データ
アウトカム
1) リバロキサバン15mg + P2Y12阻害薬
2) リバロキサバン 2.5mg bid + DAPT
3) ワーファリン + DAPT
・1)と2)では3)と比較して有意に出血リスクが低く, 心血管イベント抑制効果は同等の結果.
2)と3)群での期間別での比較: 出血リスク
・6ヶ月継続群同士の比較で出血リスクの軽減効果が認められる.
2)と3)群での期間別での比較: 心血管イベントリスク
・心血管イベントリスクはどの投与期間の比較でも有意差なし.
Af患者でPCIを行う場合, ステント留置後はDAPTではなく, アスピリン or クロピドグレル1剤のみの方が出血リスクは低くて済む.
一方で心血管イベントリスクについては有意差がない結果.
これもDAPTの投与期間についての検討と同じように, 狭心症に対するPCIか、MIに対するPCIか、再狭窄リスクが高いかどうか、という点で一概には判断ができないであろうが, PIONEER AF-PCIは要チェック文献の1つと言える