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2016年10月26日水曜日

ERにおける呼吸器設定のコツ(初期, 後期研修医向け)

呼吸器設定は研修医時分, 非常に習得に苦労したものの1つでした.
理論, 機械の扱い方, モニターの読み方, 病態, エビデンス... と大変.
講義聞いても眠くなるし, 呼吸器つける患者は重症なのでてんやわんや...

勉強しつつ、経験しつつ覚えてきましたが,
[Ann Emerg Med. 2016;68:614-617.]  に非常によくまとまったマニュアルを発見しましたので紹介します.

この著者Scott D先生も, 「いままで色々なレクチャーして, わかりにくくてごめんね. 複雑なやつじゃなく, ERではまずこのシンプルな2つの方法を押さえよう!」(かなり意訳です)と言っています.

覚えておくべき2つのSimple ventilator strategies.
・Lung protective strategy: 1回換気量を少なくし, Barotaruma, Volutraumaを予防する換気方法.
 ARDSや急性呼吸不全でARDSに成りかけている患者, 基本的に閉塞性呼吸不全以外の患者全例で適応してOK

・Obstructive strategy: 上記が不適な閉塞性肺障害ではこちらを使用.
 これら患者では, 呼気が障害されるため, 上記セッティングではAir trappingやBarotraumaのリスクとなる. ポイントは, 呼気時間を十分に確保すること.
 挿管, 人工呼吸器管理に移行する前にNIVで逃げられる事も多い.

Lung protective strategyの方法
・A/Cモード, もしくはSIMVモードを使用する(Volume control)とし, 以下の5項目を調節する.
・初期の1回換気量(VT)を8mL/kgに設定. 
 体重は理想体重を使用した方が良い.
・吸気時流量の設定は60L/minで開始. 患者の不快感に応じて調節. 
 通常人は吸気初期に多く空気を取り込み, 晩期には流量は少ない.
 新しい呼吸器ではVolume A/Cモードでもその辺を調節してくれるが, ERにおいてあるような旧型ではできない事が多い
・呼吸回数は15-16回/分で開始.
 PaCO2に応じて呼吸回数を調節. PaCO2の調節には呼吸回数のみ使用するようにする. 最大30-40/分
 ETCO2 > 目標PaCO2の場合, 呼吸回数を上げても良いが, ETCO2<目標PaCO2の場合は呼吸回数は下げない. 生理的シャント, CO低下, 死腔の増加はETCO2に影響するため, 注意.
 „PaCO2は少なくともETCO2と同じくらい値となる”
PEEPとFiO2の設定: 挿管後FiO2を30-40%とし, PEEPを5cmH2Oにする. その後SpO2を88-95%で維持するように両者を表のように調節.
 反対に, FiO2 100%からゆっくりと表に従い減らす方法でも良い. 
 FiO2 50%以上でも低酸素の場合, それは生理的シャントが関連しており, FiO2を上げても効果は低い. この場合PEEPを上げてシャントを減らす方が長期的な酸素維持に有効である.

・初期設定後のAlveolar safetyのチェックと呼吸器調節: 挿管後30-60分毎にプラトー圧を評価する.
 評価方法は呼吸の終末期に吸気保持ボタンを長押しすることで評価可能. ただし患者が適切に鎮静されている必要がある.
 ピーク圧は肺胞内圧+気管抵抗+デバイス内の抵抗が関連しているため, 肺胞内圧の測定にはプラトー圧の評価が必要となる.
 プラトー圧≥30cmH2Oでは肺胞障害のリスクとなる.
 上記の場合, VTを1ml/kg減らし, プラトー圧<30を達成するようにする(最低4ml/kg)
 また, すでにARDSを満たす患者の場合は6ml/kgまで早期に減量することも考慮する.

Obstructive strategyの方法
・患者は呼吸器管理初期には鎮静を深くする.
 鎮静と鎮痛をしっかりとすれば, 筋弛緩まで行う必要は少ない.
 筋弛緩を行う場合は半減期の短いものを選択.
 また, 原疾患に対する治療も積極的に行うことを忘れない.
・A/Cモード(Volume)を選択する.
・VTは8mL/kgで開始. 体重は理想体重を使用する.
 このstrategyではVTを増減する必要は基本的になし.
・流量(Flow)は60-80L/分で十分.
 一部教科書では, 吸気流量を上げて吸気時間を短くし, 呼気時間を多く確保するように書いてあるが, そうすると吸気圧(ピーク圧)が不必要に上昇し, アラームが鳴りまくる.
呼吸回数は呼気が十分にできるように設定する. 初期は8-10/分とし, 十分に呼気ができるように調節. 呼吸回数が少ないことによる高CO2血症は許容する.
・PEEPとFiO2の設定: SpO2 >88%を維持するようにFiO2は設定.
 PEEPは閉塞性肺障害患者の呼吸器管理においてはあまりエビデンスはなく, また高PEEPは患者の消耗につながる.
 PEEPは0~5cmH2O程度とする意見が多い.
・ピーク圧アラームの設定: 閉塞性肺障害では気管内抵抗が上昇するため, ピーク圧が上昇する. 従ってピーク圧上昇 = 肺胞内圧上昇ではないため, 肺実質障害のリスクにはなりにくい. 
 このアラーム設定が低いと, 換気を中断し, うまく換気できない可能性があるため, 8ml/kgの換気ができる程度までは設定を高くする.
・初期設定後のモニタリングと呼吸器調節: 適切な呼気時間が確保できているかを評価する. 評価方法には2種類.

>Flow vs time graphで評価する方法(図)

・呼気終末のFlowがベースラインに戻っているかどうかで判断.
 ベースラインより下の場合, 吐ききれておらず, Auto-PEEPがかかっていると判断する. この場合は呼気時間を延長(RRを減らす)
・プラトー圧を評価する方法
 閉塞性肺障害患者においてプラトー圧が高い場合, VTが多いためではなく, 十分に呼気できていないために上昇していると考える.
 プラトー圧 >30cmH2Oの場合はRRを減らす.

患者が安定, 改善してくればRRを慎重に増加させる.

この2つの方法のまとめ

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とてもシンプルで, クリアカットで取っつきやすいと思う.
まずこれをマスターして, 実際やってみて, それから色々勉強するとよいかもしれない.

まあ、自分も結局こんな感じでやっている事が多いので, 一安心?