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2016年10月31日月曜日

HIT: head impulse testをさらに深めてみる

HIT(head impulse test)についてはこの記事を参照

中枢性のめまいを示唆する所見, 情報のまとめ


HITは頭位眼球反射(VOR)を評価する方法で, 回転性めまいや前庭障害において, 前庭機能障害と中枢性障害の鑑別に有用である.
・主に急性回転性めまい症の患者において, 前庭神経炎か、脳梗塞(PICA梗塞)かを鑑別するのに有用というエビデンスは多い.

HITを評価する際にさらに知っておきたい知識として, 以下のことがあると最近感じた.
・HITを定量的に評価する方法: video-HIT(vHIT)について
・他の末梢性めまいではHITはどうなる?
・ERでの主観的なHITの評価(clinical HIT, bedside HIT: 略してcHIT もしくはbHIT)はどこまで信頼が置ける?

という点を押さえておくと理解が深まる。

HITを定量的に評価する方法: vHIT
video-HIT: 肉眼で評価するHITと異なり, より高感度にCUSを検出できる検査.
・CUS: catch up saccade. HITにおいて, 眼位がズレ, それが戻る際の動きをCUSと呼ぶ.
・vHITはハイスピードカメラ, 頭位回旋の加速度センサー, キャリブレーション用のレーザー光装置を有する軽量で固定性の高いゴーグルと, 解析ソフトの入ったノートPCで構成される装置で評価する.
・主観が入らないこと, 定量的に評価可能な点はベッドサイドHITよりも有益な点.
・また, 頭位の回旋方向により, それぞれの三半規管で評価可能(bHITはHorizontal canalのみ)

頭部の動きと眼の動きを評価する
(Auris Nasus Larynx 40 (2013) 348–351)
・頭部の運動開始〜の時間と眼振のが生じるタイミング
 (1) Eye velocity, (2) covert saccade, (3) overt saccade, (4) physiological saccade
・反射性の眼振が頭位運動中に生じるものをcovert, 運動後に生じるものをovertを呼ぶ.

 bedside-HITで判別するのはこのovert saccadeであり, covert saccadeは肉眼で検出するのは困難.

vHITの評価
A: 正常. 頭部の動きに一致して眼も動く
B: 異常. 頭部の動きに遅れて眼が動く(covert saccadeを認める)
C: 異常: overt saccadeが認められる
D: 異常: covert, overt saccadeが認められる.

・VOR gain(vHIT gain) = 眼球velocity(度/s) / 頭velocityで評価する.
 正常は≥0.7程度

急性前庭症候群(AVS)患者におけるvHIT:
AVS患者26例において, 発症1wk以内にvHITを評価.
(Otol Neurotol 36:457-465, 2015.)
・最終的に前庭神経炎と診断されたのは16例. 脳梗塞は10例.
前庭神経炎ではgain 0.52[0.44-0.59]

・前庭神経炎ではvHIT gainは低下する. 
 PICA梗塞では保たれる. AICA梗塞では低下する例も保たれる例も混在する.

AICA梗塞 13例, PICA梗塞 17例, SCA梗塞 3例, 前庭神経炎 20例でvHITを施行
(Neurology® 2014;83:1513–1522)
・aVOR gain(vHIT gain)と左右対称性も評価.
・正常ではaVOR gain 0.96, Asymmetry 2%であるが,
 AICA梗塞ではgain I 0.39, C 0.57, Asymmetry 20%
 PICA/SCAではgain I 0.75, C 0.74, Asymmetry 7%
 前庭神経炎ではgain I 0.22, C 0.76, Asymmetry 54%.
 (I: ipsilesional, C: contralesional trial)
・AICA梗塞と前庭神経炎ではVORに異常がでることが分かる.
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vHITはHITを定量的に評価可能であり, bHITよりも軽微な異常を感知できる.
しかしながら装置が仰々しいのとすぐにはできない点がERでの使用には向かない.
めまい症や前庭機能低下が疑われる患者で専門クリニックで評価する際に比較的使用されやすい装置
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他の末梢性めまい症ではHITはどうなる?
前庭神経炎 52例, 片側性聴神経腫瘍 31例, 片側性メニエール病 22例, 両側性Vestibulopathy 12例, 健常人20例において, vHITを評価. (horizontal HITを評価)
(Auris Nasus Larynx 40 (2013) 348–351)
・各疾患におけるvHITの結果
疾患
vHIT異常
covertのみ
overtのみ
covert, overt
前庭神経炎
94.2%
16.3%
0.62±0.22
34.7%
0.61±0.21
49%
0.40±0.25
聴神経腫瘍
61.3%
5.3%
0.75±0.0
36.8%
0.56±0.20
57.9%
0.43±0.24
MD
54.5%
16.7%
0.58±0.23
33.3%
0.73±0.14
50%
0.51±0.29
両側性vestibulopathy
91.7%
13.6%
0.44±0.16
31.8%
0.31±0.15
52.0%
0.46±0.25
・vHIT異常パターンは, 異常症例のうちの%を示す.
 下段はVOR gainの値
・前庭神経炎では発症から1-94日の間に評価

めまい症の患者で, Caloric試験で異常であった172例でベッドサイドHIT(bHIT), video-HIT(vHIT)を行った報告
(Eur Arch Otorhinolaryngol (2014) 271:463–472)
・診断とvHIT, bHIT異常の頻度

・前庭神経炎では46/59(78%)でHITが異常となる. 
 これはbHITもvHITも感度は同等.
・他の疾患: BPPV, MD, VM, Somatoform vertigoや中枢性ではHITは正常が多い
・またその際はvHITの方が軽微な異常は検出しやすい.

発症期間で比較した結果(急性: 発症5日以内)

・発症5日以内の前庭神経炎では27/29(93%)でHITが異常.
 5日以降の前庭神経炎では20/30(67%)のみ.
・それ以外の疾患ではHITは正常となることが多い.
・前庭神経炎ではbHITもvHITも感度は同等であるが, 他の疾患(BPPVやMD)でごく軽度の異常を検出するにはvHITの方がより高感度となる可能性.
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・vHITを用いると, 前庭神経炎以外の末梢性めまい症でもHITは障害されるが, その感度は5ー6割程度. 両側性のvestibulopathyでは前庭神経炎と同程度で異常を認める.

・vHITとbHIT双方を評価した報告からは, 前庭神経炎急性期ならばvHITもbHITも感度は同等の可能性が高い. 時間が経過したり, 他の末梢性めまい症の場合はbHITで検出することが難しくなり, vHITの方が高感度に検出が可能となる.
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ERでの主観的なHITの評価(clinical HIT, bedside HIT: 略してcHIT もしくはbHIT)はどこまで信頼が置ける?
めまい, ふらつきでNeuro-otology clinicを受診した外来患者500例において, bedside-HIT(bHIT)とvideo-HIT(vHIT)を施行した前向きStudy.
(Front Neurol. 2016 Apr 20;7:58.)
・RSをvHITとしたときのbHITの感度, 特異度を評価.
・母集団データ

・vHITにおけるgainの分布

vHIT gainカットオフ別のbHITの感度, 特異度

・vHIT gain<0.6検出にはbHITの感度は80%と良好と言えるが, vHIT gainカットオフが高くなると感度は低下.
・vHITで異常というにはgain<0.7を用い, それでは感度 60-70%, 特異度 90%前後となる.

左右非対称性に対するbHITの感度.
・左右差が50-60%以上あればbHITの感度も良好となる

これより, vHITにおけるgainが<0.6ならばbHITでも検出率が高く, さらに左右差を意識することで感度は上昇する可能性がある.

では, 前庭神経炎におけるvHIT gainは幾つ程度なのか?

前庭神経炎におけるvHIT gain
前述までのStudyでのvHIT gainをまとめると,
・発症1wk以内の前庭神経炎ではgain 0.52[0.44-0.59] (Otol Neurotol 36:457-465, 2015.)
・AVS患者における前庭神経炎ではgain 0.22, Asymmetry 54% (Neurology® 2014;83:1513–1522)
・発症1ー94日で評価したvHITでは以下の通り (Auris Nasus Larynx 40 (2013) 348–351)
疾患
vHIT異常
covertのみ
overtのみ
covert, overt
前庭神経炎
94.2%
16.3%
0.62±0.22
34.7%
0.61±0.21
49%
0.40±0.25
前庭神経炎 44例において, 急性期と2ヶ月後のHITを評価.
・急性期と2ヶ月後フォローアップにおけるvHIT gain
・急性期ではほぼ全例でgainの低下を認めるが, 2ヶ月後では一部改善している.
・Horizontal canalでのgainでは全例が<0.8, <0.5となる例も多い.

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 前庭神経炎急性期におけるvHIT gainは顕著に低下することが多く, 従ってbHITで検出可能なことも多いと考えられる. 急性期における評価ではvHITもbHITも同程度の感度の可能性. ただしbHITは検者の経験がモノをいうため, その点考慮する必要がある.
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以上をサックリと個人的にまとめると,

・vHITは感度はよいがERや一般外来で評価するには手間がかかる.
・AVSにおける急性期の前庭神経炎の評価にはbHITで事足りる可能性が高い(検者の経験は必要)
・前庭神経炎以外の末梢性めまい症が疑われる場合はbHITに頼るべきではない.
 BPPVもメニエールも聴神経腫瘍も前庭偏頭痛もHITは異常とならないことが多く, また異常となっても半数前後のみ. 鑑別には使えない.
・中枢性でもAICA梗塞の場合はHITの異常が出現する.

2016年10月28日金曜日

COPD患者に対する在宅酸素の適応

COPD患者において, 重度の低酸素状態の患者では, 長期酸素療法(LTOT)は効果的
(Chest. 2010 Jul;138(1):179-87.)

PaO2=<55mmHg or =<59mmHg + (右室負荷 or 多血症)患者においては, LTOTは死亡率の改善, ADLの改善が証明されている.
 右室負荷; Dependent edema, 肺性P波
 多血症; Ht>56%
・2L/minを15HR/dで使用し, 生存率55% vs 33%(P<0.05) 
 (MRC study, Lancet. 1981 Mar 28;1(8222):681-6.)
・肺血管抵抗の減少, 多血症の改善にも有効 
 (NIH NOTT, Ann Intern Med. 1980 Sep;93(3):391-8.)

中等度の低酸素, 症候性のCOPD患者に対するLTOTの効果は未だ不明.
 中等度の低酸素血症(PaO2 56-65)では, LTOTの生存率改善は認められない.(OR 1.39[0.74-2.59])報告もある.

運動時の低酸素血症(+)患者への酸素療法
・運動時低酸素の定義は一定していない.
 大体がSat 88-90%をCutoffとすることが多い.
・運動中の低酸素はCOPDの死亡Riskとなる; 6分歩行テスト中のSat>=4%の低下 or Sat<90%は死亡RR2.63
・運動時のO2吸入により6分間歩行テストの距離が伸びる可能性が示唆.
 また, LTOTではADLの改善, QOLの改善が示唆されるが, 明確な結論は無し.

そこに中等度の低酸素血症を伴うCOPD患者に対するLTOTの効果を比較したRCT(LOTT trial)が発表

LOTT trial: 中等度低酸素血症を認めるCOPDに対する酸素療法の効果を評価したopen-label RCT.
(N Engl J Med 2016;375:1617-27.)
・安静時 SpO2 89-93%のCOPD患者を対象.
・また, Study開始 7ヶ月後から運動時低酸素患者群も対象とした.
 運動時低酸素は, 6分間歩行にて5分以上SpO2 ≥80%を維持し, 10秒以上SpO2 <90%を満たす患者群を対象.

上記を満たす患者群 738例を, 長期間酸素投与群 vs 非投与群に割り付け, 比較.
・酸素投与群では安静時低酸素血症患者では24h使用, 
 運動時低酸素血症患者では運動時と睡眠時のみ使用する.
・酸素投与量は, 2分間以上の歩行時のSpO2 90%以上となるように年1回調節する. 睡眠時と安静時は2L/min
・非投与群では重度の低酸素(安静時SpO2≤88%, 運動時≤80%, 1分以上)を満たさない限り, 長期間酸素は使用しない

母集団データ

アウトカム(1-6年間フォロー, 中央値18.4ヶ月)
・死亡リスク, 入院リスクは両者で有意差なし.

さらに,
・COPD急性増悪リスク RR 1.08[0.98-1.19]
・CODP関連入院リスク RR 0.99[0.83-1.17] も有意差なし
・QOL, 肺機能, 6分間歩行距離も両者で変わらない結果.

しかしながら, 
・Studyの導入前1-3ヶ月以内にCOPD急性増悪を呈した患者群では酸素投与群の方が死亡, 入院リスクが低かった(HR0.58[0.39-0.88])
・71歳以上の高齢者でも酸素投与群の方が予後(死亡, 入院リスク)が良い(HR 0.75[0.57-0.99])
・QOLが低い患者群(Quality of Well-Being Scale score <0.55)も予後が良くなる可能性がある(HR 0.77[0.60-0.99])

ただし, これらも多変量解析を行うと上記患者群でも有意差はない.

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COPDに対する在宅酸素療法のRCTはあまりなく, 適応もよく分からない.
LOTTはその意味では重要なStudyといえる. 長期予後で差がでることも考えられるため, この時点では「意味無し」と無下に言えないと思う

クランベリーによる尿路感染症予防

クランベリーに含まれるキナ酸が尿の酸性化、GNRの尿路上皮への付着を阻害効果があり, 尿路感染症の予防効果があると言われている.

UTI予防目的のクランベリーの効果を評価した13 trialsのMeta-analysis
(Arch Intern Med 2012;172:988-996)
・9 trialsがクランベリージュースを使用し, 4 trialsがタブレット、カプセルを使用。
 クランベリーの摂取量は400mg〜194.4g/日

アウトカム;
 クランベリージュースは有意に尿路感染症リスクを軽減する; RR0.62[0.49-0.80]

サブグループ解析では,
 再発性UTI, 小児で有意差を認める.
 ジュース使用群、1日複数回の内服群がより効果的と言える.
Subgroup
N
RR
再発性UTIの女性
2
0.53[0.33-0.83]
神経因性膀胱
4
0.80[0.57-1.14]
小児
1
0.28[0.12-0.64]
高齢者
1
0.51[0.21-1.22]
妊婦
1
4.57[0.25-83.60]
年齢 <18yr
2
0.33[0.16-0.69]
年齢 ≥18yr
7
0.68[0.52-0.89]
女性のみ
4
0.49[0.34-0.73]
クランベリージュース使用
5
0.47[0.30-0.72]
クランベリー錠剤, カプセル
3
0.79[0.44-1.44]
12回以上投与
4
0.58[0.40-0.84]
11回投与
1
1.03[0.64-1.66]


Funnel Platでも特に偏りは認めない.

2013年にでた24 RCTsのMeta
(JAMA 2013;310:1395-1396)
この結果からは, クランベリーにUTI予防効果は期待できない.

GIMにとって高齢者のUTIはCommon disease.
特に施設入所者では繰り返す事も多いため, 少しでも予防ができれば良いと思っているが,
最近発表された施設入所者に対するクランベリーの予防効果を評価したRCTを見てみると

Long-term care facilitiesの入所者 928例を対象としてクランベリーカプセルのUTI予防効果を評価したDB−RCT
(J Am Geriatr Soc 62:103–110, 2014. )
・クランベリーカプセル vs Placeboを12ヶ月間継続
 カプセルには9mgのproanthocyanidinsが含有. 1日2回内服.
・患者群をUTI 低リスクと高リスク群に分類し各群におけるUTI予防効果を評価.
 (高リスク: 長期間の尿道カテーテル, DM, UTIの既往歴)
リスク
Risk difference
HR
低リスク群
6.9[-6.9~20.7]
1.22[0.84-1.77]
高リスク群
-22.0[-41.4~-2.7]
0.74[0.57-0.97]
高リスク群で
カテーテル(-)
-26.9[-47.4~-6.5]
0.67[0.49-0.91]
施設入所者で高リスク患者ではクランベリーによる予防効果は期待できる

Nursing home入所中の高齢女性を対象としたDB-RCT.
(Effect of Cranberry Capsules on Bacteriuria Plus Pyuria Among Older Women in Nursing Homes A Randomized Clinical Trial. JAMA)
・65歳以上の女性で, 長期間施設入所中の185例を対象とし, クランベリーカプセル vs プラセボに割り付け, 1年間継続.
 クランベリーカプセルには1CPあたり36mgのproanthocyanidinが含有
 2CP/日使用し, 合計72mg: クランベリージュース 約600mlに相当.
アウトカムは細菌尿(1-2種類の細菌が培養で≥105CFU/mL で定義) + 膿尿(尿中WBC陽性で定義). 2ヶ月毎に評価.

母集団
前のStudyで高リスクの基準であったDMは27%, 1年以内のUTIの既往がある患者が30%程度

アウトカム
細菌尿+膿尿は両者で有意差なし

入院リスク, 抗生剤使用頻度も双方で有意差を認めない.

施設入所者でのクランベリーもあまりUTI予防効果はないのかもしれない.
後者では感染症リスク別の解析はなく, 前者ではDM, カテーテル, UTI既往で定義される高リスク群での解析を行い, 高リスク群では予防効果が期待できるとの結論になっている.

繰り返す患者ではダメ元でやってみる. という選択肢はまだ残されているように思う