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2016年9月20日火曜日

SJS, TEN ② 治療, 対応

SJS, TENの治療, 対応
(Crit Care Med 2011; 39:1521–1532)(Journal of Plastic, Reconstructive & Aesthetic Surgery (2016) 69, e119-e153 )

全身管理
迅速な原因薬剤の中止は予後改善に関連するため, 薬剤の評価と被疑薬の中止は必須
管理は重症熱傷の管理と同様. 
・BSA10%(30%では特に)を超える表皮剥離では早期の熱傷センターへの転院, ICU管理を考慮する.
・熱傷ユニットでの管理は予後を改善.
・7日以内の転院は死亡率29.8% vs 7日以降の転院では死亡率51.4%(p=0.05)
 TENは重症熱傷よりも浅い部位の障害であり, 輸液量, 必要Cal量, 電解質量は重症熱傷よりも少なくてOK.

初期輸液量は2mL/kg/%aBSAで十分な尿量が得られるとの報告もあり(熱傷の半分量)

必要カロリー量
・必要カロリー量は重症熱傷より600kcal or 22%少なくて十分.
・早期の異化亢進期では20-25kcal/kg/d, 同化亢進期では25-30kcal/kg
・小児例では必要カロリー量(kcal) = (障害前体重(kg) x 24.6) + (aBSA(%) x4.1)+940 との式もある.
・他の報告では, 必要カロリー量はPredicted basal metabolic rateの120%のカロリー量とし, タンパク量を3g/kgとしているものもある.

ずり応力は極力避ける >> さらなる表皮剥離が進行する
・心電図モニターやルート刺入部には注意が必要.

疼痛マネージメントも重要

体動が困難なことが多いため, VTE予防も行う

SJS, TENに対する薬剤治療
免疫抑制剤はControversial
・ステロイドは小児例で発熱期間を短縮させる(当たり前!)報告があるが, 他の報告では死亡率を上昇させる結果もあり.
・ステロイド群ではより感染症, GI出血, 他の合併症が増加する.
・IVIGも完全に有効性を証明された訳ではなく, 現時点で免疫抑制療法を示唆するEvidenceは無し.
 2012年, 2016年に発表されたTENに対するIVIGを評価した2つのMeta-analysisでは, IVIGによるTENの死亡リスク低下効果は認められない結果.
(Br J Dermatol. 2012 Aug;167(2):424-32.)(G Ital Dermatol Venereol. 2016 Oct;151(5):515-24.)
・Cyclosporine 3-10mg/kg/dはいくつかのCase reportで進行の予防と上皮化の促進効果を認めている. 今後に期待.

IVIG+ステロイドの併用
中国におけるTEN患者45例を対象とした後ろ向きStudyでは, ステロイド単独と比較して, IVIG併用は死亡リスクを低下させる[傾向]はあるが, 有意差なし.
(Int J Dermatol. 2009 Oct;48(10):1122-8.)

中国におけるSJS, TEN患者82例の後ろ向きStudy
(Eur J Dermatol. 2010 Nov-Dec;20(6):743-7.)
・ステロイド単独群 58例, IVIG併用群 24例
・SCORTEN 2点群では, IVIG併用は有意に入院期間の短縮効果を認める(26.4±9.5日 vs 18.1±5.3日)
 ただし, 合併症リスクは有意差なし.
・死亡リスクはステロイド単独もIVIG併用も, リスク軽減効果は認めず.

中国におけるTEN患者61例を対象とした後ろ向きStudy
(J Burn Care Res 2012;33:e295–e308) 
・ステロイド単独治療(mPSL 1.5mg/kg/d)で治療した16例とステロイド+IVIG(2g/kg)を併用した39例を比較した結果, 併用群の方が死亡リスクは低い傾向(31% vs 13%, p>0.10)

・SCORTEN 0では有意差はないが, IVIG併用による死亡リスク低下効果は認められるかもしれない.

日本国内におけるステロイド不応性のSJS 5例, TEN 3例に対して, IVIGを併用した報告
(Journal of Dermatology 2015; 42: 768–777 )
・PSL ≥20mg/dを2日間以上使用しても改善が認められない症例を対象とし, IVIG 0.4g/kg/dを5日間併用し, Day 7における臨床症状を評価した
・SCORTEN ≥4, mPSLパルス施行例, 多臓器不全, IVIG施行歴(<28d), IgA欠乏などある場合は除外.
・アウトカムはDay 7におけるSeverity-of-illnessスコア

アウトカム: 7/8でスコアは低下を認める結果.
重症例(SCORTEN≥4)が除外されており, 臓器不全も除外, パルス施行患者も除外されていることから, そのまま臨床で適応できるかどうかは微妙だが, 考慮する価値はあるか?

2000-2006年に国内で報告されたSJS, TEN症例の治療選択
(Allergology International. 2007;56:419-425)

国内の87例における治療選択
TENはSJS/TENも含む症例
・ステロイドパルス, ステロイド治療を選択している例が多い.
(Allergology International 65 (2016) 74-81)

病変別の対応
(Journal of Plastic, Reconstructive & Aesthetic Surgery (2016) 69, e119-e153 )
眼病変に対する対応
・SJS, TENにおける眼病変は, 皮膚と同時期, もしくは皮膚病変に先行して認められる.
 159例のSJS, TEN症例の報告では, 急性期に眼病変を認めたのは74%
 眼球結膜, 眼瞼結膜の炎症に加えて, 結膜浮腫, 偽膜形成, 角膜, 結膜の上皮欠損などが認められる.
・眼病変は後遺症としても重要.
 後遺症はドライアイや逆さ睫毛が多い
・SJS, TENによる眼病変の重症度


 ・軽症例が4-6割を占め, 重症例は1割未満

SJS, TENにおける眼病変の対応
・急性期のSJS, TENでは必ず眼科診察を行い, 連日フォローする必要がある
 角膜損傷や感染兆候の評価, フォローが重要.
 また, 眼球の衛生状態を保つため, 脱落組織のデブリも大事な処置.
・SJS, TENにおいて, 眼球表面の保湿と衛生は重要であり, 全例で行なうべき処置.
・結膜炎所見がある場合はステロイド点眼(0.1%Dexamethasone)を使用
・角膜損傷や眼球感染兆候があれば, 抗生剤の点眼を使用する
・眼病変に対する全身性ステロイド投与やIVIGの使用については, 小規模の非コントロールトライアル, 後ろ向き解析が主であり, 有効性については確立されていない
・眼球の清潔が全身麻酔無しでは保てない場合, 羊膜移植が有用かもしれない.

口腔病変に対する対応
・SJS, TENにおける口腔内病変では, 有痛性の口腔粘膜紅斑や水疱形成, 潰瘍形成などが認められる.
・口唇, 舌, 軟口蓋も多く侵襲される部位. 
 重症例では咽頭, 喉頭, 気道, 食道も侵される
・SJS, TENでは口腔内病変により飲食が困難となることが多い.
 飲食可能ならば柔らかく, 刺激の少なく, 嚥下しやすいものを摂取する
・対応は衛生状態の維持とステロイド外用となる.
 ステロイド外用は口腔内炎症の改善に有用.
 口腔ケア, 口腔リンス, マウスウォッシュなどを用いて衛生状態を維持

泌尿, 生殖器病変に対する対応
・SJS, TENでは早期に泌尿生殖器病変のスクリーニングを
 女性ならば婦人科診察を行い評価する
・泌尿生殖器でも, 保湿と清潔の維持が基本
・またステロイド外用により炎症を緩和する.
・尿道病変が強い場合は狭窄の予防としてカテーテル留置も考慮する

気道病変に対する対応
・気道病変は死亡リスクに関連する因子であるが,  体表の皮膚病変の重症度とは相関しないため注意
・気道分泌物の増加による肺浸潤影, 低酸素, 呼吸苦などを呈する
 気管粘膜の壊死による急性気道閉塞もありえる.
・気道病変+例では90%が挿管, 人工呼吸器管理が必要となる. 死亡率も高い
・慢性期では閉塞性気管支炎や気管支拡張, 慢性気管支炎など後遺症も認められる.
・SJS, TENでは常に気道病変について注意を怠らない.
 可能性があれば気管支鏡を行い, 挿管を考慮する

SJS, TENにおける挿管症例 vs 非挿管症例の比較
(The American Journal of Surgery (2016) 211, 684–688)
・TENでは挿管となるリスクが高い. SJSではリスクは比較的低い.
・口腔内病変(+), 初期の罹患面積が≥70%, 経過中に≥15%の拡大は挿管リスクとなる

被疑薬の検査
(Journal of Plastic, Reconstructive & Aesthetic Surgery (2016) 69, e119-e153 )
SJS, TENはT細胞が関連した免疫反応であるため, 薬剤特異性IgE検査(Skin prick testなど)は有用ではない.
・リンパ球刺激試験やDrug patch試験などを考慮する.
・経口負荷試験は避けるべき