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2016年8月29日月曜日

Epidemic myalgiaによる肋間筋のスパスム

症例: 30歳代男性,
 特に既往はなし. 1週間ほど前に鼻汁, 咽頭痛を自覚. その後数日で自然に改善したが, 本日から1時間に1回程度, 5分以上持続する前胸部の絞扼感を自覚され来院.
 胸痛は数分の経過で前胸部の締め付けられるような痛みで, その間は動けなくなる.
 冷汗を伴うこともあり, 死ぬのではないかと思うほど. 心筋梗塞が心配.
 
 ACSのリスク因子はなく, またECG, エコーでも問題は認めない.

今年の夏はこのような患者さんが数人外来でおりました.
 複数の医療機関で診断がつかず、紹介された例もありました.

さて, この原因は?

・このような胸痛はPrecordial catch syndromeに類似している.
 ただし, 新規発症であり, 5分以上持続する. また繰り返す.
 Precordial catch syndromeは肋間筋のスパスムが原因ではないかと言われている.

・そこで, 夏に増加し, 感冒症状の前駆があり, 肋間筋のスパスムを繰り返す, と考えるとEpidemic myalgia, Bornholm病が浮かぶ.
 Epidemic myalgiaはウイルス感染に伴う胸膜痛, 筋肉痛のこと. 
 こちらで軽くまとめてあります

このEpidemic myalgiaにおける疼痛の詳細をさらに詳しく調べてみました.

胸腹痛の詳細
・腹痛は心窩部, 季肋部で多く, 42.7%を占める.
・臍周囲は30.5%, 右下腹部が12.4%
・腰部, 下腹部が7.2%.
臍周囲から右下腹部へ移動するタイプが7.2%ある(虫垂炎Like)
左側よりも右側の方がより多く, 左下腹部に疼痛を訴える患者は無し.

疼痛は突如発症することが多い.
疼痛は鋭い痛み, スパスム様の痛みとなる
・間欠性に急激に出現し, 15-30分持続して改善する様な経過もある
 その間はまえかがみとなったり, 動けなくなることが多い.
・運動や仕事後の筋肉痛として生じるパターンもある
 この場合, 寝ていても運動している横隔膜の痛みを朝に自覚することもある.

疼痛の強さや性状は患者により, 流行期により様々.
・“Epidemic of stitch in the chest” “Devil’s grip”など表現されている
 患者の表現も “vice-like“, “took her breath away(息をのむ痛み)” ”死を覚悟する痛み” など表現がある
過去にAMIを経験した患者では, それに匹敵する疼痛という. ただし, MIほどしんどくはなかったと.
・疼痛の原因は筋の炎症やスパスムによるものと考えられている.
・胸痛は成人例でより多く認められる.
 片側性が普通だが, どの部位で生じても良い. 特に右下胸部で頻度が高い傾向がある.

(Br Med J. 1953 Jun 20;1(4824):1345-51.)(Infect Dis Clin Pract 2014;22: 75-77)(Proc R Soc Med. 1959 Jun;52(6):477-8.)

以上, 具体的な頻度がなく申し訳有りませんが,
胸膜痛や腹膜痛, 筋肉痛以外にこのようなスパスムによる突然発症の胸痛を繰り返すパターンもあります.

当然MIの否定は大事ですが, リスクも低く, 所見もなく, 夏場で, 感冒症状を伴う場合は, Epidemic myalgiaと考えてよいとおもいます.

実は小児のPrecordial catch syndromeもViral infectionでが原因だったりして