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2016年8月30日火曜日

Leukemia cutis: 皮膚白血病

Leukemia cutis(LC)は白血病に伴う皮膚病変の総称.
皮膚へ腫瘍細胞浸潤を認めることで定義され, 様々な皮膚症状が含まれる.
・しばしば白血病の初発症状として認められ,
 骨髄や末梢血に腫瘍細胞が出現する前に皮膚病変を認める(<10%).
・皮膚に生じるmyeloid sarcomaやmonoblastic sarcomaも含まれる.
・AML以外に, CML, MDSなど慢性骨髄増殖性疾患も原因となり, この場合, 皮膚病変の出現は急性白血転化を疑う.
 MDSでは, LC以外にLeucocytoclastic vasculitisや異形細胞の浸潤といった他の皮膚所見もあるがLCは急性転化を示唆する所見であり, 特に予後が悪い.
 また, リンパ球性白血病やリンパ腫の皮膚病変もLCに含まれる.
(Journal of Investigative Dermatology (2015) 135, 2321–2324)
(Am J Clin Pathol 2008;129:130-142)

Leukemia cutisを合併しうる血液腫瘍
(Am J Clin Pathol 2008;129:130-142)

LCはAMLの10-15%で認められる
・慢性骨髄増殖性疾患では合併率は少ない.
・AMLでもタイプにより合併率は異なり, AMMoL(M4)やAMoL(M5)では50%と多い.
・リンパ球性白血病では, CLL/SLLが4-20%, T細胞性白血病では20-70%と頻度が高い.
・一方でPrecursor B, T-cell lymphoblastic leukemia/lymphomaでは1%と稀.
・また, 形質細胞性骨髄腫でも稀.
(Am J Clin Pathol 2008;129:130-142)

LCの臨床所見
単発性, 多発性の皮膚病変で, 多いタイプはスミレ色, 赤褐色, 出血性の丘疹, 結節, 斑状の病変となる. サイズは様々.
(JDDG;2012 10:27–36)

・部位は下肢が多く, 次いで上肢, 背部, 胸部, 頭部, 顔面
・過去に炎症があった部位に腫瘍細胞の浸潤も認めやすい.
(Am J Clin Pathol 2008;129:130-142)





皮膚所見からの, LCの鑑別疾患
(JDDG;2012 10:27–36)

LCの組織所見
・腫瘍細胞が血管周囲や皮膚附属器周囲に集積している所見や, びまん性に間質に浸潤している所見, 結節状に浸潤している所見が得られる.
・稀ながら間質表層に分布することもある
(Am J Clin Pathol 2008;129:130-142)

細胞免疫染色所見からのLCの原因鑑別フローチャート

(Am J Clin Pathol 2008;129:130-142)

2016年8月29日月曜日

Epidemic myalgiaによる肋間筋のスパスム

症例: 30歳代男性,
 特に既往はなし. 1週間ほど前に鼻汁, 咽頭痛を自覚. その後数日で自然に改善したが, 本日から1時間に1回程度, 5分以上持続する前胸部の絞扼感を自覚され来院.
 胸痛は数分の経過で前胸部の締め付けられるような痛みで, その間は動けなくなる.
 冷汗を伴うこともあり, 死ぬのではないかと思うほど. 心筋梗塞が心配.
 
 ACSのリスク因子はなく, またECG, エコーでも問題は認めない.

今年の夏はこのような患者さんが数人外来でおりました.
 複数の医療機関で診断がつかず、紹介された例もありました.

さて, この原因は?

・このような胸痛はPrecordial catch syndromeに類似している.
 ただし, 新規発症であり, 5分以上持続する. また繰り返す.
 Precordial catch syndromeは肋間筋のスパスムが原因ではないかと言われている.

・そこで, 夏に増加し, 感冒症状の前駆があり, 肋間筋のスパスムを繰り返す, と考えるとEpidemic myalgia, Bornholm病が浮かぶ.
 Epidemic myalgiaはウイルス感染に伴う胸膜痛, 筋肉痛のこと. 
 こちらで軽くまとめてあります

このEpidemic myalgiaにおける疼痛の詳細をさらに詳しく調べてみました.

胸腹痛の詳細
・腹痛は心窩部, 季肋部で多く, 42.7%を占める.
・臍周囲は30.5%, 右下腹部が12.4%
・腰部, 下腹部が7.2%.
臍周囲から右下腹部へ移動するタイプが7.2%ある(虫垂炎Like)
左側よりも右側の方がより多く, 左下腹部に疼痛を訴える患者は無し.

疼痛は突如発症することが多い.
疼痛は鋭い痛み, スパスム様の痛みとなる
・間欠性に急激に出現し, 15-30分持続して改善する様な経過もある
 その間はまえかがみとなったり, 動けなくなることが多い.
・運動や仕事後の筋肉痛として生じるパターンもある
 この場合, 寝ていても運動している横隔膜の痛みを朝に自覚することもある.

疼痛の強さや性状は患者により, 流行期により様々.
・“Epidemic of stitch in the chest” “Devil’s grip”など表現されている
 患者の表現も “vice-like“, “took her breath away(息をのむ痛み)” ”死を覚悟する痛み” など表現がある
過去にAMIを経験した患者では, それに匹敵する疼痛という. ただし, MIほどしんどくはなかったと.
・疼痛の原因は筋の炎症やスパスムによるものと考えられている.
・胸痛は成人例でより多く認められる.
 片側性が普通だが, どの部位で生じても良い. 特に右下胸部で頻度が高い傾向がある.

(Br Med J. 1953 Jun 20;1(4824):1345-51.)(Infect Dis Clin Pract 2014;22: 75-77)(Proc R Soc Med. 1959 Jun;52(6):477-8.)

以上, 具体的な頻度がなく申し訳有りませんが,
胸膜痛や腹膜痛, 筋肉痛以外にこのようなスパスムによる突然発症の胸痛を繰り返すパターンもあります.

当然MIの否定は大事ですが, リスクも低く, 所見もなく, 夏場で, 感冒症状を伴う場合は, Epidemic myalgiaと考えてよいとおもいます.

実は小児のPrecordial catch syndromeもViral infectionでが原因だったりして

2016年8月27日土曜日

糖尿病による近位筋の脱力, 萎縮: Diabetic amyotrophy

Diabetic amyotrophy, 別名Proximal diabetic neuropathy(PDN)は, 主に2型糖尿病における稀な合併症であり, 急性/亜急性経過の有痛性, 左右非対称性の近位筋の脱力, 萎縮を呈する病態.
・また, Bruns-Garland syndromeとも呼ばれる
・糖尿病患者の1%で合併する.
・糖尿病性末梢神経障害と異なり, 自己免疫機序の血管障害(血管炎, 血管周囲炎)による, 虚血性神経障害が原因となると指摘されている
 IVIGやステロイドが効果的であった報告も多い
・部位は下腿(腰仙骨神経叢)で多く, 上肢は少ないが報告はある. 
 疼痛を伴うことが多いが, 感覚障害や異痛症は稀.
 また左右対称性でも, 非対称性でもよい. 筋脱力, 筋萎縮と体重減少を伴う.
(Internal Medicine 2001;40:273-4)(Neurology  Volume 55(1), 12 July 2000, pp 83-88)

15例のPDN症例(全例で進行性, 有痛性, 左右非対称の近位筋脱力, 5wk-12ヶ月で進行)で神経, 筋生検を行った報告では,
(Neurology  Volume 55(1), 12 July 2000, pp 83-88)
・患者は49-79歳で, 2型DMの罹患期間は3ヶ月〜9年.
・筋力低下の程度は軽度の脱力〜車椅子まで様々
・組織は10/15で血管周囲炎, 血管炎所見が認められた.

糖尿病性腰仙骨神経叢障害(DLSRPN) 33例を前向きに評価.
(Neurology Volume 53(9), 10 December 1999, pp 2113-2121)
・Mayo clinicにおいて診断されたDLSRPN 33例で神経生検を行い, Control群 14例, 糖尿病性多発神経症 21例と比較.
・DLSRPNは65歳[36-76], DM発症からの期間は4.1年[0-36], 平均HbA1cは7.5%[5.1-12.9], インスリン使用は13例(うち1例が1型)
・網膜症は4例, 神経症は2例のみ.

症状の程度

血液検査, CSF
DLSRPNでは特に自己抗体や血液検査で特徴はない
・CSFでは蛋白細胞解離を認める(89g/dL[44.0-214.0])

組織所見, 生理電気検査所見
・組織所見では血管炎や血管周囲炎の所見が多い.

上肢のDPN(Diabetic cervical radiculoplexus neuropathy)と下肢のDPN(DLSRPN)症例の比較.
(Brain 2012: 135; 3074–3088)
・Mayo clinicにおいて, 1996-2008年に診断されたDCRPN 85例を解析.
 また過去に発表されたDLRPN 33例のデータ(上記のStudy)と比較.

患者背景の比較
・背景はBMIに差はあるものの, あまり臨床上大きな差は認めない

神経障害の比較
・下肢のPDNは疼痛で発症することが多い. 上肢では疼痛が多いものの, 感覚障害で発症するパターンもある.
・また, 下肢では最終的に両側性となるが, 上肢では片側性のまま経過することも.
・経過は双方急性〜亜急性が多い. 上肢では慢性経過もあり得る.

DCRPN(上肢)とDLRPN(下肢)の検査所見の比較
・双方とも9割以上でCSF中蛋白が上昇. 細胞数の上昇は1割未満と, 蛋白細胞解離が認められる.
・電気生理学検査では, 脱髄所見は少ないが上肢で認められる.
 CMAP, SNAP異常は下肢の方が多いが, あまり臨床上有意な差かどうかは微妙.

組織所見
・双方とも同様に血管炎や血管周囲炎所見が目立つ.
 障害の機序は同じと考えられる.

Diabetic amyotrophy, DPNの治療
・DPNでは自己免疫機序の微小血管炎, 血管周囲炎が関連しており, 抗炎症治療が有効である可能性が指摘されている.
・IVIGやステロイド, 免疫抑制剤が試されているが, Studyは乏しく, 2012年のコクランでは評価困難としている(Cochrane Database Syst Rev. 2012 Jun 13;(6):CD006521.)
・DMにおけるMultifocal axonal neuropathy(DPN, 多発単神経炎)や, 脱髄性神経症(CIDP様神経障害)ではIVIGやステロイドが効果が期待できる(Arch Neurol. 1995 Nov;52(11):1053-61.)
IVIGは400mg/kg/dを3~5日間(Diabetes Research and Clinical Practice 75 (2007) 107–110)(Internal Medicine 2001;40:349-352)

・糖尿病を背景としているため, 大量, 長期間のステロイドは使用しにくい.
 報告ではPSL 0.5-1mg/kgは使用していることが多い.
 その点からはIVIGの方が使用しやすいと言える.

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・糖尿病患者において, 急性〜亜急性の経過で上下肢近位筋の脱力, 萎縮, 体重減少をきたす病態が稀ながらある.
・神経叢の神経障害(脱髄や軸索障害)が原因であり, CSFでは蛋白細胞解離が認められる.
 その機序は微小血管炎, 血管周囲炎であり, 糖尿病の罹患期間や血糖コントロールとの関連は乏しい.
 糖尿病発症して1年未満で出現していることもある.
 したがって末梢神経障害や網膜症、腎症との関連も乏しいと言える.
・治療は免疫抑制やIVIGである. DMを背景としており、ステロイドよりはIVIGの方が使用しやすいかもしれない.

2016年8月26日金曜日

不明熱における骨髄生検

不明熱の原因精査において, 骨髄穿刺を行うことがある
これは血液悪性腫瘍の評価や血液疾患の評価, 感染症の評価として行われる.

免疫正常のFUO 280名中, 130名に骨髄生検を施行
(Arch Intern Med 2009;169:2018-23)
・130名中, 31名(23.7%)が骨髄生検により診断がついた.
 その内25名が悪性疾患.
FUO280名の原因頻度
感染症 15.9%
悪性腫瘍 30.3%
非感染性炎症性疾患 40.2%
その他 13.6%
不明 32.8%
骨髄生検130名の原因頻度
感染症 17.7%
悪性腫瘍 28.4%
非感染性炎症性疾患 24.6%
その他 10.7%
不明 18.6%
生検により診断がついた31名の内訳
血液腫瘍 25
 Non-Hodgkin Lymphoma 11
 Hodgkin Lymphoma 4
 Acute Leukemia 4
 Adult T lymphoma 3
 Hairy cell leukemia 1
 Burkitt lymphoma 1
 Multiple myeloma 1
その他 6
 Systemic mastocytosis 2
 Tuberculosis 2
 Granuloma 1
 Visceral leishmaniasis 1

骨髄生検により,診断がつきそうな因子としては, 以下のようなものがある
Factor OR Factor OR
脾腫 2.55[0.9-7.18] 持続性の発熱 2.84[1.6-12.6]
貧血, Hb<11 3.24[1.13-9.34] LDH>450IU/L 1.62[0.57-4.59]
血小板減少 4.49[1.04-9.3]




FUOで骨髄生検を行った75例のうち20例(26.7%)が生検により診断がついた.
(Mayo Clin Proc.2012;87(2):136-142 )
・骨髄生検による最終診断

FUOにおいて, 骨髄生検が診断に寄与する可能性に関わる因子.

・リンパ節腫大, 男性例, 貧血, LDH上昇例, 高齢者では骨髄生検により診断がつく可能性が上昇する
・B症状がある例(発熱を除く)ではその可能性は低下


Bone marrow score: FUOにおいて, 早期にBMを行う方が良い患者群を評価するスコア
・85例の免疫正常患者におけるFUOでBMを行い, BMが診断に寄与する因子を解析.
・さらに20例でValidationを施行.
・患者群はFUOのクライテリアを満たし, さらに免疫不全因子が否定され(HIVや好中球減少, 薬剤など), 精査目的にコンサルトされた症例.
・上記 85例中BMで血液悪性腫瘍が診断されたのは29例(34.1%)

BMで血液疾患が診断される因子

結果よりBMSを作成

・BMS ≥6点では血液腫瘍の可能性が高く, 早期にBMを行うべき


2016年8月25日木曜日

CRPと血沈(ESR)の解離

CRPもESRも炎症マーカーとしてよく使用される指標
・一般的に肝機能が低下しているとCRPが上昇しにくい, 貧血や低Alb血症などがあるとESRが亢進しやすいと言われている.
・また, 骨炎の場合はESRの方が鋭敏であるとか, 膠原病ではCRPが上昇しにくい(SLEなど)などいろいろ.
 自験例では後腹膜線維症やSLE, 結核性脊椎炎, 特発性筋炎でESRが亢進/CRPは正常〜軽度上昇というのがある.

血沈が亢進する因子として,
 低Alb, γグロブリン上昇, 貧血, フィブリノーゲンの上昇, αグロブリンの上昇が挙げられる.

CRPとESRと同時期に評価された入院患者 5777例の解析では
(The American Journal of Medicine (2010) 123, 863.e7-863.e13)
両者の一致率は67%(双方上昇が30%, 双方正常が37%)
 CRP正常/ESR亢進が28%, CRP上昇/ESR正常が5%
・CRP正常は≤1.0mg/dLで定義.
 ESRは年齢別に閾値を設定して, 正常を定義
年齢
男性
女性
<50
13
19
50-59
18
23
60-64
22
25
65-69
25
30
≥79
30
30

CRPとESRの解離例の解析;
・CRP上昇/ESR正常パターンは全例が活動性炎症.
・CRP正常/ESR亢進パターンは8%のみ活動性炎症.
 他にESR亢進の原因があるのが28%, 
 活動性炎症の改善後が32% 
 原因不明が32%

CRPとESRを同時に評価した2069例の解析において, CRPとESRの解離を認めたのは87例.
(Clinical and Experimental Rheumatology 2007; 25: 746-749.)
・ESR亢進/CRP低値が55例(2.6%), ESR低値/CRP上昇が32例(1.5%
解離(+)と(-)群では特に年齢で差はない.

CRP, ESR解離例の解析
・CRP低値/ESR亢進では, 感染症やPM/DMの可能性が高い.
 また, RAの可能性が低い.
アルブミンの低下, 腎不全, 肝障害ではこのパターンとなりやすい.

RA, SLE, 骨関節炎患者におけるESR, CRPを評価
(Clinical and Experimental Rheumatology 2008; 26: 814-819. )
・SLE 79例, RA 188例, OA 110例.
・CRP ≥0.5mg/dLを異常, ESR >25mm/hを異常と定義
 臨床的上昇は正常上限の2倍以上の上昇で定義

疾患別のCRP, ESR異常, 上昇の頻度

CRP, ESR解離例(Aが臨床的上昇, Bは異常)の解析;
・SLEはCRPよりもESRの方が亢進しやすい傾向.
・RAとOAはCRPの方が上昇しやすいと言えそう