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2016年7月4日月曜日

鉄欠乏は失神のリスクとなる

失神や前失神は脳血流の低下に伴う症状で, 不整脈や迷走神経反射, 脱水症や循環血液量減少などなどが原因となる.

貧血では急性出血ではない限り、基本的にこれら症状は生じない, と思われるが, 
実はあるかもしれない.

しかも貧血ではなく, 鉄欠乏が関連している.

失神(probable以上)の小児例106例において, フェリチン, Hbなどを評価.
(J Pediatr 2008;153:40-4)
・上記のうちNMSと診断されたのは71例.
・NMS群では有意にフェリチン値が低い結果. 
 フェリチン≤25µg/Lは57% vs 17%, OR 6.6[2.2-20.1]
・Hbも若干低いが, 貧血がひどいというほどでもない.
 MCVは両者で有意差無し.

Syncope, pre-syncopeで診療された210例の小児患者を前向きに評価したStudy.
・平均年齢は11.31±2.49歳.
・診察にてNMSと診断されたのは77.1%(162例).
・NMS 162例中, チルト試験で陽性であったのは98例.
 チルト陽性例 では有意に血中フェリチンが低値となる結果であった.(Hb, MCVは有意差なし)
・血中フェリチン<25µg/LはNMS群で有意に多い(63% vs 20%)
 フェリチン<12µg/LはNMS群で27% vs 6%.
(World J Pediatr. 2013 May;9(2):146-51.)

POTSを疑われた小児(12-18歳)症例32例において, フェリチンとHbを評価.
・POTSは3ヶ月以上の経過で起立に関連した症状を2つ以上認め, さらに起立もしくはチルト試験で70度挙上後10分以内にHR>30bpmの上昇もしくはHR>120bpmとなることで定義される.
・POTSと診断されたのは24例. 71%が女性例.
・POTSと診断された小児例では, 米国における同年代の平均値と比較して, 有意に鉄欠乏が多い結果:
 フェリチン <25µg/Lは50% vs 14%,
 フェリチン <12µg/Lは女性例で 25% vs 9%, 男性例 16% vs 1%
 貧血は女性例で18% vs 1.5%, 男性例で43% vs 0.1%
(Clin Auton Res. 2013 Aug;23(4):175-9.)

鉄欠乏がNMSのリスクとなる機序としては
・鉄に関連する酵素の1つにカテコラミン分解作用があるものがあり, 鉄欠乏状態では常にカテコラミン血中濃度が上昇しているという説
 → POTSやNMS患者ではカテコラミン血中濃度が高く, 関連している?
・鉄欠乏では末梢血管抵抗が低下し, それが関与しているという説.
 これは貧血合併例でも同様.

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小児例や若い成人例の失神や前失神, 立ちくらみでは鉄欠乏も意識すべき.
鉄剤補充して, 有意に改善を認めた, という報告はまだ出ておらず, 断定的なことは言えないが, 鉄欠乏の倦怠感と共に覚えておくとよいかも.