ページ

2016年4月3日日曜日

EBV感染症, EBV関連リンパ増殖性疾患

EBV: Epstein Barr Virus. 別名HHV-4
全世界の9割が既感染しており, 
 小児期に感染した場合は無症候性 
 10台〜成人での感染では感染性単核症を呈する
・唾液を介して感染する. 
 血中にもウイルスは少量いるが, 輸血での感染例の報告は非常に稀
・一度感染すると生涯B細胞に潜伏するが, ほぼ無症候性.
 B細胞にはCD21を介して感染する.
・一部で悪性腫瘍の原因となったり, 慢性活動性感染症を呈する

EBVには大きく2タイプある;
・EBV nuclear antigen(EBNA)をコードする遺伝子が異なり, Type 1の方が多い.
 一部地域(中央アフリカ, パプワニューギニア, アラスカ)ではType 2が多い
(Int J Clin Exp Med 2015;8(9):14656-14671)

EBVの初感染〜潜伏感染
(NEJM 2000;343:481-92)
・EBVは初感染(伝染性単核球症や無症候)後, Long life memory B cellに潜伏感染する
・感染したB細胞はT/NK細胞に破壊されコントロールされる
 感染B細胞は完全には消失せず, 1万-10万に1個程度の割合で感染細胞が存在する.
(Int J Clin Exp Med 2015;8(9):14656-14671)

潜伏感染のタイプ
潜伏感染ではEBV遺伝子の発現で3パターンに分類される
 宿主の免疫反応を逃れるため, EBV遺伝子の発現パターンが制限される.
・Type 1 潜伏: EBNA-1, EBERsが認められるタイプで, Barkittリンパ腫に関連する.
・Type 2 潜伏: EBNA-1, EBERs, LMP-1, LMP-2A, LMP-2Bが認められるタイプで, Classic HL, T細胞性リンパ腫に関連する
・Type 3 潜伏: 特に制限なく抗体, EBERsが認められるタイプで免疫抑制患者で移植後リンパ増殖性疾患や, HIV関連リンパ増殖性疾患に関連する.
(Postepy Hig Med Dosw (online), 2013; 67: 481-490)(Int J Clin Exp Med 2015;8(9):14656-14671)


Type
EBNA-1
EBNA-2
EBNA-3
LMP-1
LMP-2
EBER
疾患
Type 1
+
+
Burkitt’s Lymphoma
Type 2
+
+
+
+
鼻咽頭癌, Hodgkin,
Peripheral T cell lymphoma
Type 3
+
+
+
+
+
+
リンパ増殖性疾患, X-linkedリンパ増殖性疾患
伝染性単核球症
Other
±
+
+
Healthy Carrier
(NEJM 2000;343:481-92)

EBV関連リンパ増殖性疾患 (Postepy Hig Med Dosw (online), 2013; 67: 481-490)
EBV感染はBarkittリンパ腫, NK/T細胞リンパ腫, Nasopharyngeal carcinoma(NPC), Hodgkinリンパ腫, 悪性リンパ腫に関連する
・上記以外に胃癌や乳癌との関連も示唆されている.
・EBVは初感染(IM)後, Life-long memory B cellに潜伏感染する
 感染したB cellはNK/T cellにより破壊され, コントロールされる.
・免疫不全や自己免疫疾患などでNK/T cell機能が低下すると感染B cellが増加し, 不死化, 癌化することで, B細胞性リンパ増殖性疾患を生じる.
・EBVはB cell以外に上皮細胞にも感染する
 多いのは鼻咽頭の粘膜と考えられており, それがNPCに関連する可能性

Burkettリンパ腫
・高悪性度のNHLの1つで, ヒトにおける悪性腫瘍で最もdoubling timeが早い腫瘍である.
・臨床/疫学的に3つのタイプに分類される: Endemic BL, Sporadic BL, HIV-associated BL
・Endemic BLの95%はアフリカ赤道直下, パプワニューギニアで認められるEBV感染が認められる. 腫瘍は下顎や顔面骨で多い.
・一方でsBLの5-15%, HIV関連BLの40%がEBV感染陽性.
 sBLでは胃や上気道, Waldeyerリングで多い.
 HIV関連BLではリンパ節や骨髄が多い
・BL全体で男性例 > 女性例となる
・EBVとBLの関連は完全には解明されていない
 BLの80%でt(8;14)を認める. 他にはt(8:22), t(8:2)の関連が示唆されている.
・EBV以外にもマラリア感染もBLに関連する.
 マラリア感染によりB細胞を過度に活性化させ, 一方でT細胞の活性化を抑制することが関連している

Hodgkinリンパ腫
・HLのタイプでEBVの関与は異なる
 Mixed cellularityタイプでは70%
 Lymphocyte depletedタイプでは95%
 Nodular sclerosingタイプでは10-40%でEBVが陽性.
 Lymphocyte predominantタイプではEBVの関与はない
・EBVのHLへの関連も完全には解明されていない

T細胞リンパ腫
・EBV感染によるT細胞リンパ腫は稀だが認められる.
・幾つかのタイプがあるが, 多いのはAngioimmunoblastic T-cell lymphoma(AITL 血管免疫芽球性T細胞リンパ腫)とNasal-type T/NK-cell lymphoma

AITL: 血管免疫芽球性T細胞リンパ腫
・稀だが, Peripheral T-cell lymphomaでは最も多いサブタイプ.
・AITLのリンパ節からはEBV遺伝子は全例で検出されるが, B細胞からのみ.
・EBV感染は関節的にAITLに影響しているか, 癌化した細胞からはEBV遺伝子が消失するかどちらか

Nasal-type T/NK-cell lymphoma
・これも稀な疾患で, ほぼ全例がEBV感染に関連する.
・アジア, 中国からの報告が多い

他にもHIV関連, 臓器移植後のリンパ増殖性疾患, DLBCLの一部などにもEBV関連リンパ増殖性疾患が含まれる.


慢性活動性EBV感染症(CAEBV)
CAEBVは慢性的にEBV感染症状が認められる病態.
・慢性経過(3-6ヶ月以上), 繰り返すIM様症状があり,
・EBVに対する抗体が持続性に高力価で陽性となり, 血液中EBV DNAが増加する.
・血球貪食症候群や蚊刺傷の過敏性など特殊な症状もある

通常B細胞に感染するEBVが, T細胞, NK細胞へ感染することがCAEBV発症に関連する.
・EBVがT細胞, NK細胞へ感染する機序は未だ不明.
・T, NK細胞に感染することで, 本来NK/T細胞に破壊されるべき感染B細胞が破壊されず, EBVが増加し, CAEBVを呈する.
 EBVが主にT細胞に感染するか, NK細胞に感染するかで症状や予後が異なる(後述). ・EBVに感染したT細胞やNK細胞がクローン性に増殖し, EBV+ NK/T細胞リンパ増殖性疾患を呈することもある. 
(Pediatrics International (2014) 56, 159–166)



CAEBVの診断クライテリア
(Am. J. Hematol. 80:64–69, 2005.)

EBV-DNAのカットオフはどうするか?
CAEBV症例, EBVによるIM症例, 既感染症例においてEBV-DNAを評価したStudy.
(J Infect Chemother 22 (2016) 268-271)
・各疾患におけるEBV-DNAの分布(A: 末梢血単核球中, B: 血漿中)
・血清中のDNAよりも末梢血単核球中のDNA量の方が差は顕著にでる
 特にCAEBVと伝染性単核球症の鑑別には末梢血単核球中のDNA量で判断する.

CAEBVと伝染性単核球症, 既感染患者の鑑別に有用なカットオフ


CAEBVの症状, 所見
日本人 CAEBV 82名の解析 (JID 2003;187:527-33)
年齢; 9M-53Y (11.3Y)
・平均6.4年のフォローで死亡率 42.7%(35名)
 移植由来副作用 7名 悪性リンパ腫 6名 消化管出血, 穿孔 6名
 肝不全 3名 血球貪食症候群 3名 白血病 2名 MOF 2名
 不明, その他 6名

・CAEBVの症状, 所見頻度
症状
頻度
症状
頻度
発熱
92.7%
リンパ節腫大
40.2%
肝腫大
79.3%
蚊刺傷 過敏
32.9%
脾腫
73.2%
皮疹
25.6%
肝障害
67.1%
水疱症
9.8%
血小板減少症
45.1%
下痢
6.1%
貧血
43.9%
ぶどう膜炎
4.9%

・CAEBVにおける致命的な合併症
合併症
頻度
合併症
頻度
血球貪食症候群
24.4%
冠動脈瘤
8.5%
悪性リンパ腫
18.3%
CNS障害
8.5%
DIC
15.9%
心筋炎
6.1%
肝不全
14.6%
間質性肺炎
4.8%
消化管潰瘍穿孔
11.0%
白血病
4.8%

・CAEBVにおけるEBV抗体の抗体価, DNA定量
Antibody
N
陽性率
Titer(range)
VCA-IgG
81
100%
1280(20-20480)
VCA-IgA
57
61%
40(10-160)
VCA-IgM
62
18%
10(10-80)
EA-DR-IgG
70
91%
320(10-20480)
EA-DR-IgA
45
49%
20(10-640)
EA-DR-IgM
16
0%
NA
EBNA
75
62%
40(10-1280)
Specimen
N
EBV (range) 
単核球


 Insitu hybridization (%)
22
3.1(0.1-90)
 定量PCR (copies/µg)
32
104.3(101.9-107.0)
WBC


 定量PCR (copies/µg)
3
105.2(103.2-105.4)
血漿


 定量PCR (copies/µg)
29
103.8(102.0-105.7)

EBVの感染細胞(T細胞 vs NK細胞)別の症状, 所見
CAEBVでは, 主にT細胞に感染が認められるパターンとNK細胞に感染が認められるパターンに分類される
・T細胞感染パターンでは, 発熱が多く, EBV関連の抗体価が高値となる
・NK細胞感染パターンでは, 蚊刺傷に対する過敏症やIgEが高値となる
・T細胞感染パターンの方が予後が悪い傾向がある
 炎症性サイトカインの分泌が高度となるため, 炎症反応や発熱が多い
(The Journal of Infectious Diseases 2005;191:531–9)

CAEBV症例39例において, 感染パターンと臨床所見を比較
・EBV DNA, EBER-1がどの細胞より検出されるかで評価.
 CD3,CD4,CD8,CD16,CD56を評価し, CD3陽性細胞にDNA, EBER-1が認められる場合はT細胞, CD16, CD56陽性細胞の場合はNK細胞感染パターンと評価
(The Journal of Infectious Diseases 2005;191:531–9)
・T細胞感染パターンでは, より死亡率が高く, 発熱の頻度も多い
 貧血も高度となる
 EBVに対する抗体価(VCA-IgGも高値となりやすい)
・NK細胞感染パターンでは, 蚊刺傷に対する過敏症やIgEが高値となる

EBV陽性T細胞, NK細胞性リンパ増殖性疾患患者 108例を前向きに評価したStudy.
(Blood. 2012;119(3): 673-686)
・CAEBV 80例, EBV関連血球貪食症候群 15例, 重度の蚊刺傷過敏症(MBA) 9例, Hydroa vacciniforme(HV) 4例(HV: 種痘様水疱症)
血球貪食症候群ではCD8+ T細胞への感染が多く, MBAはNK細胞, HVはγdTの感染が多い

・T細胞感染パターンとNK細胞感染パターン症例の比較
 NK細胞感染パターンでは蚊刺傷に対する過敏反応のリスクが高い.
 他は大きな差は認めない

--------------
超簡略化してみます.
EBV初感染 >> 伝染性単核球症か、無症候性感染
その後潜伏感染 >> B細胞に感染し, T細胞, NK細胞が感染B細胞を破壊し, コントロール.
 潜伏感染のパターンによりEBV関連リンパ増殖性疾患のリスクがある.

何らかの理由によりEBVがT細胞やNK細胞に感染すると, 感染B細胞のコントロールが効かなくなり, CAEBVが発症する.
 >> T細胞が主な感染部位ならば, 発熱やサイトカイン増加による症状.
  CD8+ T細胞では血球貪食症候群のリスク.
 >> NK細胞が主な感染部位ならば, 蚊刺傷に対する過敏症のリスク.

 >> 感染したT細胞やNK細胞がクローン性に増殖を認めると, EBV陽性NK/T細胞性リンパ増殖性疾患に移行し, 急激に増悪し致死的となる可能性もある.