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2016年3月14日月曜日

肥満による心筋症, 心不全

肥満の定義: WHOの分類では,
BMI <18.5が低体重
・BMI 18.5-24.9が正常体重
・BMI 25-29.9が過体重
・BMI 30-34.9がクラス I 肥満
・BMI 35-39.9がクラス II 肥満
・BMI ≥40がクラス III 肥満(重度肥満)と定義される.
・さらにBMI ≥50は超肥満

・中心性肥満はWaist-to-hip ratio >0.9(M), >0.85(F), waist周長 >102cm(M), >88cm(F)で定義

クラス IIIの肥満は高血圧症や冠動脈疾患の合併の有無に関係なく, 心不全のリスク因子となる. 特に腹部の肥満でリスクが高い.
・クラス IIIの肥満患者(高血圧(-))のうち, 1/3に心不全症状が認められる.
・肥満の期間が長いほどリスクも高く, 特に10年以上肥満状態では高リスクとなる.
 20年間で70%, 30年間で90%で心不全(+)
・クラス I, IIでも心不全リスクになる.
 14年のフォローにて8.4%で心不全が発症.
 クラスがI上昇するごとに男性で5%, 女性で7% 心不全リスクが上昇.
(Translational Research 2014;164:345–356) 

肥満の循環に対する影響
肥満の程度に相関して, 血液量と心拍出量は増加する.
この時心拍数は変わらず, 一回拍出量(SV)のみが増加する
・その結果 RVH, LV拡張, LVHが生じ, LVの拡張不全や収縮不全を生じる.
・またそれ以外にOSASや高血圧の影響も加わる.

肥満と心肥大
血液量の増大, 心拍出量の増加から, 肥満患者ではLV拡張が生じ, 偏心性の肥大が生じると考えられていたが, 最近の報告ではより同心的なLVHを生じる事の方が多いとされている.
・特に中心性肥満では同心的(consentric)なLVリモデリングやLVHが多く, 末梢性肥満では偏心性(eccentric)LVHが多い.
・理由は高血圧の合併の有無にあると考えられており, 高血圧(-)の肥満性心不全ではEccenteric LVHとなる事の方が多い.

肥満とLV拡張障害
肥満患者ではLVEDPの上昇が認められる.
・肥満の程度が高度ほどLVEDPも高い.
・肥満におけるLV拡張障害の主な原因はLVHであるが, LVH(-)群でもLV拡張障害は認められる
・肥満の重症度や, 高血圧の合併, 肥満の期間, 高齢者, DMも関連.

肥満とLV収縮障害
肥満患者ではLV収縮能は正常〜亢進している.
・長期間の肥満や高度肥満ではLV収縮能は低下する報告があるが, 過度に低下することは通常ない.
・LV EFが正常範囲でも, 区域性に壁運動が低下したり, LVの変形があることから, 実際の収縮能は軽度低下していると考えるべき.

肥満患者群では,
・LV容積の増大は6-87%で認められ,
・LV壁肥厚は6-56%,
・LV拡張は8-40%
・LA拡張は10-50%で認められる
・RV容積の増大は重度の肥満患者の32%で認められる
(Translational Research 2014;164:345–356) 

肥満以外の心不全のリスクを認めない小児 30例と健常の小児 42例において心エコーを施行
(Obesity (2011) 19, 2268–2273.)
肥満児群のBMIは31±6.7
エコー所見の比較

中隔, 下壁厚の肥厚, 3D評価でのLVEDV, LVESVの増加, LAV容積の増大が認められる.
・LVのStrainも肥満患者では低下


肥満患者における心筋のリモデリング
血液量と一回拍出量が増大することで, LVEDVは拡大し続ける. それに伴いLVHが生じ, LV収縮不全や拡張不全を合併.
最終的に心不全となる.

それに睡眠時無呼吸症候群や高血圧症、糖尿病も修飾因子となる.

肥満による心筋症を 肥満性心筋症 [Obesity cardiomyopathy]と呼ぶ

Obesity cardiomyopathy
肥満による心筋症は高度肥満で生じることがほとんど
・体重は≥135kg, 過体重 175-200%, BMI ≥40が10年以上続いている場合に生じる.
・さらに「最近の体重増加」があると心不全症状が出現し, 顕在化する.
 急性肺水腫となることは稀
・また, OSASは50%, 重度の低換気は10%で伴い, 肺高血圧やRV不全のリスクとなる

Obesity cardiomyopathyの症状
・労作時呼吸苦や起座呼吸, 夜間の呼吸苦, 
 最近の体重の増加, 下肢の浮腫, 腹囲の増大,
 意識障害や変容, 傾眠など.
・心房細動や, 突然死の原因にもなる
・身体所見も他の慢性心不全と同等. 
 心雑音は他の原因の心不全と比較して少ない傾向にある
・ECGではLow QRS, 右軸偏位. 
 肥満患者では軽度のQTcの延長も認められる
 ECGにおけるLVH所見はエコーよりも感度が低い

治療, 対応は他の心不全と同じ + 体重低下が必須となる