ページ

2016年3月31日木曜日

慢性偽性腸閉塞 Chronic Intestinal Pseudo-obstruction: CIPO

慢性偽性腸閉塞
(Rev Esp Enferm Dig 2007; 99: 100-111.)

CIPOは繰り返す閉塞部位を認めない腸閉塞症状を呈する病態
・稀な病態であり, 診断も難しく, 発症~診断まではかなりの時間を要する(平均8年間).
・また精神科紹介される患者や不要な手術を受ける患者も多い.

小腸の蠕動障害により, 内容物を排出できない.
・腸管平滑筋の異常, 神経の異常, もしくはその双方が原因となる
 全身疾患に付随する二次性もあり.
 近年, 特発性症例の報告が増加している.
・腸管だけでなく, 様々な平滑筋の機能低下が認められるため, 偽性閉塞(Pseudo-obstruction)の方が病態にあっている.

消化管には自律神経、腸管壁神経叢、平滑筋のネットワークがあり
・食物を感知し, それに応じて蠕動運動を誘発する.
 Cajal間質細胞はペースメーカーとしての役割があり, 蠕動に関与.
・これらネットワークが障害を受けると蠕動障害を生じる.

CIPOは腸管における神経筋障害のもっとも重症なタイプ
・他の蠕動障害を呈する疾患との鑑別は重要.
 再発性の腹痛症, 機能性ジスペプシア, IBS, 周期性嘔吐症など

CIPOは生後~高齢者までどの年齢でも発症して良い
・家族性の報告もあるが, 大半が孤発性である
・二次性では全身性硬化症, 膠原病, 糖尿病, 神経変性疾患, 薬剤性, 甲状腺機能低下症, 感染症, 腫瘍随伴性, アミロイドーシス, 放射線治療後 の報告が多い
・感染症ではCMV, VZV, EBVの感染後にCIPOが発症する症例報告が増加
・腫瘍随伴性では, 抗-Hu抗体が関連.
 肺小細胞癌, リンパ腫, カルチノイド, 乳癌, 卵巣がん
 多発性骨髄腫も原因となる
 腫瘍性は40歳以降の発症例で考慮すべきである


ミトコンドリア筋症

日本国内のCIPO 160例の原因頻度
(Digestion 2012;86:12–19)

CIPOの臨床症状
CIPOの症状は原因, 障害部位, 範囲(局所, びまん性)で異なる
・緩徐に発症し, 数年かけて徐々に増悪する経過となることが多い
・症状は腹痛や腹部膨満が80%, 悪心嘔吐が75%, 便秘が40%, 下痢が20%
・障害部位が上部消化管ならば悪心嘔吐が強い
 びまん性ならば腹部全体の疼痛や便秘が多くなる.
・腹痛の機序は2つあり,
 1つは腸管の拡張による疼痛
  >> 拡張の程度で増悪, 寛解する
 もう一つは平滑筋のスパスムと臓器の過痛症による疼痛
  >> 拡張に関係なく疼痛が生じる

CIPOでは小腸内の細菌過増殖症候群も生じ, 吸収不良症候群や慢性下痢も呈する.
・胃の蠕動障害ではGastroparesisとなる

食道の蠕動障害では嚥下障害や胸痛, 逆流, 胸やけがあるが, 多発性硬化症によるCIPO以外では少ない症状
・食道の神経叢障害ではアカラシアやびまん性食道れん縮も生じる

CIPOの所見
所見も障害部位により異なる
・衰弱や消耗, 羸痩や腹部の膨隆.
・腹部の腸液が跳ねる音 (小腸ならば腹部中央, 左上腹部ならば胃)
・腹部の打診では鼓音を聴取する
・腹壁から腸管のループが確認できることもある

二次性では消化管以外の所見が得られる

CIPO 160例の初診時の症状, 所見
(Digestion 2012;86:12–19)

CIPOの診断
世界的な診断クライテリアはなく,
 疑うような症状があり,
 小腸の拡張が認められ,
 他の疾患が除外される場合にCIPOと診断

CIPOを疑う症状, 所見, 経過
(Gastroenterol Clin N Am 40 (2011) 787– 807)

日本国内には厚生労働省のCIPO診断基準がある
(Digestion 2012;86:12–19)

二次性の評価
・通常の血液検査, 甲状腺, Celiac disease, 代謝性疾患, ウイルス感染症, 抗Hu抗体(ANNA-1抗体), 細菌過増殖症候群の評価

二次性の可能性が低ければ, 機械的閉塞を除外したのちに特発性CIPOの評価を行う
・消化管のManometry
・消化管生検による組織所見の評価 (内視鏡ではなく, 腹腔鏡で全層生検が好ましい)
・筋生検
・頭部MRI(ミトコンドリア関連疾患の評価)

診断の流れ:
(Rev Esp Enferm Dig 2007; 99: 100-111.)

CIPOの治療
治療の目標は症状の緩和と栄養状態の改善

二次性CIPOでは背景疾患の治療は重要.
・強皮症のようにそれだけでは改善しないものもある

特発性CIPOの治療も病態によって様々である
・炎症や自己免疫機序が関わっているならばステロイドが効果的
 ウイルス感染ではウイルスの治療が効果的と考えられる
・栄養状態を改善させることで症状も緩和する可能性もある

食事は調子が良ければなるべく経口から摂取
・1日に6-8回に分け, 1回あたりは少量に.
 脂質と繊維を少なめにすると良い.
 また, ガス産生するような食物は避ける.
・ガムを噛んだりやストローで液体を飲むと, 空気を嚥下してしまうため, それらの行為は避ける.
・ビタミン欠乏や電解質異常があれば積極的に補正
 特にビタミン A,D,K, B12, 葉酸, カルシウム, 鉄は重要

経口から困難な場合は経管栄養で24時間継続したり, 中心静脈栄養を考慮する必要がある
・中心静脈栄養は最終手段と考える

薬剤治療
・腸管蠕動を阻害するような抗鬱薬やオピオイド, 抗コリン薬は避ける
・嘔気が強い場合はメトクロプラミドやドンペリドンを考慮
 オンダンセトロンなども試される.
・腹痛に対しては, NSAIDやオピオイドは避ける
 コレシストキニン拮抗薬(プログルミド), セロトニン作動薬, 拮抗薬, ソマトスタチン, カンナビノイドアナログなどを考慮
 また, ガバペンチンもよかもしれない
・細菌過増殖症候群はCIPOにおける吸収不良や下痢に関わる
 抗生剤投与が効果的.
 抗生剤を1ヶ月に7-10日間投与を繰り返す.
 CPFX, AMPC/CLA, MNZ, DOXYなど

蠕動障害に対する治療
・5-HT4アゴニスト: シサプリド(アセナリン錠®) >> 販売中止
 腸管におけるアセチルコリンの分泌を促進させる.
 副作用として頻脈, QT延長があり販売中止.
・他の蠕動促進剤としてはエリスロマイシン, オクトレオチド,
テガセロド, ミソプロストール(サイトテック®)があるが,
効果は様々.
・オクトレオチドの寝前皮下注は強皮症のCIPOへの効果は良好だが保険適応はない.
・テガセロドはシサプリドに類似した作用があり, 不整脈リスクは少ない薬剤だが, 国内は未承認

最重症患者では, 中心静脈栄養を行いつつ腹部症状の緩和のために小腸切除を行う場合もある
・外科治療は癒着性イレウスのリスクも増加するためできる限り避ける

CIPOに対する薬剤治療の研究 まとめ
(Gastroenterol Clin N Am 40 (2011) 787– 807)

2016年3月29日火曜日

メジコン®による降圧作用

Dextromethorphan(メジコン®)は中枢性の抗鎮咳作用を有する薬剤で, 鎮咳薬としてよく使用される薬剤.
 それ以外に糖尿病性神経症による疼痛緩和効果なんかもある. 参考
 焦燥感の緩和効果なんかもある. 参考

そのメジコン®に降圧作用まであるという. (Medicine 95(12):e3234) 

動物実験では, アムロジピンにDextromethorphan(メジコン®)を少量併用することで降圧効果が高まることが示されている
高血圧患者ではNADPH oxidaseより産生されるO2-がNO産生に関わり, 血圧上昇作用を増悪させていることが示唆されており,  DextromethorphanはNADPH oxidase活性を阻害する作用がある.

ヒトを対象に上記現象を評価
高血圧患者 78例でアムロジピン 5mg/dを2wk使用.
・この間に目標値(140/80)を達成できなかった患者群においてDXM 2.5mg/dを追加しさらに4wk継続. 
・その後 それでもコントロール不良群において, 4.5mg/d, 30mg/dと4週毎に増量し, 血圧コントロールを評価した.
・メジコンは上記量を3分割して内服

血圧の低下作用

・DEX 2.5, 7.5mg/d群では有意に血圧低下作用が認められる.
・30mg/d使用群では血圧低下作用はない.

30mg投与群は2.5mg, 7.5mgでもコントロール不良な患者であるため, 
そのような患者ではメジコンの効果が期待できないという判断も可能

メジコンは効く人と効かない人がいる.
 血管内皮に作用する機序なので、それが関連しているかもしれない.

と言っても, この作用を目的にメジコンを長期投与しようとは思いませんが、少量で良いならばそれもありなのかも...と思ったり
・錠剤ならば15mgなので、1/8分割して、1日3回でOK
・散剤ならば0.1g中10mg含有なので, 0.03gを1日3回くらい

2016年3月28日月曜日

感染性心内膜炎と悪性腫瘍のリスク

(Medicine 95(12):e3198) より

台湾におけるPopulation-based, observational, retrospective studyより, 2000-2010年に診断された成人の心内膜炎患者14534例と, 年齢, 性別を合わせた58136例のControl群を比較し, 心内膜炎後の悪性腫瘍の診断率を評価した.
母集団

アウトカム: 悪性腫瘍の診断リスク
心内膜炎患者では, 血液腫瘍, 頭頸部癌, 消化管腫瘍, 肝癌, 子宮癌のリスクが上昇する結果

年齢別の評価
・55歳未満でも, 以上でも感染性心内膜炎は悪性腫瘍のリスク因子となる
・55歳未満では血液腫瘍のリスクが特に高い

心内膜炎診断〜腫瘍診断までの期間別の評価
・心内膜炎診断から5年未満で特に悪性腫瘍診断のリスク上昇が大きい
・5年以後でもリスクはあるが, 低下. 有意差がなくなる項目も多い

------------------------
これらの結果から, 著者は一部の感染性心内膜炎は悪性腫瘍の初発症状である可能性があるとしている.
免疫の問題, 細菌の侵入門戸の問題など, たしかに考慮した方が良いのかもしれない.

心内膜炎患者では, 治癒後外来で, 年齢に応じた癌のスクリーニングを考慮するか, 検診をしっかり受けるように重々指導するかはした方良いと思う

あと原因菌別の評価とかあれば興味深いところです.

2016年3月26日土曜日

症候性内頸動脈狭窄に対する内膜切除 vs ステント術のMeta, 年齢別の評価

症候性内頸動脈狭窄に対しては, 早期の頸動脈内膜切除術(CEA)か、ステント術(CAS)が推奨される.

 症候性では, CEAの方が周術期における脳卒中リスクはCASよりも低く, その後の長期的な狭窄リスクや脳卒中合併リスクは変わらないという結果のRCTが多い
 無症候性の狭窄では両者で合併症に有意差は認めなかった報告が最近でている
詳細はこちら

Lancet 2016; 387: 1305–11 より, 症候性の内頸動脈狭窄に対するCASとCEAを比較した4つのRCTsのMeta-analysisが発表.
 このMetaでは, 年齢別にアウトカムを評価している.
CAS vs CEAのMeta-analysis
・症候性の内頸動脈狭窄患者に対するCAS vs CEAの予後を比較したRCTsのMeta.
・アウトカム脳卒中と死亡リスクで, 5歳刻みで年齢別に評価.
・周術期死亡を割り付け〜120日後とし, 周術期とその後の長期フォローでのアウトカムを評価した
・4 trials, N= 4754例, 平均フォロー期間 2.7年間
 (EVA-3S, SPACE, ICSS, CREST.)

年齢別のアウトカム頻度(脳卒中, 死亡)
・CEAはどの年代も同じようなリスク
・CASでは<64歳の群でリスクが低い印象.

CAS vs CEAにおけるアウトカムの比較
・周術期(割り付け〜120日)では, ≥70歳の群でのみ, CAS群で有意に脳卒中, 死亡リスクが上昇する結果.
・その後のフォローでは年齢にかかわらず, 両者で有意差はない

60歳を基準とした時の各年齢におけるアウトカムリスク
・CASでは高齢者ほどアウトカムリスクも上昇する

年齢別のCEA vs CASのHR
>70歳ではCEAの方が良いと言える.
・<60歳ではCASの方が良いかもしれないが, 有意差はない.
・60-70歳はグレーゾーン.

2016年3月23日水曜日

REM睡眠行動障害 (REM sleep behavior disorder: RBD)

REM睡眠行動障害について
Lancet Neurol 2016; 15: 405–19 より
REM睡眠とnon REM睡眠
non REM睡眠ではゆっくりとした眼球の運動が認められ, 同期した脳波活動があり, 筋緊張は部分的に消失している.
・脳の活動は低下しており, 筋緊張が軽度ある


REM睡眠では早い眼球運動が認められ, 非同期した脳波活動があり, 夢を見ている状態. 筋緊張は完全に消失している.
・脳の活動性はあり, 筋緊張が消失している状態

睡眠障害のパターン
睡眠障害には4つのカテゴリーに分類される
 不眠, 過眠, サーカディアンリズムの変化, 睡眠時異常行動

・睡眠時異常行動(錯眠, parasomnias)は入眠時の麻痺(金縛り),  non REM睡眠時の夢遊病, REM睡眠時のREM睡眠行動障害がある.

REM睡眠行動障害(RBD)
RBDでは不快な夢(攻撃されたり, 強奪されるような夢)とそれに対する活動性の高い行動(パンチやベッドから飛び降りたり, 叫んだりするような行動)が認められる.
・ポリソムノグラフィーでは, 上記のような行動はREM睡眠時に認められている. その際筋電図の活動も過剰に亢進している.
・RBDの原因は, 下部脳幹の神経核にあるとされ,  本来REM睡眠時には筋トーヌスが低下しているはずなのに,  それが抑制されないことが機序と考えられている.
・他に原因のない特発性と, 疾患に合併する二次性RBDがある

二次性のRBD
二次性では, 神経変性疾患, ナルコレプシー, 脳幹の構造障害, 薬剤が原因となる.
・変性疾患ではパーキンソン病やDLBに合併することが多く, MSAでも報告がある. 
・初発症状としてRBDを認めることもあり, フォローが重要.
 PDの1%は診断される前にRBD症状を主治医に報告している. さらにそのうちの30%はRBD症状が初発症状であった.
・薬剤ではβ阻害薬や抗鬱薬, アルコール離脱が原因となる

特発性RBD
特発性RBDの頻度を評価した報告は少なく, 診断もポリソムノグラフィーを使用する必要があるため正確な頻度は不明.
・>60歳の高齢者では0.3-1.15%の頻度と言われている
・診断年齢は50-85歳が多いが,  症状はそれから1-10年前より認めている.

RBDの症状
・自分で症状を自覚したり, 自傷に気づいて受診することもあれば,
同居者に指摘されて受診することもある.

症状の頻度
・自覚するのは57%, 気づいていないのが4割
・パンチやキック, ベッドから落ちる, 周囲を攻撃する, 歩くなど.
・自傷も6割で認められる.

・同居者が気づく症状としては寝言, 絶叫, 笑う, 泣く, 歌うなどの行為

不快な夢もほとんどの患者から聴取可能
・他人から攻撃されたり, 罵倒されたり, 争ったり, 崖から落ちたり…など

他に特発性RBDに伴うことがある症状, 所見
・特発性RBDでは脳幹神経核の障害のみではなく,  嗅覚に関連する部位, 黒質線条体, 自律神経系など様々な部位が障害される可能性があり, Synucleinopathy*と類似している.(*α-synucleinが関連した変性疾患: PD, DLB, MSAなど)

初期に特発性RBDと診断された患者群でも長期間のフォローにて変性疾患に移行する例も多い.
・特発性RBDが変性疾患(Synucleinopathy)に進展するリスク
・研究により様々だが, 5-10年のフォローで16-82%が進展する.
・進展リスクを評価するのは困難

RBDの診断
診断クライテリアでは,
・REM睡眠行動障害に矛盾しない症状があり,
・ポリソムノグラフィーにおいてその症状がREM睡眠期にあることが証明され,
・さらにREM睡眠期に無力症がないことが証明され
・他の疾患の可能性が低い 場合に診断される.

RBDの鑑別疾患
若年の健常者では病的ではなく, 睡眠中の行動を認めることがある.
 これら行為は良性であり, RBDとは異なる.
 RBDはこれら行為が頻回にあり, 活動性も高い場合, >50歳で認められる場合に考慮する.

睡眠時無呼吸症候群: OSASの患者でも不快な夢を見たり, それに対する行為が認められることがある.
 重度のOSASでは自傷行為も認められることがあるため, RBDとの鑑別が難しい.
 発症年齢もRBDと同じく60歳台で多く, 男性例が多い点も同じ(RBDでは6-7割男性)
 ポリソムノグラフィーにて, REM睡眠時に生じているかどうか, REM睡眠時の筋トーヌスの評価で鑑別する.

夢遊病, 夜驚症: RBDと同じく不快な夢や睡眠時の行動が認められる
 これらはnon REM睡眠時に生じる行動障害であるが, non REM睡眠時の行動障害では家族歴を認めることが多く, さらに幼小児より生じる例が多い(30歳台の発症も報告されているが稀).
 ポリソムノグラフィーではREM睡眠は正常である.

夜間前頭葉てんかん(常染色体優性遺伝): 夜間のジストニア肢位, 両手や両下肢の運動が認められたり, 走ったりする行為がある.
 叫んだり, キックするようなRBDで認められる症状もある.
 発症は幼小児であるが, 40歳台の発症も報告されている.
 不快な夢をみることは少ない
 家族歴も陽性となることが多い

睡眠時周期的脚運動(PLMS): 重度のPLMS患者ではRBDと同じような不快な夢を見たり, それに対する行動が認められることがある.
 自傷も認めることがある.
 PLMSも男性が多く, 診断年齢は50歳台とRBDと類似している.
 ポリソムノグラフィーではREM睡眠は正常. non REM睡眠時に下肢や上肢, 体幹の運動が認められる.

・他の鑑別診断
 錯乱性覚醒: 60歳以上の認知機能低下がある患者で多い. 夜間のせん妄状態が生じる.
 解離障害:
 詐病
:
 解離障害や詐病では, 夢の内容やそれに対する感情, 行動を詳細に, 鮮明に説明することが可能.  ポリソムノグラフィーでは起床時に異常行動が認められる.

RBDのマネジメント
・RBDの治療では明確な指針はない.
・今後PDやDLB, MSAに進行する可能性があることは説明する
・治療の目標は異常行動や自傷行為の頻度を減らすこと.
・RBDの原因となるβ阻害薬や抗鬱薬は中止する方が良い.
・ベッドから落ちないような対策, 自傷を予防するような対策を行う

RBD自体の薬剤治療ではRCTは乏しく,  エキスパートオピニオンか, ケースシリーズからの報告となる.
・従って効果や副作用については不明確な部分が多い

薬剤治療ではクロナゼパム, メラトニンが試される
・クロナゼパムは長期作用型のベンゾジアゼピン.
 RBDに対する作用は不明であるが, 異常行動の減少効果が報告されている.
 2mgを眠前に投与する. 投与中止により症状は際増悪する.
 長期使用にて耐性や依存のリスクがある.
・メラトニン 3-12mgを眠前30分前に内服.
 単独でもクロナゼパムとの併用でも使用可能.
 症状を緩和するが, クロナゼパムよりも効果は弱いとされている

2016年3月22日火曜日

急性大動脈解離のリスクスコア

2010年のACC/AHAの急性大動脈解離ガイドラインに
急性大動脈解離を予測するリスクスコアがある(ADDリスクスコア)

スコアは3つのカテゴリーで評価し, 

・全て満たさない場合は 低リスク(0点), 
・1つ満たす場合は中リスク(1点)
・2つ以上満たす場合は高リスク(2-3点)と判断
既往, 家族歴
疼痛の性状
所見
マルファン症候群
大動脈解離の家族歴
既知の大動脈弁疾患
最近の大動脈に対する処置歴
既知の胸部大動脈瘤
胸痛, 背部痛, 腹痛が以下の性状を満たす
・突然発症
・重度の疼痛
・避けるような疼痛
脈拍の欠損
左右の収縮期血圧差
神経局所症状 + 疼痛
新規A弁不全による雑音* + 疼痛
低血圧, ショック
* 新規の出現か, 今まで指摘がない場合

・ADDリスクスコア ≥1は感度95.7%
・反対に言えばリスクスコア 0でも4.3%は大動脈解離. (Circulation. 2011;123:2213-2218.) 

急性大動脈解離を疑われた1328例おいて, ADDリスクスコアを評価した前向きStudyでは,
・そのうち291例(21.9%)が大動脈解離であった
・ADDリスクスコア 
 0点は33.1%であり, そのうち5.9%が解離症例
 1点群は48.6%であり, そのうち 27.3%が解離症例
 2点以上は18.3%であり, そのうち 39.1%が解離症例
・ADDリスクスコア 0点は, 感度 91.1%[87.2-94.1], 特異度 39.8%[36.8-42.9]
 リスクスコア 2点以上は, 感度 32.7%[27.3-38.4], 特異度 85.7%[83.5-87.8]
(Eur Heart J Acute Cardiovasc Care. 2014 Dec;3(4):373-81.)

除外が可能なスコア, というわけではない

ADD risk score(RS)とD-dimerを合わせると
急性大動脈解離疑いの1035例を対象としADD RSとD-dimer上昇(≥500ng/mL)を評価した前向きStudy
・大動脈解離は233例(22.5%)で診断.
・ADD RS 0点は31.1%, 1点は49.1%, ≥2点は19.8%
・各群におけるD-dimer(カットオフ 500ng/mL)の感度, 特異度
患者群
感度(%)
特異度(%)
LR+
LR-
ADD RS 0
100%
30.4[25.2-35.9]
1.44[1.33-1.55]
0
ADD RS 1
98.7[95.3-99.8]
35.7[32.1-39.4]
1.53[1.45-1.63]
0.04[0.01-0.15]
ADD RS 2-3
97.5[91.4-99.6]
37.1[28.6-46.2]
1.55[1.35-1.78]
0.07[0.02-0.27]
(International Journal of Cardiology 175 (2014) 78–82)

 ADD RS 0点群におけるD-dimerのNPVは100%, PPVは8.26%
 ADD RS 1点群におけるD-dimerのNPVは99.2%, PPVは25.6%
 ADD RS 2-3点群におけるD-dimerのNPVは95.8%, PPVは50.3%

----------
D-dimerと組み合わせると, ようやく除外が可能なスコア, と言えるかもしれない.
また, D-dimerに頼るのはADD RS 0~1点程度にしておくべきであり,
ADD RS 2以上ではそもそもD-dimerの結果に関わらず, 評価必要がありそう.
------

ADDリスクスコアにエコーを組み合わせてみる

エコーではFOCUSを評価
FOCUSは心エコーにおいて, 以下を評価する方法で, 上行大動脈解離の評価を行う.
直接的な解離所見: フラップ, 壁内血腫(壁厚>5mm)
間接的な解離所見: 上行大動脈の拡張(≥4cm), A弁不全の存在, 心嚢水貯留

大動脈解離を疑われた281例を対象とし, FOCUSとADDリスクスコアを評価した前向きStudy.
(Intern Emerg Med (2014) 9:665–670 )
・上記のうち50例がA型大動脈解離. 13例はそれ以外の大動脈解離.
各検査, ADDリスクスコアのA型解離に対する感度, 特異度
検査
感度(%)
特異度(%)
LR+
LR-
エコー所見: 直接
54[39-68]
94[90-97]
8.9[5-15.7]
0.5[0.4-0.7]
上行Ao拡張
70[55-82]
75[69-81]
2.8[2.1-3.8]
0.4[0.3-0.6]
AV不全
50[35-64]
80[75-85]
2.6[1.7-3.8]
0.6[0.5-0.8]
心嚢液
36[23-51]
88[83-92]
3[1.8-4.9]
0.7[0.6-0.9]
FOCUS どれか1項目以上
88[76-95]
56[49-62]
2[1.7-2.4]
0.2[0.1-0.5]
ADD RS >0
90[78-97]
28[22-34]
1.2[1.1-1.4]
0.4[0.1-0.8]
ADD RS >0 + FOCUS
96[86-99]
15[10-20]
1.1[1-1.2]
0.3[0.1-1.1]
ADD RS >1
40[26-55]
81[75-86]
2.1[1.4-3.2]
0.7[0.6-0.9]
ADD RS >1 + FOCUS
24[13-38]
98[96-99]
13.9[4.7-41.2]
0.8[0.7-0.9]
----------
超緊急で処置が必要な上行解離はADD RSとFOCUSで評価しつつ,
可能性が低ければD-dimer待ちつつCTを考慮, とかいうマネージメントはどうだろうか.
エコーなら腹部Aoも評価できますし.

当然なにかひっかかれば(以下の場合)すぐに動くと.
・ADD RS ≥2
・FOCUS陽性
・ADD RS 0-1, FOCUS陰性の場合はD-dimer陽性の場合

まあ臨床はそんな簡単にはいかないのですけどもね。