ページ

2015年8月13日木曜日

脈を触れる 四肢先端の虚血性壊死

Venous Limb Gangrene, Symmetric Peripheral GangreneについてのReviewより
(N Engl J Med 2015;373:642-55.)


四肢の先端虚血は血管閉塞に伴い生じるが, 微小血管の塞栓では下肢の脈は保たれた状態で下肢の虚血性壊疽が生じる.
 DICやヘパリン誘発性血小板減少症, APSなどが原因となる.
大きく, Venous Limb GangreneとSymmetric Peripheral Gangreneに分類

Venous Limb Gangrene
Symmetric Peripheral Gangrene
背景疾患
HIT, 転移性腺癌, APS
敗血症性ショック,
心原性ショック
虚血肢のDVT
あり
通常なし
罹患肢
通常DVTと同側の1肢で認める
対称性に2−3
ワーファリンの適応
しばしばあり
通常なし
先天性凝固症
しばしばあり
通常なし
血小板減少
あり
あり
INR
>4.0
>2.0
D−dimer, Fibrin monomer
著明に上昇
著明に上昇
Thrombin-antithrombin複合体
著明に上昇
著明に上昇
Protein C<10%
あり
あり
肝不全
なし
多い

Venous Limb Gangreneでは,
 悪性腫瘍やHIT, APSを背景として、微小血管内に血栓症を形成する.
 さらにワーファリンを使用することでProtein Cが消費され, 一過性の凝固亢進, 増悪を呈する。
 Venous Limb Gangreneではワーファリンの使用がリスクとなり、消費性の凝固因子低下により,  INRが過延長することが多い(≥4).
 DVTを形成することで静脈うっ滞, 間質浮腫を生じ浮腫が微小血管を圧排する機序の関連もある.
 Venous Limb Gangreneの50%が悪性腫瘍関連
悪性腫瘍によるVenous Limb Gangreneの経過

 悪性腫瘍によるDVTにおいて, ヘパリンとワーファリンを併用しヘパリンを中止した直後よりPLTの減少, 血栓形成が亢進, Venous Gangreneを形成する経過が典型的

HITによるVenous Limb Gangreneの経過

 ヘパリン開始後4-5日でPLTは低下し, その際DVTが生じる.
 DVTと同側でVenous Gangreneを生じる.
 他に動脈血栓により虚血性壊死生じることもある.

Venous Limb Gangrene vs Warfarin-induced Skin Necrosis
 Warfarin-induced skin necrosisは主に非末端で生じる壊死 (乳房, 腹部, 大腿, 下腿など)
 一方でVenous limb gangreneは末端で生じる壊死の点で異なる.
 双方ともワーファリン開始後 2-6日で発症し, ワーファリンによるProtein Cの減少が関連していると考えられる
 Warfarin-induced skin necrosisでは先天性のProtein Cの欠乏, 欠損, Factor V Leidenが背景にあり, それにワーファリンによるProtein C低下が誘因となる可能性が示唆されている.

Venous Limb Gangreneの予防
 悪性腫瘍が関連したDVTやHITが関連したDVTにおいて, Warfarinを避けることが予防となる.
 特にHITの血小板減少時にワーファリンを避けることが推奨される
 LMWHで代用する.
 また, 凝固能が亢進している患者ではIVC−Filterは閉塞やVenous Limb Gangreneのリスクとなる可能性が高く, 避ける.

Venous Limb Gangreneの治療
 ワーファリンが関連し, INRが過亢進している場合はビタミンKを投与(10mgを緩徐にIV)する
 投与後は5−10mgを12−24時間毎に繰り返す.
 ワーファリンを中断, 拮抗し, そのかわり他の抗凝固薬を使用
 悪性腫瘍による過凝固ではヘパリンを, HITによる過凝固ではアルガトロバンを使用する.
 背景に凝固障害がある患者ではAPTTによる調節が行いにくいため, 抗Xa因子抗体(Fondaparinux)などの方が使いやすい可能性がある.

Symmetric Peripheral Gangreneの経過

 敗血症や心不全による低血圧, 低循環状態にDICが併発し四肢の虚血を生じる. 
 虚血性肝炎の合併も多い.
 末端以外の虚血の合併があればPurpura fulminansと呼ぶ

敗血症では髄膜炎菌(Neisseria meningitidis), 肺炎球菌で多い.
 脾摘患者におけるEncapsulated bacteria(髄膜炎菌, H. influenzae, 肺炎球菌)感染症
 他に様々な細菌で生じる(溶連菌, Staph, E. coli)
 リケッチア, マラリア, TB, ウイルス(rubeola, varicella)など

Symmetric Peripheral Gangreneと鑑別が必要な疾患
 凍瘡, エルゴチン中毒, 血管攣縮(全身性硬化症), Calciphylaxis, 術後微小血管内溶血(TTP), 骨髄増殖疾患, リンパ増殖疾患, 血管炎(クリオグロブリン血症など), 成人Still病, CAPSなど

Symmetric Peripheral Gangreneの治療
 Thrombin産生の阻害(ヘパリン)
 凝固因子の補充(Protein C, antithrombin: FFPで補う)
 下肢の血液還流の維持(補液療法, カテコラミンの中止など)
 敗血症患者に対するヘパリン投与を評価したMetaではヘパリン投与は死亡リスク軽減効果が見込める(RR 0.88[0.77-1.00]) (Crit Care Med. 2015 Mar;43(3):511-8.)