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2014年11月24日月曜日

Peripheral Arterial Disease: 末梢動脈疾患

Peripheral Arterial Disease: 末梢動脈疾患
N Engl J Med 2007;357:217-27

動脈硬化により主に下肢動脈狭窄を生じ, 末梢の虚血を生じる疾患.
 増悪すると下肢虚血、疼痛、壊死、切断のリスクがある
下肢末梢動脈障害は高齢者の12%で認められる.
 高齢者 + 喫煙 + DMあれば50%に及ぶ JAMA 2006;295:536-46
母集団
症状(+)
一般人口
60-80yr
60-69yr
70-79yr
15%[13-16]

5%[3-7]
12%[8-16]
男性
12[10-13]
5[3-6]
虚血性心疾患
19[17-21]
13[7-20]
Stroke
26[20-31]
15[5-25]
高脂血症
15[12-18]
6[4-8]
糖尿病
18[15-22]
11[3-18]
喫煙
11[9-12]
7[4-10]
高血圧
12[11-14]
7[5-9]

PADのリスク評価
44985名の心血管疾患既往(-)の男性群のProspective cohort JAMA. 2012;308(16):1660-1667
 平均24.2年間フォローし, HT, HL, 2型DM, 喫煙歴の4つのリスク因子のPAD発症リスクを評価. (PADは切断, 血管造影, 再灌流療法, ABI<0.90で定義)
Outcome; 
 24.2yr[20.8-24.7]のフォローにて, PADと診断されたのは537例.
 上記4つのリスク因子は其々が独立してPADのリスクとなり得る.(其々HR 2-3程度)
 単純に(リスク因子数)2のHRとなる
喫煙数別のリスク(3)とリスク因子の罹患期間によるリスク評価(4)


PADを示唆する身体所見 JAMA 2006;295:536-46
所見
目的
PAD 重症度
症状, 所見の判断
LR(+)
LR(-)
間欠性跛行
Screening
全て
間欠性跛行あり
3.30[2.30-4.80]
 
Moderate to Severe
 
0.57[0.43-0.76]
全て
 
0.89[0.78-1.00]
皮膚変化
Symptomatic
全て
皮膚冷感
5.90[4.10-8.60]
0.92[0.89-0.95]
創傷
5.90[2.60-13.40]
0.98[0.97-1.00]
色調変化
2.80[2.40-3.30]
0.74[0.69-0.79]
Screening
Moderate to Severe
体毛, 温度, , 委縮
1.50[1.20-1.70]
0.81[0.72-0.92]
血管雑音
Symptomatic
全て
1か所以上
iliac, Femoral, popliteal
5.60[4.70-6.70]
0.39[0.34-0.45]
Femoral
5.70[4.70-7.00]
0.74[0.70-0.78]
Screening
Femoral
4.80[2.40-9.50]
0.83[0.73-0.95]
脈触知
Symptomatic
全て
なんらかの
脈触知異常
4.70[2.20-9.90]
0.38[0.23-0.64]
Screening
Moderate to Severe
3.00[2.30-3.90]
0.44[0.30-0.66]
全て
3.10[1.40-6.60]
0.48[0.22-1.04]
 
0.27[0.16-0.44]
 
0.87[0.79-0.97]
複合所見からの評価
Combination
Likelihood Ratio
臨床所見
DM chohort
ABI =< 0.50
Lipid study
ABI =< 0.80
DM chohort
ABI < 0.94
間欠性跛行(+) + 脈拍異常(+)
6.50[3.80-11.0]
8.10[2.70-24.0]
 
間欠性跛行(+) or 脈拍異常(+)
2.10[1.50-2.90]
4.60[3.50-6.10]
 
足背A触知(-) or 大腿A雑音(+)
 
 
6.30[3.70-10.0]
間欠性跛行(-) + 脈拍異常(-)
0.24[0.13-0.46]
0.21[0.12-0.38]
 
間欠性跛行(-) , 足背A触知(+), 大腿A雑音(-)
 
 
0.42[0.30-0.60]

PAD Score
両側下肢罹患
 or スクリーニング
pt.
/ 後脛骨動脈  聴診

+ = 6pt
0; 聴診(-)
1;
軽度聴診
2;
中等度
3;
正常
/ 後脛骨動脈  触診

+ = 4pt
0; 触れず
1;
触知(+), だが異常
2;
正常
AMI
0; (+)
1; (-)
両側評価
>=6; LR 0.20[0.10-0.40]
< 6; LR 7.80[4.80-12.70]
片側下肢罹患
pt.
後脛骨動脈  聴診
0; 聴診(-)
1;
軽度聴診
2;
中等度
3;
正常
後脛骨動脈  触診
0; 触れず
1;
触知(+), だが異常
2;
正常
AMI
0; (+)
1; (-)
片側評価
>=4; LR 0.10
< 4; LR 4.8-5.0

PAD以外に間歇性歩行を呈する疾患 N Engl J Med 2007;356:1241-50.

PADの評価: ABI (Ankle-Brachial Index)

上肢と下肢の血圧比(上肢/下肢): 上腕と下肢で測定. ドップラーUSを使用する.
正常値は1.30-0.91
 ABI =< 0.90 SN 95% SP 100% (Angioと比較)
 0.71-0.90 Mild PAD
 0.41-0.70 Moderate PAD
 =< 0.40 Severe PAD
 < 0.50で安静時下肢痛(+), <0.20で下肢の虚血, 壊疽
 ABI ≥1.3の場合は血管が潰れないほどの動脈硬化(石灰化)ありと判断され, それはそれで動脈硬化が重度と判断する.

ABIが正常だけど症状、病歴(+)の場合は
 トレッドミルにて運動負荷後にABI測定. 20%以上の低下あればPADと判断する

ABI < 1.1では死亡率, 心血管イベントが有意に増悪
ABI; [1.11-1.40] vs [< 0.90] における全死亡率HR
 男性; 3.33[2.74-4.06], 女性; 2.71[2.03-3.62]
 Framingham Risk Category(FRS)とは独立したRisk因子となる (JAMA 2008;300:197-208)

心血管疾患予測目的のABIのMeta-analysis Ann Intern Med. 2013;159:333-341. 

 FRSによるリスク分類とABIの併用では, より高リスク群を評価することは可能であるが,
 ABIが正常でもCADリスクが低くなるわけでもない(感度が低い).

DM患者でのABI評価の感度は低下する可能性がある Eur J Vasc Endovasc Surg (2011) 41, 110-116 
DMはPADのリスク因子であり, DM患者におけるPADの有病率は9.5~13.6% (一般人口では4%)
 HbA1cが1%上昇するごとにPADリスクは28%増加.
 しかしながらDM性神経症などで疼痛を感じにくくなったりしてPAD自体の自覚症状が乏しい傾向がある.
ABIはDM患者でも有用なPAD評価検査であるが, 神経症がある場合や注意が必要.
 特にDMでは抹消血管の障害が出やすい傾向があるため, ABIで引っかけにくいこともある.

ABI<0.9をカットオフとした場合のPADに対する感度 特異度
(心血管リスクが中で神経症なしの群)
ABI<0.9をカットオフとした場合のPADに対する感度 特異度
(心血管リスクが高で神経症, 下肢潰瘍ありの群)

PADの評価: 画像検査
造営MRI, CT angio, ドップラーエコーによる評価

>50%の閉塞病変
完全閉塞病変において
 
SN
SP
 
SN
SP
造影MRA
92-99%
94-99%
造影MRA
93-95%
98.8-99.7%
造影CTA
89-97%
86-93%
造影CTA
91-98.4%
99.5-99.8%
ドップラーエコー
84-95%
93-96%
ドップラーエコー
85-92%
97-99.4%

CT angioにおける, >50%狭窄の評価 (JAMA 2009;301:415-24)
部位
Sn(%)
Sp(%)
大動脈 - 腸骨動脈
96[91-99]
98[95-99]
大腿膝窩動脈
97[95-99]
94[85-99]
脛骨動脈
95[85-99]
91[79-97]
大腿膝窩動脈脛骨動脈
98
96

Meta-analysisでは, >50%狭窄に対するMRIの
 感度 94.7%[92.1-96.4], 特異度 95.6%[94.0-96.8],
 LR(+) 21.56[15.70-26.69], LR(-) 0.056[0.037-0.083] Ann Intern Med 2010;153:325-34

PADのスクリーニングについて The American Journal of Medicine (2012) 125, 198-208
PADのScreeningの是非を評価したRCTは無し.

8 guidelinesのReviewでは,
 7つのGuidelineでPAD Screeningを推奨. USPSTF 1,2 guidelineのみEvidence不十分としている.
 Screeningの対象は様々だが,
 男性 >50yrで心血管系疾患のリスクファクターが1つ以上ある場合,
 女性 >40yrもしくは閉経後でリスクファクターが1つ以上ある場合に適応としていることが多い.
 また, Screening方法はABI.
 PADがあればスタチンやACE阻害薬, ARBsなどの導入を勧めている

USPSTFではPAD, CVD, CKD, DMが無い患者で, 無症候性ならばスクリーニングの必要は無いと規定.
 Evidence不十分との理由より Ann Intern Med. 2013;159:342-348.
 また, ABI自体, CVDリスクの独立した因子であるが, そこまで大きくは影響しない点, 無症候性のPADに対するアスピリンの意義が不明な点も推奨しない理由 Ann Intern Med. 2013;159:333-341.

ABI低下群において, Asprin予防投与は行うべき?
心血管疾患の既往のない50-75yrの28980名をScreening ⇒ 内3350名(11.6%)がABI=<0.95と低下を認めた.
上記3350名のITT, Double-blind RCT, 8.2(1.6)yrフォロー; Aspirin 100mg/d vs PlaceboでMI, Strokeの発症率を評価 (JAMA 2010;303:841-8)
Outcome
Outcome
Aspirin
Placebo
致死的MI
1.7%[1.2-2.4]
1.1%[0.7-1.7]
非致死的MI
3.7%[2.9-4.7]
4.1%[3.2-5.1]
致死的Stroke
0.4%[0.2-0.9]
0.7%[0.4-1.2]
非致死的Stroke
2.2%[1.6-3.0]
2.3%[1.7-3.1]
下肢血管再灌流療法
1.4%[0.9-2.1]
1.2%[0.8-1.8]
Angina
4.3%[3.4-5.4]
3.8%[3.0-4.8]
間欠性跛行
3.2%[2.4-4.1]
3.2%[2.4-4.1]
TIA
2.3%[1.7-3.1]
2.4%[1.8-3.3]
MI, Stroke発症, ASO症状に関してはAspirinによるRisk低下は認めない!
Sub解析でも年齢、性別、ABI値(≤0.80~0.95)で有意差なし.

PADの治療: 薬物治療

Cilostazol(シロステート®) 100mg bid
 間欠性跛行改善効果; 31.1m[21.3-40.9m]
 動脈再狭窄予防効果がある

補足) 抗血小板薬は心血管イベントの抑制に効果あり。
症状の緩和、ASOの進展には効果なし.

アスピリン 50-300mg/day
 再狭窄予防効果
 PADに伴う脳血管虚血の予防効果

PGE1 (オパルモン®)
 効果ある可能性あるが, metaではハッキリしない
 試す価値はあるであろう

PAD患者に対するアスピリンの心血管イベント予防効果
 18 RCTのMeta-analysis; Aspirin 25-1500mg/d, Dipyridamoleとの併用が12 studies. JAMA 2009;301:1909-19, Meta-analysis
 Primary outcome; MI, Stroke, 心血管由来死亡
Outcome
Aspirin
Control
RR
Primary outcome
8.9%
11.0%
0.88[0.76-1.04]
非致死性MI
3.3%
3.6%
1.04[0.78-1.39]
非致死性Stroke
1.8%
3.1%
0.66[0.47-0.94]
心血管死亡
4.6%
5.2%
0.94[0.74-1.19]
全死亡
8.0%
8.8%
0.98[0.83-1.17]
Major bleeding
1.8%
1.8%
0.99[0.66-1.50]
 Strokeのみ発症率低下あり
 Aspirin単剤のみのStudyでも, Strokeのみ有意に発症率低下

Type 1,2 DM + PAD(ABI<0.99)患者1276名を4群に割り付け予後を比較 RCT, DB, 4-8yrフォロー, 追跡84% (BMJ 2008;337:1840-9)
 Aspirin 100mg/d + 抗酸化剤
 Aspirin 100mg/d + Placebo
 Placebo + 抗酸化剤
 Placebo + Placebo
*抗酸化剤
 α-tocopherol 200mg, Vit C 100mg, Vit B6 25mg, 亜鉛 10mg, ニコチン酸アミド 10mg, レシチン 9.4mg, セレンNa 0.8mg
Outcome
Aspirin vs No-aspirin
抗酸化剤 vs No-抗酸化剤
心血管イベント発症, 死亡
18.2 vs 18.3%
0.98[0.76-1.26]
18.3 vs 18.2%
1.03[0.79-1.33]
CHD, strokeによる死亡
6.7 vs 5.5%
1.23[0.79-1.93]
6.6 vs 5.7%
1.21[0.78-1.89]
全死亡
14.7 vs 15.8%
0.93[0.71-1.24]
18.0 vs 12.6%
1.49[1.12-1.99]
MI (非致死性)
8.6 vs 8.8%
0.98[0.68-1.43]
7.7 vs 9.7%
0.81[0.55-1.17]
Strokeによる死亡
1.3 vs 1.4%
0.89[0.34-2.30]
1.9 vs 0.8%
2.49[0.88-7.06]
Stroke (非致死性)
4.6 vs 6.4%
0.71[0.44-1.14]
5.6 vs 5.4%
1.08[0.68-1.73]
TIA
2.2 vs 3.1%
0.70[0.36-1.39]
1.7 vs 3.6%
0.49[0.24-1.00]
PADの進行
15.2 vs 16.8%
0.89[0.68-1.18]
15.2 vs 16.8%
0.94[0.72-1.24]
アスピリンの有無で予後は変わらず.

ACE阻害薬は間欠跛行の改善効果が期待できる
PAD 212名のDB-RCT. Ramipril 10mg/d vs Placeboに割り付け, 24wk継続JAMA. 2013;309(5):453-460
 アウトカムはトレッドミルでの疼痛(-)歩行時間, QOL.
疼痛(-)の歩行時間はRamipril群で優位に延長
 歩行可能時間も優位に延長する結果.
 ABIやQOLも改善が見込める結果.
 ただし, ACE阻害薬 vs Placeboであり, 他の降圧薬との比較がされていない点で微妙

PADに対する運動療法
PAD患者(ABI=<0.95)156名のRCT; JAMA 2009;301:165-74
 トレッドミル運動 3回/wk
 下肢抵抗運動 3回/wk
 Control群
6か月フォローし, ABI, 歩行, 症状を評価 (下肢潰瘍, 虚血, 切断, 歩行困難は除外), 評価者Blind, ITT解析
Outcome; 6min歩行距離はトレッドミル > 抵抗運動群で改善を認める
6min 歩行距離変化
Group内の変化
Controlとの比較
 Control
-16.46[-31.00~-1.93]
15.00[-5.46~35.45]
 抵抗運動
-1.47[-15.70~12.76]
36.20[15.32-57.09]
 トレッドミル
19.74[5.44-34.04]
21.21[0.81-41.61]
 Physical activityに関しては有意差を認めず
 階段昇降, Short-form 36 physical functioning scoreは
 介入群にて有意に改善を認める

ステントの適応
ACC/AHAガイドライン
 リハビリ、薬剤で効果ない場合
 間歇性跛行、疼痛で著しくQOLを障害
 症状緩和により利益が大きい場合
 その患者さんの予後を考えて
 カテしやすいところ