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2014年9月18日木曜日

前立腺肥大症

前立腺肥大症
AFP 2008;77:1403-10
N Engl J Med 2012;367:248-57.

40-49歳では25%, 70-79歳では80%で認められる.
 無症候性も多く, 60台では50%が無症候性.
 80歳台では無症候性は10%のみ.
前立腺の解剖図 JAMA. 2014;312(5):535-542.


前立腺肥大症の症状は2つに分類
 Obstructive voiding; 排尿障害. 排尿困難, 尿流の低下, 排尿の中途途絶, 残尿感など.
 Storage symptom; 頻尿や夜間尿, 切迫尿, 膀胱痛, 排尿時痛.

重症度評価, パラメータ
AUASI score, またはInternational Prostate Symptom Score(IPSS)
項目 無し 1/5以下 半分以下 半分位 半分以上 常に
排尿後に残尿感を感じる頻度は?(/mo) 0 1 2 3 4 5
排尿後, 2時間以内に再度排尿する頻度は? 0 1 2 3 4 5
排尿中に尿が途切れ, また排尿する頻度は? 0 1 2 3 4 5
排尿を我慢できなくなる頻度は? 0 1 2 3 4 5
尿流が弱いと感じる頻度は? 0 1 2 3 4 5
排尿する為に陰部を押したり, 引っ張ったりする頻度は? 0 1 2 3 4 5
夜ベッドに入ってから, 起きるまでにトイレに行く回数 0 1 2 3 4 5
0-7; 軽度, 8-19; 中等, 20-35; 重度
JAMAのRational clinical examinationでは, スコアの前立腺肥大症に対する感度特異度は以下の通り (JAMA. 2014;312(5):535-542.)

Cutoff ≥8では感度 91% だが特異度 12%のみ.
Cutoff ≥20では感度41%, 特異度 71%程度. 診断にも除外にも使いづらい結果.
IPSSは前立腺肥大症の診断ではなく、あくまでも重症度評価、治療効果判定として使用すべきもの.

前立腺肥大症以外に下部尿路症状を来す疾患 JAMA. 2014;312(5):535-542.

PSA値, 直聴診所見と前立腺容積の関係 (Curr Opin Urol 2009;19:44-8)
前立腺容積のGold-standardは経直腸USによる評価.
 前立腺容積を評価するのには直腸診よりはPSAが良好.
 直腸診では, 容積50mlを超える重度BPHの評価には有用だが, 30-40mlの中等症のRule-in, outには不向き.
 むしろ肛門のトーヌス, 前立腺の左右差, 癌の評価の意味合が強い.

前立腺容積とPSAは相関性が良好.
 年齢に関係なく, PSA>2.0ng/mLは前立腺容積>30ml, PSA>2.5ng/mLは容積>40mlを示唆する.
 5α-reductase阻害薬は前立腺容積30-40mlで使用が推奨. → PSA >1.5ng/mLを指標とすることも推奨している.

50-78yの1688名において, PSA測定, 直腸診所見, TRUSによる前立腺容積を比較. European Urology 46 (2004) 753–759

PSAと前立腺容積; アジア人ではどうか?
 50-79yで下部尿路症状, BPH(+)の韓国人5716名.
 前立腺容積>40mlをOutcomeとしたPSAの感度, 特異度. 
BJU Int 2006; 97:742–746.

50-59 60-69 70-79 全体
PSA Sn Sp Sn Sp Sn Sp Sn Sp
0.5 97% 20.8% 97.7% 17.8% 98.4% 13.9% 97.9% 17.9%
1 86.7% 59.4% 91.4% 47.1% 93.9% 40.5% 91.4% 49.6%
1.5 72.8% 76.9% 83.2% 65.6% 86.9% 56.6% 82.7% 67.2%
2 62.8% 84.5% 73.1% 75.4% 79% 67.3% 73.4% 76.5%
2.5 54.2% 89.4% 64.7% 81.8% 73.3% 74.2% 65.9% 82.5%
3 44.9% 92% 58.9% 85.7% 65.8% 79% 58.9% 86.2%
4 33.6% 95.4% 43.4% 91.5% 51.4% 87.1% 44.5% 91.7%
5 22.3% 96.9% 32.6% 95% 37.5% 92.8% 32.5% 95.1%
6 14% 98.1% 23.9% 96.5% 28.4% 95% 23.8% 96.7%
8 7.3% 99.1% 8.5% 98.8% 12% 98.2% 9.5% 98.7%
10 0.3% 99.8% 1.2% 99.9% 0.8% 99.9% 0.9% 99.9%
容積>40ml群の平均値は
 60yでPSA >1.3ng/mL
 70yでPSA >1.7ng/mL
 80yでPSA >2.0ng/mL
これは白人と比較しても特に変わらない値.

残尿量の評価: Auscultatory Percussion Arch Intern Med 1985;145:1823-5
膀胱上縁を聴性打診にて判別
 恥骨上縁が恥骨上 > 7cmで残尿>250mlを示唆 (聴診器の直径が5-5.5cm)
(健常人ボランティアにカテーテルを留置し, 生理食塩水を入れながら評価したStudy)

膀胱上縁
平均残尿(ml)
範囲(ml)
4.5cm
25(9)
0-125
5.5cm
111(8)
32-225
6.5cm
228(12)
135-325
7.5cm
324(31)
160-650
8.5cm
328(44)
200-600
9.5cm
674(27)
500-800
10.5cm
819(68)
575-1200
11.5cm
850(69)
500-1100
12.5cm
740(96)
460-1000
残尿量の評価: 超音波検査 (Urology 2004;64:887-891)
エコーにて膀胱の容積を推定しても, 実際の残尿とは20%ほどズレる
 厳密に計算をしても、やはりズレる. なので簡便に計算をする.

116名に対して, 残尿量と Echo所見を比較 W; 幅, H; 高さ, D; 深さ(cm)
 各計算方法と実際の容量との一致性を評価
計算式
(V tr – V cal) / V tr
 SD
α x β x W x H x D
0.17
0.10
0.7 x W x H x D
0.27
0.19
0.65 x W x H x D
0.24
0.16
0.625 x W x H x D
0.22
0.17
 α, βは膀胱の形より求める変数であるが, メンドクサイ.
 WHD x (0.5-0.7)ml で計算すればOKということになる.

ちなみに, Bladder scanによる残尿量の評価は, 実際の導尿量との相関性が高い(γ=0.93)
(JAMA. 2014;312(5):535-542.)

前立腺肥大症の治療の適応
多くの患者が治療無しでも症状改善, 安定する
 2.6-5年で16%が症状の安定, 38%が改善
 40代で20%, 70代で90%

QOLを著しく障害する場合は治療の適応
 QOLと副作用を天秤にかけて決める

排尿障害により上・下部尿路障害 → 治療
 この場合, 外科的治療が選択される
 水腎症, 腎障害, 反復性尿路感染症, 非代償性膀胱障害; 排尿後の残尿が>25% 膀胱容量

治療: 経過観察
 無治療でも改善することが多い
 AUA score =< 7ならば経過観察
 4.5/100pt-year ⇒ AUA score 4改善
 Acute Urinary retentionは 0.6/100pt-year
 定期的(毎年)症状の増悪をモニタリング

治療: 薬剤治療
 Alpha-adrenergic antagonist
 5-alpha-reductase inhibitorsを使用する.

 Alpha 1受容体は前立腺, 膀胱底部に多く, 体部に少ない
→ 1A, 1Dの阻害で平滑筋を弛緩 → 即効性あり
 5-alpha-reductase inhibitorは前立腺容量を減少 → 長期間の投与で効果発現
  併用は単剤よりも長期間での効果は良い, 短期は不変
  症状増悪に対する各薬剤のNNTは 併用:8.4 Doxazosin:13.7 Finasteride:15.0

α1 adrenergic antagonist
長期作用型α1阻害薬
 Tamsulosin(ウロスロール®) Urapidil(エブランチル®)
 Terazosin(バソメット®) Doxazosin(カルデナリン®) 
 Prazosin(ミニプレス®) Silodosin(ユリーフ®)

IPSSは30-40%低下, 尿流は16-25%改善
 Tamsulosin, Alfuzosinは血圧に影響しにくい
 Terazosinは他に比べて効果が高い (NEJM 1996;335:533-39)
 DosazosinのNNT= 14(臨床症状改善) (NEJM 2003;349:2387-98)
 Terazosin, Doxazosinは前立腺細胞のアポトーシスを促進する作用をもつ
 Tamsulosin, Alfuzosinは選択性α阻害⇒ 副作用はプラセボと同等
 Terazosin, Doxazosin, Prazosinで副作用多い

副作用; 起立性低血圧, ふらつきがあり就寝前の投与が推奨される
 Sildenafil(バイアグラ®) 25mgとの併用はできない. 4時間は内服時間を空けるべし

α受容体のサブタイプから
Subtype
α1a
α1b
α1d
分布
前立腺部尿道括約筋
血管平滑筋
膀胱知覚過敏
 Silodosin(ユリーフ®); α1a >> α1d > α1b ⇒ 選択性高いが, 射精障害多し
 Tamsulosin(ハルナール®); α1a > α1d > α1b ⇒ 残流速改善
 Naftopidil(アビショット®); α1d > α1a > α1b ⇒ 残尿感改善
 Urapidil(エブランチル®); α1a > α1b > α2 ⇒ 降圧作用あり. 女性の神経因性膀胱に使用可(保険上)

40-85歳の新規Tamusulosin投与例のCohort(米国) BMJ 2013;347:f6320

 Tamusulosinは開始~2ヶ月程度までは低血圧エピソードのリスクあり
 長期投与ではリスクは高くない傾向がある.

5-α reductase inhibitor
Finasteride(プロペシア®) Dutasteride(アボルブ®)
5-α reductaseはType1は肝臓, 皮膚にあり, Type2は前立腺に局在
阻害によりTeststeron → Dihydrotestosteroneを抑制し, 前立腺のサイズを縮小する
 前立腺サイズ >40ml(通常20-30)で良い適応
 症状緩和まで6-12ヶ月かかる
 将来的に外科治療適応を55%減, 急性尿閉を57%減
 急性尿閉; NNT 26, 外科適応 NNT 18 (4年後)

前立腺癌予防効果 NNT 17, ただし 高分化型腺癌のリスク(NNH 77)
 IPSSは18-23%減 (Finasteride 5mg/day)
 1mg, 5mg投与群では18-19%の前立腺容量の低下 (vs 3% in Plasebo)

副作用; 1年以内に多い
 性欲減退, 射精・勃起障害, 性機能障害は13.8%

5-ARIと前立腺癌のリスク
5-ARIは前立腺癌の全体的な頻度を低下させるが, 高分化型の前立腺癌のリスクは増加させている.
低分化型のリスクは低下. N Engl J Med 2011;online, June 23.

スウェーデンのNation-wide cohortでは, BMJ 2013;346:f3406
 5-ARIの長期投与では, Gleason score ~7ではOR低下効果が認められ, 8-10ではリスク低下繋がらないという結果.

USの40-75歳の医療従事者 51529例のCohort. JAMA Intern Med. 2014;174(8):1301-1307.
 444880pt-yのフォローにおいて, 3681例の前立腺癌あり.
 5ARIは2878例で使用歴があり, 前立腺癌への影響は, Gleason score ≤7ではリスク低下, ≥8でもリスク上昇とはならないという結果であった.


PCPT trial; 18882名の男性患者のRCT. N Engl J Med 2013;369:603-10.
 Finasteride vs Placeboに割り付け, 前立腺癌発症率を比較したStudyの長期予後評価(~18y)
 長期的なフォローでもLow gradeの前立腺癌予防効果はあり.


各薬剤の使用方法
Alpha 阻害薬
商品名
Dosage
Doxazosin
カルデナリン® (0.5,1,2,4mg)
1mg/dayより開始, Max 8mg
Prazosin
ミニプレス® (0.5,1,2mg)
1mg bidより開始, Max 5mg tid
Terazosin
バソメット® (0.25,0.5,1,2mg)
1mg 就寝前, Max 20mg 就寝前
Silodosin
ユリーフ®
2CP 朝夕
選択性 Alpha阻害
商品名
Dosage
Alfuzosin
未承認
10mg/day
Tamsulosin
ウロスロール®, ハルナール®
0.4mg/day
5-Alpha reductase阻害薬
商品名
Dosage
Dutasteride
アボルブ
0.5mg/day
Finasteride
プロペシア
0.2-1mg/day