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2014年8月30日土曜日

薬剤性肝障害

薬剤性肝障害 Drug-induced Liver Injury (DILI)について
Mayo Clin Proc. 2014;89(1):95-106

薬剤による肝障害.
 処方薬, OTC, 漢方, サプリメントによる, 無症候性の肝酵素上昇~急性肝不全まで様々な病態を示す
 ただし, 明確な診断基準が無く, 原因薬剤が明らかではない場合も多い.
 アイスランドでのProspective cohortでは, 薬剤性肝障害の頻度は毎年19.1[1.54-23.3]/100000人口. 約5000人に1人

原因薬剤として多いものは抗生剤.
特にAMPC/CLAでの肝障害が多い.
 他には抗結核薬, NSAIDが主な原因を占める.
 アセトアミノフェンは重症肝炎の原因で多いが, 全体的には少ない.

DILIの分類
大きく, Idiosyncratic (unpredictable)とIntrinsic (predictable)で分類
Intrinsic DILIの代表例としてはアセトアミノフェン.
 用量依存性に発症し, 潜在期間も短い. 大半がこちらに分類される.
Idiosyncratic DILIは予測困難であり, 潜在期間も長い.
 AMPC/CLAやNSAID, イソニアジドがこれに属する.

肝障害パターンからの分類
 Hepatitic(肝細胞障害型)とCholestatic(胆汁うっ滞型)とMixed(混合型)
 R ratioで分類することが多い. *R ratio; ALT(ULN)/ALP(ULN)
 肝細胞障害型では, ALT≥3ULNで, R ratio≥5,
 胆汁うっ滞型では, ALP≥2ULNで, R ratio≤2,
 混合型では, ALT≥3ULN, ALP≥2ULNで, R ratio 2-5 となる.

 これらは原因薬剤の特定に有用ではあるが, 1つの薬剤が様々な障害をきたし得ること, 明確に分類することが困難な例も多いことから, 完全に分かれるわけではないと認識すべき
 検査する時期でも上記分類は異なってしまう.
DILIの192例の解析では, 診断初期と晩期の分類は
 肝細胞障害型 57% → 45%
 胆汁うっ滞型 22% → 37%
 混合型 21% → 17% といった具合に変化してしまうので注意.

Immune or nonimmuneでの分類
Immune-related DILIは主にアレルギー, 過敏反応による肝障害.
 発熱, 皮疹, 好酸球増多, 自己抗体を検出することが多い.
 また, Stevens-Johnson syndrome, TEN等も含まれる.
 特徴としては薬剤開始から1-6wk程度の早期に発症し, 再度薬剤投与にて急性に発症する.
 原因薬剤はACE阻害薬, アロプリノール, フェニトイン, ジクロフェナク, AMPC/CLA, TCA等, DIHSをきたすもの.

Nonimmune-mediated DILIは, 投与開始から~1年での発症といった, 遅い肝障害を呈し, 全身症状は少ない.
 また, 薬剤再投与での再発は認めない.

Drug-induced autoimmunelike hepatitis; DI-AIH. 
 薬剤による自己免疫性肝炎で, ステロイドで治療可能な可能性あり.
 肝酵素上昇, Ig上昇, 抗核抗体, 抗平滑筋抗体を認める.
 原因薬剤はミノサイクリンとNitrofurantoinが有名で, 近年キノロンと抗TNF-α阻害薬での報告がある.
 DI-AIHとAIHの鑑別は難しく, 組織所見にて慢性肝炎の有無があるかどうかで判別する方法もあるが, 確定的ではない.
 近年では再発, 再燃があるかどうかで判別することが一般的(DI-AIHでは再発はしない)

肝障害パターン別の原因薬剤と組織所見からの原因薬物の推定
肝障害を来すサプリメント, ハーブ類

DILIのリスク因子
年齢は原因薬剤により異なる
 例えばイソニアジドでは高齢者程肝障害リスクが上昇するが, バルプロ酸やアスピリンでは若年程リスクとなり得る.
 代謝, 分泌, 吸収の面で考慮すると, 全体的には高齢者程 High-riskと考えた方が良い.
 また, 女性の方がやや多く, リスク因子となる.
 人種差もある.
 HBVやHCV, アルコール性肝障害, 脂肪肝を背景にもつ患者もリスク.


DILIのアセスメント
 薬剤性の急性肝障害を認めた場合, 薬剤の種類, 薬剤の開始時期, 肝障害のタイプを評価.
 Bilが2mg/dLを超える等, 障害が強い場合は, HBV,HCV, HEV等のウイルス肝炎, 自己免疫性肝炎,  Wilson病, NAFLDといった非薬剤性の原因もチェックすべき.

Liver-enriched micro RNAs(miRs)も原因特定に有用な可能性.  アセトアミノフェンによる肝障害ではmiR-122が有意に上昇(1265[491-4270] vs 279.2[194.2-922.9]【非アセトアミノフェンによる肝障害群】vs 12.1[7.0-26.9]【健常Control群】)
 miR-192もアセトアミノフェンによる肝障害で上昇するが, 健常人, 非アセトアミノフェン群では上昇しない (6.9[1.96-29.16] vs 0.4[0.30-0.69])

DILIの治療
DILIの治療は原因薬剤の中止と対症療法が基本.
 アレルギーが関連した肝障害ならば, その薬剤や, 同クラスの薬剤を避けるべきであり, 原因機序の評価も重要となる.
 HypersensitivityやImmunoallergicによるものの場合, ステロイドが効果的であるが, 投与する必要があるかどうかは議論があるところ.

DI-AIHではステロイドが効果的だがAIHよりも短期間でよい
(PSL 20-40mg/dで開始し, 肝酵素正常化すれば6mで減量)

原因薬剤に特異的な治療
 バルプロ酸による肝障害に対するCarnitine.
 アセトアミノフェンに対するNAC投与
 NACは非アセトアミノフェン性肝障害でも肝移植例を減らす報告があり, 全てのDILIへの投与が推奨される.

非アセトアミノフェン性の急性肝障害へのNアセチルシステイン


2014年8月28日木曜日

持続皮下輸液 Hypodermoclysis

持続皮下輸液 Hypodermoclysisについて
(Am Fam Physician 2001;64:1575-8.)
持続皮下輸液: 文字通り輸液を皮下注射で投与する方法
 静脈ルート確保よりも簡便であり, 合併症も少ないことから長期間補液が必要となるような高齢者, 緩和ケアの一環としての補液療法, ルートのとりにくい小児例で行われる.

皮下に投与された輸液は浸透圧や静水圧, 拡散により周囲組織の血管へ吸収される
 健常人に500mlの生理食塩水を3時間かけて皮下注すると, 投与 1時間後には血管内完全に吸収されている.
 Stroke後の補液が必要な患者群でIVと皮下輸液を比較するとVol statusは両者で変わりなかった報告もある.
(Journal of Infusion Nursing 2009;32:40-44)

持続皮下輸液のメリット, デメリット
メリット
費用がかからない
IVよりも侵襲が少ない
過剰輸液となりにくい
挿入が簡便. 入れ替えも楽.
在宅でも可能
静脈炎を起こしにくい
ルート感染もおこしにくい
ルート閉塞もおこしにくい
デメリット
補液速度が1ml/minと遅い
2ルート確保でも13000ml程度
電解質, 栄養, 薬剤の投与に制限あり
投与部位に浮腫が生じやすい
局所の症状がでやすい
出血傾向があると施行不可
皮下輸液に向かない状況
 大量補液が必要となる場合(重度の脱水, ショック等)
 血小板減少や出血傾向がある場合
 重度の電解質異常がある場合 (Na>150mEq/L, 血清浸透圧>300mOsm/kg, BUN/Cre>25)
 低Alb血症で著明な浮腫がある場合
 皮膚障害が多く, 刺入部位が無い場合
(Journal of Infusion Nursing 2009;32:40-44)

皮下輸液の方法
刺入部位: どこでも可能
 動く患者では, 腹部, 胸部(乳房や肋間), 肩甲骨上であれば歩行や移動に邪魔になりにくい.
 寝たきりの患者では, 大腿部, 腹部, 上腕外側等.
 自己抜去してしまう患者の場合は背部など手の届きにくいところが推奨される.

刺入方法
 イソジンにて消毒
 皮下組織をつまみ, 45-60度の角度をつけて皮下に挿入し, そのまま固定. (針やカテーテル全体を挿入する.)

入れ替えのタイミング:
 1-4日毎(最長72時間毎と問題が生じた時)に針とチューブを交換する
 平均4.7日で交換しているという緩和ケアのデータもある. (Journal of Infusion Nursing 2009;32:40-44)
 テフロン製のカテーテル(24G)では11.9±1.7日, バタフライ針(25G)の場合は5.3±0.5日とのデータもあり. (J Pain Symptom Manage. 1994 Feb;9(2):82-4.)

投与可能な補液
 生理食塩水, 1号液, リンゲル, 乳酸リンゲルの投与は可能.
 NaClの含有されていない5%, 10%ブドウ糖は電解質含有液と比較すると吸収速度が遅く, 避けるべきとされている. そもそも脱水状態に対してブドウ糖液は選択肢とならないことも考慮すると, 脱水補正という効果はあまり期待できない.

(J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 1997 May;52(3):M169-76.)
 カリウム含有液では局所の発赤や疼痛がでやすいが, KCl 20-40mEq/L程度の濃度ならば投与可能との報告もある.
 つまり3号液程度ならば問題なく投与可能
と考えられる.
Journal of Infusion Nursing 2009;32:40-44
Journal of Infusion Nursing 2005;28:123-129


皮下輸液より投与可能な薬剤(老年医学科の医師, 看護師のアンケート) 

Palliative Medicine 2005; 19: 208-219

鎮痛剤

抗ムスカリン
制吐剤

ステロイド

モルヒネ
98%
Glycopyrronium
54%
Dexamethasone
(
デキサート®)
51%
Hydromorphone
56%
Metoclopramide
(
プリンペラン®)
44%
Methylpredonisolone
(
ソルメドロール®)
8%
Buprenorphine
(
ノルスパン®)
3%
Butylscopolamine
(
ブスコパン®)
41%


Tramadol
(
トラマール®)
2%
Atrapine
(
アトロピン®)
31%


Pethidine
(
塩酸ペチジン®)
2%
Ondansetron
(
オンダンセトロン®)
20%


Methadone
2%
Papaverine
(
パパベリン塩酸塩®)
-


Diclofenac
(
ボルタレン®)
-




Fentanyl
(
フェンタニル®)
-





抗生剤

抗精神病薬
ベンゾジアゼピン

その他

Ceftriaxone
(
セフィローム®)
41%
Haloperidol
(
セネレース®)
90%
Furosemide
(
ラシックス®)
69%
Teicoplanin
(
テイコプラニン®)
3%
Levomepromazine
(
レボメプロマジン®)
54%
Pamidronate
(
アレディア®)
3%
Amikacin
(
アミカシン®)
2%
Clonazepam
44%
Clodronate
3%
Cefepime
(
セフェピム®)
2%
Midazolam
(
ドルミカム®)
34%
Zoledronate
-
Gentamicin
(
ゲンタマイシン®)
-
Diazepam
(
セルシン®)
12%




Clorazepate
-




Lorazepam
-




Chlorpromazine
(
ウィンタミン®)
-


ただし, 上記薬剤が添付文書上皮下投与可能となっているわけではないため, 使用にはリスク-ベネフィットを考慮し, 十分注意すること.

投与速度は1ml/分.
 1箇所につき, 1440ml/24時間の補液が可能.
 2箇所確保すれば1日に3L程度の補液が可能となる.
 夜間では1L/8h程度の速度が推奨.
 また, 1L/2時間以上の速度にはしないようにする.
(Am Fam Physician 2001;64:1575-8.)

Hyaluronidase: ヒアルノニダーゼ. (国内には薬剤無し.)
 Hyaluronidaseを皮下投与すると, 補液の吸収速度が上昇し, より早く, 多くの補液が可能となる.
 効果の持続時間は24-48時間程度.
 使用方法は75Uを皮下輸液前に輸液部位に皮下注射, 150Uを補液1Lあたりに溶解し併用する.
 もしくは補液投与前に150-200Uの皮下注を24h毎に繰り返す(この場合留置したカテーテルから投与する.) (Pediatr Emer Care 2011;27: 230-236)
 試験投与として, 150U/mLを0.02mL投与し, 早期反応(5min)を評価する方法も推奨されている.

皮下輸液の合併症
局所の浮腫
最も多い. マッサージで軽快する
局所の反応
11-16%で局所の発赤や浮腫を認める*
刺入部の不快感, 疼痛
. 筋に刺入した場合や, 補液速度が速いと起こりやすい
蜂窩織炎
消毒をしっかりすること, 毎日交換でリスク低下.
血管穿刺
血管走行部位をさけて部位を選ぶ
肺水腫
0.6%程度と稀
電解質異常
IV投与と比較すると低リスク
Hyaluronidaseの副作用
*Journal of Infusion Nursing 2009;32:40-44 
(Am Fam Physician 2001;64:1575-8.)
J Am Geriatr Soc 55:2051–2055, 2007

長期療養施設に入所中の患者で, 補液治療を必要としIV補液か, 持続皮下注射を受けた患者を評価. (1日1本程度の輸液のみの患者は除外.)  1998年に5週間前向きに評価したところ, 55例が当てはまった.
 皮下注射のみが37例, IV補液のみが9例, 双方受けたのが9例.
 平均年齢は83.7歳±10.5.

24例が経口摂取不良にて慢性的に補液を受けていた.
 その全例が持続皮下輸液を受けており, 1/3 5%TZ+ 2/3NSを25-75ml/hの速度で主に夜間のみ投与されていた.
 その24例では脱水症の出現はなかった.

37例が急性の脱水症に対して補液を施行.
 28例が皮下輸液, 16例がIV補液を行った.
 全体的に改善したのが 57% vs 81%, p=0.19
 臨床的に改善したのが57% vs 81%, p=0.19
 Labで改善したのが4% vs 6%, p=1.0
 臨床的に不変が25% vs 19%, p=0.72
 増悪したのが18% vs 0%, p=0.14であった.
J Am Geriatr Soc. 2000 Jul;48(7):795-9.

小児例への皮下輸液 Pediatrics 2011; 127:e748–e757
 小児で補液が必要であるが, ルート確保が困難な場合, 先ずはNGチューブからの補液が優先される. それが困難な場合に皮下輸液の選択もあり.
 Hyaluronidaseを使用し, 20mL/kg/hで等張液を投与, その後必要に応じて皮下輸液を継続すると, 84.3%で脱水改善が可能であった.

軽~中等症の脱水の小児例(1M~10歳) 148例のRCT.
(Na<130, >155, K<3.0の電解質異常は除外) Clinical Therapeutics 2012;34:2232-2245
 recombinant human hyaluronidaseを併用した皮下注群とIV補液群に割り付け, Vol. statusを比較.
 補液は等張液20mL/kgを1時間で投与, その後必要に応じて追加する方法.
アウトカム: 両者で補液量, 脱水症状は有意差無し.

乳児での皮下輸液の投与速度は
 25mL/kgを超えない量
 速度は2mL/minを超えない速度.

3歳以上の小児では, 200mL/d程度の量が推奨される

投与部位の観察を怠らないようにし, 24-48時間毎, もしくは1.5-2Lの投与毎に刺入部位をローテーションすることが推奨される 
Nursing. 2011 Nov;41(11):16-7

2014年8月26日火曜日

くも膜下出血の診断

くも膜下出血の診断について Subarachnoid hemorrhage

Thunderclap Headache: 雷鳴頭痛 Lancet Neurol 2006;5:621-31
 劇症発症する強い頭痛のこと. 代表的な原因はくも膜下出血(SAH)であるが, 以下の原因でこのタイプの頭痛が生じ得る.
 くも膜下出血 11-25%
 Sentinel Headache
 脳静脈洞血栓症 2-10%
 脳動脈解離, 突発性頭蓋内圧低下, 下垂体卒中, Retroclival Hematoma
 虚血性脳梗塞, Acute Hypertensive Crisis, Cerebral vasoconstriction Syndrome
 Third Ventricle colloid cyst, Intracranial Infection

くも膜下出血
85%が動脈瘤の破裂によるもの
 中脳周囲の出血が10%
 残りを AVM, 動静脈瘻, Mycotic aneurysm, コカインなどが占める
70%が頭痛のみ, (Hospital Basedだと50%)
 数日持続する頭痛で, <2hrで改善するものは稀
 意識障害は1/3,   痙攣 6-9%,   せん妄 16%で認める
頭痛を主訴にERを受診した患者の内, 1-4%がSAH
“人生で最も酷い頭痛” を訴えた患者に限定すれば12%がSAH (NEJM 2000;342:29-36)
1999名のCohortでは, 人生最悪の頭痛を訴えた割合は, SAH(+)群では93.1%, SAH(-)群では77.5%(p<0.001) (BMJ 2010;341:c5204)

動脈瘤性SAH Lancet Neurol 2011;10:349-56
脳動脈瘤破裂によるSAHは 9/100000person-yrの発症率
 平均発症年齢は55yrと若い.
 生存率は過去30年間で17%上昇し, 65%.
 SAHの12%は発症直後に死亡する.
初回aSAH後に外科的, カテーテルで脳動脈瘤閉鎖した後も, 再出血のリスクは高く, 一般人口の15倍(190/100000pt-yr)となる.
 再出血部位は初回の動脈瘤と同部位のこともあるが, 新規出現病変のことも多い.
 クリップ後2-19yrでCT angioを施行したStudyでは, 151箇所の脳動脈瘤(+).
 その内22箇所が初回Angioで認めていた部位. 129箇所は新規病変.
 再出血のリスクとなる因子(HR)は,
若年(/10yr)
1.7[1.1-2.5]
家族歴
3.8[1.1-13.2]
喫煙
4.8[1.3-17.4]
複数箇所の動脈瘤
5.7[2.3-14.5]

動脈瘤性SAHの予後
 Independence(mRS 0-3)となるのは36-55%(1-12mo)
 来院時に言語, 運動の反応が全くない場合は, Independenceとなるのは僅か5%のみ.
 認知障害も多く, 生存したaSAH症例では, 約60%で記憶障害, 75%で統合障害, 75%で言語障害を認める.
 気分障害も多く, 不安障害, うつ症状は約半数で認める.(発症後2yr)
  PTSDは1/3, 睡眠障害は1/3で認める.
 嗅覚, 聴覚; 味覚消失は25-33%. 食事摂取やQOLに重大な影響を及ぼす.
  特に味覚障害はA-comの動脈瘤破裂例で他部位の2倍の頻度.
  また, クリッピング治療はCoilingの2-10倍のリスク.

未破裂動脈瘤の頻度.
中国でのCohort. 35-75歳の4813名でMRAを施行. Ann Intern Med. 2013;159:514-521.
 未破裂動脈瘤の頻度は全体で7.0%[6.3-7.7], 男性例で5.5%[4.6-6.4], 女性例で8.4%[7.3-9.5]
 ピーク年齢は55-75歳

部位, サイズ別の頻度


Meta-analysisより, 未破裂動脈瘤の頻度 Lancet Neurol 2011; 10: 626–36
68 studiesのMeta-analysis
 特に基礎疾患がない患者群における未破裂動脈瘤の頻度は3.2%[1.9-5.2]. 平均年齢50yr
 各疾患と未破裂動脈瘤頻度は以下の通り.

PR
常染色体優性多発性嚢胞腎
6.9[3.5-14]
瘤によるSAHの家族歴
3.4[1.9-5.9]
脳腫瘍
3.6[0.4-30]
下垂体腫瘍
2.0[0.9-4.6]
動脈硬化
1.7[0.9-3.0]
女性
1.6[1.02-2.54]
動脈瘤の特徴.

脳動脈瘤の破裂率 N Engl J Med 2012;366:2474-82.
UCAS Japan study; 日本国内のStudy.
 2001-2004年に診断された脳動脈瘤患者のProspective cohort.
 ≥20yrで≥3mmの嚢状動脈瘤を認めた患者 5720名. 動脈瘤は計 6697例.
 91%が偶発的に発見. 患者の大半が無症候性であった.
 女性例が2/3, 平均年齢62.5±10.3歳.
 瘤の平均サイズは5.7±3.6mm, 高齢者程サイズは大きい傾向あり.
Outcome; 11660動脈瘤-yrフォローし, 年間破裂率は0.95%[0.79-1.15]
 径が大きい程破裂リスクも高い,
3-4mm
Reference
P-com vs *
HR 1.90[1.12-3.21]
5-6mm
HR 1.13[0.58-2.22]
A-com vs *
HR 2.02[1.13-3.58]
7-9mm
HR 3.35[1.87-6.00]

*; A,P-com除く部位
10-24mm
HR 9.09[5.25-15.74]
形がいびつ
HR 1.63[1.08-2.48]
≥25mm
HR 76.26[32.76-179.54]


動脈瘤の部位と径別の年間破裂率


PHASES score Lancet Neurol 2014; 13: 59–66
脳動脈瘤をフォローした6つのprospective cohort, N= 8382 にて, 5年破裂リスクを評価し, scoreを作成
 1年破裂率は1.4%[1.1-1.6], 5年破裂率は3.4%[2.9-4.0].
動脈瘤のサイズと部位, 年齢, リスク因子からの破裂率(数字は5年破裂率)

日本人での破裂率

日本人では破裂率が高い傾向がある.

スコアと破裂リスク 5%を超えるのは10点以上.


SAHの見逃し
早期発見, 治療が予後を規定するのに重要だが, 画像検査が普及した今日でもSAHの診断ミスは認められる. NEJM 2000;342:29-36
 典型的なひどい頭痛, 失神, 嘔吐, 突然発症などあれば見逃すことはほぼ無いと思われるが, 上記症状がない場合も多い.
1980年代, Iowa大学ではSAHの23-37%が初期診察で見逃されていた.
 それら患者群は他のSAH患者と比較して症状は軽い傾向にあった.
1990年代のConnecticutではSAHの25%が初期診察で見逃されている.
 見逃された患者群では症状の増悪, 出血の増悪Riskが高い.
見逃し群の内訳(4 Studyの合計)
Misdiagnoses
%
Misdiagnoses
%
診断無し, 不明な頭痛
24%
副鼻腔疾患
6%
Migraine, Cluster, Tension type
21%
頸部由来
5%
髄膜炎, 脳炎
10%
精神疾患
5%
全身感染症(influenza, 胃腸炎, Viral syndrome)
10%
外傷由来
1%
Stroke, cerebral ischemia
8%
背部痛
<1%
Hypertensive crisis
7%
その他
15%
心原性(MI, 不整脈, 失神)
6%



1996-2001年のNew YorkのStudy; 482名のSAH患者のCohort
12%が初期診断でSAHを見逃し.
誤診断内訳;
Migraine, Tension headache
36%
高血圧
5%
Viral syndrome
11%
髄膜炎
5%
診断無し
12%
AVM
4%
筋骨格系の疼痛
7%
不明
4%
副鼻腔炎
5%
その他
11%
診断ミスの原因として,
 CT未撮影が最多(73%).
 CT, LPの結果解釈ミス(16%)
 CTを施行するが, LPは未施行(7%)
 その他
⇒ 主に,
SAHの臨床症状Spectrumの理解が足りないこと, CTの限界を理解できていないこと, LPの結果の解釈ができていないことが主な原因となり得る.

見逃した群で, 意識レベルの低下が25%, 再出血が21%, 水頭症が12%, Vasospasmが7%生じている.
JAMA 2004;291:866-9, NEJM 2000;342:29-36

見逃しのリスク因子
見逃しRiskを上昇させる因子として,
Hunt Hess grade I or II HR 8.4[4.3-16.5]
Sentinel Headaches§ HR 2.7[1.4-4.9]
Right-sided aneurysm HR 3.6[2.0-6.4] が挙げられる.
見逃したことで全体的には予後に影響はしないが, 早期に脳外科的処置が必要なHunt Hess I-IIに限ると予後は増悪.
Outcome
全患者HR
Hunt-Hess I II HR
@3mo
死亡(mRS 6)
0.6[0.2-1.3]
3.4[1.0-11.2]

死亡 or 重度後遺症(mRS 4-6)
0.5[0.2-1.1]
3.4[1.3-8.9]

死亡 or 後遺症(mRS 2-6)
0.8[0.4-1.5]
2.5[1.2-5.4]
@12mo
死亡(mRS 6)
0.6[0.3-1.3]
4.7[1.7-13.0]

死亡 or 重度後遺症(mRS 4-6)
0.5[0.3-1.1]
3.1[1.2-7.7]

死亡 or 後遺症(mRS 2-6)
0.7[0.4-1.3]
1.5[0.7-3.2]
また, Hunt-Hess I-II(軽症)なほど見逃しやすい
→ 外科的処置の遅れが予後の増悪に繋がる群で見逃しやすい
JAMA 2004;291:866-9

§Sentinel Headache (Warning Headache) NEJM 2000;342:29-36
SAHと同じような頭痛がSAH発症の数日~数週前に生じる
 突然発症であり, 数時間~数日持続.
 他のThunderclap headacheを来たす疾患も鑑別に挙がるが, 基本, 同様の頭痛を診た際はSAH, 動脈瘤精査を行うべき.

11-40%(20-50%)で認められ, 半数が医療機関を受診する
 しかし, 16-60%で見逃される
 Warning Headacheの存在は誤診の確率を上げる(OR 2.7) (JAMA 2004;291:866-869)
 若年者に多く, Warning Headache後平均10.5日後にSAHを発症する (J Neurol Neurosurg 1973;38:575-80)

以前に頭痛があっても, SAHを否定する材料とはならない

SAHによる非典型的な頭痛
SAHの半数がMinor bleedingであり, その場合非典型的な頭痛を呈することがある
 500名のSAH患者の解析では, 34%が特にストレスにならない活動下で発症し, 12%が睡眠中に発症している
 頭痛は局所, 全体どこでも起こってよく, 軽度のこともあり得る.
 自然に改善を認めたり, NSAIDにて改善を認めることもある. → Tension type, Migraine, 副鼻腔由来の頭痛などと間違われる.
 嘔吐が強く, 微熱があれば胃腸炎や髄膜炎と誤診されることも多い.
“人生で最も痛い頭痛”ではなくても, 初めて経験する頭痛, 最近発症した頭痛ならばCTを考慮するのもアリか
NEJM 2000;342:29-36

頭痛患者においてくも膜下出血を除外する
1999名の頭痛患者のProspective cohort BMJ 2010;341:c5204
 内130名がSAHと診断.
 “今までで最悪の頭痛” と訴えたのは1546名(78.5%).
 SAH患者の頭痛の特徴から, 3つのPrediction ruleを作成.
 1つ以上に当てはまればHigh Risk.
Rule 1
Rule 2
Rule 3
年齢>40yr
救急車で来院
救急車で来院
頸部痛, 項部硬直あり
年齢>45yr
年齢>45yr
意識障害の目撃あり
1回以上の嘔吐
1回以上の嘔吐
運動時に発症
dBP>100mmHg
dBP>100mmHg
High RiskとSAHに対するSn, Sp
High RiskSAH
Sn(%)
Sp(%)
Rule 1
100[97.1-100]
28.4[26.4-30.4]
Rule 2
100[97.1-100]
36.5[34.4-38.8]
Rule 3
100[97.1-100]
38.8[36.7-41.1]
上記を満たさない場合はくも膜下出血を除外することが可能かもしれないが, 高齢者, 救急車使用者はそれだけで引っかかる.
救急車利用に関しては病院, 国より特異度は変化するだろう

SAH(+)群と(-)群の比較:
病歴より
SAH(-) 1869
SAH(+) 130
P
年齢
42.6
54.4
<0.001
女性
60.6%
56.9%
0.41
Onset-peakの時間
9.2min
3.4min
<0.002
Peak時のPain scale
8.6
9.3
<0.001
運動時の発症
10.7%
23.1%
<0.001
性交渉時の発症
6%
5.5%
0.79
睡眠時に頭痛で起床
19.3%
10.8%
0.016
最悪の頭痛
77.5%
93.1%
<0.001
意識障害(+)
4.5%
16.9%
<0.001
意識障害の目撃
2.5%
11.5%
<0.001
安静を必要とする頭痛
24%
43.9%
<0.001
頸部痛, 項部硬直
30.9%
71.1%
<0.001
嘔吐
26.3%
58.6%
<0.001
救急車使用
16.7%
56.9%
<0.001
救急に転送
7.9%
18.5%
<0.001
所見より
SAH(-) 1869
SAH(+) 130
P
項部硬直
5.2%
30.4%
<0.001
平均体温
36.4
36.3
0.39
平均HR
80.2
79
0.38
平均SBP
141
159
<0.001
平均DBP
81
88
<0.001

上記の3 rulesのValidation study JAMA. 2013;310(12):1248-1255
1時間以内にピークを迎えた頭痛で, 他の神経所見(-)を満たす2131名のProspective cohort (@カナダ)
  過去6mで3回以上の同様の頭痛がある場合は除外.
 上記のうちSAHは6.2%
 この群において上記3 ruleとOttawa SAH Rule*の感度特異度を評価

感度はどれも9割後半, 特異性は2-3割
除外には有用なRuleと言える.
Thunderclap headacheと項部硬直を加えたOttawa SAHでは感度100%となる.

日本国内からの研究 日救急医会誌 . 2011; 22: 305-11
 2001-2006年に頭痛を主訴に搬送された症例356例(SAH88例)でScoreを作成し, 2007-2009年に搬送された同様の患者群でValidation
 外傷, 酩酊, 昏睡, 転帰不明は除外.
 最終的に血糖, BP, K, WBCがScoreとして有用と判断.
 Score 0ならばSAHは除外可能.

くも膜下出血の診断
CT検査
頭部CTは3mmのThin sliceで撮影すべき
 左右対称に, 水平に撮影する必要がある.

頭部CTの感度は 93%[88-97] (Ann Emerg Med 2008;51:697-703, 頭部CT + LPにて診断)
 Ht<30%では偽陰性のRiskが高くなる.  Hb<10gでもIsodenseとなり得る
 時間の経過とともに感度は低下し, 発症3wk後では感度0%
時間
当日
1日後
2日後
5日後
感度
92%
86%
76%
58%
頭痛〜6h以内のSAHではCTの診断能は良好
Prospective cohort. BMJ 2011;343:d4277
 SAHが疑われた3132名でCT, 他の検査を施行.
 最終的に240名(7.7%)でSAHを診断.
CTの感度, 特異度;

感度
特異度
LR(+)
LR(-)
全患者群
92.9%[89.0-95.5]
100[99.9-100]
infinity
0.07[0.05-0.11]
頭痛から6hr以内
100%[97.0-100]
100[99.5-100]
infinity
0.00[0.00-0.02]
頭痛から6hr以後
85.7%[78.3-90.9]
100[99.8-100]
infinity
0.14[0.14-0.17]
発症早期(≤6hr)ならばCTも感度良好だが, 時間が経つと見落としが増える.

頭部CTの感度が100%ではないため, 疑わしい場合で頭部CTが陰性ならば, 腰椎穿刺を考慮すべきである
 劇症の頭痛で頭部CTで陰性であった152例中, 12%でLPでキサントクロミー(+)
 キサントクロミー(+)の72%に脳動脈瘤(+)であった (Mayo Clin Proc. 2008;83(12):1326-1331)

頭部CT, LPでキサントクロミー(-)ならばSAHは否定可能
感度 98%[91-100], 特異度 67%[63-71], LR+ 2.98[2.63-3.38], LR- 0.024[0.00-0.17]
(Ann Emerg Med 2008;51:707-13)

ただしキサントクロミーの判別が難しいことがある
XanthochromiaのMeta-analysis Ann Emerg Med. 2014;64:256-264.
 肉眼による評価とSpectrophotometryを用いた評価で比較.
 発症〜LPまでの時間(12h以上, 以内)と判断別の感度, 特異度.
 肉眼での判断では感度47-67%と低い.
 Spectrophotometryでは高感度となる.
 肉眼所見だけで判断するのは危険.

頭部MRI
急性期はCTと同等, 亜急性期~慢性期はCTよりも優れた感度を示す
FLAIR, T2 STIRを用いる(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2001;70:205-211)
(T2*では黒く抜ける)
画像条件
急性期 (~4)
亜急性期 (4~)
T2 STIR
94%
100%
FLAIR
81%
87%

画像で分かりにくいSAH: Convexal SAH(円蓋部のSAH)
出血が脳円蓋部に限局する稀なTypeのSAH
 脳幹周囲や脳室での出血は認めず, 脳動脈瘤に寄らないSAHである
 様々な原因が報告されている
 皮質静脈閉塞, PRES, Coagulopathy, Cocaine use, Lupus, Cavernoma
 Reversible cerebral vasoconstriction syndrome(RCVS),
 脳膿瘍, Cerebral amyloid angiopathyなど. (Case report, series)

Single Center Retrospective Study; (Neurology 2010;74:893-9)
 5yrのフォローでSpontaneous SAH患者が389名. 内29名がcSAH(7.5%)
 平均年齢は58yr[29-87], 男女差無し.
 >60yrが13名, =<60yrが16名.
 若年ではRCVSが62%を占める一方, 高齢者ではCAAが77%と高い.