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2014年7月22日火曜日

憩室炎 Diverticulitis

憩室炎 Diverticulitis
結腸憩室 NEJM 2007;357:2057-66
 <40yrでは10%で憩室(+)
 加齢により増加し, >80yrとなると50-70%に憩室を認める.
 男女差は無し.
 憩室炎を発症するのは主に>50yrで多く, 80%を占める
 欧米では90%が下行結腸, S状結腸に存在するが, 日本国内だと上行結腸の割合が増加(後述) 
 Low fiber, High CHO食で憩室Riskが上昇するとのCohortあり
 腸管内圧と憩室形成の関連が認められている.

補足; 憩室出血は下部消化管出血の23%を占める原因. 出血性Shockになり得る出血であり, 注意が必要.

 出血性Shockとなるのは, 直腸潰瘍, 憩室出血等.

Asia人での疫学
日本人615名の憩室疾患患者の解析 (Dis Colon Rectum 1984;27:531-7)
 69.8%が盲腸, 上行結腸
 15.9%がS状結腸
 14.3%が下行結腸 憩室の疾患であった.
 右側病変は若年男性で多く, 左側病変は高齢者で多い傾向あり
シンガポールの単一病院で180名の憩室(+)患者をフォロー (Dis Colon Rectum 1997;40:344-8)
 18yrのフォローにて, 47%に大量下血を合併し, 36%に憩室炎を合併
 腸閉塞は12%, 瘻孔形成は15%で認められた.
 右側病変が42%, 左側病変が34%だが, 大量下血は有意に右側で多く(55% vs 23%), 憩室炎は有意に左側で多い(33% vs 52%) (Single-hospitalなので, 重症度などに偏りがあることは予測される)

London hospitalでCFを行ったAsian 225名, 他人種 2754名中,
 Asianでは4.4%で憩室(+)だが, 他人種では22.2%で憩室(+)
 憩室(+)のアジア人の平均年齢 64.9yr(5.1), 他人種では72.1yr(11.3)
 憩室(-)群では, アジア人 54.3(16), 他人種 56.9(17.8)と, アジア人の方が憩室ピーク年齢は低い (Aliment Pharmacol Ther 2004;19:765-69)

ナッツ, コーン, ポップコーンは憩室炎, 憩室出血のリスクにはならない
40-75yrの腸管病変(-)の47228名のCohort Study JAMA 2008;300:907-14
 18yrフォローし, 憩室炎, 憩室出血と, 食事内容(頻度)を評価.
憩室炎発症Risk
Variable/ 摂取頻度
<1/mo
1-3/mo
1/wk
>=2/wk
Nuts
年齢調節HR
1
1.00[0.80-1.24]
1.10[0.91-1.34]
0.77[0.61-0.95]

多因子調節HR
1
0.97[0.78-1.21]
1.10[0.90-1.34]
0.80[0.63-1.01]
Corn
年齢調節HR
1
1.09[0.96-1.39]
0.95[0.74-1.23]
1.00[0.75-1.35]

多因子調節HR
1
1.08[0.85-1.38]
0.98[0.76-1.27]
1.13[0.83-1.54]
Popcorn
年齢調節HR
1
1.01[0.84-1.22]
0.88[0.71-1.09]
0.71[0.56-0.91]

多因子調節HR
1
0.98[0.82-1.19]
0.87[0.70-1.09]
0.72[0.56-0.92]
憩室出血発症Risk
Variable/ 摂取頻度
<1/mo
1-3/mo
1/wk
>=2/wk
Nuts
年齢調節HR
1
1.02[0.74-1.40]
1.00[0.75-1.33]
0.93[0.68-1.26]

多因子調節HR
1
1.05[0.76-1.45]
1.08[0.80-1.45]
1.08[0.77-1.49]
Corn
年齢調節HR
1
1.09[0.76-1.57]
1.27[0.88-1.83]
0.95[0.61-1.49]

多因子調節HR
1
1.16[0.80-1.67]
1.40[0.96-2.04]
1.07[0.67-1.71]
Popcorn
年齢調節HR
1
0.79[0.60-1.04]
0.73[0.53-1.02]
0.86[0.62-1.19]

多因子調節HR
1
0.75[0.57-1.00]
0.70[0.50-0.98]
0.82[0.59-1.15]

ベジタリアンは憩室疾患リスクが低い
EPIC-Oxford study; イギリスのProspective cohort BMJ 2011;343:d4131 
 平均フォローアップ期間11.6yr.
 食生活と憩室疾患のリスクを評価.
 ベジタリアンは肉食群と比較して, 憩室疾患 RR 0.69[0.55-0.86]
 また食物繊維を多量に食べる群ほど憩室疾患のリスクは低下する.

憩室炎 NEJM 2007;357:2057-66
憩室炎の機序は虫垂炎と類似しており, 盲端内でのBacterial overgrowth, 虚血が関与.
 原因菌としては, Bacteroides, Peptostreptococcus, Clostridium, Fusobacterium spp.
 GNR; E coli, GPC; Streptococciも認められる.

複雑性憩室炎
 膿瘍形成, 瘻孔形成, 絞扼, 腸閉塞, 腹膜炎を合併したものを”複雑性”
 腹膜炎は憩室炎の穿孔, 憩室の穿孔より生じることが主. (穿孔例の頻度は1-2%程度)
 高度腸閉塞合併も稀で, 膿瘍, 炎症性浮腫による閉塞機序が多い
 免疫低下患者, ステロイド内服患者で多く, 注意. (上記患者群では症状もAtypicalのことが多い)

憩室炎と肝膿瘍
憩室炎に肝膿瘍を合併する例はいくつか報告がある.
 S状結腸の憩室炎で報告例が多いが, それでも100例に満たないくらい.
 (1976年の文献ではそれまでに51例の報告のみとされている)
 S状結腸憩室炎症状が無症候性で, 肝膿瘍を合併する例もある一方, 穿孔例で肝膿瘍合併した例もあり. リスクは不明. (Ann Surg 1976;184:241-3)

憩室炎のStaging
各ステージ別の死亡率
Stage
死亡率
I
<5%
II
<5%
III
13%
IV
43%

憩室炎の診断
腹部CTは感度 93-97%, 特異度 100%とStandardな検査
 造影CTを行うことで, 他に鑑別が必要な疾患も評価可能.
  虫垂炎, 腸管悪性腫瘍, 膿瘍, クローン病などなど
 憩室の存在, 腸管周囲脂肪織の混濁, 腸管壁の肥厚(>4mm), 憩室周囲膿瘍は憩室炎を強く示唆する所見
 急性期にCFは穿孔のRiskを上昇させるため, 避けた方が無難.

入院適応について
軽度で, Risk(免疫低下)なく, 経口摂取可能ならば外来フォロー
 Ciprofloxacin + Metronidazole; 7-10D
 低残渣流動食も推奨される.
経口摂取不可, 腹痛コントロール不良, 複雑性, 外来フォローにて病状のコントロールがつかないときは入院管理
 絶飲食管理. 腸管閉塞あればNGチューブ留置
 治療開始2-3日経過しても改善認めない場合は, 複雑性を考慮し, 再度CTフォローを考慮する.
 膿瘍形成などあれば経皮的ドレナージ, 外科コンサルトを.

抗生剤選択
経口 Drug Regimen
Dosage
Metronidazole + Ciprofloxacin
Metronidazole; 500mg q6-8hr
Ciprofloxacin; 500-700mg q12hr

Metronidazole + ST合剤
ST合剤; trimethoprim 160mg, Sulfamethoxazole 800mg q12hr 
AMPC-clavulanate
875mg q12hr
静注 Drug Regimen
Dosage
ABPC/SBT
3g q6hr DIV
Metronidazole静注薬あれば, FQ, 3rd-cephemとの組み合わせもアリ.
American Society of Colon and Rectal SurgeonsのGuidelineでは, 全身性抗生剤 投与期間は5-7Dで長期間投与と同等との結論.

非複雑性ならば抗生剤は必要ないかもしれない
非複雑性の左側憩室炎患者623例のopen-labeled RCT British Journal of Surgery 2012; 99: 532–539
 複雑性; 穿孔, 膿瘍形成(+)例.
 抗生剤あり vs 抗生剤無しの群に割り付け, 両者で経過を比較.
 抗生剤は2nd, 3rd cephem + MTZもしくはカルバペネム, PIPC/TAZ, 内服ではCPFX+MTZが選択. 7日間投与.

Outcome; 
 入院中の穿孔, 膿瘍形成合併率は両者有意差無し.
 フォロー中の手術適応例の増加も有意差は認めない.
 また, 腹痛や発熱, 圧痛の経過も両者で有意差無し.
 
1年後の腹痛や排便習慣の変化, CF所見も両者で変わらない.

複雑性合併率が少ないため, サンプルサイズが小さく有意差が出ていない可能性があるが, Stage Iに満たない憩室炎ならば抗生剤を投与しないという選択肢もあり得るかも.

外科的治療の適応
経皮的ドレナージ
 膿瘍径 =<4cm, 腹膜炎(-) (Stage I)ならば, ドレナージは不要.
 絶飲食, 抗生剤投与にて改善を見込める.
 膿瘍径 >4cmならば, CTガイド下の経皮的ドレナージの適応となる.
外科手術
 急性憩室炎の10%が外科手術適応となる.
適応 ⇒ Stage III, IV
 全体的な腹膜炎合併 コントロール不良の敗血症
 腸管穿孔合併 ドレナージ不能の膿瘍形成
 抗生剤投与3日にて改善を認めない例で適応
開腹術とLaparoのRCTは無く, どちらが優れているかの結論は無し

憩室炎の再発リスク JAMA. 2014;311(3):287-297. 
 内科的治療のみで改善した憩室炎では, 8.9年間のフォローにて86%が再発無し.
 再発は13.3%で認め, さらに2回再発したのは3.9%であった. (再発をしたうちの29%が再度繰り返す)
 320例を10.7年フォローしたCohortでは, 61%が再発無し. 22%が再発し再入院, 17%が緊急手術を必要とした.

小腸憩室 Chirurgia 2012;107:652-654
小腸憩室は十二指腸に最も多く, 45~80%を占める
 次いで回腸が15-23%(Meckel憩室を含む), 空腸が最も少なく0.26%のみ.
 憩室の大きさは数ミリ〜10cmを超えるものまで様々.
 高齢男性に多く認められる.
 小腸憩室の原因ははっきりしない事が多いが, 粘膜への圧が高まることで圧出される場合が多い.
 従って, 比較的脆弱な部位や血管が豊富な部位で生じやすい.
 症状は腹痛が最多(49%), 出血が29%. 無症候性のものも多く, 具体的な頻度は不明.

十二指腸憩室
 十二指腸憩室は内圧性憩室と牽引性憩室に分類される.
 腸内圧の亢進により脆弱な部分が突出するタイプと癒着による外部からの牽引により生じるタイプ. 牽引性は稀.
 脆弱な部位としては, 総胆管, 膵管が腸壁を穿通する部位
  血管が腸壁の筋肉層を通過する部位
  十二指腸壁に存在する膵臓胚腫
  外傷によるもの, が挙げられる.
 発生部位は下降脚が最も多い.
憩室は仮性憩室の組織像をとる

空腸, 回腸憩室の頻度は剖検例の0.3-4.5%程度と稀.
 空腸憩室の頻度は0.3-1.3%とさらに少ない.
 症状は腹痛, 出血, 吸収不良, 慢性下痢, 閉塞, 穿孔等. 無症候性も多い.
 吸収不良は細菌のovergrowthによる機序であり, 小腸細菌過増殖症候群 SIBOを参照のこと
Dis Colon Rectum 1992;35:381-388