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2014年7月7日月曜日

門脈血栓症, 腸間膜静脈血栓症

門脈血栓症, 腸間膜静脈血栓症
Portal vein thrombosis, mesenteric venous thrombosis
NEJM 2001;345:1683-8
Hepatobiliary Pancreat Dis Int 2005;4:515-8
J Hepatol 2000;32:865-71

門脈, 腸間膜静脈の解剖から NEJM 2001;345:1683-8
腸管膜静脈の分布は, SMA, IMAと同様の分布.
SMVは小腸~横行結腸, IMVは横行結腸~の静脈を合流し, 脾静脈とともに門脈系を形成する.

Mesenteric Venous Thrombosis NEJM 2001;345:1683-8
Primary, Secondaryがあり,
 近年, 凝固異常症の診断が進むにつれ, Primaryは減少.
 現在は腸管膜静脈血栓症の3/4が原因を認めるSecondaryに分類.
 多い原因としては, 凝固異常症, 悪性腫瘍, 腹腔内感染, 術後など.
 若い女性でのMVTでは9-18%がピルに由来するとされる.
原因一覧;
Prothrombotic state
血液疾患
術後
 ATIII 欠乏症
 真性多血症
 腹部外科手術後
 Protein C 欠乏症, Protein S 欠乏症
 本態性血小板増加症
 脾摘後
 Factor V Leiden, G20210A変異
 発作性血色素性貧血
 食道静脈瘤硬化術後
 抗リン脂質抗体症候群
炎症性疾患
肝硬変, PVH,
 高ホモシスチン血症
 膵炎
 鈍的腹部外傷
 経口避妊薬使用
 腹膜炎, 腹腔内敗血症
 Decompression sickness
 妊娠
 炎症性腸疾患

 悪性腫瘍
 憩室炎


MVTの発症は様々; 急性~慢性まであり得る
 症状もSudden onsetから, 数週間かけて発症するタイプまで様々.
 急性MVTは腹膜炎や, 腸管虚血に付随するものが多く, 亜急性は腹痛は強いが, 虚血を来すことは稀.
 慢性では症状を来さないことが多い.
 腹痛は正中線上でColickyであることが多く, 75%の患者が来院の48hr前より症状を自覚.
 他には悪心, 嘔吐, 食欲低下, 下痢は良く認められる症状.
 特に食後に増悪することが多く, 潰瘍病変と誤診されることもある
 血便, 黒色便, 吐血は約15%で認められる. 便潜血は50%で陽性.
 急性MVTの1/3-2/3で腹膜炎を併発する.
 腸管内のFluid貯留によるHypovolemiaを併発することもあり.

慢性腸間膜静脈血栓症
急性, 亜急性と異なり, 無症候性でしばしば, CT, USにより偶発的に認められる.
 門脈を含んでいる場合, 食道静脈瘤や腹水を認める.
 膵癌, 膵炎による閉塞との鑑別が重要.
 治療は対症療法. 主に静脈瘤からの出血, 腹水のコントロールとなる

急性腸間膜静脈血栓症(MVT) vs 急性腸間膜動脈血栓症(MAT)
特徴
Venous thrombosis
Arterial thrombosis
Risk Factors
Prothrombotic state
炎症性腸疾患, 腹部悪性腫瘍
動脈硬化症, 弁膜症
不整脈
腹痛
徐々に発症
突然発症
Tests


 腹部XP
非特異的
非特異的
 CT
感度90%
感度60%
 Mesenteric angiography
診断には不必要
Helpful
Inferior Mesenteric vessel
Uncommon
Common
手術所見


 MAの拍動
認める. 晩期では消失
消失
 腸管虚血~正常組織移行部
徐々に移行
境界は明瞭
治療


 Thrombolysis
有用ではない
有用
 Long-term anticoagulation
Indicated
Indicated
 合併症
短腸, 静脈瘤
短腸
MVTの治療
治療の中心は抗凝固療法 + 手術療法
 腹膜炎併発例, 腸管壊死併発例では手術により切除が必要.
 それ以外は基本外科手術の適応は無し.

診断後早期にHeparin導入が必須であり, 生存率の上昇, 再発率の低下効果が証明されている.
手術を行う場合, 消化管出血を合併している場合もHeparinが優先.
Heparinによる再開通率は良好で, 25/27で再開通を認めた (悪性腫瘍,(-) 肝硬変(-)のPVT 27名) (Hepatology 2000;32:466-70)
補助療法として, NGチューブによる減圧, 絶飲食.
抗生剤は腸管壊死, 腹膜炎が無ければ必要なし.
腸管壊死が無いことが確認されれば, WarfarinをStartし, 6mo-1yr継続.

急性MVTの死亡率は20-50%と高値
 基礎疾患, 年齢により異なる
 手術による短腸症候群, 静脈瘤などの後遺症もあり.
 再発率が高く, 60%に及ぶとのStudyもあり. (PVTでは6-40%で再発するとの報告.)
 初発後, 30日以内の再発率が最も高い。

PVTの10年生存率は38-60%で死亡原因の大半は基礎疾患によるもの.
静脈瘤からの出血による死亡は肝硬変よりも少なく, 5%程度.
PVT患者の消化管出血Riskは17%/pt-yrと言われている.

Portal Vein Thrombosis Am J Med 2010;123:111-9
非肝硬変患者の門脈圧亢進症の5-10%を占める原因
 肝硬変に伴うものが最多, 0.6-64.1%で合併する
 他の原因はMVTと同様, 血栓傾向, 悪性腫瘍, 感染症など.
 代償期肝硬変患者の0.6-16%で認める. 
 非代償期, 肝細胞癌患者ではさらに増加し, 35%との報告あり.

Autopsyにて, 0.05-0.5%でPVTを認めており, 見逃されやすい疾患.
 悪性腫瘍に伴うものは21-24%を占め, 肝硬変に次いで多い原因.
 (
肝細胞癌, 膵癌が特に多い)
 血液腫瘍もRiskとなり後天性PVTの10-12%の原因を占める.
 8-15%が特発性であり, 約50%の症例で原因を特定できない.

小児例(6wk~)~成人例と幅広い年齢層に起こる
 先天性の血管奇形, 走行異常に伴うものが小児では多い.

PVTの原因
肝硬変 + PVT患者の70%に何らかの先天性凝固障害を認めるとの報告があるが, それらの精査に関してはControversial.
 現時点では, 肝硬変患者のPVTでは, 凝固異常症の検索は推奨されない.
 原因として大きく 局所(炎症, 腫瘍など)と全身性(凝固)が挙げられる
左: 局所要因, 右: 全身性要因
感染症
炎症性
悪性腫瘍
先天性
後天性
腎盂腎炎
憩室炎
肝細胞癌
Factor V Leiden
遠位の悪性腫瘍
臍炎
膵炎
胃癌
Prothrombin遺伝子変異
経口避妊薬
Bacteroides fragilis*
胆嚢炎, 胆管炎
膵癌
Protein C, S欠乏
妊娠
Sepsis
虫垂炎
リンパ腫
AT III欠乏
MDS
 
真性多血症
 
本態性血小板増多症など
TB lymphadenitis
消化性潰瘍
胆管癌


腹部鈍的外傷



手術合併症


抗リン脂質抗体症候群

IBD


高ホモシスチン血症




発作性血色素性尿症
Focus不明のBacteroides fragilis菌血症では, 一過性のProthrombotic anticardiolipin antibodyを認め, PVTの原因となることが報告されている.

腹腔内臓器の悪性腫瘍(-), 肝硬変(-)のPVH患者36名, Hepatic vein thrombosis患者32名を評価 (Hepatology 2000;31:587-91)
基礎疾患を評価

PVT(%)
HVT(%)
Prothrombotic disorder
72%
87%
Primary myeloproliferative disrder
22.2[9-36]
31.2[15-47]
Prothrombotic coagulation disorder
41.47[26-58]
33.3[18-51]
+
8.3[0.7-17]
21.8[8-36]
Prothrombotic coagulation disorderの内訳

PVT(%)
HVT(%)
抗リン脂質抗体症候群
11.1[0.8-21]
18.7[5-32]
G1691A factor V gene異常
2.8[0-8]
21.8[8-36]
G20210A factor II gene異常
13.9[3-25]
6.2[0-14]
T677T MTHFR gene 異常
11.1[0.8-21]
12.5[1-24]
Protein S 欠乏
20.4[11-44]
0
Protein C 欠乏
0
6.2[0-14]
ATIII 欠乏
4.5[0-8]
0

急性, 慢性Portal Vein Thrombosis
症状出現から<60d, 門脈圧亢進症状(-), 側副血行路(-) ⇒ 急性
閉塞部位に側副血行路を認める場合, 慢性PVTと呼ぶ
 慢性PVTの場合, 大半の患者に門脈圧亢進症状を認める.
 側副血行路は “Portal cavernoma”と呼ぶ.
 拡張した側副血行路により胆管狭窄, 閉塞を来たすこともあり(Portal Cholangiopathy)

PVTの臨床症状
無症候性~致命的な吐血まで様々
 静脈瘤からの出血が最も多い症状.
 他には脾腫より生じるPLT低下, 腹痛,  門脈圧亢進から生じる腹水, 食欲低下, 倦怠感などが挙げられる.
 急性と慢性では症状異なり, 急性の血栓症ではSudden onsetの右上腹部痛を認めることが多い.
 側副血行路の発達と共に症状は軽快する.
 小児期のPVTでは発達障害を合併するため, Shunt術が必要.

PVT, PVHT(Portal vein hypertension)があっても, 肝酵素上昇を来すことは稀
 門脈は肝血流の75%を担うが,  狭窄, 閉塞があるとすぐに肝動脈が拡張し, 肝血流を保つ
 又, 閉鎖部位の側副血行路の発達が速く, 早期(数日中)に代償される.
 上記2つの作用により, 肝血流は保たれるが, PVHTは急速に進行.

PVTの診断
有用なのは造影CT検査で90%で診断可能.
SMVの拡張, 血管壁の肥厚と造影効果あり.
門脈 ⇒ 肝臓の部位に側副血行路が発達
回腸の壁肥厚, 腹水を認めている
エコーでも血栓の描出は可能. 
Labは非特異的.
腹部XPも50-70%で異常を認めるが, 腸管虚血に特異的なのは5%程度

PVTのManagement
肝硬変 + PVTのManagement
 慢性的な抗凝固療法の必要性に関しては未だEvidence無し
 肝硬変患者では食道静脈瘤からの出血Riskもあり検討が必要.

肝硬変(-)患者の急性PVT Management
 上記患者群への治療目的は主に2つ
>> 門脈圧亢進症の予防
>> 腸管膜静脈血栓症への進展の予防

(MVTから腸管虚血, 腸管梗塞へ進展する可能性あり)
 UFH, LMWH, Warfarinが選択されることが多いが, 未だRCTは無し.
 抗凝固療法の期間も, 6moから一生涯まで様々. PVTの原因疾患による.
 (全身性要因がある場合は禁忌がなければ一生涯の治療が必要)

フォローは治療開始後6moにDoppler USにて行うことが勧められる
 完全開通は50%, 一部開通は40%, 閉鎖持続は10%程度.

肝硬変(-)患者の慢性PVTのManagement
 治療の目的は
>> 胃食道静脈瘤の出現, 増悪, 出血の予防
>> 血栓症の進展の予防, MVT合併の予防
 静脈瘤からの出血Risk, 治療のBenefitを慎重に検討する必要がある.
 肝外門脈閉塞の85-90%に食道静脈瘤を認め, 30%に胃静脈瘤を合併.
 出血予防目的のβ阻害薬, 内視鏡的静脈瘤治療も推奨される.


一般的なPVTの生存率は
 1年生存率 80-95%
 3年生存率 75-90%
 10年生存率 38-60%
死亡原因の大半は基礎疾患によるもの.
静脈瘤からの出血による死亡は肝硬変よりも少なく, 5%程度.
PVT患者の消化管出血Riskは17%/pt-yrと言われている.