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2014年7月24日木曜日

Abdominal Compartment Syndrome

Abdominal Compartment Syndrome (ACS)
Crit Care Med 2008;36:1304-10
Crit Care Med 2008;36:S212-15

腹腔内圧が亢進し, その結果 臓器還流障害, 後負荷の上昇, 前負荷の低下を引き起こす病態.
腹腔内圧(IAP) ≥20mmHg もしくは腹腔臓器潅流圧の低下で定義される.
腹腔内圧亢進 IAH(Hypertension)は; IAP >=12mmHgで定義される
* IAP; 臥位, 腹筋弛緩, 呼気終末時, 腋窩中線を0とした時の腹腔内圧

通常の腹腔内圧(IAP)は <5-7mmHg.
平均動脈圧(MAP)とIAPの差(腹腔内還流圧)は正常値60mmHg程度.

原因によりPrimary, Secondayがあり,
 Primary ACS; 腹腔, 後腹膜腔にMass, 血腫
 Secondary ACS; 大量補液後の腸管浮腫によるもの. Septic shockのEarly goal directed therapyにより頻度UPする.
 また, 実臨床上多いのは重症膵炎による機序. これは血管透過性の亢進と大量補液の双方による影響がある.
 他に腹部外科手術後, 大量補液後(>5L/24h), イレウス, 腹腔内感染症, 気腹, 腹腔内出血等が原因となる.
 また, PEEPの併用, 人工呼吸器管理, アシドーシス, 低体温もリスク因子.

ACSのGrading
World Society of the ACSによるGrading
 Grade I IAP 12-15mmHg
 Grade II IAP 16-20mmHg
 Grade III IAP 21-25mmHg
 Grade IV IAP >25mmHg

ACSの病態
IAPが上昇することで,
 ① 腹腔内臓器の血流低下, 肝酵素上昇, 多臓器不全
 ② 横隔膜の挙上による低換気, 気道内圧上昇
 ③ 腎血流低下による腎障害(補液に反応しない)
 ④ IVCの圧迫による前負荷の低下, 心拍出量の低下. が生じる.
 除圧をしない限り改善は乏しく, さらに悪循環となり致死的な病態と言える

ACSの診断/ IAPの測定方法
膀胱内圧測定が主流: Foleyを用いて25-50mlのNSを膀胱内へ, Foleyをクランプし, 採尿portに針を留置し, 測定計へ繋ぐ
他の方法として,
 NGチューブからの胃内圧測定
 IVC圧 直腸内圧 腹腔穿刺による直接測定
 IVCの呼吸変動にて判定する方法がある.

ACSへの対応
重要なのは予防
 Risk評価し, High Riskには定期的なIAHの測定を行う. ACSへの進展を予防することが重要.
 ACSへ移行するとさらに臓器障害が進行(腎不全, 心不全等)する. それによりさらに腹腔内圧コントロールが困難となるため, 早期発見, 対応が重要となる.

 治療のEnd pointを設定し, 大量輸液を避ける (Early goal directed therapyを達成したら輸液を控えめに)
 腹部外傷, 術後のTemporary abdominal closureも予防方法の1つ.

直接的な治療は減圧
 腹腔鏡を用いての減圧が一般的

非外科的減圧は以下の方法がとられる.
 NGチューブからの吸引 → 胃内容の減圧
 浣腸, ドレナージによる 直腸の減圧
 鎮静, 神経筋ブロック
 体位(30-45度の頭部挙上にて腹腔内圧減圧)
 腹腔穿刺
 腸管蠕動促進(エリスロマイシン, メトクロプラミドなど)
 利尿薬(アルブミンとの併用も)
 透析

膵炎におけるAbdominal Compartment Syndrome
Pancreas 2011;40: 1220-1225
重症急性膵炎の61-78%にIAHを伴い, 23-56%にACSを合併.
 ACS合併群では死亡率67~75%と, 予後不良因子となる.

 動物実験レベルでは, 6時間以内の外科的減圧は9時間, 12時間での減圧と比較して, 血行動態, 臓器不全を予防し得る結果であり, 早期発見, 早期減圧が推奨される. J Trauma Acute Care Surg. 2013;74: 1060-1066. 

早期CHDFはIAHを予防できるかもしれない
重症膵炎130例のRetrospective review. Annals of Intensive Care 2012, 2(Suppl 1):S21
 75例でCHDFを行い, 55例でCHDF無し.
 IAHは68.5%で合併. IAH合併例の方が臓器障害が重度.
 CHDF使用群は有意にIAPが高値であり, 入院〜導入まで平均5d.
 導入した5d以降はIAPは低下傾向にある.

CHDFを導入した群では有意にNegative fluid balance.
導入していない群はPositive balanceのまま.
IAPを合併する膵炎では, なるべく早期にNeg. balanceへ移行するように努力することが大事ということか.

HESもACS予防に有効かもしれない Pancreas 2011;40: 1220-1225
41例の重症膵炎患者のRCT.
 6% HES130/0.4を8日間投与する群とリンゲルのみの群に割り付け, IAPの発症率を比較.
 両群とも乳酸リンゲル 1-2ml/kg/hで投与し, HES群ではHES:生食 1:3となるように投与.  リンゲル群はリンゲルを増量
 血行動態安定まで投与継続 (sBP>90, UO >0.5ml/kg/h, CVP 8-15mmHg)
Negative fluid balanceまでの期間はHES群で有意に短い.(2.5d vs 4.0d)
HES群で有意にIAPは低値.
IAHの頻度も少ない.
ただし, 臓器不全, 死亡率は両者有意差無し.
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自分は外傷は診ないため, 個人的な経験では急性膵炎や重症熱中症におけるACSが多いですがどれも予後が悪い.
早期発見してもそれで開腹までしてくれる経験豊富な医師も少ないのが現状ではないでしょうか.

重症膵炎に対しては, 未だ効果に議論がある動注療法がこのACSを有意に予防してくれるのであれば行う価値はあると思いますが, その辺のEvidenceは未だありません.
誰か調べてくれないでしょうか...