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2014年6月10日火曜日

Cat-Scratch Disease: 猫引っ搔き病

猫引っ搔き病
(JAVMA 2004;224:1270-9)
ネコひっかき病はB henselaeによる感染症
 明確な頻度は不明であるが, 3.7-12.5case/100 000人-yr程度
 高齢者よりも若年での感染が多い
 名前の通り, 猫による引っ掻き傷, 咬傷から感染する
 HIVなど免疫不全患者では, 膿瘍, 心内膜炎の原因にもなり得る.

Bartonella感染症
 Bartonella; 多型性のGNR, 嫌気性, Oxidase-negative.
 Brucella, Agrobacterium, Rhizobiumと近い種属.

846名の年齢別頻度 CID 2005;41:969-74
感染に季節性も認める.
秋-冬季に多い傾向 (Cat-Scratch Diseaseで入院したCaseの評価 Am J Public Health 1993;83:1707-11)

猫引っ搔き病のリスク因子
60名のCat-Scratch Disease患者のCase control study NEJM 1993;329:8-13
Risk
OR
Risk
OR
子猫を飼っている
15[3.6-63]
ノミがいる子猫
29[4.0-213]
子猫による咬傷, 引っ掻き
27[3.7-199]
外で土を掘る子猫
10[1.3-78]
子猫に顔面を舐められる
18[2.4-135]


子猫と一緒に寝る
4.5[1.5-13]


子猫の毛をとく
8.5[2.0-37]


引っ掻かれなくても, 舐められる, 一緒に寝るだけでもリスクとなる.

猫引っ搔き病の臨床症状
免疫正常患者
 局所的な良性のリンパ節腫大が主な症状
 ネコからの引っ掻き, 咬傷を受けて7-12d後に, 菌の侵入部位に水疱, 膿疱を形成する.
 リンパ節腫大は感染から1-3wk後に出現し, 数週~数か月持続.

Atypical; 全体の5-15%で認める
 Parinaud’s oculoglandular syndrome
 脳炎, 心膜炎, 溶血性貧血, 肝脾腫, 糸球体腎炎, 肺炎, 再発性菌血症, 骨髄炎など. 心膜炎はAo弁領域の方が多い.
 脳症が最も重症であるが, 1yr以内に後遺症なく改善することが多い
 膠原病様症状も認める; 関節炎, 筋炎, 白血球破砕性血管炎など.
 Henoch-Schonlein purpura患者ではB henselae抗体の陽性率が高い.
リンパ節腫脹部位
*2頻度(%)
*5
その他の症状
*2
*5
腋窩
52%
45%
発熱
48%
59%
頚部
28%
26%
倦怠感
45%
43.8%
鼠径
15%
17.5%
受傷部位の皮膚病変
25%


13%

食欲低下
10%

その他
8%

結膜炎
7%




脳症
7%
1.1%



Parinaud’s syndrome
3%
6.3%



皮疹(Erythema nodosum)
3%
4.2%
*2 NEJM 1993;329:8-13, 60名の症状
*5 CID 2003;37:1149-54, 98名の症状

高齢者 vs 若年者の症状 CID 2005;41:969-74
 846名のCSD中, 721名(85%)がTypical, 125名(15%)がAtypical
 高齢者(>=60yr)と非高齢者で症状, 特徴を比較

Elderly
(52)

Non-Elderly
(794)

OR
女性
57.7%
41.0%
2.0[1.1-3.5]
Typical CSD
67.3%
86.4%
0.3[0.2-0.6]
Atypical CSD
32.7%
13.6%
3.1[1.7-5.7]
リンパ節腫脹
76.5%
94.4%
0.2[0.1-0.4]
 頭頸部
9.6%
22.0%
0.4[0.1-0.96]
 内側上顆
13.5%
8.4%
1.7[0.7-3.9]
 腋窩
30.8%
29.8%
1.0[0.6-1.9]
 鼠径, 大腿
17.3%
18.8%
0.9[0.4-1.9]
 全身性
1.9%
0.4%
5.2[0.5-50.6]
 その他
1.9%
0.6%
3.1[0.3-27.0]

Elderly
(52)

Non-Elderly
(794)

OR
Skin lesion
31.9%
37.9%
0.8[0.4-1.4]
発熱
68.0%
55.1%
1.7[0.9-3.2]
倦怠感
70.8%
51.4%
2.3[1.2-4.3]
Parinaud syndrome
0
1.9%
NA
肝脾疾患
5.8%
3.3%
1.8[0.5-6.2]
後部眼球疾患
4.8%
4.9%
1.2[0.3-4.0]
Erythema nodosum
0
2.6%
NA
他のRash
0
4.2%
NA
骨髄炎
0
0.1%
NA
脳炎
3.8%
0.6%
6.3[1.2-33.3]
心膜炎
13.5%
0.3%
61.6[12.4-305.1]
FUO
7.7%
1.1%
7.3[2.2-24.5]
高齢者ではリンパ節腫脹の頻度が低下し, Atypical CSDの頻度が上昇する.

免疫不全患者
 Bacillary angiomatosis; 細菌性血管腫症 が最も多い症状
 慢性的な血管増殖を局所的に来し, 病態はB bacilliformisによるVerruga peruanaに類似している.
 HIV患者でCD4+ cell<50/mm3では特に出現しやすい.
 組織学上は毛細血管の内皮細胞の腫瘍様増殖を示し, Pyogenic granuloma, Kaposi sarcoma, Angiosarcomaに似ている.

猫引っ搔き病の診断
臨床的診断
 リンパ節腫大の存在と, ネコ咬傷, 引搔き傷の病歴, 存在
+ 同部位に小水疱, 肉芽腫(+) (菌の侵入を示唆する)
血清学的診断
 Bartonella henselae抗体価(IFA);
 感染してから2-3wk後に測定し, IgG >=1:64ならば陽性と判断.
 心内膜炎患者では特に高値となることが知られている(>=1:800)
 Titerは時間の経過と共に低下 (NEJM 1993;329:8-13)

抗体検査の感度, 特異度
 CSD 42名, Control 270名での評価 (Clin and Diag Lab Immunol 1998;5:486-90)
 (猫所有者63, 最後に猫に接したのが>6moの人65, 猫接触歴(-)142名)
 Titer >=1:64で陽性, IFA
IFA
Sn(%)
Sp(%)
IgG
100%
70%
IgM
80-95%
95%

IgG, IgMの時間経過(EIA) (CID 2003;37:1149-54)
 IgM陽性であった患者の内, 92%が3か月以内に陰性化する
 IgG陽性であった患者でそのままIgGが残存している割合は, 6moで35%, 12moで25%, 24moで25%

猫引っ搔き病の治療
免疫正常患者群では, 
 様々なAbxの使用Studyがあるが, どれも症状持続期間, 感染期間の短縮効果は乏しい
 Azithromycin, Rifampin, Ciprofloxacin, ST合剤は臨床症状改善効果あり.
 PC, Cephalosporin, Tetracycline, Erythromycinは改善効果無し.
 心内膜炎合併例では, Aminoglycosideを2wk投与.
免疫不全患者で細菌性血管腫症合併例では,
 Tetracycline, Erythromycin, Rifampin, Doxycyclineは効果的であり,単剤 or 併用投与が推奨される. 最低6wk, 通常4-6mo継続.

猫引っ搔き病268例のRetrospective study. (Pediatr Infect Dis J 1992;11:474-478)
 抗生剤使用は3-5日以上使用された症例と定義したとき, 抗生剤使用は202例で認められた.
 抗生剤の効果の判断基準は, 開始後3-10日以内の解熱, 悪寒, 倦怠感, 頭痛, 食欲低下, リンパ節腫脹の改善, ESRの正常化で定義.
 抗生剤効果(+)は89/202(44%), 残り113例では効果は認められなかった.

慢性のリンパ節腫脹の期間は,
 抗生剤治療(-)では14.5wk[5-50],
 抗生剤治療(+)で効果無しと判断された患者では14.3wk[4-56]
 抗生剤治療で効果有りと判断された患者では,
  治療前の患者では9wk[2-52],
  治療後の患者では2.8wk[1-11].

使用抗生剤と効果の評価
Abx(3-60d使用)
使用数
効果無し
(10d
以上改善無し)
中等度効果
(5-10d
で改善)
効果良好
(3-5d
で改善)
ST合剤
45
42%
36%
22%
CPFX
32
16%
22%
62%
ゲンタマイシン
15
27%
20%
53%
リファンピシン
15
13%
40%
47%
全体
107
28%
30%
42%
上記4つのAbxは効果的であり,
ST合剤では58%, CPFXで84%, リファンピシン 87%, ゲンタマイシン 73%有効であった.

症状の寛解率と, 寛解までの時間 (CID 2003;37:1149-54)
症状
寛解率
寛解までの期間(mo)
リンパ節腫脹
74/74(100%)
1.6[0.25-17]
Parinaud syndrome
6/6(100%)
1.2[1-6]
Neuroretinitis
2/3(66%)
13[1-25]
Erythema nodosum
4/4(100%)
1.1[0.25-2]
関節痛
4/4(100%)
4.9[4-5]
Granulomatous hepatitis
0/1(0)
NA
Peripheral neuritis
1/1
1.0
Encephalitis
1/1
1.0
Osteomyelitis
1/1
12.0