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2014年3月12日水曜日

ビタミンD欠乏症, Vitamin D deficiency

ビタミンD
NEJM 2007;357:266-81 J of Clin Investigation 2006;116:2062-72


Vitamin: 外部から摂取することがVitalなものという意味.
ビタミンDは, 
魚の脂肪に含まれるVit D2,D3の摂取
日光暴露により皮膚で7-dehydrocholesterolよりD3が合成され, 体内へ取り込まれる.

肝臓にてVit D ⇒ Calcidiol(25(OH)D)
腎臓にてCalcidiol ⇒ Calcitriol (酵素;CYP27B1)(1,25(OH)2D) へ合成.

日光はUV-B(290-315nm)が関与. 皮膚を透過して作用する.
又, 日光への多量暴露では, Vit D3が破壊され, 過剰にはならない

Calcitriol(活性Vit D)
 @腸管 Ca, P吸収UPが最も重要な作用
 他, 腎, 骨へ作用
 25(OH)Dから1,25(OH)2DへはPTHの作用が関連しており,
 また, 1,25(OH)2D自体はPTH分泌にNegative feedbackをかける.

Vit D欠乏症について
Am J Med 2009;122:793-802 NEJM 2007;357:266-81 J of Clin Investigation 2006;116:2062-72
Vit D無しでは, 摂取したCaの10-15%, Pの60%しか吸収されない
 Vit DによりCaの30%, Pの80%が腸管より吸収される
 25(OH)D 20⇒32ng/mLまで増加すると, Ca吸収率は45-65%UP

Vit D欠乏では, 血中Ca, P値は低下し, PTHは上昇.
 → 骨代謝は亢進し, くる病を生じる.

Vit D欠乏の評価は血中25(OH)Dを評価する
 25(OH)Dは血中半減期2wkであり, 体内Vit Dを評価するのに最適
 Vit D欠乏症では, PTH分泌が亢進し, 25(OH)D ⇒ 1,25(OH)2Dの反応も亢進する.
 従って, 1,25(OH)2Dは通常正常値~やや増加していることが多い.
 でも国内では1,25(OH)2Dのみ保険適応あり, 25(OH)Dは自費となるため, 保健適応内ではビタミンD欠乏症の診断は出来ない.
 ちなみに25(OH)Dは10000円オーバーで検査は可能.

25(OH)Dのカットオフは?
CutoffはControversial.
 <20ng/mL: Vit D deficiency
 21-29ng/mL: Vit D insufficiency
 >30ng/mL: Vit D sufficiency
 >150ng/mL: Vit D intoxicationと一般的には定義される

上記Cutoffを用いた場合, 世界で1,000,000,000名がVit D deficiency, insufficiency,
アメリカでは36%の健康成人, 57%の入院患者が基準を満たす.


25(OH)D
1,25(OH)2D
Ca
HPO4
ALP
PTH
FGF23
骨病変
Vit D Deficiency
<20
↓NL
NL
Rickets/Osteomalacia
Vit D Insufficiency
21-39
↑ or NL
NL
NL
↑ or NL
↑ or NL
NL
↓ BMD
Vit D Sufficiency
>30
NL
NL
NL
NL
NL
NL
None
XLH
NL
NL
↓↓
NL
↑ or NL
Rickets
ADHR
NL
NL
↓↓
NL
↑↑
Rickets
TIO
NL
NL
↓↓
NL
↑↑
Rickets
XLH; X-linked hypophosphatemic rickets, ADHR; Autosomal dominant hypophosphatemic rickets
TIO; Tumor-induced osteomalacia

甲状腺機能正常, Ca正常の1741名 @ 甲状腺クリニックでの解析
(J Clin Endocrinol Metab 2003;88:185-191)
25(OH)Dと1,25(OH)2Dの値を比較すると,
全年齢群において, 25(OH)Dと1,25(OH)2Dの関連性無し.
 1,25(OH)2Dは25(OH)Dに関わらず, 一定の値を取るように調節されている.
 ⇒ 異常があるならば, 先天性のRicketsを疑う

Vit D欠乏症と副甲状腺
VitDの欠乏より, PTHの刺激は亢進し, 副甲状腺腫を形成
 低Mg血症があると, PTH抑制されるため, 25(OH)D<20ng/mLでもPTHが正常値のままのことがある.
 PTH分泌亢進すると, 25(OH)D ⇒ 1,25(OH)2Dの代謝がさらに亢進.
  ⇒ 低Vit D血症をさらに助長することになる.
 PTH分泌亢進はさらに, Pの尿中排泄増加, 骨破壊細胞活性化 
  ⇒ 血清Pの低下. 骨粗鬆症の進行を認める

骨粗鬆症は全身性の疼痛を来すことがある, 又, 骨軟化症の場合, 脛骨全面, 胸骨の圧迫により疼痛を来すことがあり, 臨床上重要な所見と言える.

血清25(OH)DとPTHの関係
19172名の血清検査を施行し, 関連を評価. (The American Journal of Medicine (2011) 124, 1165-1170)

25(OH)D<50nmol/Lでは血清PTH値が増加.
75-85nmol/L以上ではPTH値はプラトーとなる.
高Ca血症, 腎不全患者を除くと, PTHプラトーとなる25(OH)DのCutoffは46.2nmol/L.

Vit D欠乏症と筋骨格系症状, その他の症状 (NEJM 2007;357:266-81)
Vit D欠乏は筋力低下の原因となり得る
 筋細胞にはVit D受容体があり, 最大筋力発揮時に必要とする
 Meta-analysisでは, Vit D摂取 vs Placebo(Caのみ)において, 転倒のRiskは OR0.78[0.64-0.92]と低下することが分かっている.
 摂取量も重要であり, Vit D3 400IU/dでは有意差ないが, 800IU/d + Ca摂取では転倒Riskが減少する.

1,25(OH)D2は単球, Mφにも作用し, Cathelicidinの産生に関与
 ⇒ Cathelicidinは結核の破壊に関与しているタンパクである.
  黒人における結核の感染, 重症化が多い理由として考えられている

1,25(OH)D2は他には Renin産生の抑制作用, Insulin産生効果, 心筋収縮亢進に関与している.
他, 25(OH)D< 20ng/mL群では大腸, 乳癌, 前立腺癌の頻度が30-50%高い

自己免疫性疾患(Type 1 DM, RA), Type 2 DM発症頻度も, Vit D内服により有意に低下するとの報告もあり.

統合失調症, うつ病とVit Dの関連
 胎生期, 乳児期のVit Dの低下は, 脳発達障害を来し, 統合失調症, うつ病の発症率を上昇させ得る.

肺機能, Wheezing
 25(OH)D >35ng/mL群ではFEV 176ml上昇するとの報告. 
 妊娠時のVit D欠乏は小児喘息のRiskを上昇させるかもしれない.

Vit D欠乏症と心疾患
 Framingham offspiring studyにおいて, 1739名を5.4yrフォロー. その内120名が心血管イベントを発症.
 25(OH)D <15ng/mLをCutoffとした時, 28%がVit D欠乏を認めた. Vit D欠乏は心血管イベントのRisk factorとなり, HR 1.62[1.11-2.36].
 Subanalysisでは, 高血圧(+)群で有意にRisk増加を認めた. HR 2.13[1.30-3.48] vs HR1.04[0.55-1.96](HT(-)群).
 Vit D欠乏の補正は心血管イベント抑制に繋がる. 特にHT(+)患者では重要となり得る. (Circulation 2008;117:503-11)

Vit D欠乏症の原因
原因
Effect
皮膚産生の低下
Sunscreen使用
Vit D3産生低下; SPF 8では92.5%, SPF 15では99%低下

皮膚色素沈着
Vit D3産生低下; 最大99%低下する

加齢
Vit D3産生低下; 70歳では75%低下する

季節, 地域, 時間
緯度>35度地域では, 11-2月の間は産生量が0になる

熱傷, 皮膚移植
皮膚量に応じた産生量となる
Bioavailability低下
吸収不良
Vit Dの吸収不良となる

肥満
Availabilityの低下を認める
代謝の増加
薬剤性
抗てんかん薬, Glucocorticoid, HAART, 免疫抑制剤
授乳
母乳
母乳中のVit D量が少ない
25(OH)D産生低下
肝不全
90%以上の機能低下で25(OH)Dの産生が低下, 不可能となる
25(OH)D尿中排泄
ネフローゼ症候群
25(OH)D結合タンパクごと排泄される
1,25(OH)2D産生低下
慢性腎障害
(GFR 31-89)
P血症 Fibroblast grouwth factor 23の上昇
 ⇒ 25(OH)D-1α-hydroxylase活性を低下させる

(GFR<30)
25(OH)2D産生不可 Ca, Scondary Hyperparaなど

原因
Effect
先天性
Pseudovit D deficiency rickets(type 1)
Renal 25(OH)D-1α-hydroxylase gene(CYP27B1)の異常
(Rickets)
Vit D-resistant ricket(type 2)
Vit D受容体のmutation. 1,25(OH)2Dは上昇する

Vit D-dependent rickets type 3
Hormone-responsive-element binding proteinの産生過剰
 
1,25(OH)2Dの反応を阻害する

常染色体優性低PRickets
Fibroblast growth fafctor 23の変異による代謝阻害.
高リン尿症, Pの腸管吸収低下, P血症, CYP27B1活性低下

X-linked PRickets
PHEX genetの変異 Fibroblast growth fafctor 23増加
高リン尿症, Pの腸管吸収低下, P血症, CYP27B1活性低下
後天性
Tumor-induced osteomalacia
腫瘍細胞によるFibroblast growth fafctor 23の産生増加
高リン尿症, Pの腸管吸収低下, P血症, CYP27B1活性低下

原発性高副甲状腺機能亢進
PTH産生増加による25(OH)D 1,25(OH)2D反応亢進

Granulomatous disoders
Sarcoidosis, TB, Lymphomaなど
による25(OH)D 1,25(OH)2D反応亢進

Hyperthyroidism
25(OH)Dの代謝亢進

Vit Dの必要量 (Am J Med 2009;122:793-802)
Vit Dの1日必要量(維持量)
 小児, ~50yrまでの成人では200IU/d
 51-70yrでは400IU/d, >71yrでは600IU/dの摂取が推奨
 閉経後の女性, 肥満患者, 吸収不良(+)がある患者, 他Vit D欠乏のRiskが高い患者では, 800-1000IU/d摂取

Vit D2はVit D3の30%程度の力価しか無いため, D2を投与する場合は上記の3倍以上の投与量を必要とする.

Vit Dの1日必要量(補正量)
 1000IU/dのVit D3を3-4mo続けて, やっと25(OH)Dが10ng/mL
 25(OH)D 30ng/mLを達成する為には2000IU/d必要とされる
 Vit D2; 50,000IU IM 1回/wk for 8wk ⇒ 500,000IU IM 1回/2-4wkも有効

Vit D欠乏の治療 (NEJM 2007;357:266-81)
小児例
Vit D維持量
Vit D欠乏の治療量
授乳中, Age<1yr, Vit D投与なし
D3 400IU/d
D3 1000-2000IU/d
までは安全
維持量; D3 400-1000IU/d
D3 200 000IU/3mo
D3 600 000IU IM q12wk
D2,3 1000-2000IU/d + Ca
製剤
Age 1-18yr, Vit D投与なし, 黒人
D3 400-1000IU/d
D3 1000-2000IU/d
までは安全
維持量; D3 400-1000IU/d
D2 50 000IU/wk for 8wk

成人例
Vit D維持量
Vit D欠乏の治療量
日光(-), Vit D投与(-), Age>50yr
D3 800-1000IU/d
D2 50000IU/2-4wk
D2 50000IU/wk for 8wk
25(OH)D<30
ならばさらに8wk
妊娠, 授乳中の女性
D3 1000-2000IU/d
D2 50000IU/2wk.
D3 4000IU/d for5 mo
までは安全
維持量はD2 50000IU/wk
D2 50000IU/wk for 8wk
25(OH)D<30
ならばさらに8wk
吸収不良症候群
日光, UV-Bへの暴露.
D2 50000IU/1-2d, wk
D3 10000IU/d for 5mo
までは安全
維持量; D2 50000IU/wk
UV-B治療
D2 50000IU/1-2d
Steroid, senobiotic receptor
活性化する薬剤, 免疫抑制剤
D2 50000IU/d-wk
維持量; D2 50000IU/1,2,4wk
D2 50000IU/2-4wk for 8-10wk
25(OH)D<30
ならば毎週施行
1U=25ngであり, 国内製剤はD2, D3があるものの, µg表記が主.
ワンアルファ®; D3製剤(0.25µg, 0.5µg, 1µg)
 通常Vit D 1µg = 40IUであるが, α-Calcidolは活性型Vit Dであり, 7.5倍の力価がある*
(*新しいホルモン活性型ビタミン D. 東京, 新宿書房 1979.)
 ⇒ 1mcg ⇒ 40IU x 7.5 =300IU, 4mcgで1200IU投与可能. 

食事中のVit D量
サーモン(天然)100g
600-1000IU D3
ツナ缶 100g
230IU D3
サーモン(養殖)100g
100-250IU D3
シイタケ()100g
100IU D2
サーモン(缶詰)100g
300-600IU D3
シイタケ(乾燥)100g
1600IU D2
イワシ(缶詰)100g
300IU D3
卵黄
20IU D2,3
サバ(缶詰)100g
250IU D3



日光暴露は10 a.m.-3 p.m.の時間帯に, 5-30min, 週2回日光を浴びれば十分量確保可能.(露出は腕, 脚のみでOK)
水着を着て, 皮膚に紅斑が出来る程度の日光暴露を行うと, Vit D2にして20000IU程度のVit Dを生成できる.

α-Calcidolの効果
国内で多く用いられるVit D製剤(Hydroxylated Vit D)
前述の通り, 4µg/dでもビタミンD ユニット換算で1200U. 
通常≤1µg程度の使用が多く, その場合300U/dとやや心もとない量であるが, 
以下のMeta-analysisをみると,

閉経後女性に対して, 骨折, 骨粗鬆症 予防目的のVit Dの効果を評価した25 RCTsのMeta-analysis (Endocrine Reviews 2002;23(4):560-9)
13 RCTがHydroxylated Vit Dに関するRCT(半数以上が国内より)
Hydroxylated Vit Dの骨折, 骨粗鬆症予防効果を評価

Outcome; 骨折Risk
RR
Vertebral Fx
0.64[0.44-0.92]
Nonvertebral Fx
0.87[0.29-2.59]
BMDの変化
WMD
Hydroxylated Vit D; 0.25-0.43µg
-0.47[-1.17~0.33]
Hydroxylated Vit D; 0.50-1.00µg
9.79[3.39-16.18]
α-Calcidolも≥0.5-1.0µg/dで投与すればBMDの改善を見込める.
理論上の力価は7.5倍IUであるが, 実際はややもう少し高い可能性がある.

Vit DはCaとの併用が重要 (BMJ 2010;340:b5463)
Vit D単剤 or Vit D + Ca併用 vs Placeboで骨折Riskを評価した6つのRCTのMeta-analysis(n=68517)
Vit DのDose, Ca併用の有無による骨折Risk

骨折の種類
Vit D 10mcg
Placebo
HR 
Vit D 20mcg
Placebo
HR
Any
18.7/1000pt-yr
20.2/1000pt-yr
0.91[0.85-0.99]
43.2/1000pt
51.1/1000pt
0.95[0.80-1.14]
Hip
2.4/1000pt-yr
3.0/1000pt-yr
0.74[0.60-0.91]
10.3/1000pt
9.2/1000pt
1.30[0.88-1.92]
Vertebral
1.4/1000pt-yr
1.6/1000pt-yr
0.86[0.65-1.14]
2.7/1000pt
3.1/1000pt
0.97[0.48-1.98]
Any
85.9/1000pt-yr
94.1/1000pt-yr
0.93[0.67-1.28]
45.9/1000pt
44.4/1000pt
1.02[0.92-1.14]
Hip
61.3/1000pt-yr
56.2/1000pt-yr
1.10[0.74-1.64]
14.0/1000pt
13.0/1000pt
1.08[0.89-1.30]
Vertebral
NA


2.4/1000pt
2.1/1000pt
1.10[0.69-1.76]
上段がCaとの併用あり, 下段はVit D単独の群

有意差が明らかなのは10µg/d + Ca投与群のみ.
20µg/dでもCa非投与では有意差は認められない.

ちなみに,
1-α Calcidol, CalcitriolなどShort acting, potent Vit D製剤はVit D欠乏を補うには不向きであり, 高Caを来たすRiskがあるとの意見もある.
Caとの併用も長期的には必要なく, 製剤の内服し難さが問題となることもあり, 長期的には推奨されない. (BMJ 2010;340:b5664)

Vit D補正には長期間を要する
86名のVit D insufficient患者に対して, 
Vit D2 50000IU/wk ⇒ 50000IU/2wk投与を施行した患者群の25(OH)Dをフォロー
(25(OH)D>30ng/mL時点で維持量 50000IU/2wk投与へ変更)
少なくとも6か月以上は投与継続が必要であることが示唆される.

Vit D中毒
普通Vit D過剰となることはない
 Vit D製剤の過量服薬にて生じる場合がある.
 D3 10000IU/dを5カ月間続けても過剰にはならない.
 25(OH)D >150ng/mLで定義され, 高Ca, P血症を生じる.

 Granulomatous disorderの患者では, Mφによる25(OH)D ⇒ 1,25(OH)2D産生亢進があるため, 25(OH)D >30でも高Ca, P血症を来すことがある.
 上記患者群では25(OH)D 20-30に保つようにコントロールする