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2014年3月31日月曜日

DIHS(Drug-induced Hypersensitivity Syndrome), DRESS(Drug Reaction with Eosinophilia and Systemic Symptoms)

Drug-induced Hypersensitivity Syndrome (DIHS)について
別名: DRESS (Drug Reaction with Eosinophilia and Systemic Symptoms)
(Chin Med J 2008;121:756-61)

原因薬剤投与開始2-6wk後(3wk-3mo)皮疹, 発熱, リンパ節腫脹, 肝炎, 異型リンパ球, 好酸球増多を認める病態.
原因薬剤開始後2-6wk(3wk-3mo)後に生じる点と, 中止後も症状が増悪する点が通常の薬疹と異なる.

年齢, 性別に差は無し
発熱, 点状丘疹, 掻痒感, リンパ節腫脹, 無唾液症が初発症状
発熱は38-40度でSpike(+), 1-2wk持続する
皮疹は顔面, 上肢, 上半身 ⇒ 下半身, 下肢へ拡大.
眼瞼周囲・顔面・頚部の浮腫, 
微小膿疱は初期の皮膚所見に特徴的とされる ⇒ その後, 剝脱皮疹, 紅皮症様に変化. 
粘膜障害は無し.
(Allergology International 2006;55:1-8)

原因薬剤中止後3日目でより重度の症状を呈する傾向あり.
他臓器浸潤も認められる. ⇒ 原因薬剤により異なる.
 アロプリノールでは腎障害の頻度が高く,
 フェニトイン, Dapsonでは肝障害頻度が高い.
 他, 肺臓炎, 冠動脈血栓, 甲状腺炎, 横紋筋融解, DMなど
 稀ながら, 辺縁系脳炎の報告もアリ.

DIHS/DRESSの特徴として, 原因不明の交差反応を来す
 ⇒ 構造上同一性の無い薬剤間でも交差反応を来す

Viral Infectionとの関連が臨床上示唆されている.
 HIVに関連した薬剤性皮疹,  EBV感染時のアミノペニシリン系投与による皮疹が典型的な例
 HHV-6感染, 再活性に起因し, HHV-6の再活性化が認められることがある.
 CMV, EBV, HHV-7によるものも近年判明している

DIHS/DRESS経過について
原因薬剤暴露により一過性に抗ウイルス反応が抑制 ⇒ HHV-6を含めたViral loadが上昇
それに対して抗ウイルス反応が亢進 ⇒ 免疫の交差反応にて症状出現が出現する.
抗てんかん薬はArene Oxidate(芳香族炭化水素酸化物), Hydroxylated Aromatic Compound(芳香族水酸化物)へ代謝され, その代謝産物が原因となるとされる.

原因薬剤として, 報告があるものは以下の通り.
カルバマゼピン
Dapsone
Lamotrigine
フェニトイン
Salazosulfapyridine
Abacavir
フェノバルビタール
アロプリノール
Nevirapine
Mexiletine
Minocycline
コデイン


血液検査所見
CBC; Leukocytosis, 異型リンパ球増多, 好酸球増多が特徴
 Lymphocytopeniaを来す例も報告あり.
 異型リンパ球はCD 8 T cell優位
 好酸球増多は1-2wk遅れて出現. (<60%の頻度)
 肝酵素が正常化するタイミングで上昇し始める

Chemo;
 肝酵素上昇は70%程度に認められる
 肝障害は軽度でBil上昇もないが, あれば予後不良因子.
 IgG, IgA, IgMは抑制され, 薬剤中止後数日間は低値を取る ⇒ 1-2wk後にOvershootを来し, 正常化する

症状(+) ~ HHV-6 IgG↑まで2-3wkかかる
発症初期ではIgG, IgA, IgMの抑制が生じるため, 抗体検査には反映されず.
Real-time PCR検査が有用な可能性がある
皮疹の組織検査では, Superficial perivascular lymphocytic infiltrates, Extravasated erythrocytes, eosinophilsが主.
組織中の浸潤細胞にHHV-6 genome, viral antigenを認めることもあり.
病初期のNSAID, 抗生剤は症状をMask, 助長する可能性あり, できれば避けた方が良い


日本国内での診断基準があり, 以下の通りとなっている
原因薬剤開始後 >3wkで斑状丘疹が出現
原因薬剤中止後2wkは症状が持続する
38度の発熱
肝酵素異常(ALT>100U/L)
Leukocyto異常; Leucocytosis(>11000/mcL)
 異型リンパ球(>5%), 好酸球増多(>1500/mcL)
リンパ節腫脹
HHV-6再活性化

94名DIHSの解析 (Japanese J of Dermatology 2005;115:1779-90)
抗てんかん薬によるものが66%を占める.
その内, 65%がカルバマゼピンによるもの. 42.2%で再発を来す.
HHV-6再活性化が81%で認められ, HHV-7, EBV, CMV再活性化も同時に認めるケースあり

24名のDIHSの解析 (Medicine 2009;88:131-40)
症状頻度, 臓器障害の頻度, 原因薬剤の頻度
症状
頻度
臓器障害
頻度
臓器障害
頻度
発熱
100%
肝臓
54%
17%
入院が必要な皮疹
71%
腎臓
17%
咽頭
29%
上記以外の皮疹
29%
心臓
21%
関節
17%
顔面, 眼周囲の浮腫
58%
胆道系
8%
17%
リンパ節腫脹
33%


膵臓
4%
低血圧
42%





原因薬剤
N
アロプリノール
4
Sulfasalazine
3
Azathioprine
1
抗炎症薬
3
ST合剤
3
Non-sulfonamide Abx
5
Atovaquone, Qhloroquine
2
Pyrimethamine, sulfadoxine
2
カルバマゼピン
1
Neomercazole
1
Hydroxyurea
1
Bortezomib
1

薬剤開始〜発症まで15d[1-62]

DIHS 172例のLiterature Review (The American Journal of Medicine (2011) 124, 588-597)
過去に発表されたDRESS 172例を解析.
症例はRegiSCAR scoringを使用し, “no” “possible” “probable” “definite”に分類

DRESSに関与した薬剤は44種類.

Abacavir
3%
Clomipramine
0.6%
Imatinib
0.6%
Salazosulfapyridine
1%
アロプリノール
11%
クロピドグレル
0.6%
ラモトリジン
6%
Meglumine ioxitalamate
0.6%
AMPC/CLA
0.6%
リン酸コデイン
0.6%
Mexilletine
3%
バルプロ酸
0.6%
アミトリプチリン
1%
Cotrimoxazole/cefixime
0.6%
ミノサイクリン
2%
スピロノラクトン
0.6%
アトロバスタチン
0.6%
Cyanamide
0.6%
Nevirapine
5%
ストレプトマイシン
0.6%
アスピリン
0.6%
Dapsone
2%
オランザピン
0.6%
Strontium ranelate
1%
カプトプリル
0.6%
Diaphenylsulfone
0.6%
Oxcarbazepine
2%
Sulfalazine
6%
カルバマゼピン
27%
Efalizumab
0.6%
フェノバルビタール
6%
Sulfamethoxazole
1%
セファドロキシル
0.6%
Esomeprazole
0.6%
Phenylbutazone
0.6%
Tribenoside
0.6%
セレコキシブ
0.6%
Hydroxychloroquine
1%
フェニトイン
4%
バンコマイシン
2%
Chlorambucil
0.6%
イブプロフェン
1%
Quinine, thiamine
0.6%
ゾニサミド
0.6%
発症年齢は40.7±20.9yr, 男女比は53:47とほぼ同等.
薬剤開始〜発症までは3.9±2.3wk [0.5-16]
治療は78%でステロイド投与が行われている. 9%でIVIG.

症状頻度
症状



皮疹全般
97%
臓器障害
88%
 皮疹; 斑状丘疹
60%
 肝障害
94%
 皮疹; 全身性紅斑
54%
 LFT異常
59%
 皮疹; 顔面浮腫
39%
 肝腫大
12%
好酸球 >700/µL
66%
 腎障害
8%
好酸球数
3500±4100
 肺障害
5%
発熱>38.5
64%
 CNS障害
2%
リンパ節腫脹
56%
 心障害
2%
異形リンパ球
27%


HHV-6感染(+)
41%




補足: ResiSCAR scoring (Br J Dermatol. 2007;156:609-611.)
<2pt: no case, 2-3pt: possible, 4-5pt: probable, >5 definite

DIHS/DRESSの治療 (Allergology International 2006;55:1-8)
DIHSの治療は, 早期の認識, ステロイド投与
 Prednisolone 40-60mg/dにて開始. 6-8wkでTapering (RCT無し)
 ステロイドの早期Taperingでは再発, 再燃を来すRiskもあり, ゆっくりと中止を.
 
原因薬剤の中止, 対症療法のみで改善することも多く, 臓器障害が軽度で致死的ではなければ経過観察も手. 必ずしもステロイド投与せねばならないという程でもない.

2014年3月30日日曜日

粘液水腫性昏睡 Myxedema coma

粘液水腫性昏睡 Myxedema coma
Am Fam Physician 2000;62:2485-90,
Endocrinol Metab Clin N Am 2006;35:687-98,
Top Emerg Med 2001;23(4):44–50

Myxedema comaはHypothyroidismの0.1%のみと稀だが, 
 死亡率は治療を行っても20%を超える
 治療無しでは80%に及ぶとされる.
 女性に多く, 男女比は1:5-10, 高齢者で多い傾向. >80%が60yr以上.

5%が甲状腺原発ではなく, 下垂体, 視床の異常によるものとされる.
 ⇒ THSが正常 ~ 低値である場合がある
 FT4は低いのは当然だが, この場合T3も低値(<25ng/mL)となる

Myxedema comaの身体所見
意識障害
心血管系; 徐脈.
 
早期ではdBP上昇.
 
晩期で低血圧,
低体温
脱毛症
Myxedematous face; 全体の腫脹.
 
巨大舌, 眼瞼下垂, 眼周囲浮腫,
 
粗く, まばらな毛髪
膀胱膨満, 緊張性の低下
腱反射の遅延
消化管; 蠕動運動低下,
 
腹部膨満, 麻痺性イレウス,
 
便秘, Myxedema megacolon
乾燥, 冷たい皮膚
Nonpitting edema
低換気



Myxedema Comaでは全患者が程度の差はあれ意識障害を来す
 昏睡~見当識障害, 認知機能障害など重いものから微細なものまで様々.
 精神症状もある. 痙攣は25%で認める

低体温も多く, 80%の患者がBT<35.5度となる.
血圧は初期ではdBP上昇を来すが, 晩期では低血圧となる.
徐脈, 心拍出量の低下はさらに低血圧を助長する.
頚部の手術痕は甲状腺切除後を示唆しているかもしれない.
Am Fam Physician 2000;62:2485-90, Endocrinol Metab Clin N Am 2006;35:687-98

Myxedema comaの検査所見
電解質異常;
 Free water clearanceの低下を認める ⇒ 低Na(Euvolemic hypoNa)
 (腎血流の低下, ADHの上昇が関与)
 低血糖も代謝の低下にて生じる. 副腎不全がさらに助長することもあり
CPK上昇;
 心機能低下, 徐脈, Shock, CPK上昇があると, AMIと間違えることもある.
 筋骨格筋由来であり, CK-MBは上昇しない.
血液ガス所見;
 通常呼吸性アシドーシスを来す.

23名のMyxedema comaの解析. (Critical Care 2008;12:R1)
 87%が女性例, 平均年齢は59.5±14.4yr[30-89], 
 65%が冬期に発症し, 74%で敗血症を合併していた.
 Primary hypothyroidが82%, Secondaryが17%.

各Lab所見; Cortisol欠乏(+)は7例で認められた
Na
134.2±10.4 mEq/L
118-160
T4 (Primary)
1.48±1.13 µg/dL

T4 (Secondary)
1.79±1.19 µg/dL

TSH (Primary)
68.9±41.5 µIU/mL

TSH (Secondary)
3.17±3.47 µIU/mL


検査値は死亡率に相関せず, 臨床的重症度(SOFA, APACHE II)が予後に相関する.
ちなみに, Total-T4の0.3%, Total-T3の0.03%がFree.

11名のMyxedema coma患者の解析 (Journal of Endocrinology 2004;180:347-50)
 平均年齢68.1±19.5yr[20-84]
 FT4の値は平均0.27~0.24 mmol/L [0.15-0.46](正常値 0.7-1.9 mmol/L)
 TSHは Primaryならば55.90~50.27 µIU/mL[28-153]
 (FT4の単位が一般的ではなく, おそらくは誤植と考えれるが, 正常値の範囲がng/dLと一致しており, 同等考えても良い)

Myxedema comaの治療
ICU管理とし, 挿管が必要となることは多い
脱水, 電解質異常の補正は重要.
心血管系のMonitoringは必須;
 AMIと病態が似ているため, 鑑別が重要.
 さらに, Thyroid hormone補充に伴うAMI発症にも注意する.
 昇圧剤, 強心剤は不整脈誘発Riskがあるため, 極力避ける.

欠乏しているThyroid hormoneの補充は必須
 T4 100-500mcgをIVし, その後75-100mcg iv/dを継続.
 経口摂取可能になれば切り替える. 国内ではIV製剤無し.

T4(チラーヂン®); Bioavailability 70-80%, T1/2 7d
T3(チロナミン®); Bioavailability 100%, T1/2 1d

Thyroid hormone投与について
Thyroid hormone大量投与によりAMIのRiskがある
 Risk-Benefitを考慮して投与すべき.
 しかしながら, Myxedema Comaの本質は非代償性の甲状腺機能低下であり, 投与することが推奨される. 投与無しでは良くならない.
 迅速に組織中のThyroid hormone濃度を高める方が利点が大きい.
 High Risk患者, 高齢者ではDoseを調節して投与する方が良い.

Thyroid hormoneはT4 or T3?
 T3の方が作用は早い.
 又、Myxedema comaではT4 ⇒ T3の代謝速度も遅くなっている. 
 おまけにT3はBBB通過性も良好.
 ただし, Studyも乏しく, 未だ一致した見解無し.
 Expert opinionでは, T4の単剤投与が推奨される.

T4の投与経路, 量は?
 国内にはT4(チラーヂン®)の内服製剤のみ.
 従ってNGチューブ留置し, 経腸管投与が必須.
 然し, Myxedema comaでは腸管運動も減弱しており, できればIVの方が良い.
 T4の初期投与量は300-600mcg(100-500mcg)とされる. 
 これは, 体内のT4貯蔵量が500mcgであり, 迅速に正常良まで増加させる目的.
 Loading Dose後は50-100mcg/dで維持可能. 
 Bioavailabilityは70-80%であり, 経管投与量は125-625mcgだが, 健常人のBioavailabilityであり, 実際の血行動態は不明.(低いことが予測される.)
 Expert opinionでは, 4mcg/kgの初期投与量を支持する意見もあり(継続投与量は100mcg/d)

T3を使用する場合
 初期投与量は10-20mcg,
 その後4hr毎に10mcg for 24hr  ⇒ 6hr毎に10mcg for 1-2d. T4が経口摂取可能となるまで.
 初期投与量10mcg ⇒ 8-12hr毎に10mcg投与を継続する方法もあり
 結局、維持療法はT4で行うため, 最初からT4を使用した方が良い.
 T4の吸収率がMyxedema Comaでさら悪化していることを考えると, 経口薬しかない日本国内ではT3の活用を考えても良いかもしれない.

その他の治療
抗生剤;
 非代償性となるTriggerとして感染症は多い原因.
 感染部位に応じた抗生剤投与は積極的に考慮すべき.
Steroids;
 続発性甲状腺機能低下, HypopituitarismのRiskがあるため, Hydrocortisoneは副腎不全が否定されるまでは続けるべきである.
 Hydrocortisone 50-100mg q6-8hrが推奨.
 ステロイド投与前にRandom Cortisol Testは必須.
 必要があればCRH刺激試験も考慮する.

まとめ
Myxedema Comaは知っていないと分からない. 知らないといけない病気

特に, 『高齢者』 『女性』 『意識障害』 『低体温』 『低Na血症』
 があれば, Myxedema ComaのCheckを忘れてはならない.