ページ

2014年2月16日日曜日

自己免疫性溶血性貧血では網赤血球はどの程度になるか?

(*一部フィクションあり)
50台男性. 数年前より寒冷凝集素が陽性, 自己免疫性貧血所見もあり, Primary cold AIHAを指摘されていたが, Hbは12台を維持しており, 経過観察されていた.
Bilは3-4mg/dL程度で推移. 網赤血球は8-12%程度と高値を維持していた.

ところが, 4月前に倦怠感が出現. 心不全徴候を認め来院.
その際 Hb 6 台と著明な貧血を認め, 急性発作? と判断されて他院入院加療となった.

Viral Infection, マイコプラズマ等の感染症のエピソードは無く, 抗体検査もひっかからず.
急性発作のトリガーは全く不明と判断.
輸血治療, 体温管理を行い, 退院となったが, その2ヶ月後自宅で動けなくなっており, 当院へ搬送. その際Hb 4まで低下… Ht 11%, MCV 110fl, LDH 1000, Bil 7. WBC, PLTの低下は認めず.

連日の雪のせいなのか…?
------------------------------------------------------------
ただ1つ気になったのが, 網赤血球が2.6%であった点.
正常範囲(~1.1%)よりは逸脱しているが, Hb 4にしては低すぎないか?

そこでAIHA患者の網赤血球等, 造血能を調べてみると,
Blood 1987;69:820-826
AIHA患者109例の造血能を評価したStudy.
AIHA
N
Ht(%)
Ret(%)
RPI
Primary warm
51
25±8.6(23)
18±20(10)
4.3±4.4(3)
Secondary warm
24
25±9.4(24)
14±12(9)
3.4±2.1(3)
Primary cold
8
32±11(30)
9.6±11(4)
3.0±2.8(2)
Secondary cold
13
26±7.4(26)
11±7.1(8)
3.2±2.3(2)
Drug-induced
10
28±6.2(29)
13±10(10)
3.9±3.0(3)
分類不能
3
22
3.6
0.85
合計
109
26±8.8(24)
15±16(9)
3.8±3.5(3)


網赤血球は10%前後となることが多い.
ただし, 20%が初期の網赤血球が<4%となっていた.

貧血が著明な場合は, 網赤血球よりもReticulocyte Production Indexを計算するのが良く,
計算式は以下の通り
 RPI = [補正網赤血球数] / [網赤血球成熟時間]
  = [網赤血球数(%)] x [Ht(%)/45%] / [網赤血球寿命]
 [網赤血球寿命] = 3.25 [Ht(%) x 0.05]
 RPI < 2 ⇒ 骨髄におけるRBC産生低下を示唆
 (Fe欠乏、骨髄機能不全、EPO低下、VitB12欠乏など) 

 RPI > 3 ⇒ 骨髄におけるRBC産生亢進を示唆

このStudyにおけるRPIの分布は
初期のRPI評価では RPI≤2.0は37%であったが, ピークRPI≤2.0は15%のみ.
RPI≤2.0 or >2.0群で骨髄穿刺を行うと,
RPI≤2.0となる群の76%で赤芽球系の増生が認められており, 時間差の問題なのかもしれない.
------------------------------------------------------------

でこの症例でRPIを計算すると, なんと 0.22という著明低値.
これはさすがに骨髄抑制も合併している可能性があり.
骨髄検査を行うと巨赤芽球を認め, 血清ビタミンB12が著明低値….
cold AIHAの急性発作ではなく, cold AIHA + 巨赤芽球性貧血により貧血が増悪したものと考えた方が無難なのでしょう.