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2018年3月17日土曜日

薬剤性無菌性髄膜炎

高齢女性に対して漫然と長期間(1ヶ月以上)のNSAID処方され, 意識障害+発熱あり受診
炎症反応高値, 腎不全・無菌性膿尿・顆粒円柱など, LPにてCSF細胞増多(若干Neu有意), CSF-prot上昇などあり.

各種培養陰性, 薬剤中止後の炎症反応改善, 腎機能改善・・・などなどから,
おそらくは薬剤性無菌性髄膜炎の可能性を考慮 という架空の症例

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薬剤性無菌性髄膜炎: Drug-Induced Aseptic Meningitis(DIAM)
(Arch Intern Med 1999;159:1185-94)
(Drug-induced aseptic meningitis: a mini-review. Fundamental & Clinical Pharmacology 2018)

薬剤の直接的な髄膜の障害(髄注)と, 免疫機序の髄膜炎がある

無菌性髄膜炎を来す薬剤で有名なものは,
・NSAID, 抗生剤, IVIG, OKT3 monoclonal antibody
 抗生剤では, ST合剤, INH, PZA, Ciprofloxacin, PC, Metronidazole, Cephalosporin, Sulfisoxazoleで報告例あり.
 NSAIDは最も報告が多く, イブプロフェンが有名. 背景にSLEなどの自己免疫疾患を持つ症例でリスクが高い.
・他にはワクチンやモノクローナル抗体でも報告あり

平均年齢は20-40台であり,
 内服~発症までの期間は様々で10min~10hr, 1wk~4moと幅広い

DIAMの症状頻度

症状
頻度
症状
頻度
症状
頻度
発熱
86%
関節痛, 筋肉痛
54%
乳頭浮腫
6%
頭痛
79%
低血圧
9%
リンパ節腫大
9%
髄膜刺激症状
70%
顔面浮腫
24%
肝の異常
10%
悪心, 嘔吐
53%
意識障害
50%
光過敏
32%
皮疹
12%
神経局所症状
18%


腹痛
9%
痙攣
10%



1999-2014年までの薬剤性無菌性髄膜炎症例を報告した192 studiesReview.
(JAMA Intern Med. 2014 Sep;174(9):1511-2.)
・原因薬剤は4タイプに分類される.
 NSAID, 抗生剤, 免疫抑制剤, 抗てんかん薬.
 SLEを基礎にもつ患者では特にリスクが高い.

原因薬剤と症状の頻度

NSAIDs
抗生剤
免疫抑制剤
SLE
全体
発熱
91%
88%
72%
88%
88%
頭痛
81%
84%
83%
83%
82%
髄膜症状
73%
71%
67%
75%
72%
悪心, 嘔吐
60%
49%
11%
67%
49%
皮疹
16%
11%
11%
30%
13%
腹痛
6%
6%
6%
17%
5%
関節, 筋痛
16%
13%
17%
25%
15%
低血圧
15%
3%
6%
29%
9%
顔面浮腫
16%
16%
6%
17%
14%
意識障害
49%
55%
11%
58%
47%
神経局所症状
10%
7%
NA
9%
10%
痙攣
4%
7%
NA
9%
5%
乳頭浮腫
5%
6%
NA
8%
5%
リンパ節腫大
3%
7%
NA
4%
4%
肝酵素異常
5%
11%
22%
12%
11%
羞明
9%
11%
16%
12%
11%
聴覚過敏
NA
2%
11%
NA
2%

NSAIDによるDIAM
・最も多く報告されている薬剤がNSAID. 
 特にイブプロフェンで多く, 他はジクロフェナク, ナプロキセン, スリンダクなど.
 SLEやシェーグレン症候群, MCTDがあるとさらにリスクが上昇する

イブプロフェンによるDIAMLiterature review
(Medicine 2006;85:214–220) 
・36例の患者より71エピソードのDIAM. 22例は再投与で再発を認めた.
 女性が64, 年齢は41[21-74]
 61%は背景に自己免疫疾患あり(SLE 39%, MCTD 16.6%, RA 2.8%, SS)
内服~発症までは様々だが, 時間が判明した46件中36例は<24h
症状は発熱, 意識障害, 頭痛, 項部硬直, 悪心嘔吐など.

髄液所見
・CSF圧は正常~上昇まで様々
CSF細胞数は280[9-5000]/mm
 Neu有意が72.2%, Ly有意が20.4%. 他にMo有意やEo有意が少数
 Neu, ly同程度の上昇もある
CSF-Prot132mg/dL[32-857]
 正常が4, 中等度上昇が17, 高度上昇(>100)30
 CSF-Gluは正常. 一部で低下する報告もあり

DIAMは基本的に除外診断となる.
・髄液所見の比較(この論文ではリンパ球有意となっているが, そうとも言い難いため注意!)(Drug-induced aseptic meningitis: a mini-review. Fundamental & Clinical Pharmacology 2018)
・また, 原因薬剤中止後数日で改善することも特徴の1.
 髄液所見や臨床症状は2-3日で改善することが多い
 細菌性髄膜炎では7-21日かかる

DIAMの治療は原因薬剤の中止と対症療法
・ステロイドを試す報告もあるが, 有用かどうかは不明.

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高齢者への無意味なNSAID長期連日処方は ほんと犯罪

疾患によってはやらないといけないことはありますが, その場合は最大限注意しています
フォロー期間とかLabフォローとか云々.

2018年3月16日金曜日

本の感想: あめいろぐ ホスピタリスト

献本御礼

あめいろぐ ホスピタリスト

在米日本人医療従事者による情報発信サイト 「あめいろぐ」から
米国のホスピタリストをテーマとした本がでました.
執筆者は現魚沼基幹病院総合診療科の石山先生と、ハワイのクイーンズメディカルセンターの野木先生.

野木先生は宇治徳洲会病院の先輩になります. 私が就職した時にはもうハワイに旅立たれておりましたが, 宇治徳での「伝説」はよく耳にしておりました.

そんな米国のホスピタリスト経験が豊富なお二人が、米国のホスピタリストの役割, 仕事内容, 意義を紹介し, 日本との相違点や日本国内の問題点をまとめてくださっています.
また、日米関係なく, ホスピタリストとして知っておくべき病棟マネージメントをとても読みやすく, わかりやすく, エビデンスと実臨床を交えて説明しているのがこの本です.

---------以下感想-------------------

読みやすくて, 短時間で一気に読めてしまいました.

読んで一番思ったことは「働きやすそうで羨ましいなぁ、、」ということです.

 それは, 米国ではホスピタリストの立場, 地位がしっかりとあり, さらにニーズも明らかであることに尽きるでしょう.

 自分は ”Hospitalist”という名のつくブログを書いているものの, 実際米国のHospitalistではありませんし, 経験もしたことがありません.
総合病院の総合診療医として病棟で働きたいということでそう名乗っていますが, やはり周囲の理解は様々です.

 様々。。。といいますが, 総じてネガティブです. たまにポジティブな認識を持ってもらえるという感じでしょうか.

 よく言われるのは,
 「専門もないくせに診療するのは問題でしょう」という類の言葉.
 「将来不安じゃないの(専門なくて)」
 「病院としては専門もっていないと扱いに困る」
 という感じで, どうしても「専門医」ありきな考え方が主を占めるのが現状です.

 一方ポジティブな意見としては
 「先生らが働いてくれると自分の専門領域に集中できて助かる」
 「複雑なよく分からない症例は先生らいてよかったとおもう」
 という感じ.

 一度でも「ホスピタリスト, 病院総合診療医」がうまくいっている施設で働いたことがある専門の先生ならば, そのありがたみや価値はわかってもらえるのでは無いかと思いますが, まだまだそんな病院は少なく, 時間がかかると思います.

 ホスピタリストが市民権が得られる, そんな日が来れば良いなぁと思います.


また, 「ホスピタリストの教育はホスピタリストしかできない」という意見には諸手を挙げて賛成します.
 
 たとえホスピタリストがある専門領域の疾患を診る場合にも, ホスピタリストの視点というものがあります. それは専門医とは一部で異なります.
 言葉で表すのが難しいですが, ある疾患をその分野以外にも, 多分野を通じて診る, という感覚でしょうか. そんな感じです. その視点から見えてくるものも多いのです.

 私の持論ですが, 総合診療医はサブスペシャリティを持つ必要はないと思っています.
 それは, サブスペシャリティを得ることで, 失うものがあるためです. その多角的視点はその一つです. 他にもありますが, あまり言うと敵を作るのでここまでにしておきます.

2018年3月14日水曜日

甲状腺機能亢進症と慢性筋症

数年の経過の下腿筋のこむら返りで受診.
診察すると, 肩, 上腕, 大腿の筋萎縮が目立つ. 他症状は認めない.
 一般採血でも電解質, CPKに異常なし. 甲状腺機能評価でHyperthyroid(+). エコーで甲状腺のびまん性腫大(+)よりおそらくバセドウ病. という症例.

Reviewより, 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の症状, 所見頻度
(JAMA. 2015;314(23):2544-2554.)

と, 筋症状は含まれていない.
しかしながら, 実際筋症状を呈する患者は少なく無いイメージがある.

色々論文を調べると, かなり古い報告が多い.

甲状腺機能亢進症による筋症
・甲状腺機能亢進症に伴う筋症は急性経過と慢性経過の2通りあり.
 急性経過では周期性四肢麻痺やMGがある.
 慢性経過では筋萎縮, 脱力が主. 特に近位筋が障害を受けやすい.

44例の甲状腺機能亢進症患者における評価では,
(Journal of the Neurological Sciences 1979;42:441-451)
・68%(33)で臨床的な筋症所見(脱力, 筋萎縮)が認められた.
筋症所見は1例を除き近位筋の障害であった.
多い部位は棘上筋, 三角筋, 三頭筋が多く, 次いで股関節屈筋群
 肩周りの筋の萎縮が主となる

・筋収縮や筋線維束性攣縮が12% 母指や上腕で多い.
・Muscle cramp10% 下腿で多く, 筋力低下に伴う.
他に仮性球麻痺や眼筋麻痺もあり

1895-1962年に報告された甲状腺機能亢進症に伴う著明な筋萎縮症例 73例のReview
(Postgrad med J 1968;44:385-397)
・平均年齢は47.7, 男性は20-69, 女性11-70. 性差は無し
・甲状腺機能亢進症の病歴は男性で11.3ヶ月, 女性で25.3ヶ月
 筋症状の病歴は男性で11.1ヶ月, 女性で22.5ヶ月
近位筋のみの障害が49.3
 近位筋+遠位筋の障害は34.3%
 残りの16.4%は全身性(球麻痺を含む)
23%は筋症状を主訴に受診. 筋力低下が主な症状となる
Muscle crampや筋痛を主訴とすることは少ないが報告はあり
・球麻痺症状では嗄声や構音障害, 嚥下障害

この報告と他の甲状腺機能亢進症症例における筋症状の頻度.

・特に筋症状の有無に限定していない報告でも6-8割で脱力, 筋力低下が認められる
・脱力を主訴として受診するのは数%と少ない.

筋電図を評価した報告
・筋電図で評価した場合, かなり高頻度で筋症を伴う

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・バセドウ病では近位筋の障害は高頻度で認められる.
 ただし, 主訴として筋症状を訴えることが少なく, 意識して評価していないと見落としている可能性がある.
・しっかりと診察する場合は6割程度で筋力低下や萎縮が認められる. 部位は上肢近位部. 肩周りが多いと覚える. 
・筋電図を用いるとさらに高頻度.


2018年3月2日金曜日

レンサ球菌菌血症における心内膜炎のリスク: HANDOCスコア

以前, レンサ球菌菌血症でもブドウ球菌菌血症並みに心内膜炎のリスクがあるかもしれない, というブログを書きました
レンサ球菌 菌血症の場合に心内膜炎の評価が必要かどうか?

非β溶血性レンサ球菌菌血症における, 心内膜炎リスクを評価するスコア: HANDOCスコア
(Clinical Infectious Diseases® 2018;66(5):693–8)
スウェーデンにおいて2012-2014年に報告されたNon-β溶連菌菌血症症例(NBHS)を後ろ向きに解析し, IE合併リスクを評価.
患者は18歳以上で好中球減少を認めない群を対象.
 NBHSは以下の7群に分類: S. anginosus, bovis, sanguinis, mitis, mutans, salivarius, 其の他
 S. mitis群に分類される肺炎球菌は含まず.
・IEmodified Duke criteria, 剖検にて診断された場合で定義
IEの否定は以下の3つのうちいずれかを満たす場合に否定
 TEE否定される
 抗菌薬IV投与が<14, 全体で21日未満の投与期間で, その後6ヶ月以上再発がない場合
 剖検でIEが否定される
Cohort2つに分けてDerivation, Validationを施行.

NBHS 339例のうち, IE29例で認めた(8.6%).

IE群, IE否定群の比較

HANDOCスコア
心雑音, 弁膜症の存在: 1
・原因菌: S. bovis, sanguinis, mutans1, S. anginosus-1, 0
・培養陽性数が2セット以上で1
・症状の持続期間が7日以上で1
・単一菌のみ検出で1
・市中感染で1

3点以上で感度 100%[91-100], 特異度 76%[71-81]で心内膜炎合併を示唆する
IE否定+不明群を含めると77%が2点以下となる

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S. bovis, sanguinis, mutansが単一の起因菌として血液培養2セットから検出され,
さらに市中感染 or 心雑音/弁膜症があれば3点. 心エコー(できればTEE)はすべきということになる

症状の期間も重要.

このようなことに注意して診療することは重要

2018年3月1日木曜日

敗血症に対するステロイド: ADRENAL study

こちらも参照
敗血症性ショックとステロイド
HYPRESS trial

敗血症に対するステロイドの効果を評価したRCTとして, French trialとCORTICUSは有名.
前者ではPlacebo群の死亡リスクが61%, 後者では32%と重症度に差があり, その点がStudyの結果に影響した可能性が指摘されている.

そこで, ある程度重症に限って数千人規模で評価したADRENAL Studyが2013年に開始され, その結果がついに出版.

敗血症性ショック患者を対象としヒドロキシコルチゾン 200mg/ 投与群 vs プラセボ群に割り付け比較.(N Engl J Med 2018;378:797-808.)
・3800例を導入
投薬は7日間もしくはICU退室, 死亡まで継続.
導入基準と除外基準 (Crit Care Resusc 2013; 15: 83–88 )
導入基準(以下のすべてを満たす)
除外基準
18歳以上
基準を満たして>24時間経過した症例
感染部位が明らか or 感染がかなり疑わしい
敗血症性ショック以外に理由でステロイドが必要
SIRSの基準 2/4以上を満たす
脳マラリアに罹患している患者
人工呼吸器管理(NPVを含む)中
糞線虫症に罹患している患者
血圧維持のためにカテコラミンを使用中
(目標sBP>90, MAP>60mmHg)
エトミデートを使用している患者
アムホテリシンBを使用している患者
カテコラミンを4時間以上使用している患者
死が切迫している状態, もしくは積極的治療希望しない患者

90日以内に基礎疾患により死亡する可能性がある患者

母集団データ
・この集団のAPATCH IIは23-24程度.

アウトカム
両群の90日死亡リスクは28%程度と有意差なし.
 Placebo群の死亡率ではCORTICUS studyとほぼ同等. French trialには至らない.
ショック離脱までの期間, 呼吸器管理期間はステロイド群で有意に短縮される
・輸血頻度も低下

90日死亡リスクとサブ解析
・APATCH II 25で分けても有意差なし

副作用頻度: ステロイドで多い

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密かに待っていたADRENAL studyの結果がでました
結果的にはいままでと認識は変わりなし.

CORTICUSよりも重症例を導入する, と思いきや同程度だったのがやや残念でした