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2012年7月23日月曜日

夜間の血圧をマネージメントする

通常夜間の血圧は日中に比べて10%程度低い. その低下をDippingと呼ぶ.
 高血圧患者の場合, そのDippingが消失していることが多く, それが心血管イベントリスク, 腎機能障害の悪化させている因子となっている.
 また, タンパク尿, その他高血圧由来の疾患を増悪させる可能性が示唆されていた.
(Am J Kidney Dis 2007;50:908-917)

難治性の高血圧患者556名の解析では, その65%でDippingが消失していた.

Dipper(10-20%低下)
27%
Extreme dipper(>20%低下)
8%
Nondipper(<10%低下)
46%
Riser(上昇)
19%

高齢者, 糖尿病患者, 心疾患既往のある患者では特にNon-dipperが多い.

また, Dipping(+)と(-)を比較すると,


心血管イベント
全死亡
心血管死亡
虚血性心疾患
Stroke
Dipping(-) vs Dipper
1.74[1.12-2.71]
1.67[0.95-2.94]
2.31[1.09-4.92]
2.05[1.00-4.20]
1.19[0.62-2.28]
Dippers
Reference
Reference
Reference
Reference
Reference
Extreme dippers
1.05[0.42-3.61]
0.50[0.11-2.19]
1.16[0.24-5.71]
1.54[0.39-6.04]
1.02[0.28-3.72]
Nondippers
1.71[1.03-2.83]
1.51[0.82-2.79]
2.41[1.03-5.67]
2.27[0.97-5.31]
1.19[0.57-2.48]
Risers
1.89[1.04-3.43]
1.43[0.67-3.05]
2.31[0.82-6.51]
2.34[0.88-6.24]
1.22[0.49-3.03]


心血管イベント, 死亡, ACSリスクはNon-dipperでより高リスクとなる.
(Arch Intern Med 2009;169:874-80)

そこで, 生理的なDippingを作るように降圧薬内服を眠前, もしくは夕内服としたらどうかという報告が数例ある.

N=32のNon-controled studyで 降圧薬1剤を朝から夕へ変更したところ,
 タンパク尿の減少を認めた(235±259 vs 167±206mg/dL)
(Am J Kidney Dis 2007;50:908-917)

慢性腎不全+高血圧患者661名のOpan-label RCT
 降圧薬全て早朝に内服する群 vs 1剤以上を眠前に移動させ内服する群に割り付け.
 平均5.4年間フォローし, 心血管イベントリスクを評価.
 CKDはアルブミン尿 and/or eGFR<60ml/minを満たすもの.
 母集団中のNon-dipperは66%程度.

アウトカム(/1000pt-yr)

Outcome
朝のみ
内服
P
全死亡, , 脳血管イベント
57.9[48.6-67.1]
19.8[13.6-26.0]
<0.001
全死亡
7.8[3.8-11.8]
4.0[1.0-6.8]
0.056
心血管死亡
3.9[1.0-6.8]
1.1[0.0-2.7]
0.059
心血管イベント
26.1[19.2-33.1]
6.2[2.6-9.8]
<0.001
 心筋梗塞
8.9[4.7-13.2]
2.8[0.4-5.3]
0.005
 狭心症
10.0[5.5-14.5]
1.7[0.1-3.6]
<0.001
脳血管イベント
2.2[0.3-4.4]
1.1[0.0-2.7]
0.310
心不全
15.0[9.6-20.5]
4.5[1.4-7.6]
<0.001
アルブミン尿の低下率
15.6%
26.9%
0.018


有意に心血管イベントリスクは低下.
また, 睡眠時BPは低ければ低い程リスクは低下させ得るという結果.
(J Am Soc Nephrol 2011;22:2313-2321)

また, 2型DM+高血圧患者448名でも同様のデザインのopen-label RCTがある.
 平均5.4年フォローし, CVDイベント, 死亡を評価.
アウトカムは,
Outcome
朝のみ
内服
P
Primary outcome
54.24(68)
19.80(23)
<0.001
全死亡
6.38(8)
2.58(3)
0.097
心血管死亡
4.79(6)
0.86(1)
0.038
心血管イベント
15.95(20)
6.89(8)
0.008
脳血管イベント
6.38(8)
0.86(1)
0.010
心不全
13.56(17)
6.02(7)
0.020
Primary outcome; CVDイベント, CVD死亡, 
HR 0.33[0.21-0.54]



CKDのStudyと同様, 睡眠時BPは低い程リスクも軽減されるという結果.
(Diabetes Care 2011;34:1270-76)

これからは降圧薬は眠前もしくは夕に投与が主流となるかもしれない.

2012年7月21日土曜日

透析患者へのバンコマイシン投与量


Clinical Infectious Diseases 2012;55(4):527–33

Monte Carlo simulation(MCS) methodを使用して投与量シミュレーションを行い,
それを29名の患者において前向きにValidaitonを行ったstudy.

3つの投与量についてシミュレーションを施行
A) Loadingとして1000mgを投与, 維持量は500mgを透析の最後の1時間で投与する方法
B) Loadingとして1500mgを投与, 維持量は750mgを透析の最後の1時間で投与する方法
C) 体重毎で決定する(以下参照)
体重
Loading
維持量
<70kg
1000mg
500mg
70-100kg
1250mg
750mg
>100kg
1500mg
1000mg



これらのによる平均トラフ値と目標達成率を評価すると,
投与方法
平均トラフ
10-20mg/L
15-20mg/L
<10mg/L
>20mg/L
A
11.9±3.9mg/L
61.2%
15.6%
34.8%

B
17.8±5.8mg/L
65.4%
34.2%

30.8%
C
14.6±3.5mg/L
86.0%
35.2%
7.6%
6.4%




プロトコールCを透析中でVCM投与が必要な29名でValidationを試行.
 患者の平均年齢は59.9歳, 体重は75.7kg.
 その結果,
平均トラフ
10-20mg/L
15-20mg/L
10-22mg/L
15-22mg/L
17.3±4.0mg/L
65.5%
37.9%
89.7%
62.1%

20-22mg/Lが24%くらいと1/4で20を上回ってしまうが、馬鹿高くはならない.
また, <10となる例も少なくて済む.

ただ、平均年齢が75kg overだからなぁ。やはり外人はデカい人が多いね。
透析中の痩せ形の日本人ならばもうちょっと手加減が必要かもしれない。

2012年7月20日金曜日

Afの除細動後の抗不整脈薬の投与期間

Lancet 2012;380:238-46

18歳以上の持続性Af患者で, 待機的なCardioversionを施行し, 除細動成功した635名のOpen-label RCT.
 全例で除細動48時間前からフレカイニド100mg 1日2回で開始, 3回まで増量可.
 その後除細動し, 除細動後に
 Placebo vs フレカイニド4週間投与 vs フレカイニド6ヶ月投与群に割り付け, 6ヶ月フォローし, 死亡, 持続性Af再発率を評価.

アウトカム;
 最初の4週間での評価において, Placeboよりもフレカイニド投与群の方が持続性Af再発率が有意に低くなったため, この時点でPlaceboへの割り付けは終了となった. 以後, フレカイニド4週間, 6ヶ月群のみへ割り付けられ, Studyは継続された.
(70.2%[63.0-77.3] vs 52.5%[41.4-63.6], p=0.0160)

持続性Afの再発率は,
 4週間投与群で46%, 6ヶ月投与群で39%. (下図)
上がPer-protocol population, 下がITT解析.
 双方でフレカイニド4週間 vs 6ヶ月で有意差は無し(p=0.208, p=0.107)
 また, 死亡例は両群で1例もなし.

最初の1ヶ月に再発, 死亡した例を除いた残りの群での1ヶ月移行の評価
これでは6ヶ月投与群の方が有意に持続性Afの再発率は低くなる
 (HR0.31[0.18-0.56], Difference 14.3%[5.1-23.6])
 QOLは有意差無し.


心房のAction potentialは洞調律化してから2-4wkで
正常化するため, その間の抗不整脈薬が推奨されている.

投与期間は長い方が良好だが,
4wkのみの投与でも殆どのAfを予防することは可能.

2012年7月18日水曜日

DMARD イグラチモドについて

日本発の合成DMARD イグラチモド(ケアラム®, コルベット®)が2012年6月29日に承認されたので、この薬剤に関するStudyをまとめてみます。

イグラチモド vs プラセボ
活動性RA 280名のDouble-blind RCT (Chinese Medical Journal 2008;121:615-619)
 イグラチモド50mg/d, 25mg/d, Placeboに割り付けて比較.
 全例中国人で, 活動性RAは以下の4/5を満たすものと定義.
  ◯ 圧痛関節部位が5箇所以上
  ◯ 腫脹関節部位が3箇所以上
  ◯ 朝の強ばりが60分以上
  ◯ ESRが28mm/h以上
  ◯ 安静時に中等度から重度の疼痛を自覚
 また, 4wk以内にDMARDの使用は無く, PSL≤10mg/dのステロイドの併用は可としている

 Outcome; ACR 20,50,70の達成頻度
ACR20は@6-12wkで25mg/d, 50mg/d群双方で有意に達成率が良好.
 それ以降の18wk, 24wkでは50mg/d群が有意に達成率が良好となっている.

イグラチモド vs Salazosulfapyridineの比較
日本人RA患者376名のDouble-blind RCT (Mod Rheumatol 2007;17:1-9)
 イグラチモド 25mg/d 4wk, その後50mg/d 24wk継続群と, Salazosulfapyridine 1000mg/d群, Placebo群に割り付け, 28wk継続.
 RA患者群は以下の3つを満たす患者を対象とした
  ◯ 6箇所以上の圧痛関節あり
  ◯ 3箇所以上の腫脹関節部位がある
  ◯ CRP≥1.0mg/dLもしくはESR≥30mm/hを満たす
 これもDMARDの4wk以内の投与歴は無し, PSL ≤5mg/dの併用は可.

Outcome; ACR20の達成率
イグラチモドとSASPのACR20達成率はそれぞれ 63.1%, 57.7%, Difference 5.4%[-7.9~18.7]と有意差無し.

イグラチモドの方がSASPよりも効果発現は速そう.

イグラチモド vs MTXの比較
活動性RA患者489名のDouble-blind RCT (Arthritis and Rheumatism 2009;61:979-987)
 イグラチモド25mg/d 4wk, その後50mg/d 20wk群(Group 1)
 イグラチモド50mg/d 24wk群 (Group 2)
 MTX 10mg/wk 4wk, その後15mg/wk 20wk群 に割り付け, 24wk継続.

 活動性RAの定義は(Chinese Medical Journal 2008;121:615-619)と同様. 
 他のStudyと同様, DMARDは4wkは投与されていない. PSL≤10mg/dまで併用可.
 MTX不応性(≥15mg/wkを20wk継続しても効果不十分)の症例や, MTXによる副作用で中断を余儀なくされた症例は除外される.

 副作用出現時の対応プロトコールは,
 ALT≥3ULNでは一次中断し, 改善後に再開. 再度≥3ULNとなった場合は終了.
 ALT≥5ULNではその時点で終了.
 好中球<500/µLではその時点で終了.

Outcome; ACR20,50,70達成率
MTXとイグラチモド50mg/d投与群の効果は同等.
 25mg/d→50mg/d群ではやや劣る.

イグラチモドによる副作用
 肝障害、好中球減少、消化管症状があるが、MTXと比較して消化管症状や食欲不振は少なく、肝障害やめまいも少ない.
 特に25mg→50mg/d群でより少ない傾向.

イグラチモド+MTXの併用について (Mod Rheumatol (2013) 23:430–439)
MTX単剤治療でも効果不十分*なRA患者253例のDB-RCT.
 MTX + Iguratimod 25mg/d 4wk, その後50mg/d 20wk群
  vs + Placebo群に割り付け, 24wk継続. 臨床症状をフォロー
 MTXは6-8mg/wkを継続.
 *MTX ≥6-8mg/wkを12wk以上使用しても6箇所以上の圧痛関節(+), 4つ以上の腫脹関節(+), ESR≥28mm/hもしくはCRP ≥1.0mg/dL
 治療導入前に他のDMARDを使用していた場合は4wk, 生物学的製剤を使用していた場合は3MのWash-out期間を設ける.

母集団:


アウトカム:

Igratimod併用群ではMTX単剤よりも有意に臨床症状の改善を認める.
このStudy後, Open-labelとしてさらに24wk投薬を継続, Placebo群はIgratimodに切り替え継続した報告(Mod Rheumatol, 2014; 24(3): 410–418)
 ACR50,70達成率はIgratimod長期使用でさらに改善する. また, Placeboから切り替えた群も有意にACR20, 50, 70は改善.

イグラチモドの52wk継続投与の副作用頻度の調査 (Mod Rheumatol 2007;17:10-16)
 日本人RA患者394名にイグラチモドを52wk使用.
 初期投与量は25mg/dとし, 4wk後に50mg/dへ増量.
 Adverse event; 不快な症状、所見、Lab異常
 Adverse reaction; 上記イベントと薬剤の関連が否定できないもの, と定義した時,
 投与期間とそれらの頻度は
Outcome
@52wk
@100wk
Adverse event
97.6%
97.6%
Adverse reaction(AR)
61.8%
65.3%
ARのうち, 症状, 所見のみ
30.0%
33.2%
Lab異常
48.4%
50.4%

重大な副作用としては,
他の副作用一覧

 MTXやSASPと同等の効果があり, MTXよりも副作用が少ない. また併用も良いという使い勝手の良さそうな新しいDMARDの印象.
 特に高齢者でMTXでご飯が食べられなくなったりする人を数人抱えている身としては, 試してみたい気が満載です.

オピオイド換算表