そのような患者において, 透析が必要な場合, どのような点に注意すべきか?
この文献が参考になったので, 要点をまとめる
Hemodialysis International 2008; 12:307–312
慢性腎不全患者では, 代謝産物の蓄積, アシドーシスの影響で血漿, 細胞外, 細胞内の浸透圧は上昇している.
●浸透圧の上昇下では, 脳のAstrocytesがNa/K交換, 細胞内への尿素, 浸透圧物質の流入により細胞内外の浸透圧を均等にしている.
●透析により急激に細胞外のBUN, 浸透圧物質が低下すると, 細胞内浸透圧 > 細胞外浸透圧となり, H2Oが細胞内に移行し, 浮腫を生じる(H2Oの移行速度はUNの移行速度の20倍)
●この細胞浮腫, 脳浮腫に伴う症状を不均衡症候群と呼ぶが, 特に頭部外傷患者や脳出血患者ではそもそも脳浮腫が生じており, そのような患者群での透析でより浮腫が増強, 頭蓋内圧の上昇, 脳血流の低下リスクが高くなる為に注意が必要.
●さらに透析中の低血圧が脳血流低下を促進させ得る
IHDでは特に頭蓋内圧の上昇, 動脈圧の低下のリスクが高いが
●頭部外傷で, 意識清明で, 頭部CTで外傷が軽度で脳浮腫の所見が無い場合はIHDを選択する施設が多い.
●血流速度, 透析液流量を緩め, 透析面積の狭い透析膜を使用したり, 透析時間を短くすることで急速な浸透圧の低下を避ける様に調節する事が必要.
●透析液にUNを負荷する事もある
●DialysisよりもFiltrationを多く使用することでBUNの低下を緩徐にする事も可能. ただし, Filtrationをやり過ぎると血圧低下に繋がる.
●高Naの透析液を使用する事で, 透析中の低血圧の予防効果が見込める.
>>高Na透析液; 血清Na値 150mEq/Lの濃度
>>高Na透析液を使用したIHDは, CRRTと同程度の低血圧頻度.
(Lancet. 2006; 368:379– 385.)
●IHD開始時の血液流量 50mL/minとし, 徐々に250mL/min付近まで上昇させることで, 透析中の低血圧リスクを下げられる.
●IHDは連日施行することが推奨(12-14日〜安定するまで).
>>連日行う事でBUNの変動幅を緩やかにできる
>>透析前BUN 34mg/dL程度に調節する
IHD時の血圧と頭蓋内圧の変動
IHDとCVVH時の頭蓋内圧の変動の比較
CVVHで緩徐に透析する方が, 頭蓋内圧への影響が少なく, 高度な頭蓋内圧亢進状態の患者に対してはCVVHが推奨される.
その他の調節;
●抗凝固薬はナファモスタット, もしくは使用せずに注意深く回路を使用する方法がある. ヘパリンコートされた透析膜などもある.
●浸透圧性利尿薬; マンニトールやグリセロールは腎不全患者には禁忌だが, 透析中の投与は可能. 血漿浸透圧 <330mOsmol/kgとならない様に投与を続ける事で, 脳浮腫のリスクを軽減する可能性がある.
●同様に血清Na 150-155mEq/Lに維持することも推奨される.