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2012年8月19日日曜日

鉄欠乏性貧血

鉄欠乏性貧血 Iron deficiency anemia

 鉄という栄養素は出血以外で対外へ排泄される事は先ず無い.
 従って, 鉄欠乏が生じるにはIntake不足, 吸収障害, 体外への排泄(出血, 組織細胞の脱落)の3つの機序しかない.
 例えば,
 男性, 非月経時の女性では1mg/dの鉄喪失
 月経時女性では0.6-2.5%増加し, 10-42mg/月経期の喪失
 妊娠自体では700mgの喪失
 400ccの献血は200mgの鉄を喪失する.

 <1-2mg/dの摂取を1000日間続けた場合, >2Lの急性出血があった場合に体内の貯蔵鉄はカラッポとなる. (Am J Med 2008;121:943-8)

鉄欠乏性貧血の診断; 身体所見
 有名なのは匙状爪だが, 実は感度は4%と非常に低い. むしろ "爪が脆くなる" という所見の方が感度は高い. 匙状爪の特異度は80%程度で, ヘモクロマトーシス, レイノー病, 強皮症, SLE, ポルフィリン症, 手根管症候群, 外傷, Nail-patella症候群, 爪真菌症, 遺伝, Tuner症候群でも認められる.

 青色強膜の感度は87-89.4%, 特異度 64-92.9%, LR+ 2.48-12.17, LR- 0.14-0.17と良好(Clin med 1999;69:85-6). これは鉄欠乏に伴うコラーゲンの合成障害が生じ, 強膜が菲薄化するためと言われている. 実際外来や検診で若い女性で多く認める所見.
 他に青色強膜を認める疾患は, 偽性偽性甲状腺機能低下症(15%), マルファン症候群(3%), ホモシスチン尿症(5%), 骨形成不全症, Ehlers-Danlos症候群, Russel Silver症候群など.

 他の所見として, 舌乳頭萎縮や口角炎はよく認められる. それに加えて嚥下困難や逆流性食道炎症状を伴うものをPlummer vinson症候群といい, IDAの7-19%で認められる.

鉄欠乏性貧血の診断; 血液検査
 最も有用な検査はフェリチン値. MCVのみでも疑う事は可能だが, 確定にはフェリチン値が欲しいところ.


Test
成人 Cutoff
LR
>=65yr Cutoff
LR
MCV
<70fl
70-74
75-79
80-84
85-89
>90
12.5
3.3
1
0.91
0.79
0.29
<75fl
75-85
86-91
92-95
>95
8.82
1.35
0.64
0.34
0.11
Ferritin
<15ng/mL
15-24
25-34
35-44
45-100
>100
51.8
8.8
2.5
1.8
0.54
0.08
<19ng/mL
19-45
46-100
>100
41
3.1
0.46
0.13
Transferrin Sat
<5%
5-9
10-19
20-29
30-49
>50%
10.5
2.5
0.81
0.52
0.43
0.15
<5%
5-8
8-21
>21%
16.51
1.43
0.57
0.28


鉄欠乏性貧血の治療; 鉄剤の投与量は?
 骨髄の鉄に対する反応は20mg/dが最大.
 鉄剤の投与は空腹時, タンニンとの併用は避けて, 1日150mg 云々と言われるが, 実際は25-50mg/d(フェロミア0.5-1錠)で十分であり, タンニンやPPI, H2阻害薬との併用も気にする必要は低い. 副作用の観点より考えると, 眠前投与がBetterか.

80歳以上の鉄欠乏性貧血患者90名のRCT(Am J Med 2005;118:1142-47)
 鉄剤 15mg vs 50mg vs 150mg投与群に割り付け, 60日間継続. 血中フェリチン値, ヘモグロビン値の変化を比較.
 結果は, 鉄剤のDoseとフェリチン値, ヘモグロビン値の上昇に有意差は無し.
 また, 副作用は量が多いほど高頻度となる.
以上より, 鉄剤はフェロミア50mgを用いるならば0.5錠で十分.
それでも副作用が出現するならばインクレミンシロップあたりを3ml/dのみでOKと言える.
要はより長く内服してもらえることを意識すべき.

また, 当然 鉄欠乏性貧血の原因を調べる事も忘れてはならない.
 基本的には上部, 下部内視鏡検査は必要となる事が多い.