鉄という栄養素は出血以外で対外へ排泄される事は先ず無い.
従って, 鉄欠乏が生じるにはIntake不足, 吸収障害, 体外への排泄(出血, 組織細胞の脱落)の3つの機序しかない.
例えば,
男性, 非月経時の女性では1mg/dの鉄喪失
月経時女性では0.6-2.5%増加し, 10-42mg/月経期の喪失
妊娠自体では700mgの喪失
400ccの献血は200mgの鉄を喪失する.
<1-2mg/dの摂取を1000日間続けた場合, >2Lの急性出血があった場合に体内の貯蔵鉄はカラッポとなる. (Am J Med 2008;121:943-8)
鉄欠乏性貧血の診断; 身体所見
有名なのは匙状爪だが, 実は感度は4%と非常に低い. むしろ "爪が脆くなる" という所見の方が感度は高い. 匙状爪の特異度は80%程度で, ヘモクロマトーシス, レイノー病, 強皮症, SLE, ポルフィリン症, 手根管症候群, 外傷, Nail-patella症候群, 爪真菌症, 遺伝, Tuner症候群でも認められる.
青色強膜の感度は87-89.4%, 特異度 64-92.9%, LR+ 2.48-12.17, LR- 0.14-0.17と良好(Clin med 1999;69:85-6). これは鉄欠乏に伴うコラーゲンの合成障害が生じ, 強膜が菲薄化するためと言われている. 実際外来や検診で若い女性で多く認める所見.
他に青色強膜を認める疾患は, 偽性偽性甲状腺機能低下症(15%), マルファン症候群(3%), ホモシスチン尿症(5%), 骨形成不全症, Ehlers-Danlos症候群, Russel Silver症候群など.
他の所見として, 舌乳頭萎縮や口角炎はよく認められる. それに加えて嚥下困難や逆流性食道炎症状を伴うものをPlummer vinson症候群といい, IDAの7-19%で認められる.
鉄欠乏性貧血の診断; 血液検査
最も有用な検査はフェリチン値. MCVのみでも疑う事は可能だが, 確定にはフェリチン値が欲しいところ.
Test
|
成人 Cutoff
|
LR
|
>=65yr Cutoff
|
LR
|
MCV
|
<70fl
70-74 75-79 80-84 85-89 >90 |
12.5
3.3 1 0.91 0.79 0.29 |
<75fl
75-85 86-91 92-95 >95 |
8.82
1.35 0.64 0.34 0.11 |
Ferritin
|
<15ng/mL
15-24 25-34 35-44 45-100 >100 |
51.8
8.8 2.5 1.8 0.54 0.08 |
<19ng/mL
19-45 46-100 >100 |
41
3.1 0.46 0.13 |
Transferrin Sat
|
<5%
5-9 10-19 20-29 30-49 >50% |
10.5
2.5 0.81 0.52 0.43 0.15 |
<5%
5-8 8-21 >21% |
16.51
1.43 0.57 0.28 |
鉄欠乏性貧血の治療; 鉄剤の投与量は?
骨髄の鉄に対する反応は20mg/dが最大.
鉄剤の投与は空腹時, タンニンとの併用は避けて, 1日150mg 云々と言われるが, 実際は25-50mg/d(フェロミア0.5-1錠)で十分であり, タンニンやPPI, H2阻害薬との併用も気にする必要は低い. 副作用の観点より考えると, 眠前投与がBetterか.
80歳以上の鉄欠乏性貧血患者90名のRCT(Am J Med 2005;118:1142-47)
鉄剤 15mg vs 50mg vs 150mg投与群に割り付け, 60日間継続. 血中フェリチン値, ヘモグロビン値の変化を比較.
結果は, 鉄剤のDoseとフェリチン値, ヘモグロビン値の上昇に有意差は無し.
また, 副作用は量が多いほど高頻度となる.
以上より, 鉄剤はフェロミア50mgを用いるならば0.5錠で十分.
それでも副作用が出現するならばインクレミンシロップあたりを3ml/dのみでOKと言える.
要はより長く内服してもらえることを意識すべき.
また, 当然 鉄欠乏性貧血の原因を調べる事も忘れてはならない.
基本的には上部, 下部内視鏡検査は必要となる事が多い.