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2023年7月31日月曜日

中枢神経リンパ腫におけるCSFマーカーについて

中枢神経リンパ腫(CNS lymphoma: 以下CNSL)の診断は難しい.

Gold standardは脳生検であるが, そのハードルは高く, 髄液検査で異常細胞が検出されればよいものの, その細胞診の感度は<50%程度に過ぎない.

また, 髄液量も10.5ml以上採取することが推奨されるため, 意識していないと検体が足りないということも多々ある.

他には髄液のFCM, TCR遺伝子再配列, IgHの評価が有用である.


CNSLの診断に有用な髄液マーカーにはどのようなものがあるだろうか?


国内より, 複数のCSFマーカーを使用したCNS lymphomaの診断能を評価した報告

(Cancer Medicine. 2020;9:4114–4125.)

・髄液中のマーカーでは, CXCL-13, IL-10, β2-MG, sIL-2Rの組み合わせはCNS lymphomaの診断に有用であるとの結論.

・コマーシャルベースで考慮するならば,
 IL-10, β2-MG, sIL-2Rの組み合わせであるが,
 CXCL-13がどれも含まれており, そこが難点.


2018年のSystematic reviewより, 髄液マーカーのカットオフや分布, 感度特異度を評価したものをまとめる. (British Journal of Haematology, 2018, 182, 384–403)

髄液中IL-10

・IL-10は悪性リンパ腫細胞や腫瘍内に浸潤しているMφからも産生, 分泌されている.


対象群

Cutoff

CNS L群の中央, 平均値

SN

SP

Mabray (2016)

転移性腫瘍, Glioma, 脱髄性病態

>21.77pg/mL

557.5pg/mL(167.5-947.5)

62.8%

95.5%

Nguyen-Them(2016)

Glioma, Ependymoma, Medulloblastoma, 転移, 神経炎症性疾患

>4pg/mL

-

88.6%

88.9%

Song(2016)

NHL, 中枢神経炎症性疾患, 感染症, 脱髄性疾患, 他の脳腫瘍

>8.2pg/mL

74.7pg/mL(<5.0-1000)

95.5%

96.1%

Sasagawa(2015)

Glioblastoma, Astrocytoma, Glioma, Ependymoma, 転移, 他腫瘍, MSなど

>3pg/mL

28pg/mL(2-4100)

94.7%

100%

Rubenstein(2013)

神経炎症性疾患, 原発性脳腫瘍, 転移

>16.15pg/mL

*別記載

65.4%

92.6%

Rubenstein(2013)
HIV陰性群

神経炎症性疾患, 原発性脳腫瘍, 転移

>23pg/mL

*別記載

64%

94%

Sasayama(2012)

他のCNS腫瘍, CNS炎症

9.5pg/mL

27pg/mL(<2-1610)
42pg/mL(5-118)

71%

100%

・各病態ごとのIL-10値の分布

患者群 疾患

IL-10

対象群 疾患

IL-10

PCNSL 新規診断(43)

282.9±113pg/mL

神経炎症性疾患(71)

5.6±2.3

SCNSL 新規診断(43)

57±37pg/mL

原発性脳腫瘍(8)

10.9±5.6

PCNSL 再発例(17)

1663±483pg/mL

脳転移性腫瘍(12)

5.3±1.5

SCNSL 再発例(13)

302±126pg/mL

CNS外の感染症, 腫瘍(46)

3.6±1.4

・CNSLでは大きくIL-10は上昇する. 一方で炎症性の病態でのIL-10の上昇は乏しい.


髄液中IL-6とIL-10/IL-6比


対象群

Cutoff

CNS L群の中央, 平均値

SN

SP

Song(2016)

NHL, 中枢神経炎症性疾患, 感染症, 脱髄性疾患, 他の脳腫瘍

>5.1pg/mL

5.2pg/mL(<2.0-109)

54.6%

70.1%



>0.72
(IL-10/IL-6比)

12.6(0-115)

95.6%

100%

Sasagawa(2015)

Glioblastoma, Astrocytoma, Glioma, Ependymoma, 転移, 他腫瘍, MSなど

>2.2
(IL-10/IL-6比)

10.8pg/mL(1.2-127)

68.4%

96.1%

Sasayama(2012)

他のCNS腫瘍, CNS炎症

4.0pg/mL

5.7pg/mL(1.2-264)
6.8pg/mL(4.4-13.9)

77%

63%

・CSF-IL-6はCNSLと他の病態との鑑別には有用とは言い難い.

 IL-10/IL-6比も試されているが, IL-10のみで十分ともとれる.


髄液中CXCL-13

・CXCL-13はケモカインの1つであり, 樹状細胞より産生される.


対象群

Cutoff

CNS L群の中央, 平均値

SN

SP

Mabray (2016)

転移性腫瘍, Glioma, 脱髄性病態

>103.0pg/mL

2960.5pg/mL(1125-4796)

76.7%

90.9%

Rubenstein(2013)

神経炎症性疾患, 原発性脳腫瘍, 転移

>90pg/mL

*別記載

69.9%

92.7%

Rubenstein(2013)
HIV陰性群

神経炎症性疾患, 原発性脳腫瘍, 転移

>116pg/mL

*別記載

71%

95%

・各病態における分布

患者群 疾患

CXCL13

対象群 疾患

CXCL13

PCNSL 新規診断(43)

5926±2030pg/mL

神経炎症性疾患(71)

44.9±19

SCNSL 新規診断(43)

1783±896pg/mL

原発性脳腫瘍(8)

84.5±60.7

PCNSL 再発例(17)

996±312pg/mL

脳転移性腫瘍(12)

58.5±41.6

SCNSL 再発例(13)

539±157pg/mL

CNS外の感染症, 腫瘍(46)

11±3.6

・これもCNSLでは他の病態と比較して桁違いに上昇する


他のマーカー

CSF-IL-2Rのまとめ


対象群

Cutoff

CNS L群の中央, 平均値

SN

SP

Sasagawa(2015)

Glioblastoma, Astrocytoma, Glioma, Ependymoma, 転移, 他腫瘍, MSなど

>60.4 U/mL

225 U/mL(<54.5-2750)

94.7%

84.6%

Sasayama(2012)

他のCNS腫瘍, CNS炎症

77 U/mL

100 U/mL(<50-978)
88 U/mL(<50-3495)

81%

83.3%

・報告はさほど多くないが, 感度, 特異度は良好. 対象群として炎症性病態は少ないため, その点注意が必要である

・Sasayama(2012)におけるCNS炎症性病態は2例のみ


β2MGのまとめ


対象群

Cutoff

CNS L群の中央, 平均値

SN

SP

Sasagawa(2015)

Glioblastoma, Astrocytoma, Glioma, Ependymoma, 転移, 他腫瘍, MSなど

>2.4mg/L

3.9mg/L(1.7-11.8)

89.4%

88.5%

Sasayama(2012)

他のCNS腫瘍, CNS炎症

2056µg/L

4084µg/L(970-11239)
4983(2303-6166)

88%

90.3%

Muniz(2014)
SCNSL症例

DLBCL, BLでCNS病変無し

>2.56ng/mL


62%

90%

Kerstein(1996)
SCNSL, ALLによる中枢神経病変

NHL, ALLでCNS病変なし

>1.67mg/L


81%

68%

Ernerudh(1987)
SCNSL

NHL, HDでCNS病変なし

>1.9mg/L

3.9±3.4mg/L

71%

67%

・古い論文が比較的多い. またこれも炎症性の病態との対比がすくないため注意.

 Sasayama(2012)におけるCNS炎症性病態は2例のみ


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CNSリンパ腫を疑う際に参考となるCSFマーカーとしては,

IL-10, CXCL13は有用であろう. これらは他腫瘍や炎症性の病態, 脱髄性の病態との鑑別でも有用と考えられる. しかしながらCXCL13はコマーシャルベースでは評価不可.

他にIL-2Rやβ2-MGも利用可能であるが, 炎症性の病態との鑑別は不十分である.