ページ

2018年3月28日水曜日

自己免疫性筋炎とトロポニン

特発性筋炎では心筋障害を伴うことがあり, 予後に関連するために注意が必要.
また, 冠動脈疾患リスク自体, 自己免疫性炎症性疾患では上昇する.

心筋障害は潜在性のことも多く, 「心筋障害あるかも」とまず思うことが大事.

心原性トロポニンは心筋障害の評価に有用であるが,
cTnIは心臓選択性が高いものの,
cTnTは骨格筋にも微量ながら含まれるため
特発性筋炎では偽陽性となることが知られている.
(Ann Rheum Dis 2015;74:795–798)

第一世代のcTnT assayは骨格筋のTroponinと交差反応を示す.
・これは骨格筋Troponin6-11アミノ酸のみが異なるため.
 次世代のAssayでも偽陽性はある.
対してcTnIは骨格筋Troponin Iと比べて31個のアミノ酸が多く結合しているため, 検査の特異性が高い.
 現在使用されている第二世代のcTnIは交差反応は無い.
(Ann Rheum Dis 2015;74:795–798)

先天性, 後天性の筋症(代謝性や横紋筋融解を含む)52例の解析では, cTnTCKは持続的に上昇を認める一方cTnIは持続的に正常範囲であった
・また, CKの上昇につられてcTnTも上昇を認める傾向がある
(J Am Coll Cardiol 2014;63:2411–20)

PM, DMで臨床的に心筋障害を認めない39例の解析
(Clinica Chimica Acta 306 (2001) 27–33)
・CK-MB51%で上昇cTnT41%で上昇を認めたが, cTnI2.5%(1)のみ.

cTnT正常例, 上昇例別の評価

・cTnTが上昇していてもcTnIは正常のことが多い.
・cTnT上昇例ではミオグロビンやCKMBも高値

特発性炎症性筋症 49例を後ろ向きに解析
・PM23, DM16, CTD関連筋炎が10
CKcTnTを評価した28例では,
 CK上昇していた23例中18例がcTnT上昇.
 CK正常の5例中5例がcTnT正常
CKcTnIを評価した41例では,
 CK上昇していた29例中, cTnI上昇は1例のみ
 CK正常の12例中, 12例がcTnI正常
(J Rheumatol. 2009 Dec;36(12):2711-4.)

成人発症の特発性筋症患者123例における心筋障害と心原性酵素の関連を評価.
(Using serum troponins to screen for cardiac involvement and assess disease activity in the idiopathic inflammatory myopathies. Rheumatology (Oxford). 2018 Mar 12.)
・DM 32%, PM 28%, Anti-synthetase syndrome 30%, 免疫介在性壊死性筋症 7%, IIM-CTD overlap 4%
上記のうち18例で心筋障害を認めた
 (MDAAT: Myositis Disease Activity Assessment Toolの心障害で評価. Cardiac VAS score >0で定義)
心筋障害に関連する因子は, Physician global disease activity VAS, HAQ-DI, Extramascular global VAS, cTnT, cTnI

・cTnT異常は感度83%, 特異度46%, PPV 21%
・cTnI異常は感度44%, 特異度95%で心筋障害を示唆する. PPV 62%

また, CKが正常でもcTnTやcTnIが陽性の場合は疾患活動性があることを示唆する結果.

cTnTによる潜在性心筋障害の評価
・cTnTで評価する場合は
 cTnTが正常ならば心筋障害は否定的.
 軽度上昇ならばECGやエコー所見を評価する
 高度上昇ならば心筋障害ありと判断
(Ann Rheum Dis 2015;74:795–798)

cTnIによる潜在性心筋障害の評価
・cTnIで評価する場合は
 正常ならば否定, 陽性ならば心筋障害あり.
(Ann Rheum Dis 2015;74:795–798)

2018年3月23日金曜日

iNPHではトレイを運ばせると歩行が速くなる

(Neurology® 2018;90:e1021-e1028.)
PSP患者38例とiNPH 27, 健常人 38例において以下の歩行試験を施行.
(PSPNeurological Disorders and Stroke and Society for PSP diagnostic criteriaで診断,iNPHinternational iNPH guidelineを用いて診断)
・Single task: 通常, ゆっくり, 最大速度で歩行させる
Cognitive dual task: 100から7を引いてゆく計算をさせながら歩行させる.
・Motor dual task: トレイを運びながら歩行させる

Single taskでの歩行
・通常の歩行では, iNPHはPSPよりもwide basedで1歩の歩幅は短い

Dual taskでの歩行
考えさせながら歩かせると, 全体的に歩行速度は低下するが, PSPで特に有意
・トレイを運ばせると, iNPHでは歩行が早くなる.
 一方でPSPではゆっくりとなる

-------------------------
iNPHではPSPと比較して, 通常歩行においてwide basedで一歩は短い
計算させながら歩行させると健常人でも歩行速度は低下し, wide basedとなるが, PSPでは歩行速度の低下がより顕著となる.
また, トレイを運ばせながら歩かせると, PSPでは速度は低下する一方で, iNPHでは反対に速度が増加する.

このパターンでiNPHの歩行を評価可能かもしれない.

2018年3月22日木曜日

ピロリ除菌と胃癌のリスク

(N Engl J Med 2018;378:1085-95.)
韓国における単一施設でのRCT.
早期胃癌(粘膜, 粘膜下層に限局)もしくはHigh-grade adenomaで内視鏡的切除術を施行した470例を対象としたDB-RCT.
・患者は以下を満たす
 生検で胃癌, High-grade adenomaを認め, 内視鏡的切除術を予定されている
 内視鏡にて腫瘍が明確で潰瘍形成がない
 CTで遠隔転移やリンパ節転移を認めない
 18-75
 H. pylori感染が証明されている
・除外項目
 再発性胃癌, H. pylori除菌の既往, Poorly differentiated tubular adenocarcinoma, signet-ring-cell carcinoma, 抗菌薬で重大な副作用がある, 内視鏡的切除後に外科的切除の必要があると判断された群

これら患者群を, H. pylori除菌療法群 vs Placeboに割付けその後5年以内の胃癌発症リスクを評価.
・除菌療法はAMPC 1000mg, CAM 500mg, PPI7日間
 Placebo群ではPPIのみ使用.
・PPIは両群とも4wk継続(潰瘍治療のため)した.
フォローは3M, 6M, 1yで内視鏡を行い, 以後は6-12M毎に内視鏡フォロー

母集団

アウトカム
左: 除菌療法施行の有無での評価
右: 除菌成功の有無での評価

除菌療法施行群, 除菌成功群では有意に胃癌再発リスクは低下する.

アジアにおける除菌と胃癌リスクの評価では2004年に中国からも報告がある

(JAMA. 2004;291:187-194 )
中国の高リスク地域で行われたRCT.
健常人でHP感染を認める 1630(そのうち988例は萎縮性胃炎, 腸上皮仮性, 胃粘膜異形性を認めない患者群)を対象
・除菌群 vs プラセボ群に割り付け, 胃癌リスクを比較.

母集団

アウトカム
・胃癌リスクは除菌群, 非除菌群で同等の結果

・前癌病変(-)の群では, 有意に除菌群で胃癌リスクは低下する
------------------------

前述の論文より,
 早期胃癌やHigh-grade Adenomaで内視鏡的粘膜切除を行なった患者では除菌により胃癌再発リスクは低下する.

後述の論文より,
 粘膜萎縮や腸上皮仮性, 異形がない場合も除菌による胃癌リスク軽減効果が期待できる.

2015年のコクランでは除菌療法は有意に胃癌リスクを軽減するという結果: RR0.66[0.46-0.95]
(Cochrane Database Syst Rev. 2015 Jul 22;7:CD005583.)

2018年3月19日月曜日

加湿器肺

加湿器肺は文字通り加湿器に起因する過敏性肺臓炎
特に超音波式の加湿器が普及してから報告も増えている.

超音波式の加湿器は, 内部に真菌が巣食うとそのまま空気中に放出するため, 過敏性肺臓炎のリスクとなる.
・デザイン性を重要視し, しばしば中が洗浄しにくいものもある.
加湿器以外にもアロマや空気洗浄目的での製品もある.(加湿器として認識していないこともあるため注意)
吸入することで肺臓炎を呈するもの: Humidifier lung
 吸入することで炎症, 発熱を呈するもの: Humidifer feverがある
・冬季に風邪を引き, その際に久々に出した加湿器を使用 
 → 発熱や咳嗽の増悪, 肺炎の併発,という感じの病歴も多い(患者や家族が[風邪が治らない]という認識となる)

超音波式加湿器を使用し肺臓炎となった9加湿器熱を呈した2例のデータ

加湿器内の水から培養されたもの
(Respiratory Medicine 2005;99:943-947)

チャレンジ試験を行った症例の経過
・使用再開後68時間でピークとなる

加湿器肺 5, 他の過敏性肺臓炎 17(夏型12, 鳥関連5)を評価した報告(国内からの報告)
(Chest 1995; 107:711-17) 
・加湿器は超音波式
 加湿器肺は1~3月と冬季の症例がほとんど

沈降抗体の種類
加湿器肺ではCandida albicans, Cephalosporium acremonium
 夏型ではTrichosporon cutaneum
 鳥関連ではPigion dropping, Pigeon serumに対する抗体が陽性

BALFの比較
・CD4,8のバランスが3者で微妙に異なる. 診断的意義があるかは微妙

------------------------------
個人的な印象では,

・加湿器肺は冬場に多い過敏性肺臓炎
・風邪をひいて, 加湿器を使用し始め, 増悪+肺炎 というパターンが意外にある.
 その場合患者や家族が風邪の増悪として認識し, 医療者もそのように思ってしまう.
 しっかり病歴聞かないと加湿器という単語が出てこない.
・加湿器は超音波式がポイント.
 いつ買ったか, 洗っているか, どこにしまっているか, ちゃんと聞く
・加湿器意外にも空気洗浄機やアロマの機械も超音波式.
 加湿器と把握していないかも. 空気洗浄機が原因となるとはよもや患者も思うまい.