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2016年6月26日日曜日

メタノール中毒

メタノール中毒は致死率の高い中毒症.
(Am J Kidney Dis. 68(1):161-167.)
・アメリカでは全薬物中毒の1%程度. 年間5000件ほど
・メタノールはラジコン飛行機の燃料, 不凍液, 工業用アルコール, 一部の家庭用洗剤, 染色液などに用いられる
中毒は経口摂取で多いが, 吸入や経皮吸収もある
死亡率は8-36%であるが, HCO3 < 10mEq/L ± pH<7.1では50-80%に及ぶ
Formaldehydeは血中では1-2minで代謝され, Formateが直接的に視神経障害を来す


症例: ラジコン飛行機の燃料を飲んだ22歳の女性
・摂取後30時間でERを受診
 症状は腹痛, 悪心/嘔吐, 視覚障害, 頭痛
・バイタルサインを含めて診察上異常所見は認められず.
・血液検査所見:
 著明なOsmolal gapが認められる.
 燃料に含まれているNitromethaneが血清Cr測定値に影響を及ぼす.

メタノール中毒症の症状
・代謝性アシドーシス, 視覚障害が特徴的.
・また腹痛を37-72%で認める. 膵炎由来, 非由来双方で認める.
視神経障害はアシドーシスの程度と相関.
 乳頭浮腫を伴う例が10%程度ある
 視覚障害は11-18%で残存するが, 残りは改善を認める
被殻障害は稀だがあり; 脳血流の減少, Formateの蓄積が原因
 被殻障害があると筋固縮や無表情などが認められる
主にFormic acidが原因であり, Cytochrome oxidaseに作用し, 組織低酸素や乳酸アシドーシスを引き起こす.

・症状の発現は早期に出現するが, エタノール(飲酒)を摂取していたり, Abacavirなど一部の抗ウイルス薬を使用していると, 最大96時間症状出現が遅延することもある(Alcohl dehydrogenaseの抑制のため)

浸透圧Gapは重要な所見であるが, 認められないことも
・浸透圧Gapの正常値は10-20mOsm/kg/H2Oであり, これを超える場合にGapありと判断する.
 健常人における浸透圧Gapは-11~10mOsm/kg/H2Oと幅があり, メタノール濃度によってはGapが認められないかもしれない.
・また, メタノールが代謝されるとGapは消失する.

治療はAlcohol dehydrogenaseの作用を抑制することと, 透析によるメタノールの除去が基本となるが,
・問題はメタノール中毒症では特異的な症状がなく, 気づけないこと.
・治療が遅れると死亡率は上昇する(~44%).
・また, メタノール濃度は結果が出るまで時間がかかるため, 病歴や浸透圧Gapなどで疑えば治療する必要がある.


メタノール中毒の治療:
・胃洗浄の効果は無し: すぐに吸収される.

Alcohol dehydrogenaseの抑制: エタノールの投与かFomepizole.
・エタノールは血中濃度100-150mg/dLを維持するように投与
  Alcohol dehydrogenaseはメタノールよりもエタノールとの親和性が高いため, この濃度が維持できればメタノールは代謝されない.
  持続静脈投与を行う.
・Fomepizole: ホメピゾール点滴静注1.5g® は特異的なAlcohol dehydrogenase阻害作用を持つ薬剤. エタノールよりも8000倍以上の親和性を持つ. 経口, 経静脈投与双方可(国内には静注製剤のみ). 副作用もエタノールと比較して少ない
 
・酵素阻害により代謝産物(Formic acid)を抑制しても, メタノールを排泄せねば治療とはならない. メタノール自体は肺と腎臓から排泄され, 半減期は54hと長い. → 透析を考慮する.

Drug
Dialysis(-)
Dialysis(+)
Fomepizole
Loading;15mg/kg
維持; 10mg/kg q12hr
 48hr
で血中濃度不十分ならば15mg/kg q12hr
1-1.5mg/kg/hr追加
    *FomepizoleVoD0.6-1.0L/kg, 有効血中濃度は>0.8mg/L(10mcmol/L)
Ethanol
純アルコール量
10%液での量
Loading
600mg/kg
7.60ml/kg
維持(非飲酒者)/ HD(+)
66mg/kg/hr / 169mg/kg/hr
0.83 / 2.13ml/kg/hr
維持(飲酒者)/ HD(+)
154 / 257mg/kg/hr
1.96 / 3.26ml/kg/hr
     *Ethanol濃度>100mg/mlADHを完全に抑制可能

透析の適応:
透析治療では, メタノールもFormic acidも除去可能.
透析によりメタノールの半減期は54hから2hに短縮される
(Crit Care Med 2015; 43:461–472) 

2016年6月24日金曜日

炎症性背部痛の評価

脊椎関節炎 Spondyloarthropathyは大きく軸関節優位のAxial SpAと末梢関節優位のPeripheral SpAに分類される.

(POLSKIE ARCHIWUM MEDYCYNY WEWNĘTRZNEJ 2010; 120 (11):452-457)

さらにAxial SpAには強直性脊椎炎やNon-radiographic Axial SpA(XPで所見ないが, MRIで関節炎所見+)
Peripheral SpAには乾癬性関節炎, 反応性関節炎, 炎症性腸疾患由来, 分類不能SpAなどが含まれ, 双方は一部でオーバーラップする.

さらにそれにSAPHO症候群やCNO, CRMOとのオーバーラップもあると個人的には考えている*

*注: SpAとSAPHO, CNO, CRMOは厳密にはことなります.
 SpAは自己免疫性機序, SAPHOやCNO, CRMOは自己炎症性疾患に分類されます.
 臨床症状やプレゼンテーションが似ており, オーバーラップするところがあるということです.
詳しくは 
 CRMO, CNO
 SAPHO
(Journal of Autoimmunity 48-49 (2014) 128e133 )

Axial, Peripheral SpAの診断クライテリア
(Curr Opin Rheumatol 2013, 25:287 – 296 )

さてここまでが前置き.
診断基準におけるSpAの特徴には炎症性背部痛(Inflammatory back pain)という項目がある.
これを評価する, ひろいあげるにはどうしたらよいのか?

炎症性背部痛の特徴, クライテリア
(Ann Rheum Dis 2010;69:1264–1268.)

炎症性背部痛を評価する基準にはCalin criteriaとBerlin criteriaが有名.
・Calin古くから使用されているクライテリアであり, 5項目中4項目以上を満たせば感度95%, 特異度85%と良好なものの, 追試験により結果はばらつきがある.
・Berlin criteriaではさらに朝のこわばりの時間が30分以上としたり, 就寝の後半で背部痛生じる, 臀部痛にも言及する細かいクライテリアとなっており, より特異性が高い.

45歳未満で発症した2ヶ月以上持続する腰痛 322例において, 炎症性背部痛の問診を施行. 
・最終的にSpAと診断されたのは35.1%
・よりSpAの可能性を上げる項目は
 > 就寝時の後半で
 > 背部痛により起きる.
 > NSAIDで改善
 > 変動性(Alternating)の臀部痛
 > 腱付着部炎の既往など

これより
 <35歳の発症, 
 就寝時の後半部分で疼痛で起きる,
 変動性の臀部痛, 
 NSAIDで48h以内に改善, 
 運動で改善 の5項目中
4項目以上満たすと感度47.8%, 特異度86.1%
3項目以上では感度78.8%, 特異度46.4%
2項目以上では感度96.5%, 特異度17.0% でAxial SpAを診断.
(Ann Rheum Dis 2011;70:1782–1787. )

炎症性背部痛のための6項目質問票
(J Rheumatol 2012;39:822–9)
背部や臀部にこわばりがありますか?
あれば, それはいつでしょうか?
A: 朝起床時*, B: 午後, C: 夕方, D: 時間によらない
寝ている時に背部痛や臀部痛で起きることがありますか
よくある* たまにある* 全くない

あれば, いつ起きますか
寝てすぐ 早朝*
背部痛や臀部痛は1日のなかでいつが最悪でしょうか
朝* 午後 夕方 夜間 該当なし
関節が腫れたり痛くなったりしたことはありますか
あり* なし
あればどの関節でしょうか?
運動や体操で背部痛/臀部痛はどうなるでしょうか?
A:増悪する B:影響はない C:改善する*
安静や臥位で背部痛/臀部痛はどうなるでしょうか?
A:増悪する* B:影響はない* C:改善する D:該当なし
(*の項目は炎症性背部痛を示唆)

炎症性背部痛 220例とMechanical back pain 66例で質問票の項目の炎症性背部痛に対する有用性を評価

Calinの質問票は, 5項目についてYES NOで答えてもらう(年齢以外)
 ・3ヶ月以上腰痛で困っていますか?
 ・早朝の背部のこわばりがありますか?
 ・何歳の頃から背部痛が出現しましたか?
 ・背部痛は徐々に出現したのですか?
 ・背部痛は運動で改善しますか?

・6項目より日内変動, 安静時の変化, 運動時の変化の3項目のみで評価し, 2項目以上満たす場合, 感度 54%, 特異度 90%と診断に有用
・Weighted score方式も有用かも
・日内変動だけでも特異性は高い
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これらをまとめると,
腰痛、背部痛、臀部痛における炎症性背部痛の評価では、
・夜間就寝時間の後半部分〜早朝にかけて強くなる背部痛で
・安静で改善せず, 運動で軽快する.
・早朝の背部のこわばりがある

という特徴が強い.

他に関節炎や腱付着部炎、ぶどう膜炎や乾癬の合併があればよりSpAである可能性は上昇する, というのは言うまでもなかろう

2016年6月18日土曜日

無汗症, 低汗症

無汗症は文字通り発汗が障害される病態.
(J Am Acad Dermatol 2014;71:499-506.)

原因疾患としては, 以下のものが挙げられる.
・先天性に汗腺低形成(hypohidrotic ectodermal dysplasia)
・先天性代謝障害(Fabry病など)
・自己免疫疾患に付随するもの(Sjögren症候群)
・皮膚の障害(アトピー性皮膚炎, 乾癬など) 
・自律神経障害(MSA, MS)
・末梢神経障害(糖尿病, GBS)
・薬剤性(抗コリン作用, 抗精神病薬, 抗てんかん薬*)
 *ゾニサミドやトピラマート(Pediatr Neurol. 2006 May;34(5):392-4.)(No To Hattatsu. 1999 Sep;31(5):468-70.)
・明らかな原因のない特発性もあり.

発汗の評価方法: Starch-iodine sweat test
・10%Povidone iodineを顔面も含めた体全体に塗布し, 乾燥させる
 患者はトレッドミルやエアロバイクで運動し, 5分毎に体温を測定
 体温が≥1度上昇するか, 38度に到達するか, 運動を20分行うかいずれかを満たすまで継続する
・上記を満たせば乾燥したコーンスターチ粉を顔面を含む体幹に噴霧する.
・発汗部位ではコーンスターチと汗とPovidone iodineが反応し, 紫褐色に変色するため, 発汗の有無, 部位が明瞭となる
(J Am Acad Dermatol 2014;71:499-506.)

Minor法
・ヨードの無水アルコール溶液を全身の皮膚に塗布し, アルコールが蒸発した後に澱粉をふりかけておく
・その後トレッドミルやエアロバイクで発汗を促す.
・発汗部位でヨード澱粉反応が生じ, 変色する

特発性後天性無汗症
(The Neurologist 2008;14: 318–320) (J Am Acad Dermatol 2014;71:499-506.)
・Acquired idiopathic anhidrosis(AIA)は神経障害や汗腺の異常を認めず, 原因となる因子がない無汗症の総称.
発汗障害以外の他の異常を伴わず, 患者はしばしば運動後に発汗がないこと, 熱中症, うつ熱を主訴に来院する.
・発症は急性発症〜緩徐進行性まで様々ある.
・症例報告は日本人で多い. 2008年のReviewでは, 65例報告があり, その中の62例が日本人であった.
 その後中国からも報告が出てきており, アジア人で多いかもしれない.

特発性後天性全身性無汗症の疫学:
・男女比は4:1と男性で多く, 10-30歳代での発症が多い.
・初発症状はうつ熱や熱中症が67.4%と多い.
 他はほてり感, 体温上昇, 脱力感, 疲労感, 顔面紅潮, 悪心, 嘔吐, 頭痛, めまい, 動機など.
 →不定愁訴や不明熱では鑑別に挙げる.
発汗低下部位は全身ではなく, 部分的には残存
 顔面 53.3%, 腋窩 78.9%, 手掌 47.4%, 足底 36.8%は残存あり.
 →患者が自覚していないことも多い.
随伴症状としてはコリン性蕁麻疹, 疼痛発作がある
(自律神経 2014;51:229-234)

シンガポールからの報告では, 熱中症となった兵士30例中, 無汗症は31%で認められた.
・9例中1例が深在性汗疹, 2例が後天性特発性無汗症, 6例がAcquired symmetrical hypohidrosis(ASH)
・ASH: この文献で初めて定義された左右対称性の無汗症
(Dermatology. 2016;232(1):50-6.)

特発性後天性無汗症は3つのサブグループに分類される
・Idiopathic pure sudomotor failure(IPSF): 最も多いと考えられる
 コリン伝達, 汗腺におけるコリン受容体の障害, 低下
 エクリン汗腺におけるMuscarinic M3Rへの自己抗体が一部で関与している可能性が報告されている(Intern Med 52: 2733-2737, 2013) 
・Sweat gland failure(SGF): 汗腺への細胞浸潤と変性
・Sudomotor neuropathy(SN): 節後交感神経, コリン作動性神経の変性
(The Neurologist 2008;14: 318–320)

診断アルゴリズム
(J Am Acad Dermal 2014;71:499-506.)

特発性後天性全身性無汗症は難病指定されている
・2015年に特発性後天性全身性無汗症は難病指定
 無汗, 低汗部位を評価し, 体表面積の75%以上で低下が認められている場合, 重症度判断し, 指定難病対象とする.
・〜50%は軽症, 50~75%は中等症

特発性後天性無汗症の治療
熱中症の予防のため, 患者教育は重要.
・症例報告レベルでは, ステロイドパルス療法やシクロスポリンなど免疫抑制療法が有用との報告もある.
 mPSL 500-1000mg/日を3日間投与.
 熱中症を起こした症例や, 生活や仕事に支障がある場合に試す.
・ステロイドが有効かもしれないのは,
 若年発症, コリン性蕁麻疹(+), IgE高, 汗腺形態異常(-)の症例.
・反対に40歳以上や長期間罹患している例, コリン性蕁麻疹(-)などは抵抗性の可能性が高い.
(自律神経 2014;51:229-234)(自律神経 2013;50:67-74)

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無汗症は持続する微熱や倦怠感で来院することがあります.
大体今の時期から増え始め, 夏には熱中症となることもあります.

自覚して皮膚科に行くケースもあれば,
上記不明熱や不定愁訴で総合診療科を受診するケースもあり, 知っておくべき疾患の一つでしょう.

2016年6月15日水曜日

ステロイド局所注射による色素脱失

ステロイドの関節内注射や局所注射後に同部位の色素脱失や皮下組織の萎縮を認めることがある

・30年前の外傷後に右手関節変性, 疼痛を生じTriamcinolone acetonide(ケナログ®) 40mgを関節注射施行.
 その後2ヶ月間かけて徐々に無症候性の色素脱失 +
 注射部の色素脱失と, その周囲に放射状に線状の脱失を認める
 線状の色素脱失はリンパ流に沿っている
(Dermatology Online Journal 18 (5): 11 )

・アキレス腱の疼痛に対してTriamcinolone acetonideを局所注射した後に発症した色素脱失
(Southern Medical Journal 2006;99:1393-1394)

・15日前に足関節にTriamcinolone acetone 20mgを関節注射し, その後色素脱失を認めた症例
 疼痛も異常感覚も認められない.
 線状の色素脱失はリンパ管に沿ったステロイドの移行によるPerilymphatic atrophyと診断.
 同部位周囲の萎縮も認められている.
(Arthritis Rheum. 2013 Dec;65(12):3318. )

ステロイドの局所注射に伴う合併症は色素脱失, 皮下組織の萎縮, 毛細血管拡張がある.
・Triamcinolone acetonide(ケナログ®)は最も色素脱失の報告が多い薬剤であるが, 局所注射によく使用されているため, 報告が多いだけかもしれない.
・色素脱失の機序はステロイドによるメラノサイトの機能低下によるもの.
 単回注射, 複数回双方で生じ, 範囲も程度も注射〜の期間も様々.
 再沈着も認められる. 1ヶ月〜数年の範囲で生じ得る
(Dermatology Online Journal 18 (5): 11 )

アスリートのスポーツ外傷に対してステロイド局所注射を施行した際の合併症頻度を評価したMeta-analysis
・22 RCTs, 3 Cohort studiesにおいて, ステロイド局所注射で治療した983例中149例(15.2%)で合併症あり
・上記のうち疼痛以外の合併症は54例(5.5%)
・疼痛は9.7%, 皮膚萎縮 2.4%, 色素脱失 0.8%, 局所の発赤/熱感 0.7%, 顔面紅潮 0.6%
(Clin J Sport Med 2005;15:370) 

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稀な合併症ながら, 使用する人は押さえておく合併症と言えるでしょう.
生じる可能性を説明すべきであるとしている論文もあります.

2016年6月14日火曜日

ITPにおけるステロイド投与方法の比較

ITPの初期治療はステロイドとなる.
 PSL 0.5-2.0mg/kgを4wk程度継続し, その後減量する方法が一般的であるが,
 高用量デキサメサゾンの短期間投与という選択肢もある.

GIMEMA monocenter study: 20-65歳の未治療重症ITP患者37例に対して, HD-DXM(40mg/dを4日間, 28日サイクル)を6サイクル施行した報告では,
・ITPで血小板<2万 もしくは出血を伴っている症例
・反応率は89.2%, Relapse-free survivalは90% @15M
 反応持続期間は26ヶ月[6-77]
(Blood. 2007;109:1401-1407)

GIMEMA multicenter pilot study: 2-70歳の重症ITP 95例において, HD-DXM(40mg/d 4日間, 14日サイクル)を4サイクル施行
・ITPで血小板<2万 もしくは出血を伴っている症例
・90例で4サイクル完遂.
 反応率は85.6%, RFSは81% @15M
 反応持続期間は8M[4-24]
・1サイクルでの反応率は 69.5%, 2サイクルでは75.8%, 3サイクルでは89%, 4サイクルでは85.6%
(Blood. 2007;109:1401-1407)

成人例のITP(<2万) 60例を対象としたRCT.
(DARU Journal of Pharmaceutical Sciences 2012, 20:7 )
A) DEX 40mg/d(10mg q6h) 4日間, その後PSL 1mg/kg/dとし, 10mg/wkで減量する群
B) PSL 1mg/kg/dで開始し4wk継続, その後減量する群に割り付け, 比較.

母集団: 

・全例20-40歳代

アウトカム
A群では全例が1wkで反応を示す一方, B群では8割のみ.
その後もA群の方が効果は良好.

治療に由来する合併症:
両群ともあまり差はない
 A群の方が長期間の投与が必要なく, むしろ少ないかも

中国における成人例のITPを対象としたopen-RCT.
(Blood. 2016;127(3):296-302)
・HD-DXM(40mg/dを4日間, Day 10でPLT<3万 or 出血+ならば再度施行)群と
 PSL 1mg/kgを4wk継続し, 反応があれば最低維持量(<15mg/d)まで減量する群に割り付け, 比較.
・維持はPSL>3万, 出血症状(-)を目標とする.
・患者は未治療のITPで, PLT<3万もしくは出血性合併症がある 192例を対象
 致命的な出血性合併症がある患者は除外
・また, 悪性腫瘍, 膠原病, HIV, HBV, HCV, 妊婦, 授乳中, 活動性感染症, 高血圧, DM, 心血管疾患, 肝/腎障害患者は除外

母集団データ


アウトカム

・反応あり:  PLT>3万 + 出血(-), もしくはPLT基礎値から2倍以上の上昇.
 CR: PLT>10万達成
・HD-DXMでは有意にOS, CRが良好
・反応までの期間も短い(3日[1-9] vs 6日[2-24])
Sustained Responseは両者で同等.

合併症の頻度

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個人的にITPの治療で不安になることは,
・ステロイドはいくつから開始すべきだろうか
・ステロイド投与開始後, なかなかPLTが上昇しないなぁ
・ステロイド減量後に再燃するんだろうなぁ・・・

という点.

高齢者だとPSL 0.5mg/dから開始しつつ、ダラダラとPLTが上昇するのを待つことが多いのだが, 著明低値のPLTの場合(<10000/µL) そのダラダラと待つ期間、かなり不安が続く.

しかもなかなか上昇しない場合さらに不安が募る.

HD-DEXは通常のPSLで開始するよりも迅速に反応が期待できる.

2-4wk毎に繰り返す方法や
1回投与し、その後PSLに切り換え、すぐに減量する方法
1-2回投与して経過観察する方法などが選択肢となる.

なるべく早期に上昇させたい、でもIVIG行くほどでもない、という患者では良い選択肢と思う。