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2016年5月31日火曜日

歩行障害の評価

歩行障害
おもにLancet Neurol 2007; 6: 63–74 , Dtsch Arztebl Int 2010; 107(17): 306–16 を参考

高齢者における歩行障害
・70歳以上の高齢者の35%で歩行に障害が認められる
・また, 60歳では85%が問題なく歩行可能な一方, 85歳では18%のみ
・高齢者における歩行障害は体動困難や転倒で大きくQOLを損ねる
 65歳以上の高齢者の30%が年1回以上自宅で転倒する
 長期療養施設では50%と高頻度.

歩行障害は, 
・加齢で説明できない*過度な歩行速度の低下
・歩行様式(歩幅や立位時の足幅)の異常, 
・歩行サイクルの異常
・バランス異常があれば歩行障害と考える.

*加齢に伴う歩行機能の低下:
・60歳を超えると, 毎年歩行速度は1%低下する.

歩行のコントロール
歩行に関連するのは前頭葉の運動野, 基底核, 脳幹, 小脳, 脊髄, 末梢神経, 関節, 筋
前頭葉が歩行を計画
・基底核が歩行の開始, 自動化
・脳幹が歩行の統合, 演算
・小脳が協調, 調節
・脊髄は歩行リズムに関与
 歩行のスピードやリズムの調節は小脳(脊髄-小脳-視床)が関与している.
・末梢神経, 筋肉は実際の歩行運動に関連する.
 末梢神経からの感覚は上行してフィードバックに関連.
・視覚や前庭は歩行や平衡感覚の調節に関連する.


歩行障害のアセスメント: 症状, 所見から
・歩行障害患者の病歴, 所見で重要なチェックポイント
チェックポイント

期間と経過
一過性, 一時的なもの: 血圧の変動に関連する等
持続的: 多発神経症
突然発症: 脳卒中など
緩徐進行性: 変性疾患など
前駆エピソード, 増悪因子
環境により変動: 暗闇や平地ではないところで出現: 平衡感覚障害
ある状況で出現: 精神的, 恐怖症
Dual-task
で出現: 歩行時に会話するなど
薬剤使用時
随伴症状, 所見
めまい, ふらつき: 小脳失調
不安: 転倒への不安
疼痛: 関節炎, 筋炎など
感覚障害: 多発神経症
薬剤, アルコール
鎮静作用のある薬剤: ベンゾジアゼピン, バルビツレート, 抗鬱薬, 抗てんかん薬, 抗精神病薬, 抗パ薬, 麻酔薬
循環器系の薬剤: 降圧薬, 抗不整脈薬
経口血糖降下薬
アルコール
合併症, 既往症
心疾患/肺疾患: 心不全など
メタボリック症候群: 糖尿病による多発神経症
転倒の有無
一回のみの転倒: 転倒への恐れによる歩行不安
複数回の転倒
転倒の機序: 脱力, つまづき, 失神など

歩行障害のタイプとその歩様, 随伴症状, 所見
歩行障害のタイプ
歩様
随伴症状, 所見
Antalgic: 有痛性歩行
跛行, 患側肢の接地時間が短くなる
疼痛を伴う. 受動的運動制限
Paretic: 麻痺性歩行
左右非対称の歩様.
特長的な運動麻痺所見(鶏歩, Trendelenburg徴候)
麻痺, 萎縮, 反射の左右差, 神経根, 末梢神経性の感覚障害
Spastic: 痙性歩行
非流動性の歩行, ぶん回し歩行, 硬直, ハサミ様歩行
筋トーヌスの亢進, 反射の亢進, 錐体路徴候(バビンスキ反射), 切迫性尿失禁
Ataxic: 失調歩行
小脳失調, 固有感覚障害性失調
Wide-basedの歩行で, 変動性の歩行. ぎこちない歩行. 閉眼で増悪する
小脳失調では, 小脳, 脳幹症状: 四肢測定障害, 眼球運動障害, 構音障害
固有感覚障害性失調では固有感覚の障害
Sensory deficit: 感覚障害性
Wide-basedの歩行で, 変動性の歩行.
遊脚期の減少. 閉眼で増悪する
両側性前庭障害: 動揺視, 頭位眼球反射の障害
多発神経症: 反射の低下, 感覚障害
Hypokinetic: 運動低下性
緩徐な小刻み, すり足歩行. 腕の振りが低下する.
パーキンソン症候群では歩行開始最初の1歩がでにくい.
 Dual-task
で症状は増悪
パーキンソン症候群: 固縮, 振戦, アキネジア
血管性, 正常圧水頭症: 認知障害, 神経因性膀胱
Dyskinetic: 運動障害性
歩行中, 行動中に
不随意運動が認められる
ジストニア, 舞踏病, ミオクローヌス, チック
Anxious: 不安性
緩徐なWide-basedの歩行(氷の上を歩く様な歩様). 何かつかまるものを探すような動き.
最小限の補助で顕著に安定化する
Dual-task
で改善を認める
転倒への恐怖心がある.
何かつかまるものがないと立てない
Psychogenic: 精神性
様々なパターンとなる. 風変わりな歩様. 非常に緩徐な動き.
突然座るが, 転倒はない
精神疾患の既往や, 何か発症のきっかけがある.

2016年5月30日月曜日

OGTTの2時間値以外の血糖値

経口糖負荷試験 OGTTは75gのブドウ糖を経口負荷して, その後の血糖値を評価する方法.
基本的に2時間値が糖尿病診断に使用される.

空腹時血糖と, OGTT2時間値の値から, 以下のように分類される.
・NGT: 空腹時 <100mg/dL, 2時間値 <140mg/dL
・IFG(impaired fasting glucose): 空腹時 100-126mg/dL
・IGT(impaired glucose tolerance): OGTT2時間値 140-200mg/dL
・IFGとIGTを合わせてPrediabetes(境界型耐糖能障害)と呼ぶ.
(Am Fam Physician 2010;81:863-70)

・糖尿病は空腹時 ≥126mg/dL, 2時間値 ≥200mg/dLで定義される

国内ではOGTTは2時間値のみならず, 30分、60分、120分、180分で評価されることが多い.
これらはDM診断において役に立つか?

日本人918例においてOGTTを施行したStudy
(J Diabetes Investig. 2013 Jul 8;4(4):372-5.)
・このうちOGTT 2時間値 ≥140mg/dLとなったのは501例.
・OGTT1時間値のカットオフ別のOGTT2時間値≥140mg/dL(IGT)の予測能は

OGTT1時間値と2時間値の相関性
・ばらつきはやはり結構大きい印象.

中国人でOGTTを施行した2886例において, 2時間値以外の数値を評価. 
(European Journal of Endocrinology (2006) 155 191–197 )
OGTTの評価時間とカットオフ別の感度, 特異度
境界型耐糖能障害に対する感度, 特異度
OGTT
カットオフ
感度(%)
特異度(%)
LR+
LR-
0分
101mg/dL
88.7%
100%
0.11
30分
175mg/dL
77.5%
83.9%
4.8
0.27
60分
182mg/dL
83.7%
86.1%
6.0
0.19
120分
140mg/dL
83.3%
100%
0.17
180分
110mg/dL
64.6%
94.3%
11.3
0.38

糖尿病に対する感度, 特異度
OGTT
カットオフ
感度(%)
特異度(%)
LR+
LR-
0分
123mg/dL
83.3%
96.5%
23.7
0.17
30分
202mg/dL
78.4%
84.7%
5.1
0.26
60分
234mg/dL
85.7%
89.6%
8.2
0.16
120分
200mg/dL
89.9%
100%
0.10
180分
126mg/dL
83.7%
92.7%
11.4
0.18

これらから, 1時間値が>180となる症例では, 境界型耐糖能障害の可能性が高い.
また, >234mg/dLでは糖尿病である可能性が高いと言える.


OGTT1時間値 ≥155mg/dLはインスリン感受性の低下, 膵臓β細胞機能の低下が認められる.

EUGENE2: 両親の片方のみ2型糖尿病であり, 本人はOGTT2時間値正常である301例を, さらにOGTT1時間値 ≥155mg/dLとなる群, <155mg/dLに分類し比較したところ, OGTT1時間値 ≥155mg/dLではインスリン感受性の低下が認められた.
・インスリン分泌能自体は両者で有意差なし
(Diabetes Care 35:868–872, 2012)

GENFIEV trial: DMではないが, DMリスクの高い患者群を対象とし, OGTT1時間値とβ細胞機能, インスリン感受性を評価.
(J Clin Endocrinol Metab 98: 2100–2105, 2013)
・患者はDMの家族歴があるか, 第一親等で2型DMがいる, 脂質代謝障害, 耐糖能障害の指摘や他のDMのリスクがある患者群.
・上記を満たす929例でOGTTを施行
・OGTT1時間値のカットオフは155mg/dL

・OGTT1時間値 ≥155mg/dLはIGTと同程度のインスリン分泌能, HOMA-Rとなる.

OGTT1時間値とその後のDM発症リスクは?
CATAMERI: DM(-)でOGTTを施行した595例のOGTT1時間値と, その後フォローできた392例(5.2±0.9年)におけるDM発症リスクを評価.
(J Clin Endocrinol Metab 100: 3744–3751, 2015) 
OGTT1h<155, FBG<100と比較して
・OGTT1h ≥155, FBG<100はDM発症リスク HR 4.02[1.06-15.26]
・OGTT2h<140, FBG 100-125はHR 1.91[0.44-8.29]
・OGTT2h>140, FBG <126はHR 6.67[2.09-21.24]

2138例において, OGTT結果別に4群に分類し, 死亡率を比較.
A) GOTT1h ≤155, 2h <140 群
B) OGTT1h >155, 2h <140 群
C) OGTT1h ≤155, 2h 140-199 群(IGT)
D) OGTT1h >155, 2h 140-199 群(IGT)

33年間での死亡リスクは,
D群が最も悪く, 73.8%. 
 ついでC群 67.5%
 B群が57.9%
 A群が41.6%
・B群はA群と比較して, 有意な死亡リスク上昇を認める(28%)
Diabet Med. 2016 Mar 21. doi: 10.1111/dme.13116. [Epub ahead of print]
One-hour post-load plasma glucose level during the OGTT predicts mortality: observations from the Israel Study of Glucose Intolerance, Obesity and Hypertension.

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OGTT1時間値もDM発症のリスク評価や, 耐糖能の評価に有用な可能性が高い.
せっかく評価するのだから, 検査値は無駄がないようにしっかりと解釈したいものです.